最強の盾は橘福福しか見えなくなる。〈旧題:最強の盾〉   作:カブトムシの相棒

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期間が空いてしまい、申し訳御座いません。


では、本編です。


悩める犬の子。

 

 

 

 

「────まぁ何だ犬太郎、好きな女が出来たのは良い事だ。それに連絡先を交換できたのなら、先ずは御飯に行くなり何なり聞いてみると良い。きっと良い未来が、お前さんに返って来ると俺は思うぞ」

「何でッ!!『ライト』さんを呼んだァ!!リン……さん!!!」

 

 

 

現在、席に座るパエトーン兄妹の丁度間、対面に座るグラサンを掛けた伊達男。

 

郊外にて【無敗のチャンピオン】と称される実力者。この場において、何故か場に馴染む男。

そう……『ライト』だ。リンが呼んだスペシャルゲストと云っていい。

 

傍ではその男を興味深そうに見るヴィクトリア家政の姿もある。

 

 

 

「いやー、ライカンさん達の調べであんたが『ライト』さんと仲が良いって聞いてさ。そしたら丁度ライトさんと会って、事情を説明したら一緒に探してあげるって言ってくれてね!」

 

 

 

 

そう、リンは事前にライトと会っていた。

 

最近の犬太郎の異変。それはリンたちのみならず、ライトも少し心配していたのだ。

電話しても空回り。なら、直接本人に聞こう。そういう事にして捜索すれば、リナが見つけてくれたと報告を聞いたのだ。

 

そのままバイクを用い、一気に店まで走らせ、そして……今に至る。

 

 

 

「なんつぅ余計な真似をォォ……ッ!」

「ん?おいおい犬太郎、俺はお呼びじゃなかったか?男には聞かれたくない秘密事の一つや二つあるモンだが、何なら、俺は外にでも居るか?」

「イヤッ、違う!態々ライトさんに足を運ばせておいてそんな……させる訳ないだろうそんな事!ライトさんはそこで座っててくれ…ッ」

「OKだ。ククッ……店長から連絡が来た時は驚いたさ。なんせ、あの犬太郎が恋愛沙汰で悩んでると来たものだ。悩み事に相談事、俺なら乗れるぞ?」

「ぐぉぉぉッッ………顔が焼けそうな羞恥だァ…ッ!」

 

 

 

顔を手で覆い、顔を赤くさせる犬太郎。

それを面白がって笑うライト。

 

察するに、犬太郎はライトに強くは出れないのだろう。

 

そう思うのには簡単な程、二人の会話は分かり易かった。

 

 

 

「(ライト……郊外にて【無敗のチャンピオン】と恐れられる走り屋【カリュドーンの子】の一人。調査通り、相当の実力者である事は間違いないですね)」

「(あの犬太郎が、あんなに狼狽えている程の男の人ねぇ………何か珍しいかも)」

 

 

 

ライカン、エレンがそう思う。

 

誰にも物怖じしない犬太郎。今迄そう捉えていた人物像が、彼の登場で一気に崩壊した。

 

ライト……彼との関係性は未だ不明だが、立場を考えれば彼の方が上なのは確か。

この恋バナに於いて、超強力な助っ人なのは間違いないだろう。

 

 

 

「……………」

「ん?……な、なんだ?リンさん」

「べっつに~?」

「大丈夫だよ、犬太郎。リンはライトさんと君が想像以上の仲の良さで、少し嫉妬しているだけさ」

「ちょっ、お兄ちゃん!?」

「ほう?なんだ店長、俺と犬太郎が仲いいのが、そんなに嫌か?それとも……俺にしか見せない犬太郎の顔が見れて、複雑か?」

「ら、ライトさんまで!!も、もう!……ちょっとだけね!」

 

 

 

リンは少し嫉妬した。

 

ライトが現れた事で、犬太郎の見た事が無い焦り方や表情、柔らかでもある様な顔。

 

それがこの数秒で出た。リンには見せない一面とも云う。なんか、なんかだったのだ。

 

 

 

「わ、私の事は良いの!犬太郎!」

「あ…あぁ」

「さっきライトさんも言ってたけど、先ずはやっぱ連絡してみるべきだよ!じゃなきゃ始まんないって!」

 

 

 

話題は恋バナへ。

 

リンが犬太郎にそう告げる。

とはいえ、犬太郎からすれば簡単に言ってくれる話だ。

 

 

 

「…………なっ、なんて、送ればいい?」

「無難に行くなら〈空いている日に御飯でもどうですか?〉的な内容の送信だと思うな」

「正にの内容だな。安全第一で考えるなら、それが良いだろう」

「その子って衛非地区の子なんだよね?じゃあ美味しい料理屋も一杯な筈じゃん!」

「いいね、遠いけどお出掛けにはピッタリって聞くよ、犬太郎。その子の地元テリトリーでもある訳だしね」

「最高値の好感度を100とするならば、今は10と考えてみろ。贈る文面でまだ焦る必要はないが、挑戦するが吉だとは思うぞ。何事も行動だからな」

「なる、ほど……」

 

 

 

面々の言葉を深く受け止め、脳裏に保存する犬太郎。

頷き、ふぅと息を吐く。

 

すると、エレンが彼に向け言を投げる。

 

 

 

「ねぇ、そういえば聞きそびれてたんだけど、その人ってどんな容姿してるの?名前は?」

「え?あぁ、そう言えば言っていなかったな」

 

 

 

容姿。大事な事を聞きそびれてしまっていた。

エレンのナイスプレイにより、皆が一気に彼に集中する。

 

その口から告げれる事は。

 

 

 

「あーっと……その子は『橘福福』って子だ。年齢は俺よりも上で、その、小柄で華奢なタイプの子なんだ。俺がそういう趣向の持ち主って訳じゃないぞ!その、本当に笑顔と優しい所に、惚れたんだ……そ、そんで……猫系、恐らく『トラ』のシリオンなんだ。尻尾は長くって、凄く立派でさ……その、い、今まで見てきた女の子の中で、その……本当に不思議なんだけど、俺……その子には本当に……胸が、痛いくらい、好きって感じが、して……」

 

 

 

顔を真っ赤に染め、耳まで赤く染めながらそう発語する犬太郎。

筋肉質の体躯に強面の顔、頻繁にタバコを吸って、巨大な大剣を持ち、ちょくちょく問題を起こす不良少年で通っていた犬太郎らしからぬ様相。

 

今、皆の眼の前に写るこの子は……恋に悩める十代の子供に見えて仕方なかった。

 

 

 

「あっ、あひゅぅ……!」

「……急に可愛いじゃん」

「あらあらあらあらあら♡♡」

「………若き者の恋沙汰は、些か私には眩しいですね」

 

 

 

ヴィクトリア家政の反応は十人十色だ。

カリンは平常運転、エレンは顔を少し赤らめニヤ付き、リナは可愛い反応をする犬太郎に絶好調、ライカンは若者による恋の発露に大人の対応をする。

 

そして、パエトーン兄妹とライトは………。

 

 

 

「そうなんだそうなんだ~!!はー、楽しく成って来たよー!」

「君がそこまで云う何て、本当に素敵な方なんだね」

「……ふっ」

 

 

 

リンは興奮、アキラは冷静に褒め称え、ライトは微笑む。

 

此方も多種多様な反応だが、皆、心は彼の『可愛い反応』に堪えている。

まさか、あの犬太郎がこんなにも弱るか……それは良い弱りではあるのだが、何と云うか、見てて非常に面白い。

 

 

 

「ッ……くぉぉ、恥ずいっ」

「うふふ。教えて下さりありがとう御座います犬太郎さま。とても素敵な御方なのだと、語る貴方さまのお口から確りと理解出来ましたわ」

「橘福福さんって言うんだね。大体の性格も理解出来た」

「後はどう出るかだな」

「そう、っすね……」

「犬太郎さま、此方ルイボスティーになります。心身の疲労にお効きします故、宜しければ」

「あぁ……ありがとう御座います……美味しいです、マジで」

 

 

 

リナ、アキラ、ライトが順で発語する。

羞恥に埋もれる犬太郎へのフォローだろう。ライカンも、続くように彼へ落ち着きのお茶を差し出す。

 

 

 

「んっ、んっ………ふぅ……や、やっぱお誘いのデート…お出掛けのメールを送るしか、ないよな」

「そうだな、それ以外に最善はないだろう」

 

 

 

ライトがそう言うと、犬太郎はポケットに仕舞っていた携帯を取り出す。

遂に意を決したか、緊張交じりの表情が顔に浮き出る。

 

連絡先を開き、ピン留めで止めていた橘福福のトーク欄を見つめる。

 

 

 

「………はーッ、待って!待ってくれ!!やっぱ無理かも!!」

「えぇい!!さっさと文字打たんかい!見ててイライラしてくる!」

「簡単に言うんじゃねェよリンさん!考えてもみろ?何の素性も知らない大男が急に………〈空いている日に、御飯でもいかがですか?〉…何て送った暁には、恐怖で夜中歩けねぇだろうが!!」

「う、うーん……考え過ぎじゃないかい?少なくとも、その人は君を怖い人だなんて思ってはいないと思うよ。現に連絡先も交換できている訳だし」

「犬太郎さま、最初に自分の自己紹介を添え、少しの会話を設ければ印象は和らぐかと存じます」

「ジャブ感覚と思えばいい。先ずは自分の素性を明かし、その後に趣味や仕事を話せば良い。もしかしたら向こうと通じる何かがあるかも知れんしな……」

「な、なるほど……分かった、先ずは一旦自己紹介してみる」

 

 

 

緊張で頭が可笑しくなりそうな犬太郎を、何とか宥めるアキラとライカン、そしてライト。

ここで年長者の経験が出る。特に男性組の現実的なアドバイスは有難かった。

 

 

 

「……よ、よしっ。こんなんでどうだろうか?見てくれ」

「どれどれ」

 

 

 

ポチポチと、犬太郎が文字を打つ。

 

終えると、確認の為にその内容をみせて来る。皆が一斉に確認する。

その内容とは……。

 

 

 

 

〈こんにちは。先日は美味しい肉まんを頂きまして、ありがとう御座います。一応自己紹介を、私は狼谷犬太郎と云います。橘福福さん、私とお友達になって頂きありがとう御座います。良ければ、またこの様に連絡をしても大丈夫ですか?〉

 

 

 

こう言った内容だった。

 

それを見た面々は……。

 

 

 

「こ、これは……」

「うーん……」

「うわぁ、カチコチな文章……」

「なんか、業務連絡みたいですね……」

「え?だ、だめか?」

 

 

 

リン、リナ、エレン、カリンの反応はイマイチと云えた。

女性陣にとって、この文章は刺さらなかったようだ。

 

 

 

「駄目かどうかで云ったら……まぁ、良くはないかも」

「なに!?ど、どの辺が?」

「この硬い文章、業務連絡っぽくて良い印象は持てないよね~」

「悪くは無いと思うけど、なんかね」

「もうお友達の関係値でしたら、ほんの少し柔らかい雰囲気で話しかけても宜しいかもしれませんね」

 

 

 

女性陣の言った通りだ。

まるで仕事や部活動での連絡だ。

 

エレンの言った通り悪くはない。だが、よくもないのだ。

 

恋仲に進展したいのなら、捻りがまるで無いとも云える。

 

 

 

「少し砕けた感じで良いのか、なるほど………分かった。少し変えてみる」

 

 

 

そういって、犬太郎はもう一度文章を打ち始める。

数分後、彼が告げる・

 

 

 

「出来た。どうだろうか?」

「どれどれ」

 

 

 

そして、出来上がったらしい文章を皆に見せる。

面々はその文章を見る。その内容は……。

 

 

 

〈おっすー!!俺の名前は狼谷犬太郎☆しがない護衛屋さ!橘福福ちゃんは何をしている子なのカナ?あっ!そうそう!初めて会った時の肉まん、最高の思い出だよ!!ってかどっか飯行かん?俺良い場所知ってるべ~!連絡、待ってるかんね☆よろぽっぽっぴ~!〉

 

 

 

こうだった。

 

堪らずエレンが聞く。

 

 

 

「ふざけてる?」

「?…いや、本気だ」

「そうだね。うん、その曇りなき眼を見たらよーく分かったわ」

「うーんバカ。ほんとバカ」

「ちょっと砕いた感じにしたろ?今度は何がダメなんだ?」

「砕け過ぎですわ犬太郎さま」

「おじさん構文の初期症状か!おばか!」

「ぷふっw、ふひっ……っ(ちょっとツボったカリン)」

 

 

 

エレンの確認、リンのツッコミ、リナの原因把握、ツボったカリン。

女性陣の反応は最低値と言えよう。

 

 

 

「本気で考えてコレでしたら……我々も、少し考えなくてはいけませんね」

「こういう機会を設けて本当に良かったと、今痛感してるよ……」

 

 

 

これにはライカン、アキラも恐怖が勝った。

 

まさか、本気で、こんな文章を書くとは思わなかった。

恋バナと云う機会を設けた利点が大きい事を痛感する面々。

 

 

しかし、そこで動いたのが────ライトだ。

 

 

 

「なぁ犬太郎、一つ聞くが……その文章にはお前さんの『本音』を綴ってるか?」

「え?……いえ、少しだけしか……」

「そうか。まぁなんだ、相手を想い考え、その結論に『無難な内容を送る』というのは……正直誰にでも出来る事だ。だがな、こういう時に本音で言った方が、意外と事は上手くいくと俺は思うぞ?」

「………でもライトさん。正直、不安っすよ」

 

 

 

ライトは真っ当なアドバイスを送るも、返って来たのは弱々しい発言だった。

 

 

 

「自分でも分かっています。内気で、優柔不断なのは俺らしくないって事は。でも……そうなっちまう位には、失敗したくないんですっ。本気なんです……っ」

「……お前さんは、その橘福福って子には、どういう眼で自分を見て貰いたいんだ?」

「え?」

「気持ちは分かる。怖い筈だ、上手くいかず拒絶され事も進まなかったら、そこで終わるのが恋だからな。俺自身、余りそういった事はしてこなかった身だが、お前さんの気持ちは分かっているつもりだ…………だがな犬太郎」

 

 

 

ライトは続ける。

 

 

 

「────本音を隠して偽りの自分を好きに成って貰おうなんざ、男として何よりも恥ずかしいぞ」

「ッ!!!」

「そして……それは何よりも、その子が可哀想だしな……犬太郎。失敗を恐れてしまえば、挑戦も出来ない。意味もない。結局は自分だぞ」

 

 

 

ライトの発言は芯を食っていた。

正にそうだ、何よりも迷惑をかけるのは、橘福福の方ではないか。

 

本音を隠すのは、裏を返せば偽って近付くと言う事。

 

そんなもの、騙しているに等しい……なぜ、気付かなかった。

 

 

 

「………すみません、ライトさん。お陰でやっと気付けました」

「そうか……いやなに、俺は俺なりの意見を述べた迄さ。気付けたお前さんは十分凄い、誇っていいぞ」

「いえ、俺はまだまだです。未熟で青いガキだ……ホント、ありがとう御座います」

 

 

 

そう言って、御礼を言う犬太郎。

ライトは腕を組みながら微笑む。この二人の独特な雰囲気は、見ている面々にとっても新鮮だった。

 

 

 

「(ふーん、あの犬太郎が、この人にはこんな接し方するんだ……あの犬太郎がねぇ)」

「(犬太郎さまが此処まで信頼を置く人と云うのは初めて見ましたね……何だか、少し羨ましいですわ)」

 

 

 

エレン、リナがそう思う。

 

家政婦と護衛屋、種類は180度違くとも、これまで、数多くの修羅場をくぐった関係でもあるヴィクトリア家政と犬太郎。

 

故に、彼の性格や在り方は理解しているつもりだ。だが、ここまで心を開いた事は無かった。

 

そんな彼が、心の底から尊敬し、敬意を称している人物を見るのは本当に初めてだった。

 

 

 

「………よし、決めた」

「ほう?では聞かせて貰おう。今度はどんな文章を綴るんだ?」

 

 

 

ライトがそう言うと、犬太郎は行動する。

 

ポチポチと、文字を打つ。その速度に迷いなく、早かった。

 

 

 

「よしッ……どうでしょう?見て欲しい」

「ふむ………ほう?成程な」

 

 

 

その内容とは……。

 

 

 

〈こんにちは、橘福福さん。先日は連絡先を交換してくれてありがとう御座います。先ずは友だちからですので、これから仲良くしてくれたら嬉しいです。連絡、待ってます〉

 

 

 

こうだったのだ。

 

 

 

「……良いんじゃないかな」

「多すぎず少なすぎず、イイ塩梅だと私も思う!」

「うふふ。私も素敵な文章だと思いますわ。犬太郎さま」

「わ、私も……」

「1個目の業務連絡からって考えたら、良い感じに昇華できたんじゃない?」

「えぇ、とても良く出来た文面ですね。誠実さが込められ、犬太郎さまの本当の言葉打たれている。素晴らしい一筆であると感じます」

 

 

 

面々がそう告げる。

アキラ、リン、リナ、カリン、エレン、ライカンが順でそう言を投げる。

 

確かに、今迄の傾向的に見れば非常によく出来た文章であるとは思う。

 

 

 

「……やるじゃないか犬太郎。ほら、考えが変わらぬ内に送信しておけ」

「はいッ……皆さん、ホント…ありがとう御座います」

 

 

 

そう御礼を言い、犬太郎は息を整え、遂に送信する。

皆は少し微笑む。10代の可愛い恋模様が、ここまで大変で、ここまで面倒くさくて、ここまで愛らしいものだとはと……エレンやカリンを除く年長者組には、かなり微笑ましい内容だった。

 

 

 

「ふぅ……あーどう来るかな、こえー…ッ」

「ククッ、取り合えず一歩前進だな」

「そうですね……いやぁ、ホント皆さんに相談して良かったっす!マジでかんs………………ん?」

 

 

 

しかし、ここで【予想外】が起きる。

 

犬太郎が携帯のトーク欄を見つめると……なんと、その送信した内容の下に。

 

 

 

 

 

「────き、既読…付いてね?」

「え?」

 

 

 

皆が一斉にその携帯を覗く。

 

一瞬見間違いを疑うが、なんとそのトーク欄には。

 

【既読】が、確りと付いていたのだ。

 

 

 

「はわわわ…っ!送った瞬間に…!」

「え、はっや」

「コイツは驚いた……まさか、向こうも同じ状況だったのか?」

「えーなにそれー!!なんかロマンチック(?)じゃん!」

「橘福福って子も、犬太郎みたいに何か送ろうとしてたって事か……ははっ、凄い確率だね」

「あらあらまぁまぁ!このリナ、年甲斐もなく胸が高鳴っててしまいましたわ~♡」

「皆様の仰る通りですね………おや?」

「…………………」

「(犬太郎さま、妙に静かだ。一体どうし……ん?)」

 

 

 

皆々が次々と沸き上がる中、ライカンが静かな犬太郎に目を配る。

こんな状況なのに、一番冷静?なにかある。そう思った……矢先だ。

 

 

 

「────うぅぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおッッッ!!!!」

「いやうるさ」

「どうやら極まっちゃったようだね」

「困った愚弟だ」

 

 

 

どこぞの巨人を彷彿とさせる咆哮をする犬太郎。

 

エレン、アキラ、ライトが呆れた様子で彼を見つめ言を投げる。

たった既読。されど既読。彼の童貞心はそんな事で擽られてしまうのだ。

 

 

 

「ッ!!待て!みんな落ち着いてくれ!うぉぉぉぉぉッ!!!!ふぅぅぅ!!!」

「いやあんたが落ち着きなさいよ」

「いま一番落ち着くべき人が何言ってんだか」

「アドレナリン出まくりだな」

「はっ!はぁ!!スクショスクショー!」

「単純すぎる気がしますわ……リナ、心配です」

「先ずは、元気が出たと言う事にしましょう」

 

 

 

一気に調子付いた犬太郎。

それを呆れた半面……いつもの犬太郎らしい感じに、ホッと胸をなで下ろす面々。

 

 

 

「ふぅ、ふぅぅぅ………あー待って、落ち着いちゃった。急に怖い」

「あんた情緒どうなってんの?」

「俺が聞きてぇよリン……どうなってんだ?」

「いや聞かれても困るんだけど!?」

「まぁまだ既読だけだ。重要なのは、これから何が送られてくるかだな」

「そうっすね………ふぅ、この際なんでもいい。取り合えず返って来てくれッ…!」

 

 

 

それはそうだ。

 

重要なのは既読じゃない。返信の内容だ。

 

この無難兼、本心が込められた内容を受け、橘福福は何を想い、どう返すか。

 

これが何よりも重要……場は、少しの緊張を齎す。

 

 

 

「ふぅぅ~……ちょっと待つか。うん」

「向こうも今ごろ、どんな内容を送るか考えている頃合いでしょう。焦りは禁物です」

「ノックノックは閉じた方が良いんじゃない?余裕を持たせてあげてさ」

「はっ、成程……分かったよエレンちゃん」

 

 

 

息も絶え絶え。犬太郎がそっとノックノックを閉じようとする。

 

エレンの指示の下、そう判断したのだ。

 

携帯に手を伸ばし、手に掴んだ………瞬間だった。

 

 

 

 

”プルルルルルルル………プルルルルルルル……”

 

 

 

「え?……はっはっはっはっ!!!!ウえぇ!!?」

 

 

 

────なんと、返って来たのはコールだった。

 

 

 

「マジで!?」

「ええぇぇ!?ど、どうしましょ!?」

「落ち着け。一呼吸おいてから、電話に出ていろ」

「わわ、分かった……ふぅぅ………ッ!」

 

 

 

”ピッ”

 

 

 

電話ともなると、即座に出なければ切られてしまう可能性がある。

 

故に、悠長に話している時間はない。ライトは即座に犬太郎に言を投げ、それに対応した犬太郎が一呼吸を置き……通話音をタップ。

 

 

 

すると………1人の少女の声が、聴こえて来る。

 

 

 

 

 

『────あ、もしもし!あの!すみません、間違えちゃって……っ! あ!でも、いま大丈夫ですか……?』

 

 

 

本物だ。

 

本物の、橘福福の声が聞こえる。

 

 

 

「……はい、大丈夫です。凄く余裕あるんで、はいっ」

『あっ、良かったです!その、直ぐに返事を送ろうとしたら、上手く言葉に出来なくって、それでモタモタしちゃってたら、誤って電話を掛けちゃいまして……!』

「そう、だったんですね。それはまた、可愛い……あーっと!えっと、俺もよくやるんすよー!あ、あははは!」

『そっ、そうですよね!(!?)えへへ!』

 

 

 

皆、気持ちは同じだ。

 

互いに第一印象がアレだった事もあり、中々うまく言葉を紡げないでいる。

それはこの二人の感じを見て、面々は即座に察した。

 

 

 

「あ、あの!」

『あ、あの!』

「あ」

『あぁ…!』

「先に、どうぞ」

『え?あ、ありがとう御座います!その、聞きたい事があって……い、良いですか?』

「もちろんです。何個でも仰ってくださいっ」

 

 

 

これから、この通話を聞く面々の表情と心情を書く。

 

カリン、エレンは女子高生特有のニヤ付きを。内心ドキドキ。

アキラとライカンは微笑んでいる。大人の余裕だろう。

リナは満身の笑みで声を押し殺し、想いを馳せている。

リンは乙女な顔をして、リナ同様声を押し殺して悶え散らしている。

ライトは笑いを必死に堪え、同時に上手くいくよう願っている。

 

皆が抱えるのは、一番は『面白い』だろう。

 

こんな凄まじいエンターテイメントを見せつけられているのだ。面白いに決まっている。

 

 

 

『あの!敬語は大丈夫ですよ?初めて会った時はしてなかったじゃないですか。なので、えっと……無理はしなくって良いと言いますか……!!』

「あ、あぁ!分かった!む、無理はしてないぞ!その、敬語の方が良いのかなって思っただけなんだ」

『そう、そうだったんですね!良かった………あ、自己紹介がまだでしたよね?あたし【雲嶽山】の門下生をしている『橘福福』と云います!改めまして、宜しくお願いします!』

 

 

 

瞬間、犬太郎以外の面々がその陣営に驚く。

 

まさか、あの雲嶽山の門下生だったとは。彼から聞いていなかった。

 

 

 

「あ、ありがとう。えっと、俺は『狼谷犬太郎』だ。トークにも送ったか。一応【護衛屋】を営業している者なんだ。そ、その……宜しく、頼む」

『護衛屋なんですか!?凄いですね!あの大きな剣も凄くカッコ良かったので、やっぱりそういった御職業に就かれていたんですね!』

「っ!あ、ありがとう。そう言って頂けると嬉しいっ……でも橘福福さん。貴女もあの雲嶽山の”一番弟子”だろ?少し前に雲嶽山の門下生が人助けや相談事を解決していたのを見た事がある。だからその、えっと……そんな凄い人達の一番弟子な橘福福さんは、すげぇカッコいいと思う!俺は!」

『っ!!』

「あ、あと!虎のシリオンなのも、カッコ良くて可愛い感じで良い……と…思う……」

 

 

 

犬太郎は思った。

 

あれ?これ只の口説きじゃね?と…。

 

チラリと辺りを見渡す。

呆れる者、笑いを堪える者。この2択で別れていた。

 

待て、マズくないかコレは。

そう焦っていた時、橘福福が発語する。

 

 

 

『……え、えへへ!そんなこと言ってくれる人、初めてですっ!嬉しい……』

「そ、そう?すまん変なこと言っちまった気がするが、大丈夫か?」

『いえ!全然ですよ!む、寧ろ……い、いえっ!何でもありません!』

「そ、そうか?」

 

 

 

どうやら大丈夫なようだ。

犬太郎は胸をなでおろし、彼女に問う。

 

 

 

「あの、橘福福さん。俺からも聞きたい事があって……大丈夫か?」

『はいっ!全然大丈夫です!何個でも!』

 

 

 

今度は此方から。

 

正直、無理でも良い。

こうして通話が出来ていること事態、奇跡に近い。

 

ここまでこれた、後は……聞くだけ聞いてみる。

 

 

 

「────デートしてくれないか?俺と、衛非地区で」

『────えっ?』

 

 

 

砕かれても良い、無理でも良い。

 

己の本心……己のやり方でいく。

 

断られても良い、そんな勢いで言い放った。

 

 

 

『────はい。な、何日が良いですか…?』

「え……え、良いんすか?」

『へ?は、はいっ!大丈夫、です…!』

「……何日、空いてます?」

『あ、えっと……明日と明後日が丁度空いています!!』

 

 

 

犬太郎は、脳の思考回路をフル回転させ……即判断。

 

 

 

「分かった。じゃあ、明日、俺とデートしてほしい。衛非地区に向かうから」

『は、はいっ!!分かりました!あ、えっと!宜しくお願いします…!!』

「あぁ、宜しく頼む」

 

 

 

まさか、まさかのデートも決まった。

犬太郎にとっても、橘福福にとっても、そしてこの場に集う面々にとっても……全くの予想外。

 

怖い位に全てが上手くいく……何か起こるんじゃないかって疑ってしまう。

 

だが、今は!

 

 

 

「ありがとう、本当に……あ、あの!橘福福さん!」

『はいっ!な、なんですか?』

「ま、また連絡する。時間とか、その、色々」

『ッ!はいっ!私からも連絡しますね!場所の指定とか……あ!その、良かったんですか?衛非地区で……お家ってお近くだったりしますか?』

「いや、近くはないんだ。でも大丈夫だ。貴女に負担は掛けたくない、男の妙な意地って捉えてくれれば良い……気にしないでくれ」

『そうですか?分かりました!』

 

 

 

眼の前の今に、集中だ。

 

犬太郎はやり切った。会う約束もした、そしてそれは明日であると。

急ピッチで事が進む。だが、今は不思議と心地よかった。

 

 

 

「……では、その、また明日?で良いのか」

『あっはは、そうですね。また……明日です!』

「よかった。えっと、今日は本当にありがとう。また明日、お願いします」

『えへへ!はいっ!宜しくお願いしますね!犬太郎さん!』

 

 

 

失礼します!と、最後に言って通話は終わった。

 

時間的に、10分程度の会話だ。

初めて会話したにしては長い方だ。時間の経過が早く感じた気がする。

 

それ程、楽しかったって事か。

 

 

 

「明日、明日……会える、のか」

 

 

 

あぁ、駄目だ。ニヤ付いてしまう。

嬉しくって、嬉しくて仕方ない。

 

手で口元を隠すも、それは意味を為さない。本当に嬉しくって、仕方ないんだ。

 

 

 

「はぁ、ふぅぅ……良かったぁ、上手くいった」

 

 

 

安堵。

 

心が落ち着いて行く。ドッと汗が噴き出るが、緊張の糸が切れた証拠だ。

上手くいけた。本当に、良かった……心の中で、そう思う。

 

犬太郎は、周囲の視線に贈れて気付く。

 

そうだ、皆が見ていた。二人だけの世界に入ってしまっていた。

こうなったのも皆のお陰だ。犬太郎は直ぐに周囲を見渡し、御礼を言おうとする。

 

 

 

「皆、本当にありがとう。凄く助かった………」

「……凄いな、お前」

「え?」

 

 

 

そう言うと、ライトが答える。

他の者も、ライトに便乗するが如く、頷いている。

 

 

 

「いや、まさかデートにまで縺れ込むとは思わなんだ。天晴だ」

「しかも明日だし……」

「何ならデートって言っちゃってるし。お出掛けって言わずに」

「す、すまん!なにかマズかったか?童貞だから、女子との交流も浅いんだ……変なこと言ってなかったよな?俺」

「ちょっとー!女子いるんだけどー!」

「何なら少し恥ずいし……」

 

 

 

何だかんだ言いつつも、何とか無事に終える事が出来た。

そして、明日はイキナリ本番だ。

 

それ故に、犬太郎はライトに問う。

 

 

 

「ライトさん、上手くいきました……それで、聞きたい事が一つだけあります」

「あぁ。何でもいえ」

 

 

 

皆、ライトが答えるなら大丈夫だろうと油断していた。

 

犬太郎が告げた事……それは。

 

 

 

「────デートん時、服ってこのままで良いんすかね?」

「────良いんじゃないか?素体で良いと思うぞ?」

 

 

 

前言撤回。彼もまた男だ。

 

 

 

「ちょっと待てい!!ライトさん!?ライトさん本気で言っちゃってる!?」

「なんだリン。俺がお前さんに嘘を付いた事あるか?」

「うん無かったね!私の時のデートもいつもの服で来てたもんねっ!!」

「……もしかして、怒ってるのか?それはすまない。俺はそういうファッション的なのは分からん性分でな」

「むぅぅッ…! もう!二人とも私が仕立ててあげる!着いて来て!」

「ん?なんだライトさんとリンさん、もしかしてデキてんのか?」

「へ!?い、いやっ!そん、そんなんじゃないけど!?」

「どういう事だい?リン、説明して貰おうか」

「ちょっ、ちがっ……ら、ライトさんも説明してよー!」

「ふむ……どうだかな。皆の想像にお任せとしよう」

「ちょっとー!?」

 

 

 

そうして、一悶着(レベル100)があったものの、犬太郎とライトはリンに服をチョイスして貰った。

 

 

 

 

 

次回:初デート。師匠降臨。






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