最強の盾は橘福福しか見えなくなる。〈旧題:最強の盾〉 作:カブトムシの相棒
橘福福の年齢って何歳なんですかね?20歳~22歳?判断が難しいですね。旧都陥落時に加え、本人は大人と云っているので、20以上は確定かなと思っています。
勝手ながら、主人公よりも年上(19以上)の設定で行かせて頂きます。ご了承くださいませ。
では、本編です。
▼衛非地区、近郊。
☆恋バナから次の日……。
「────ふぅぅぅ……」
現在時刻、朝の9時30分。
デートの待ち合わせ時間は10時であるが、犬太郎は30分も前に着いていた。
そして一人待つ。とあるお茶屋で待ち合わせをノックノックで伝えているので、後は待つだけだ。
「お茶屋の名前、時間、共に間違いない……ふぅぅ、緊張するなぁ」
昨日、恋バナでは……電話を終えた後に更に盛り上がった。
ライト、パエトーン兄妹、ヴィクトリア家政を巻き込んだ恋バナは彼を中心に動いたと云っても良い。
リンが鼻息を荒くさせながら、犬太郎の服の仕立てをしたり、それに乗った女性陣(リナ、エレン、カリン)も、コレが良いやらアレが良いやら色々と着せ替え人形にして決めていた。何故かライトも巻き込まれていたが。
そんなこんなで、万全は整って、今に至る。携帯を確認すればリンやアキラ、ライト達から頑張れの文字が刻まれている。
「(俺の為にも、皆の為にも、失敗は出来んッ……気合い入れろッ!)」
昨日の弱々しい己はもういない。
あるのは自信。それを皆から頂いた。
犬太郎はもう一度髪を整え、己の服装を確認する。
茶色のボアジャケットから藍色のボアジャケットに着込み、ズボンは黒、全体は白で赤色の文字が走ったシャツを着用したファッションだ。女性陣曰く、コレが一番らしい。
大剣は置いてきた。余りにもデートに不向き故、駐車した車の中にある。
準備は出来た。後はこの30分で緊張も解こう。
犬太郎はそう思った……だが。
「────あっ!もしかして犬太郎さんですか?そうですよね!!」
「えっ……いぃ!?」
ここで、早速のイレギュラーが発生。
聞き馴染みのある声。その正体を直ぐに判断してしまう程に大好きな声質。
眼の前に現れる、黄色と白を基調としたスカート。初めて会った時とは違う服装……綺麗でお洒落な服を着る小柄な女の子。
虎特有の耳に尻尾を備え、元気な印象を顕わす笑顔が本当に眩しい。
そう、そこには……。
「こんにちは!えへへ、やっぱり同じ考えでしたね。橘福福、ただいま参上しました!」
「あっ……あぁ、そうだな。こんにちは」
橘福福が居た。
9時30分。なんと彼女も彼と同じ思考だったのだ。
これにはお互いに驚愕を覚える。特に犬太郎は緊張を解こうとした直後だったからか、驚きを隠せないで居た。
大丈夫だろうか。今、変な顔していないだろうか。
数日前に会った。昨日電話した。
でも、やっぱり本人を前にすると、どうしようもなく嬉しくなって緊張してしまう。
ヘンな汗が出る。落ち着け、落ち着けと心の中でそう思う。
「10時に待ち合わせでしたけど、もうお茶屋に入っちゃいますか?それとも此処じゃないお茶屋とかに周ったり?」
「あっとー、そうだな……先に此処のお茶屋に入って軽食でもいいかな?実は俺、まだ朝ご飯食べてなくって」
「えぇ!?そうなんですか!?それはいけません!直ぐに入りましょう!此処のお茶屋さんすっごく美味しいんですよ!杏仁豆腐とか絶品で…!」
「そうなのか?じゃ、じゃあ!入ろう、うん」
橘福福が「ほらほら!入りましょう!」と言って、入店を催促する。
昨日ノックノックで二人で何処を待ち合わせにするか決めており、橘福福の提案もあり、衛非地区の繁華街の入り口に近いこの茶屋を決めたのだ。
当然だが、橘福福はこの店を知っている。正直に言えば犬太郎はこの地区は無智に等しい。
恥ずかしい話だが、橘福福がノックノックで『明日はこの橘福福が精一杯あなたをエスコートしましょう!お任せください!得意分野なんですよ!』と張り切ったので、犬太郎は無碍には出来ないと承諾したのだ。
そうして、入店して席に座る。二人用の席を見つけ対面で座る。
「おっ!福福ちゃんじゃん!いらっしゃい!お友達と来たのかな?ご注文がお決まりになりましたら、いつでも声をかけて下さいね~!」
「はーい!」
店員の掛け声に橘福福が声高々と返す。
きっと何度も来ているのだろう、店員と仲が良い様子を見て思う。何とも微笑ましい光景だ。
「ここは小籠包や焼売が絶品なんですよ!犬太郎さんは何か食べたい物はありますか?」
「そうだな……じゃあ小籠包と焼売を。あと緑茶も頼むとするか。橘福福さんはどれを?ってかお腹減ってる?」
「はいっ!えへへ、これでも美味しい物をたっくさん食べるのは大好きなんです!あっ!注文しちゃいましょうか!すみませーん!」
正に活発な女の子の印象。
自分でも驚いてしまう。まさか自分が、本当に好きな女の子のタイプがこの様な子であったとは。
女好きで通っている己であるが……まさかのまさかであった。
「はいはーい!ご注文は?」
「あ、俺は小籠包と焼売で頼みます」
「あたしはチャーシューまんを5個と餃子20個、それから炒飯と麻婆豆腐をお願いします!」
「承知しました!では、暫しお待ちくださいねー!」
────???
聞き間違いだろうか。
なにやら凄まじい量の料理を頼んでいたように聞こえたが。
橘福福を見る。めっちゃ笑顔。どうやら己の耳は正常の様だ。
「……橘福福さんは、もしかして俺と同じで朝ご飯を抜いてきたのか?」
「え?いえ、そんな事は有り得ません!今日も今日とて、たっくさん頂きましたよ!」
「なるほど、そうなのか」
(かなりの大食いなのか。見た目とは裏腹に、凄いな)
そう思うには仕方なかった。
自分がそこまで食べる人間では無いからか、彼女が頼んだ料理は全てカロリーが凄まじい。
彼女を見る。とても待ち遠しく料理を待っている。可愛い。
すると、目が合った。同時にとあることを聞かれる。
「それこそ、犬太郎さんはどうして朝ご飯を抜いて来てしまったんですか?もしかして、移動とかで食べる時間がなかった……とか?」
そう言う橘福福は少し申し訳なさそうな表情で問いてくる。
まぁそう思うのも仕方ない。此処から犬太郎の家まではかなり距離がある。車で向かっても数時間は掛かる程の。
それを鑑みての子の表情なのだろう。犬太郎は即座に否定に入る。
「いや、そうじゃない。ただ……ちょいと緊張が走っててな。何も口を通らなかっただけなんだ」
「緊張、ですか?」
「あぁ……自分で言うのは恥ずかしいんだが、その……貴女に会うってなったら、心の準備が必要に成ってな」
「私に会うって……………あっ」
彼の発言に察しが付いたのか、橘福福はみるみる内に顔を赤く染めていく。
それに同調し、犬太郎も少し顔を赤くする。
「あ…あはは!えっと、そうだったんですね!それは……し、仕方ないかもですね!」
「そう、だな。仕方ないんだ、うん」
「っ……思ってたよりも、素直に言うんですね?ちょっと吃驚しちゃいましたよ!」
その通りだ。
犬太郎は嘘が上手く付けない類の人間だ。それも、橘福福を前にするのならば、尚更。
「す、すまない。変な雰囲気にさせてしまったな。あーっと、俺はただ、貴方に会うからには余裕を持って対応したいって思っただけなんだ。あー待ってくれ、思ってたこと全部言ってしまう…すまんッ」
「だ、大丈夫ですよ!?そう言う時って意外とありますよね…!あ、あたしもよくやっちゃいますし……どうか気にしないで下さい!」
「……ありがとう」
早速やってしまった。犬太郎はそう思ってしまう。
思った以上に上手くいかない。
犬太郎に色んな意味の緊張が走る。話題を逸らす為、足りない頭を何とか回す。
「ち、橘福福さんは確か、雲嶽山の一番弟子なんだよな?あまり理解は出来ていないんだが、術法を教えとした宗派の一つと聞く。歴史がありデカい組織の一番弟子なんて、若いのに凄ぇな」
「っ!えへへへ!そんな事はありませんよぉ!まぁ、色々と大変な時期もありましたけど、皆で支え合って今があるのだと実感しています。でも、そう言ってくれて嬉しいです!ありがとう御座います!!」
「っ……なら、よかった」
彼女にも彼女の背景があるのだ。
それを全て知らぬとも、その笑顔を見れば、素敵な事もあり壮絶な事もあったと理解出来る。
雲嶽山の事はほぼ知らない犬太郎。だが、11年前の旧都陥落で雲嶽山が最悪を経験しているのは、知っている。今を生きる者達は、大体がそうだから。
すると、今度は橘福福が彼に問いを掛ける。
「犬太郎さんは護衛屋に務めていらっしゃるんですよね?余り聞かない職業なので少し気になってまして!どんな内容のお仕事なんですか?」
「橘福福さんが想像してる通りだと思う。事前に連絡を受けたお客様に対し指定された時間まで付きっきりの警護を執り行い、絶対に、死んでも、対象を護り切る仕事だ。その対象は幅広く扱っている。子供から大人までな……まぁ、偶に迷子の捜索やホロウ内でのイザコザにも手を貸したりしている。便利屋に近い護衛屋だな」
「はえぇ~!やっぱり凄い大変なお仕事なんですねー」
「まぁ楽じゃないな。だが、俺がしたくて選んだ道だ。やりがいは十二分にあるよ……とはいえ、護衛屋は俺だけだがな」
「え?それってどういう……」
「護衛屋の事業は、お世話に成った方々の支援によって立ち上げた仕事、つまり俺自身が社長の職なんだ。格安で依頼を出している」
「はえぇ~!?そうだったんですか!?」
彼の発言に、橘福福が驚愕を覚える。
自分よりも若い男の子が立ち上げたという仕事に、大きなカルチャーショックを覚える。それも危険を伴う護衛屋だ。
この地区では余り知名度が無い護衛屋。興味津々で聞いてみれば、とんでもない背景があった。
……それにしても。
「ふはッ……それにしても、貴女は実にイイ反応をするな。話してて本当に楽しい」
「え!?そうですか!?えへへ~!そう言って頂けると何だか嬉しいですね!あたし、虎のシリオンなので、気付いたら声が大きく成っちゃう時があって……偶に五月蠅くしちゃうんですよね」
「ん?なんだそんな事を気にしていたのか。案ずるな橘福福さん。俺はそんな橘福福さんも好っ……………ウォォォォォォオォォォォッッ!!!」
”バァンッッ!!”
危うく【好き】と言いかけてしまった犬太郎。何とかテーブルに顔面をアタックして誤魔化す。(テーブルは何とか無傷)
「えっ、えぇぇ!!?ど、どうしたんですかいきなり!!?」
「……すまん、声の大きさは俺も負けてないって言いたかったんだ。ちょいとミスった」
「どういう事ですか!?お、お怪我はしてませんよね!?」
「こう見えても頑丈なんだ、大丈夫だ」
「あぁ、確かにですね……」
犬太郎の唐突過ぎる奇行に驚くも、何とか事態を飲み込む橘福福。
そんな中でも、犬太郎は思考を巡らせていた。
俯き、息を整える様に。
「(落ち着け、落ち着け……我心を乱すな。余裕を持て。好きな女の前だぞ…ッ)」
「あの~……」
「(こういう時、ライトさんなら飄々といなす。こういう時、きっと親父と桃子なら橘福福さんを見る。そうだ、俺の憧れ達はそう言う人だ。大丈夫だ、ふぅぅ、落ち着け……)」
「犬太郎さん!」
「ッ!!」
下から覗き込む可憐な少女。
身長差があるからか、テーブル越しでも犬太郎の下を掻い潜り、覗き込む橘福福。
クリクリなお目目。甘い匂い、心配している表情。
全ての情報がダイレクトに入る。落ち着けないと、悟ってしまう。
「大丈夫ですか?やっぱり頭が少し痛んでいるんじゃ……」
「ちが、違うッ。本当に、大丈夫だ……すまない、心配を掛けさせてしまった」
「いえいえ!でも、無理そうならやっぱり今日は……」
「だ、駄目だ!!」
「わぁ!?」
咄嗟に否定したからか、少し大きな声で否定するも驚かせてしまう。
違う、そうじゃない。こうしたい訳じゃないんだ。
己は只…………っ!
……犬太郎は、若い。まだ19歳だ。
加え、恋などした事が無い男子。こういったストーリーは無智が過ぎるのだ。
言い訳にしか聞こえないが、これに関しては環境が悪い。そう言うしか他ないのだ。
犬太郎は即座に謝罪。
「あ……驚かせてすまん、ち、橘福福さん。実は体調は頗る調子いいんだ。ただ………あーっと、さっきも言ったが俺は、貴女にはどうしても緊張してしまうんだ。まだ、な……許して欲しい」
「ッッ……あの、犬太郎さん」
「……なんだ?」
「その、そう言う事でしたら私も────あたしも、貴方と同じかもしれません」
「え…?」
彼女の性格は少し分かった気がしていた。
きっとこういう時、彼女なら気を遣って話を逸らすだろう。
……そう思っていた。だが違った。
橘福福は顔を赤くして、告げる。
「────こ、こうして男の人とお話しするのは、初めてではないんですけど………そ、そのっ!貴方を【異性】として見たら、やっぱり緊張すると言いますか……あ、あはは!お恥ずかしい……」
「────……そう、か」
そう言う橘福福は、手まで真っ赤っかに染まっていた。
一緒だ。己と。彼女もまた同じだったんだ。
そう理解した途端……犬太郎は急激に落ち着いていった。
「そうか、貴女も同じか……はぁー、そうかぁ……すまん橘福福さん。俺はとんだガキ臭い事を……」
「え?急にディスられてません?私」
「橘福福さん、ありがとう御座います。お陰で落ち着けました」
「そう、ですか?よく分かりませんが、良かったです!あたしも何だか少し緊張の糸が緩んだように感じました」
「ふはは、それは良かった……様子見のお友達の仲から一歩前進かな、俺は」
「むっ!それはあたしもですよ犬太郎さん!今日のこの一時だけで、あたしが貴方の事を少し理解出来たんですから!何なら、あたしの方がニ歩前進したかもしれませんよ?」
「そいつは有難い話だ。俺からしても、貴方には俺をもっと知ってもらいたいからな」
「あうッ……鋭いカウンターを食らった気分です~!」
犬太郎も、橘福福も、まだまだ若い子達だ。
互いにこんな密接になった異性は居た事が無かった。それ故に、互いに牽制やら何やらで上手くいかない。
だが……変えてくれたのは、橘福福だ。彼女の一言が無ければ、こうは成ったいない。
二人の間には、形容が難しいが……”イイ雰囲気”は流れていた。
”コトンッ!”
「良い感じの時にごめんね~!お待ちどう!」
「ッ!!あ、いえっ…大丈夫です…っ」
「あ、あはは……っっ!!わぁ!!美味しそうですねぇ~!」
テーブルの上に置かれる数々の一品たち。
店員さんはニヤニヤしながら、次々と料理を置いて行く。
香ばしい匂いと、食欲をそそる見た目の料理たち。
橘福福の方を見る。瞳を輝かせ、今すぐにでも食らいつかんとしている。
「犬太郎さん犬太郎さん!!冷めちゃう前に食べちゃいましょう!ここの料理とっても美味しいんですから~!」
「そうだな。うん、そうしよう」
「きっとそれだけじゃ足りませんよね?まだお腹に入りそうでしたら、あたしのチャーシューまんをあげましょう!なので小籠包を一つ分けて下さい!」
「それで良いのか……まぁ、いいか。そうさせて貰おう」
そうして、二人は次々と料理にかぶり付いた。
朝ご飯にしては遅いが、昼には早い時間帯。
そこで、二人は距離を縮める事が出来たのだった。
▼30分後:10時ちょい過ぎ……。
「────ふぅ…はふ……美味しかったでふね、犬太郎さん…っ」
「あ、あぁ……大丈夫か橘福福さん。流石にあの量は多かったな」
「朝ご飯を食べて、その後にあの量はやり過ぎました………でも、満足です…!」
10時過ぎ、二人はお店を後にしたと同時、近くの木陰のベンチで二人で座っている。
その理由は橘福福にある。最初に注文した料理に加え、そのあと更に注文してしまったのだ。余りに美味しかったから。
無論、橘福福は最初の注文で終えようとした。だがいけなかったのは、犬太郎の発言にあった。
『俺はたくさん食べる子はずっと見たくなる。特に、橘福福さんのような美味しそうに食べる女の子は特にな』
この一言で調子に乗った橘福福は勢いそのまま、店員に色々と注文してしまい、どんどんと平らげてしまったのだ。
結果、お腹は少し膨れ、若干苦しそうにしている。犬太郎が気を利かせ、そのまま近くのベンチで小休憩をしようと促したのだ。
「ごめんなさい犬太郎さぁん……初めてのお出掛けが、初っ端からこんな事になってしまうなんて……」
「気にするな。こうして休憩するのも良いじゃないか。元はと云えば俺が朝食を抜いたせいだからな……今は互いに胃を休ませよう」
「犬太郎さん……はいっ!そうですね」
二人の空間。
非常に温かく、優しい雰囲気。犬太郎はこの感じがとても心地よかった。無論、橘福福も。
「橘福福さんの食べっぷりは見てて爽快だな。俺も負けてられんと思ったが、どうやら未来永劫勝てそうにない」
「えへへへへ!あたしの胃は正に虎並みですから!調子がいい時はもっと入るんですよ!」
「そうなのか?なら、今度調子がいい時美味いモンでも食べに行こう。また大食いする貴女を見せてくれ」
「ふふ~ん!!勿論で………って、なんかあたしっ!食い意地が張ってる人って思われてません!?」
「???……違うのか?」
「本気で思ってた疑問符やめて下さいよー!違いますからね!?あたしは、ただ美味しい食べ物をいっぱい食べるのが好きなだけですから!」
「(それにしては限度がエグイ気がするが……)」
「あっ!今いけないこと考えましたね!あたしにはお見通しですよ!」
「むぅ、すまん」
どうやら怒らせてしまったようだ。
地雷原が難しい……どうにか話題を変えよう。そう思い、犬太郎が告げる。
「話を逸らして申し訳ないが、橘福福さん。実は俺、料理専なんだ」
「へ?」
「食べるより作る方が好きと言えば良いか。貴女の気持ちのいい食いっぷりを見て、いつしか、俺の料理も貴女に食べて欲しいと思ってしまった。どうだろう?いつか俺の料理を食べてはくれないか?」
「えーー!!?そうなんですか!?そんなの、勿論に決まってますっ!どんなの!?どんな料理を作るんですか!?」
やはり食いついた。料理だけに。
犬太郎は携帯を取り出し、そのままフォルダに有る自分が作った料理を見せる。
「オムライスにチンジャオロース、蕎麦も作ったな。色んな料理を作ったりしているんだ」
「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!お、美味しそうですね~~!!」
「橘福福さんは肉が好きと解釈している。だから……ステーキ類が良いかな。コレとかどうだ?かなりウマくいったステーキ丼だ」
「うわぁぁぁっっ!!こんなの生殺しじゃないですか~~!今直ぐにでも食べたいです!」
「ふはは、そいつは良かった。食べたいなら俺の家に来ると良い。出来立てホヤホヤを貴女に…………あっ」
ここにきて、また失言をしてしまった犬太郎。
家に来ると良いなんて……かなりのセクハラでは?そう思ってしまって、脳裏からそのフレーズが離れない。
「あ、あーいや、ちょいと語弊があったな。あーっと……」
困った。何も言えない。ってか語彙が出ない。
かなり言い直しの効かない発言だったと気付いた犬太郎は冷や汗を流す。
マズい、どうしたものか……そう思った、瞬間だ。
「い……言いましたね?犬太郎さん」
「え?」
流れが変わった。
「にっ!二言はありませんよね!?犬太郎さん!」
「あ、え、えっとだな……」
「あ……あたしに美味しい料理を作ってくれるって言いましたよね!?そ、それで、貴方の家に行ったら良いって……っ!」
「あ……あぁ。うん、言ったな」
「ふ、ふふ~ん!なら約束です!いつか犬太郎さんが作る料理を、あたしに食べさせて下さい!絶対ですよ!」
「あ、あぁ。それは願ったり叶ったりだ……」
犬太郎はイマイチ実感が湧いていない。
急激に事が進むと、人と云うのは思考が鈍る者だ。それが、こうも初恋の人であると尚更。
彼女を見つめる。顔は真っ赤っか。眼はぐるぐる回っている様に見える。本人も自分の突発的な行動を制御出来ていないのだろう。
「え、えっと!ちょっとお手洗いに行ってきますね!!」
「あ、あぁ。分かった」
声を高々に、橘福福はベンチから立ち上がり近くの公衆トイレに向かった。
動きはぎこちなく、カクカクしていた。
そのままトイレの中に入ったのを見て、犬太郎は……ふぅと、大きな溜息を漏らす。
「………マジか」
次第に実感が湧いてくる。
あの橘福福が、自分の家に行くと?
そして料理を食べさせて欲しいと?
夢かこれは。否、断じて否。
「……俺等、会ってまだ4日だよな?初めて会って、そこから少し期間は空いて、昨日まさかの電話と連絡を取り合えて、そして今日、デートして………何だかんだ、上手くいけていて……何だコレ、やべぇ………すげぇ、嬉しい」
一つずつ、橘福福との事の経緯を口に出して確認する。
自分で言っていて驚いてしまう。これは普通なのかは分からないが、良いスピードであるのは、やっと理解して来た。
右手を口に覆う。二やついてしまう。だめだ、抑えられない。嬉し過ぎて堪らない……っっ。
「はぁ、楽しいっ……恋って、こんな感じなんだなァ……あぁ、落ち着けェ、落ち着いてくれ俺ぇぇ…」
今、橘福福がトイレに行っていて本当に良かった。
でなければ、また醜態を晒してしまう。こんな情けない所、もう見られたくはないから。
”パンッ!ぱんっ!”
「ッ!うしっ……ふぅぅ、落ち着け。そして気合い入れろ。まだ始まったばっかだろうがッ……こっからだ、大事なのは」
そう、もう既に中々に濃密なデートではあるのだが、まだ1時間と少ししか経っていない。
時間はまだある。この地を橘福福に案内の下、一緒に歩きまわり楽しむのが今日のデートの目的だ。
まだ始まったばかり。正にその通りだ……犬太郎は気合を入れ直す。
それと同時、橘福福が帰って来た。
「────すみません、お待たせしましたっ!ただいま戻りましたよ犬太郎さんっ!」
「ん…いや、大丈夫だ。ん?……なぁ、気の所為だったら良いんだが、なんか頬っぺた少し赤くないか?大丈夫か?」
「あ、大丈夫です!気にしないで下さい、えへへ……! そろそろ繁華街の方へ向かいましょうか!素敵な物品や美味しい物が沢山あるので、是非楽しんで頂けたらと!」
「そいつは良い……よし、じゃあ案内を頼む橘福福さん」
「はいっ!お任せくださいっ!」
戻って来た橘福福は先程とは変わり、元気な彼女に戻っていた。
いや、元気なのは常なのだが、こう……焦りが消えていたと云うか、そんな感じになっていた。
恐らくトイレで気を落ち着かせていたのだろう。
二人で並んで歩きながら向かっていると、彼女が話しかけて来る。
「……あ、あの!」
「ん?なんだ?」
「さっき言った事、忘れないで下さい……ね?」
「ッ!……も、勿論だ。忘れないよ、絶対にな」
「っ!な、なら良いんです!え、えへへ……!」
落ち着かせた……そんな事は出来ないのだと、実感されてしまった。
犬太郎と、橘福福は……互いにそう思った。
☆
「────ほう?福福のやつ、いきなり洒落込んだ服を着こなして出て行ったと思えば……まさか、こんな面白すぎるイベントを発生させていたとはな」
「お師さん早く行こう!福姐たち行っちまうぞ!」
「まぁそう焦るな『
「むぅ……お師さんがそう言うんならそうしよう……にしても福姐、この見てくれの俺から見ても、こう……」
「皆まで云うな藩。あの子なりに自分で精一杯考えて選んだお洒落服なのだろう。可愛いじゃないか」
「そんな事は百も承知だぞお師さん。だが何て言うか……こう、親心が働いちまって」
「まぁ言いたい事は分かるさ。私としても、些か幼い服装だとは思ってしまう。福福が私等に頼んで来たら、その時に助けてやればいい。ほら、見失わない内に追うぞ」
次回:どうにも甘酸っぱい展開に。
☆おまけ!
▼ 橘福福side……。
場所は手洗い場、女子トイレ……。
「────あうぅぅ……心が落ち着きません…っ」
鏡を見て、真っ赤に染まった自分を映しては辛くなる。
犬太郎だけでは無いのだ、このデートで意識して緊張の糸をバッチリ張っているのは。
「落ち着いて下さいあたしっ……彼よりも年上ですよ、あたしはっ!確りしないと…!」
ペチペチと顔を叩き、無を感じさせる氣を心と脳に注入。
雲嶽山で師匠である『
そら、落ち着いてきた………。
『────橘福福さん。俺は今、貴方に一目惚れした』
”ぺチペチペチっ!”
「あぁぁ……思い出しちゃいます…こんな時にぃ……っ」
頬を激しく叩く。羞恥で頭が可笑しくなりそうだ。
初めて会った時の犬太郎の発言を思い出してしまう。
こんなもの、余りにもズルい……こんな爆弾を吐いておいて、順序は大切と言って、先ずはお友達からとお願いして来たのだ。
普通ならばッ怖い人で終わりだ。しかし……彼の厚意や人としての優しさを知ってしまったが故、どうしても意識してしまう。
「本当に、ずるいですよ……犬太郎さんっ」
今の自分はカッコ良くはない。悲しいが、それは自分でも分かってしまう。
でも彼はそんな自分を、雲嶽山で頑張っている自分をカッコいいと言ってくれた。活動を見た事はないだろうに……彼は自分が話した事を全て信じて、そう言ったのだ。
吃驚する位に純粋。
だからこそ、自分に似てて……異性としてみてしまう。
「待たせ過ぎてはいけません。もう、行かないと!」
鏡をもう一度見る。うん、良い顔になった気がする。
これから先の展開は読めない。正に未知数、どう転ぶかは天任せだ。
でも、それでいい。
だから……どうか、上手くいって。
「……あ、そうだ」
橘福福は、これだけ……タイミングがあれば彼に聞いてみようと思った。
それは────
「────あたしの事……『
感想、誤字報告、ここすきお気に入り評価、ほんとうに嬉しいです。いつもありがとう御座います。
因みに彼はまだ自分が【愛煙家(未成年で)】な事を橘福福に言っていません。ってか今のままじゃ言えません。どうすんですかね?