最強の盾は橘福福しか見えなくなる。〈旧題:最強の盾〉 作:カブトムシの相棒
・普通の家庭の、病弱の両親から産まれた、普通の子供だった。母は元来の病気で亡くなったが、治安局員の父と幼き小さな妹と幸せに暮らしていた。0~9歳。
・旧都陥落。全てを失った。まだ人間だった父と妹をその手で殺し、エーテリアス化したであろう友人と人間を皆殺しにした。頼れる人物が誰も居ないので、一人で生きていくことを決断。9歳。
・超ド級の大荒れ期。元来の強烈な眼付きに加え、ならず者をおびき寄せては喧嘩三昧。10歳でタバコに触れ、現在のヘビースモーカーへの道に進んでしまう。突出した戦闘の才能で弱い9歳ながら各地で大暴れしていた。治安局に目を付けられる。鋼鉄にも勝る盾になる意志が、生きる指標だった。9~14歳。
・暴徒や反乱軍、警察組織の猛追もあり疲労困憊に陥る。我武者羅に行動して、着いた先が郊外区域だった。そこで初めて、第二の憧れであるライトと出会った。数か月間入り浸り、郊外を出るが、週に1回は顔を出していた。何ならほぼで郊外で過ごして居た。14歳~15歳。
・ライトとの修行期間。才能が開花したが、まだ発展途上。触れて来なかった女性陣に囲まれ、女好きになってしまう。(ほぼシーザーとパイパーの所為)15~17歳
・護衛屋を設立。17~19歳。
・橘福福に惚れる。19歳。
※(1)犬太郎はライトさん以外『敬語を使わない』と云いましたが、依頼を受けた一般人には敬語を使います。
※(2)猫又ちゃんも第一話で付け足しました。最初はストーリー最初期で進めようと思ったのですが俺の腕では無理と判断しました。誠に申し訳御座いません。
では、本編です。
”ドゴォォンッッ!!”
「ぎゃぁぁぁ!!」
「あびぃぃぃ!!」
「ごふっ!!んの…怪物がッ……!!」
「────妊婦さんを襲ったテメェ等の精神が怪物だボケがァ。頭ゲロで出来てんのか?あぁ!?」
「んだとッ……おぼうっっ!!?」
「黙れ喋んな息を吐くな、耳が腐る。取り合えずテメェ等は……腐った肉団子に成っとけよッッ!!」
「ちょ、待って……ぎゃあああああ!!!」
”バギャンッ!!”
六分街のハズレ区域、其処で、犬太郎が輩を始末していた。
理由として、一般人の妊婦に迫り、金銭を集るという非情行動を見かねたのが理由だった。
比較的治安の良いこの区域でも、こういった事は起きる。
人気の少ない地区だったが故、起きてしまった事案。丁度護衛任務を終えた犬太郎が通りかかり、場を収めたのだ。
一掃した犬太郎は陰で見ていた妊婦に近寄り、状況の確認をとる。
「奥さん、怪我はないっすか?」
「は、はいっ!ありがとう御座います、本当に…!」
「礼には及ばねぇっすよ、間に会って良かった。此処は六分街と云っても人の弱さに漬け込む馬鹿は多い、何だったら奥さん家の近くまで送りますぜ?」
「そんな……えっと、よ、宜しいのですか?」
「えぇ、そういう生業なんでね。無論なんも要らねぇっす、サービスってやつですね」
そうして犬太郎は臨戦態勢を崩さず、妊婦を護る形で家の近場まで送ると宣言。
そのまま妊婦は了承し、色々と話しながら歩く。
そんな時間を過ごし、数十分……妊婦が此処で大丈夫だと言い止まる。
「ここから1分もしないので、此処までで大丈夫です。その、本当にありがとう御座いましたっ!」
「良いっすよ。女神と散歩できたんだ、お釣りが返って来る案件でしたよ」
「まぁ、お上手!あの、宜しければお名前をお伺いしても?」
「俺は狼谷犬太郎です。ここらで【護衛屋】として活動してる者っす、あ、これ名刺です。今はちょっと臨時休業中なんすけど、割の良いお値段で請け負ってるんで、奥さんも良ければ俺にお申し付け下さい」
「護衛屋……あ!貴方があの有名な!」
「ん?もしかして噂になってるってやつっすか!?」
「えぇ、それはもう……”破格のお金で依頼を請け負い、100%の達成率でを誇る異端児。唯一の欠点が未成年喫煙で治安局に問題児として扱われている”……ってネットニュースで見聞したんです!まさか貴方だったとは!」
「……そ、そんな感じで広まってるのねぇ……」
最初の方は良かったのに、最後はまぁまぁ嫌味が入ってる肩書。
恐らくだが、治安局の者がそう噂を流しているのだろう。能動的に犬太郎がタバコを止めるよう、促す為に。
「ま、まぁいいっすわ。取り合えずまだ家じゃないんで、どうかお気を付けて下さいな」
「はいっ!今度お会いしたらどうか御礼をさせて下さいね!旦那にも紹介したいので!では!ありがとう御座いましたー!」
そういって、妊婦は歩いて去って行く。念の為少しの間見守っていると、新しめのアパートに入っていくのが分かった。
其処まで見て、犬太郎もその場を後にする。結局はまた暴力事件をしてしまったのだ、恐らくこの間の様に治安局が来る。早い段階で消えるのが吉だ。
「……もう、いいな」
路地裏にすっと入り、ポケットに入っているZippoに手を伸ばす。
シュボッ!と、Zippoを着火させ愛用のタバコを吸う。
子供、女、妊婦の前では吸わない、彼のまだあった愛煙家の常識だ。
「すぅぅぅ……ふぅっ…………はぁ、モヤが落ちんな」
独り言つ。心に取り付くモヤが、彼に引っ付いて離れない。
理由は明白だ。分かっているし、理解もしている……だがそれでも、その取り払い方法が分からない。
歩きながら吸う。考えて、頭をクリアにしても、どうすれば良いか分からない。
彼が思い悩む理由……それは。
「────『橘福福』さん……」
そう、先日の【衛非地区】で出会った、小さき少女。
彼は、犬太郎は……人生初の〈一目惚れ〉を果たしてしまったのだ。
「あの日から2日……思い切った行動はしたが、進展は無し………」
カカッ、と…渇いた笑いが漏れる。
最早、愛の告白をした初対面。正直に言って……終わってる。
初対面、異性、知らない人……極めつけは、その身長差と体格。
犬太郎と橘福福は全てが違う。そして何より……見知らぬ人物からそんな発言をされれば、普通に怖い。
「……【連絡先】を交換できただけでも奇跡だな」
こうして思い返せば、普通に通報ものだ。
色々と思案して、冷静に成って、そう思う。あの日の返って来た自宅で叫んだのはまだ記憶に新しい。
だが……実は、こんな事があった。
『────え、ええ、えっと、えとえと、あのっ……』
『……すまん、自首してくる』
『へ!?あ、あぁいや、あのっ!ま、待って!待って下さい!え、ええぇっと…………~~~っ!……お、お友達からなら、えっと……』
『マジか?無理、してないか?』
『あ、い、いえ!び、吃驚しただけ?って言いますか……ま、先ずはお友達からなら、大丈夫……です、ので………~~っ!』
そう、何と橘福福は彼のエグイ告白を真摯に受け取り、先ずは友達からという事で連絡先を交換したのだ。
そのまま交換して、そそくさと立ち去った橘福福。彼はもう追いかける事無く、普通に帰宅した。
そして、現在……犬太郎と橘福福は〈未だ〉連絡を取り合っていない状況なのだ。
「(女の子と連絡し合うなんてリンさん位しか居ないぞ……はぁ、クソッ…どうも俺はこの手の話は弱い)………あ?」
「はぁ、はぁ……見つけたぞ、このクソ野郎ッ!」
路地裏、其処で響く無数の足音。
橘福福のチャットアイコンを眺めて感傷に浸っているこの時間を邪魔する不届き者、ざっと20人は居た。
無数の殺気を放っている。中には、ボロボロの男が数名仲間らしき者に肩に担がれ睨みつけている。直ぐに分かったが、妊婦を襲ったクズだった。
「こんな湿気た所で一服たぁ、随分と舐めてくれるねぇ!!」
「正義面したガキが、テメェの所為で折角の
「………」
「さっきは3人がかりでテメェ一人にしてやられた、だが次は20人を連れてきた。恥は承知の上での戦法……悪く思うなよ、クソガキが」
「ボス!もうやっちゃいましょうよ!!こんだけ居りゃ流石に────」
「おい」
瞬間……背筋が自動的に伸びた。身も凍る絶対零度の殺意が、20人の暴徒の内に伏していた生存本能を擽った。
それは、一回り体躯の良い暴徒のボスも、感知した。動けなかった。
「今……俺は人生最大級の一歩を踏もうとしてんだよ」
「ひっ……!」
「テメェ等カス共には縁も所縁のない話かもしれねぇがな、コッチはコッチで一杯一杯なんだよ………ガチで何なんだテメェ等は…なぁッ!?おいッ!!?」
「あ、え……な、なんの話…!?」
「ってかよォ……さっき貯金箱っつったよなァ……それ、もしかしなくとも先程の妊婦さんの事を言ってんじゃねぇよな?」
その言葉に、誰も否定しない。ホラ口を叩こうも余りの恐怖で声が出せなかったのだ。
それが、彼の触れてはいけない琴線を斬った。
吸っていたタバコを握り潰し、獲物を捉えた眼光で睨みつけ、告げる。
「下衆が……俺はもう、お前等を人間とは認めねぇッッ────頭スイカみてぇに粉砕してやるよッッ!!!」
””「は……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」””
一通りが少ない路地裏で、無数の断末魔が木霊する。
それは、30秒もしない殲滅劇。暴徒は彼による只の素体による暴力で、一人を除いた全員が意識をその場で手放した。
骨折、顔面陥没、手足が逆に曲がるなど様々な残虐性を見せた、とんでもない戦闘だった。
そうして、最後の一人となった……大柄なボスが、尻餅を着いて命乞い。
「ま、待て!話を聞いてくれ!この件に手を引くっ、自首もするから……許してくれ…っ!!」
「そう言った何人もの人を、お前等は手に掛けた?今更が過ぎんだよ。吐いた唾は呑めねぇんだよ」
「ひぃぃ!!わ、悪かったッ……俺は、ただっ!」
「言い訳すんなっつってんだよッ!!この腐れ外道がァッッ!」
「ぼごぉっ!!?」
ドゴッ!!と、犬太郎のヤクザキックが暴徒のボスの顔面にめり込む。
血を吐き、陥没した顔面が痛々しい。
犬太郎の鮮烈な攻撃により、周囲は一気に沈静化した。
”────ピクッ…”
犬太郎が激情を抑えきれず、イライラしながらその場を後にしようとした時……微力ながら確かな気配を感知。
まるで、其処に居ないかのような、そんな気配。
臨戦態勢を崩さなかった故、気付いた気配。しかし、現在のソレは犬太郎にとって激情を煽る行為。
「チッ…いい加減にしろよクソが…………おい誰だ!!殺す……」
「きゃっ!」
「ぞ、ぉ………」
瞬発的に移動し、対象の腕に掴みかかる。
そのまま腕を振り上げ、睨み付けた……までは良かった。
「へ…?」
「あんっ、痛いわ犬太郎さん……」
「え、う……ガチ?」
それが、知人で、しかも女性で無かったら、本当に良かった。
パッと直ぐに腕を離す。その女性は痛そうに腕を摩ってる。
犬太郎の顔が一気に蒼褪めていく。己が掴むその腕の正体、それは……。
「り……『リナ』ちゃん…?」
「えぇ、お久しぶりで御座いますわ犬太郎さん。プロキシ様が貴方をお探しになられていたので、探していました次第ですわ」
そう……【ヴィクトリア家政】のメイド長────『アレクサンドリナ・セバスチャン』……通称『リナ』が、其処に居たのだ。
▼
────Random Play、店内
「────本ッッッ等に!!申し訳御座いませんでしたー!!!」
「あらあら、もう気にしていませんよ?お顔を上げて下さいまし」
「リナもそう仰っております。犬太郎さま、どうか土下座を超えし土下寝はお止めになって下さい」
「でもっ……俺は、リナちゃんの麗しい華奢な腕を、木っ端微塵にしちまって……っ」
「いや普通に生えてるし。どんな暗示してんの」
アキラとリンが抱えるお店、Random Play。
そこで集まっているのは、ヴィクトリア家政の『ライカン』、『エレン』、『カリン』の面々がおり、アキラとリンが苦笑いを浮かばせながらその光景を見ていた。
現在、行われているのは、犬太郎による全力の土下寝。
先ほどリナに向けて執行してしまった若干の暴力を、犬太郎は酷く悔いている。
此処に来る前も2度ほど土下座をかまし、こうして店に入って全員が見ている中でも土下寝を行ったのだ。彼なりの誠意だ。
「犬太郎、ちゃんと誠意は伝わったから、土下寝はもう大丈夫だよ」
「当の本人であるリナさんが良いって言ってるんだから、もう顔を上げなさいって事」
「……承知した」
アキラとリンの進言もあり、犬太郎は土下寝を辞める。
そのままリナに申し訳なかったと言い、リナも、もう大丈夫と一礼。
「久々に見たと思ったら、相変わらず変わって無かったんだけど」
「エレンちゃん、また一段と奇麗になったね。戦闘者としても格が一段上がったんじゃないか?」
「それはどーも」
「カリンちゃんも、雰囲気は勿論また優しさの心に箔が付いたな。エレンちゃん同様、戦闘力も随分上がったと聞いた」
「あっ!え、えとっ……ありがとう御座います!」
「うわー直ぐそんな事言っちゃって……さっきまでの無様が急に消えたね?節操なしな感じはお兄ちゃんと一緒!」
「リン??」
「まぁ落ち着けよリンさん。嫉妬?」
「ホントにはったおすよ!?」
「プロキシ様、どうかここは抑えて下さい。彼のペースに乗ってはいけません」
落ち着いたかと思えば、急にエレンとカリンに誉め言葉を贈る犬太郎。
リンが嫌味を言えば、キレのある返しに拳が出掛けるリン。それを止めるライカン。
若干のカオスだが、ライカンとアキラが犬太郎に事の顛末を告げる。
「リナから少しお聞きしたと思いますが、今一度整理を……犬太郎さま、実は
「……なぜ?」
「ここ最近、君には余り良くない噂が流れていてね。険悪な雰囲気を周囲に放ち、数多くの喧嘩を引き起こしているだとか、色々とね。中には通りすがりの市民を助けていたって話も聞くが、多く挙げられるのは前者の例だ」
「犬太郎さまが如何様にしてそのような事を起こしているのか。プロキシ様は私共に話して下さり、色々と真相を策っていた次第で御座います」
「無論、僕たちは君が無暗矢鱈と暴れまわる人じゃないのは理解していたつもりだ、でも、連絡もない上に、それがドンドンとヒートアップしていく。それは僕やリンにとっても無視は出来ない案件だからね」
アキラとライカンによる発言で、全貌が分かった。
確かに数々の人達から来ていて溜まっていたチャットはある。どれも無視していたのは、特段大きな問題事でも無かったからだ。
今は、只、目の前の問題事に集中したかった。貯金はしていたので金はまだ少し余裕がある。
「……成程、訳は分かった。話してくれてありがとう。それと……悪かった。余計な手間を取らせてしまったな」
「お気に為さらないで下さい。皆、大きな理由を抱えてと読んでの動きで御座います」
「ふぅ……確かに、最近の俺の行動が目に余るのは、理由がある。ただ……面倒なんだよ、色々と」
「……それは、言えないって事かい?」
「いや、言えないッつうか……何て言うか………うーん…」
言えない理由、ソレは犬太郎にとっての羞恥の現実。
一目惚れをして、色々と思案して、何て連絡しようか迷っていて、その最中に暴徒に絡まれ続けてストレスで大暴れ。19歳にしては中々に恥ずかしい……その想いがあった。
だが、そんな事……皆が理解できる筈もなく。
「(女の子の言う察してってこういう事なのか?いや絶対に違うか……)」
「……私達、そんなに頼りない?」
「は?」
ここで、リンが動く。
今まで静かに見守っていたが、遂に痺れを切らした。
それは青天の霹靂。アキラも、ライカン達も、リンの弱々しい発言に戸惑いを見せる。
「────あ、あのね、犬太郎。私ね?あんたが何を抱えているのか、それを無理に詮索しようなんて思っていないよ。でも……話す事でほんの少し気持ち的にも楽になると思うの」
「あ、いや、えっとだな……リンさん、この件は別にあんたが気にする事じゃ…」
「気にするよ!!友達じゃん!」
「っ!?」
「……犬太郎はいつもそう、快活に見せて本音を見せてくれない……隠し事ばっかりで、私達を見てくれないじゃんっ………寂しいよ…」
涙目で訴えて来るリン。ここにきて感情が爆発。
だが、それは仕方のない事だった。アキラと接する犬太郎と、リンに接する犬太郎とでは空気感が違った。
彼の性質を理解すればするほど、それは板について分かってしまう。
突き放されている感覚……一歩、否、三歩は身を引いて接してくるのだ。
リンはそれが嫌だった。彼にも彼なりの在り方があるのは分かっている。だけど、それも限界だった。
「……リンさん………お、おい?」
「乙女を悲しませる何て、酷い方ですわ犬太郎さま」
「そういう人とは思わなかったんだけど。最っ低ー」
「あ、あの……今のは、よくないと思います……」
「ちょ、いや……」
気付けば、リナ、エレン、カリンがリンの傍について、寄り添っている。
そのまま犬太郎に向け口撃をかます。中々に、容赦がない。
そして流れる様に、アキラとライカンも犬太郎の前に立って告げる。
「犬太郎さま、リン様が貴方に本音をお伝えしたのは非常に珍しいことかと。御無礼を承知で申するのであれば……此処は貴方も本音を曝け出しても宜しいかと」
「僕も、兄としてお願いしたいかな。こんなにも我を出すリンは少し珍しいからね」
「ライカンさんにアキラさんまで………」
最早、逃げ場なし。
犬太郎がリンと目を合わせる。確かに、秘め事が多い性格だが……度が過ぎたか。
思案する。ここで言うべきか……言うべきだ。もう、逃げるのはやめよう。
「ふぅぅ……分かった言う、言うよ……………笑わない?」
「振りかい?」
「笑ったら大声で泣くからな」
「逆に聞きたくなるけど、言うんならさっさと言ってよ」
「早く!」
「エレンちゃんとリンさんは何なんだ……はぁ、言いたくねぇ」
犬太郎は大きな溜息を吐き、告げる。
「……で…きた」
「ん?なんて言ったんだい?」
「良ければ、もう少し大きな声で言って下さいな」
「────好きな人が……出来たんだ」
────空気が止まった。
全員が、その意味を理解するのに……秒数を要した。
「……なんて?」
「だ、だからっ…好きな人が、できた」
「………マジ?あの犬太郎に?」
「犬太郎さま、それは、誠で御座いますでしょうか?」
「ライカンさん。あんたの中で、俺が嘘を言った記憶は?」
「……し、失礼いたしました」
「あ……あら、あらあらあらあらあら」
「は、はわ、はわわわわわ…っ」
エレン、ライカン、リナ、カリンの順で発語する。信じられなかった。
まさか、あの犬太郎が……そう思って、固まってしまったのだ。
「えーっと……犬太郎、俄かには信じ難いんだけど……」
「そ、その……本当なんだ」
「う…うっそぉ………」
同時に、アキラとリンが絶句する。
彼にとって無縁そうなことだったからだ。女好きとはいえ、女性全員には優しく接するで有名で、誰にも手を出さないでも有名だったからだ。
「……因みに、どうして惚れたの?」
「どんな人なの!?」
エレンとリンが切り込む。ここは流石の若人、待ったは無しだった。
カリンも目を輝かせている。この手の話はやはり気になるのだ。
アキラやライカンも同様に興味をそそられている。リナもワクワクしている。
その問いに、犬太郎は顔を真っ赤に染めて……恥ずかしそうに、告げる。
「────肉まんをくれて、優しく笑っていたその姿に………えっと、一目惚れ……しちまって……」
その言葉は、劇物だった。
「────ライカンさん!やっちゃって!」
「承りました。御安心ください、1分も掛かりません。リナ、犬太郎さまをプロキシ様の案内の元、テーブル席へ」
「はい♡さっ、犬太郎さま!どうぞ此方に♡
「任せて!」
「え、いや、あの…?」
「カリンちゃん、私達はボスの手伝いにいこ」
「は、はいっ!」
「今日は少し臨時休業にしよっか、折角だからね」
まるでされるがまま、犬太郎はリナとリンに別室に案内される。
ライカン、エレン、カリンが物凄いスピードで冷蔵庫を漁り何かを準備している。
しかもアキラは一度店に出ては看板を【臨時休業】と移し替えた。
そうして、数十秒後………犬太郎は席に座られ、目の前にアキラとリンが座り、ヴィクトリア家政が囲っている状況になる。
テーブルの上には美味しそうなデザートと紅茶が3人用に並んでいる。未だに状況が飲み込めない犬太郎は、言を投げる。
「あ、あのぉ……どういう状況?」
「どういうって……ねぇ?」
「あぁ…犬太郎」
「おう」
「────詳しく、聞かせて貰おうか」
ニコニコしながら、犬太郎を見つめるアキラとリン。
まさかまさかの、恋愛系で悩んでいた犬太郎を見て、少し我慢が出来なかったのだ。アキラは悪ノリだが、ぶっちゃけ気になるので乗った。リンは完全に眼をキラキラさせて楽しんでいる。
彼の事を知っているヴィクトリア家政も、それは同様。
特に女性陣は非常に楽しそうだ。あの犬太郎が、こんなにも初々しい反応をしながら悩んでいる。恋愛の悩みで、だ。面白いが過ぎる。
もう、完全になくなった逃げ場。犬太郎が……思案して、導き出せた答えを告げる。
「────はい……」
諦めて、相談に乗って貰うことだった。
次回
第一歩前進。
誤字報告、感想、評価お気に入りお待ちしてます。