最強の盾は橘福福しか見えなくなる。〈旧題:最強の盾〉   作:カブトムシの相棒

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※橘福福の一人称が『あたし』ではなく『私』になってたと判明しました。大変申し訳御座いません。全て『あたし』に戻しましたが、ここが違うとありましたら誤字報告を頂きますと幸いです。


では、本編です。


甘酸っぱいデート!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────なるほど、その写真に写ってる『藩』さんって方の料理が絶品なんだな。確かに、その(てい)と表情を見れば、温かい御飯を提供してくれそうだって思えるな」

「そうなんですよー!炒飯やチャーシューまんは本っ当に絶品で…っ! 角煮も口の中で蕩ける様な食感と、幸せを実感できる香ばしい味わいで美味しくって…っ!」

 

 

 

衛非地区の澄輝坪(ちょうきへい)を歩きながら、犬太郎と橘福福は会話を弾ませる。

 

仲間の写真を見せながら話したり、時折お店に寄ってチャーシューまんを買ったり、お土産屋の【良い品屋】に寄って瓢箪(ひょうたん)のキーホルダーを買ったりなど……橘福福の案内の下、犬太郎は存分にこの地を楽しんでいる。

 

 

 

「それは凄いな。今度、直々に教えを乞いたいものだ。いつの日か俺の飯を食す貴女の為に、料理の腕を上げておきたいからな」

「あ、あはは!で、でもでも!一度は犬太郎さん独自の料理を食べたいなー……なんて…?」

「っ……そ、そうか。それは、あーっと……頑張るとするよ」

 

 

 

偶に、こうしてドギマギしてしまう発言をどちらかがして、互いに赤面する自爆をする。

何とも甘くて、形容し難い光景だ。

 

 

 

「ッ……む?あれは……」

「ん?あぁ!あそこは【フラッフィー】ですね!たくさんの種類の動物が居るんですよ!」

 

 

 

そんな時、ふと犬太郎が気になる光景を見る。

 

それは【フラッフィー】という名のペットショップだ。

橘福福がそう発言すると、犬太郎が問う。

 

 

 

「ペットショップか……すまん橘福福さん。あそこに寄っても良いか?」

「勿論です!可愛い動物たちがいっぱいなので、少し癒されに行きましょう!」

 

 

 

珍しく犬太郎が願い事を告げる。

 

橘福福がそれに少し驚くも、直ぐに対応。彼女の案内の元、向かう。

 

外で店番をする少女。橘福福よりも小柄な体躯をしているシーズーのシリオンの少女に話しかける。

 

名を『ケアン』だ。

 

 

 

「『ケアン』さんこんにちは!」

「こんにちは!今日もお疲れ様ですっ…! ど、どうぞ良ければこのフラッフィーを見に行って下さい!お店のちびっ子たちは皆健康で可愛くて……モフモフなんです!」

「そうみたいだな。窓越しから見える子達は皆、顔色も良いし毛並みが綺麗だ」

「え、えへへ!そう仰られると自分事の様に嬉しいです……! 御二人が良ければお店の中でちびっ子たちと触れ合いませんか?みんな良い子達で、人が大好きで…!」

 

 

 

ケアンがそう言うと、犬太郎は即座に橘福福に顔を向ける。

その瞳は、ウキウキしていた。

 

 

 

「橘福福さん!俺、触りたい!いい?」

「え?えっと、えぇ!あたしも是非…っ!」

「承りました!では、ご案内します~」

 

 

 

何やら、本当に珍しい光景だ。

犬太郎の様子が非常にウキウキしている。無論、この時までウキウキはしていたんだが……動物たち、その”一部”を見つけた途端、ウズウズしている様に見える。

 

 

 

「(犬太郎さん、動物が好きなんですかね?なんだか……可愛いですね!)」

 

 

 

そう思うのも仕方ない。この巨躯にこの顔面。凶器が服を着て歩く様な大男が急にメロ付き始めるのだ、絶妙に可愛いと思うのも致し方ない。

 

ケアンの案内の下、店内に入ると……そこには、可愛い動物たちが構えていた。

 

 

 

「わぁぁ~!かわいいですねー!」

「あぁ、凄まじい可愛さだ……」

「触れ合いたい子が居ましたら、ケアンにお申し付けください~!」

 

 

 

橘福福と犬太郎は周囲を見渡し、猫や鳥、魚に虫も見る。

多種多様の動物たちが個を構えており、非常に趣があるお店だと犬太郎は実感する。

橘福福も何度かこの店によって、動物たちと触れ合っているが……常に新鮮な気持ちに成る。時間が早く感じるのはこういう事なのだと理解する程。

 

そんな中、犬太郎がある一点の動物を凝視する。

 

 

 

「………居た」

「ん?あれは……ワンちゃんですね!茶色の毛並みが可愛いです~!」

「この子はとても穏やかな子で、犬種は柴犬です~!」

 

 

 

犬太郎が見つめていたのは、なんと『犬』だった。

 

その瞳は愛らしさを見るようで、同時に……なにか想いを込めた様な眼付だった。

ケアンがその柴犬の所に二人を連れる。

 

 

 

「……触れても?」

「はいっ!勿論です~!」

「ありがとう。では……」

 

 

 

犬太郎がその柴犬に”手の甲”を近づけ、嗅がせる。

 

 

 

”わふっ!”

 

 

 

柴犬はペロッと犬太郎の手の甲を舐め、尻尾を振るう。

どうやら仲良くなれたようだ。柴犬は身体を使って犬太郎にしがみついてくる。

 

 

 

「ん、ふははは!そうか、仲良くしてくれるのかお前さんはっ!」

「あはは!ワンパクさんですね~!はぐはぐ言ってますよ!」

「凄い、この子は穏やかではあるんですけど、こんなにも早く初めましての人に懐くだなんて凄いっ……驚きました!もしかして(ワン)ちゃんを飼ってたりしてました?何だか、犬ちゃんの触れ合いに慣れている様な……」

「あぁ、飼ってはいなかったんだが、こう見えて【犬と虫】は大好きなんだ。特に犬には思い入れが強くってな……昔、友達(ダチ)がこの子と同じ柴を飼ってたんだ。偶に散歩させてくれたり、遊ばせてくれたりしててな……ふはっ、この子と似てて感慨深い気持ちに成ったよ」

「はえ~!そうだったのですね」

 

 

 

ここで新情報。

どうやら犬太郎は犬が好きだと言う。こう言ってはアレだが、少し面白い。

 

”犬”太郎が”犬”好き……名前も相まってダジャレに聞こえて来る。

 

 

 

”にゃー”

 

 

 

そうこうしてる間に、今度は橘福福の下に猫が近寄って来る。

 

そのまま、全身を使ってスリスリしてくる。

 

 

 

「ん?わわっ!猫ちゃんがスリスリしてきましたっ……!」

「ふはは!橘福福さんは猫にモテモテだな。虎のシリオンだから、貴女をボスだと思ってたりしてな」

「えぇ!? ま、まさか!あたしのカリスマ性が猫ちゃんに伝わって…!?」

「間違いない。そうに決まってる」

「子猫ちゃんのスリスリは甘えてたり、縄張りを標す時にする行動ですね。これは恐らく甘えているんじゃないかなと」

「そうなんですかー!えへへへ~!可愛いですね~!!」

「だな……(橘福福の方を見ながら)」

 

 

 

口には出さないが、橘福福は非常に可愛い。

それは周知の事実だが、本人は可愛いと云われるよりカッコいいと言われた方が良いらしい。

 

それを既に理解した犬太郎は、口から零れそうな単語を抑え、別の方向で彼女を褒め称える。

 

この可愛さでこれはキツイが、彼女のムッとした顔はここぞという時に取っておくべきだ。

そう思い、何とか我慢している。

 

橘福福を見て、ホンワカしていると……愛でていた柴犬が愛声を出してペロペロしてくる。

 

 

 

「んおっと……くはっ!それにしても、お前さんは本当に可愛いな……」

”へっへっへっへっへっ!くぅぅ!くぅぅん!”

「ん?あぁ、ここが良いのか?ほれほれ、撫でてやろう」

”きゅぅぅん♡”

「ははっ!腹まで出して、お前さんめ~!よーしよしよし~っ!」

 

 

 

ワシャワシャと撫でまわす。

余りの可愛さにキャラを忘れ、存分に眼の前の柴犬を撫でまわす犬太郎。

 

 

 

“ジィィィ……”

 

 

 

「……はっ!」

「ふふ~ん!」

「んっ……橘福福さん、すまんが今のは忘れてくれないか…?」

「ん~!無理ですね!えへへ!だって犬太郎さん、さっきまでとは打って変わって凄く()()()ですから!」

「か、かわっ……!?」

 

 

 

なんと橘福福が爆弾発言。

 

いや、それは貴女だろう!?と云うかのような視線を思わず犬太郎が出すも、橘福福は意も介せず、とびっきりの純粋性で彼を見つめる。

 

 

 

「か、勘弁してくれ橘福福さんっ……俺なんかが可愛いなんて、目でも腐ったんじゃないか?」

「酷くないですか!?本当ですよ!!ワンちゃんを撫でる仕草とか、表情も全てワンちゃんと同じくらい可愛いですよ!」

「ん、ぉぉ……ま、まってくれ、それ以上は……恥ずいっ」

 

 

 

顔を真っ赤に染める犬太郎。

 

純粋とは時に恐ろしい。まさか、可愛いと思ってた人からカウンターの様に可愛いと呼ばれるとは思いもしなかったのだろう。犬太郎は感じた事のない羞恥を抱えてしまう。

 

その場にいるケアンや動物達は何かを察したかのように、じぃぃーっと二人を見つめる。

まさかの動物達にも気を遣われる始末。

 

しかし、こうも煽られては男が廃る。ここは一発己も巻き返しの一撃を繰り出してやろう。

 

 

 

「ま、全くッ……そういう貴女こそ、猫に甘えられてる姿はカッコいいし可愛い……………あーっと、クールだぞ」

「そうですか!?えへへへ~!犬太郎さんがそう言うのでしたら、きっとそうなんですね!この橘福福!少し自信が付いた気がします!」

「そう、か……なら、よかったよ……」

 

 

 

悔しい!余りにも悔しい!

 

この子に、橘福福に『可愛い』と簡単に言えたのならどれだけ気が楽だったか…!

 

彼のチキリに近い紳士具合に、その様相を見るケアンは少し顔を赤くさせ、同情する。

今だけは、橘福福がイジワルな悪虎に見えた。犬太郎は、そう思った。

 

 

 

「……そっ、そろそろ行こう、橘福福さん。長居しちゃ悪い」

「あっ!そうですね!ではケアンさん、あたし達はこれでお暇させて頂きますね!」

「は……はいっ!」

 

 

 

いきいきしている橘福福、疲れが顔に出てる犬太郎。

それは分かり易く現われ、この名もない勝負は完全に犬太郎の負けだと全員(動物含む)が分かった。

 

 

 

「じゃあ……ケアンちゃんだったか?ありがとう、すげぇ楽しかった」

「ありがとう御座いました!また来ますね!」

「は、はい~!またの御来店をお待ちしています…!」

 

 

 

そうして、店内を後にする二人。

動物特有の空気から、衛非地区の透き通るような空気に変わり、少しの落ち着きを見せる犬太郎。

 

一生忘れられない出来事だった。まさか、この歳になって可愛いと言われるとは……恐るべき橘福福。

 

 

 

「さて……次は何処に行こうか?」

「そうですね~……あっ!もう12時過ぎてますね!?どうりでお腹が空いてきた訳ですよー!」

「む、もう12時過ぎたのか。早いな……昼御飯でも食うか?」

「はいっっ!!この辺に、美味しい茶屋があるんですけど、良ければ行きませんか?味は保証しますよっ!!」

「橘福福さんがそう言うのなら間違いないな。よし、其処に行こう。案内をお願いしても良いか?」

「はい!勿論!では、一緒に行きましょうっ!!」

 

 

 

みるみる内にテンションが高くなっている橘福福。

余程お腹が空いていたのか、瞳がキラキラしている。ルンルンな様子で歩く姿は、正に可愛い子供だ。これで己よりも歳が上なのが最高にグーなのです。

 

 

 

「因みになんて場所なんだ?」

「【飲茶仙(ヤムチャセン)】って場所です!私たち雲嶽山も此処の茶屋が大好きでっ、お師匠さまも此処のお茶が大好きなんです!」

「そんなにか。それは期待大だな……(お師匠さま……どんな人なんだ?)」

 

 

 

向かう先は飲茶仙という店。

評判、ネットの口コミは権並高評価を得ている程、人気な店だ。

 

そうこうしている内に、もう店の前まで見えて来た。二人は駆け足気味になりながら其処へと進む。

 

 

 

「いらっしゃーい!熱々でとびっきり美味しい中華まんはいかがー!」

「こんにちは『紅豆(ふぉんどー)』さん!今日も美味しい料理を食べに来ちゃいました!」

「おっと!これはこれは、福福先生じゃない!今日も来てくれたなんて嬉しいね~!しかも今日は随分と可愛らしいおめかしさんだこと~」

「え、えへへ……それはどうも…っ! ここの料理は全部絶品ですから!何度でも来たくなるんです!」

「あはは!お褒めに預かり光栄だよ!って、横に居るのは……────はっ!も、もしかして()()()()()かい!?」

「え?そう言う事って、どういう事です……………~~~~~っっ!!!ち、違いますよ!?なに、何を言って!?ああ、あたし達は、ま…まだそう言うんじゃ無くってぇ…っ!!」

 

 

 

紅豆が橘福福にずいっと近づき、そのまま驚愕交じりの笑みを浮かべて問う。

 

それに対し、橘福福は否定的だが、全てが否定的ではない様子。

これは黒だ。紅豆がそう確信する。

 

 

 

「まだ……ね~~~っ!?はぁぁ~!まさか福福ちゃんにも春が来たとはね~!お姉さん、何だか感慨深いよ」

「ちょっ、紅豆さん!!違いますってば~~…っ!!」

「まぁまぁ!今日は特別良い日になったよ!よし!今日は全料理を半額にしてあげよう!」

「えっっ!!?ほ、本当ですk……って!!待って下さい!それは嬉しいですけど、ご、誤解をですね~!!」

 

 

 

若干イジリに突入して来た。

橘福福は一気に顔を真っ赤に染めて、ぷんすかと怒る。

 

これ以上は野暮だろう。そう思った紅豆は区切りをつけ、犬太郎に話しかける。

 

 

 

「ごめんね!福福先生を少し借りちゃって。大丈夫?」

「あ、いえ、だだだだだ、大丈夫だ。おぉぉ、俺は、うんっ」

「犬太郎さん!?全然大丈夫そうに見えませんよ!?」

「い、いやだって、俺と橘福福さんが、そそ、そう見えるって言うんだもん!このお姉さん!」

「~~~~っっ!!へ、変なこと言わないで下さいよ貴方もっ!あ、あたしまで、変な感じに、成っちゃいます……よ」

「す、すまんっ!こんな筈じゃなかったんだがッ……あ、すまん、近いよな!?離れる!」

「あ、いえっ!あぁでも!!全然近くなかったですよ!?だからそんなに離れなくっても、大丈夫ですよ!!」

「そ…そう?あーっと、じゃあ……近くに寄っても、大丈夫か?」

「は…はいっ!あ、でもっ……近付き過ぎは、だめですよ?」

「わっ!分かっている!!互いの領域ってモンがあるよな!?あぁ!!うん!」

 

 

 

互いに赤面。頬は真っ赤、距離を空けてはまた縮め、あわあわとする。

次第に訳分かんなくなり、変な会話をする。

 

紅豆によって起こされた、急激な距離の縮み。これは、少しだめだ、耐えられないッ。

 

しかし、そんな二人組を見た紅豆はニマニマとして、犬太郎に話しかける。

 

 

 

「ふっふふ!!犬太郎くんって言うんだね!君、中々良い線いくじゃん!」

「ど、どういう意味でっしゃろ……?」

「どういう意味って、そりゃあねぇ?こんな可愛い福福ちゃんを引っ掛ける何て、もしかして………────青年よ、もしや”そういう趣”がおありで??」

「んなっ!!?ち、違うッ!!俺は、本気で橘福福さんが、俺は!!彼女を初めて見た時から、凄く良いって思って!!それで!だっ!!すっ!!すっ…………あーーっとぉ……仲良く、成りたくって…」

 

 

 

声を荒げ、即座に己の趣旨を否定して、橘福福に抱える己の感情を発露せんとしたが……隣の橘福福本人の気配に気づき、上手く落とし込んだ犬太郎。

 

彼のその様子を見た紅豆は、ニマニマして、そして優しく微笑んで告げる。

 

 

 

「あっはは!ごめんね~、少し度が過ぎちゃったね。でも良かった!福福先生にわる~い虫が付いちゃったのかと思って、ちょっと試させて貰ったよ。素直で優しそうな子で、お姉さんは安心だよ!」

「た、試させてもらった………そ、そうっすか」

「あはは!顔真っ赤にしちゃって、可愛いねぇ!」

 

 

 

紅豆にタジタジな犬太郎。

橘福福の前だから何とか女好きな一面は出さないも、女性に弱いのは変わらない。

 

加え、紅豆の方が何枚も上だ。勝てない。

 

 

 

「っと、これ以上はあれだね。そろそろお話をお暇して、ウチの絶品料理を食して貰おうじゃないの!さっきも言ったけど、今日は半額で良いよ!私から話はつけとくからね~!さささっ!中へご案内~!」

「っ!あ、ありがとう、御座います…っ!」

「お、恩に着ます」

 

 

 

そうして、二人は紅豆の案内の下、店内へと入っていく。

案内されたのは二人席。対面する様に設置されたそのテーブルは非常に綺麗だ。

 

席に座り、紅豆から…「注文がお決まりに成ったら読んでね~!」…と言い、持ち場へと戻っていった。

 

紅豆によって起こされた、全身を巡る羞恥を何とか抑えるも、踏ん張りがきかない。

 

特に……。

 

 

 

「~~~~っっ……」

 

 

 

橘福福は、己すらも知らなかった感情を前に、沸々と恋慕の念が込み上げて来る。

 

犬太郎は少し落ち着きを取り戻し、案内された席に座って、メニュー欄を広げて見る。

 

 

 

「ふはは…何だか、気前のいい人なんだな紅豆さんって。それじゃあ、あっと…何を食おうか」

「っっ!あ、えっと!()()()()!ここのお店の美味しい食べぇもぉ………~~~っ!!!」

「え?」

 

 

 

なんと橘福福、ここで痛恨の極み。噛んでしまう。

思わず疑問符を発してしまった犬太郎。段々と赤面していく彼女を見て、即座にフォローを入れる。

 

 

 

「あ、あぁ!分かる分かる!俺も偶に噛むぞ!こう…おひぇ()も~!って!」

「あうぅぅぅ……っっ!!」

「あー待て!間違えた…!あーっと……!!」

 

 

 

絶対に間違っているフォローをしてしまった犬太郎。割と最悪だ。

正に公開処刑だ。橘福福は死にたくなった。

 

何とか修正をしなくては。犬太郎は脳をフル回転させ言する。

 

 

 

「橘福福さん!えっと、どれが良いかなっ!?どれもこれも美味そうで悩むなァ…!あ、じゃあ俺はこの鳩の丸揚げとカスタードチャーシューまん、そ、それと炒飯セットを頂こうかな!!」

「っ!!あ、あぁ!いい、良いですね!えへへっ……あぁ!あたしも決めなきゃですね!え、えぇっと!……あ、あたしは犬太郎さんの選んだヤツと、牛肉とビーフンの炒め物に水晶餃子に小籠包にしますねっ!!」

「よっ!よし!決まったな!あーっと……すみません!」

「はいは~い!今行きまーっす!」

 

 

 

そして、二人は情熱的な店員に注文をした。

 

 

 

「ご注文、ありがとう御座います!あ!そうそう!これ、紅豆さんから半額の券票です!」

「あぁ、ありがとう御座います……その、本当に良いんすか?こんな、頂いちまって」

「えぇ!紅豆さん直々ですし、それに福福ちゃんは常連ですからね!良い日には、こういうサービスをするのが飲茶仙ですから!!」

「っっ!!な、なんだか、誤解が広がっていってるようなぁぁ……っ!」

 

 

 

そう言って、店員は犬太郎に半額券を渡して厨房へと帰っていった。

そうして、少しの沈黙が走る。

 

料理が来るまで、何を話そう。この雰囲気の中で切り込むのは勇気がいる。

犬太郎の中では、既に会話の軸は決まっている。無論、この飲茶仙だ。

 

よく来るのか、行く時によく食べるのは何なのか等……安直だが、コレが一番だ。

 

しかし、意外にも先に動いたのは橘福福だった。

 

 

 

「あ、あの!犬太郎さん……!」

「ッ!!あ、あぁ。なんだ?」

「その、実は一つお聞きしたい事が御座いまして……良いですか?」

「勿論だ。何でも聞いてほしい…それで、一体なにを?」

 

 

 

どうやら橘福福は彼に聞きたい事があるようだ。

 

ここまで来て、彼は橘福福に己の素性を明かしたのは精々【護衛屋】である事くらい。

もう少し自分の事を聞きたいのか、彼はそう思った……だが違った。

 

 

 

「────あ、あたしのこと『橘福福』って”フルネーム”で呼ぶのは……どうしてですか?」

「…………え?」

 

 

 

それは考えても無かった事。

犬太郎は豆鉄砲を喰らった鳩の様な顔をする。

 

対して橘福福は疑問交じりの羞恥の顔付き。

それは、彼女がどうしても気になってしまっていた事だった。

 

 

 

「あたしって、門下生の皆さんには『姉弟子』と呼ばれてるんですけど、それ以外の方々には福福と呼び捨てで呼んで頂けてて……え、えっと!け、犬太郎さんだけ『橘福福さん』とフルネームなので、ちょっと珍しいな~って思いまして!え、えへへへ…!」

「あーっと………」

 

 

 

眼をぐるぐるして忙しなく動く手足。何とも落ち着きのない様子であるが、彼女が何かを言いたいと言う事は分かった。

 

犬太郎はコンマの世界で解明を始める。橘福福は何を言いたい?どうして急に呼び方について言及した?

 

足りない頭でどうにか考え、数秒の間を空ける……。

 

そして、気付く。もしかして彼女は……。

 

 

 

「────もしかして、下の名前で……呼び捨てで呼んで欲しいのか?」

「あっ…え、えぇっと~………っっ」

 

 

 

ビンゴ。

彼女の表情が豊かだからか、その様子に、犬太郎は己が辿り着いた結論に確信を覚えた。

 

しかし、こう、何とまぁ……可愛い言及だ事か。

 

 

 

「……ふっ……福福…さん?」

「っっ!!は、はいっ!あ、そのっ……さん付けも、だ、大丈夫ですよっ!」

「わ、分かった。あーっと、じゃあ────福福……で、良いんだなっ」

 

 

 

そう呼んだ瞬間、橘福福は恥ずかしそうに、そして……嬉しそうに笑った。

 

あぁ、可愛い。この笑顔を何度も見ていたい。

 

特段、犬太郎は呼び方に対し思う事は無かった。

大事なのは名前があるかどうか。敬称に呼び捨て、正直……どうでも良いとすら思っていた。

 

 

しかし、見ろ。今の橘福福を。

 

 

 

「えへ!えへへへっ!何だか少し恥ずかしいですねっ……でも、もっと親睦なお友達に近付けたと言いますか、距離が少し縮まった感じがして嬉しいですっ!」

「……そうだな。あぁ、俺もそう思う」

 

 

 

こんなにも────可愛い。

 

なんで、気付かなかったのだろう。

言われて気付いた。いや、違う。元々己はタイミングを伺っていた。

 

”さん付け”はいつの日か、辞めようとしていた。

 

だけどそのタイミングは分からなかった。だって、女の子と関わった事はあれど、本気で恋仲に成りたいと思った事は一度も無かった。

 

彼女、橘福福と出会うまでは。

 

────情けない話だが、怖かったのだ。一歩踏み出す事が。

 

だけど、今の彼女を見て……その一歩を踏み出す事の大切さを、改めて知る事が出来た。

彼女の可愛いくて素敵な笑顔を見た。いや、常に天真爛漫な笑みを浮かべて周囲を明るくさせている。でも、大事なのは己に向けてくれる別感情の笑顔だ。

 

 

 

「福福、福福か……はは、慣れるかな」

「大丈夫です!自分で言うのは少しあれですが、凄く呼びやすいですし……それに、これから沢山呼んで下さるんですよね?なら慣れるのはきっと早いですよ!」

「ッ……こりゃぁ、敵わんな」

 

 

 

本当に、天真爛漫な女の子だ。

まさか己が……小柄だが、こんなにも可憐で勇ましく、優しい女の子を好きになるなんて……つくづく、人生とは分からない。

 

きっと、この子には一生敵わないのだろう。彼女を見て、そう思ってしまう。

 

 

 

「なぁ、福福。俺にそう云うのなら貴女も俺に対して呼び捨てで呼ぶべきじゃないか?」

「へ?」

「犬太郎”さん”ではなく……”犬太郎”と、そう呼んでも良いんだぞ?」

 

 

 

しかし、まだ尻に敷かれる訳にはいかない。

ここでカウンターを決める犬太郎。まぁ、当然の思考である。

 

橘福福が意味を理解した瞬間、沸々と焦燥と羞恥の表情をみせて来る。

 

 

 

「あ、あぁ!そっか、そうなりますね!?え、えっとっ……!」

「ん?どうした?もしかして言えないのか?俺には呼び捨てで言って欲しいって言ったのに」

「あうぅっ……だ、だって、犬太郎さんは日常的に敬語を使う方ではないので、そう言ったまででっ……あ、あたしは皆さんにも”さん付け”で呼んでてっ!え、えっとぉ……っっ!!」

 

 

 

ああ言ってはこう言う橘福福。

 

確かに彼女の性格的に、呼び捨ては経験がないだろう。

其処を突いた犬太郎の絶妙なプレー。

 

慌てる橘福福を見て、次第に笑いが込み上げて来る犬太郎は告げる。

 

 

 

「ふっ!!ふはははっ!いやなに、まさかそこまで慌てふためくとは思わなんだ!くくっ……ッ!」

「んにゃっ!?も、もう~っ!急にイジワルですよ犬太郎さんっ!」

「あぁ、すまんすまん。悪かったよ……福福」

「っ!!ん~もうっ……」

 

 

 

あぁ、言い慣れない。でも、それが新鮮で良い。

これから慣れていくのか。そう思うと、楽しみでもあるし、少し寂しい。

 

たった一つ呼び方を変えるだけで、こんなにも、進むものなのか。

心から思う。貴女に、会えてよかった。

 

 

 

「んぐぅ~~~!……あっ!そうです!良い考えを思いつきました!」

「む?良い考え?」

 

 

 

すると、ふと、橘福福が声高々と発語する。

不思議そうに彼女を見ると、ニヤリと笑みを浮かべ、告げる。

 

 

 

「────”くん付け”です!!貴方を呼ぶ時にくん付けで呼ぶんですっ!」

「くん付け?……お、おい、まさか」

 

 

 

犬太郎が勘付いた瞬間、橘福福が彼を呼ぶ。

 

 

 

「犬太郎”くん”って呼ぶんです!えへへ!どうですか?犬太郎くん!何だか少し特別感があって良くないですか?」

「っっっ~~~!!!」

 

 

 

そう呼称された瞬間、ブワっと全身が沸騰したかのように熱くなり、心臓が高々と鼓動を早くする。

 

あぁ、まずい。それはまずい。だって、メチャクチャ良い。

良すぎて、言葉が出ない。小柄で天真爛漫の年上の女性(片思い)にそう呼ばれたと云えば良いか、シチュエーションも相俟って、破壊力が余りにも凄まじい。

 

 

 

「あっ!あーーーっと、だな……あぁ、うん。すっげぇ、良いと思う」

「ホントですか!?良かった~!我ながら良いアイデアに辿り着いたものです!えっへへへ!」

 

 

 

こういうのは、呼ぶ本人には余り分からないのだろう。この破壊力を。

加え、橘福福は只こう言ったら少し良い感じになるかも!と、深い意味を込めてはいない。だから、重いのだ。

 

やっぱり勝てない。そう思わざるを得ない、一撃だ。

 

 

 

「それじゃあ、これからはあたしの事は『福福』と呼んで下さいね!」

「……俺の事は、『犬太郎くん』と、呼んでくれるのか?」

「そう言う事です!」

 

 

 

誇らしそうにする橘福福。

まぁ、言及者も発案者も彼女だ。己はただ波に乗っかっただけ。

 

それが、こうも功を為すとは。恐るべし大姉弟子、と言うべきか。

 

そして……そう思ったと同時、紅豆と店員が料理をドンドン持ってくる。

 

 

 

「────はーいっ!グットタイミングにお待ちどう~!」

「あっっ!お料理が来ましたよ犬太郎くん!わぁぁっ!どれも美味しそうですね~!」

「あぁ、そうみたいだな福福。おーどれもボリューミーだな……マジで美味そう」

「ん~!?なぁに福福ちゃん、もうお互いに呼び名まで変えちゃって~!待ち時間を上手いこと利用したね~?流石は雲嶽山の一番弟子って訳だ!」

「っっ!!あ、あははっ!それほどでも………っ!」

「……うっす」

 

 

 

ただ、やはり一番手強いのは紅豆だろう。今の一瞬で、犬太郎と橘福福の変わった点を見抜いてきた。

 

それにさっきグットタイミングと云っていた……まさか、かなり前から出る時を伺っていた?

 

犬太郎はそう思い、彼女が少し……怖くなったとか。

 

 

そうして、二人は目の前に置かれた料理たちを食していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ふぅ~!美味しかったですねー犬太郎くんっ!もうお腹タプタプですよ~!」

「あぁ、そうだな……俺もお腹タプタプだ」

 

 

 

食べ終わった後、飲茶仙を後にした二人組。

 

衛非地区を少し歩き、並行して歩く二人。会話も弾み、距離が近くなったことが顕著に表れている。

 

 

 

「時間は……もう2時過ぎか。少し飲茶仙に長居しちまったな」

「あはは、ですね。今日は珍しくお客さんの通りが少なかったですし、紅豆さんが思ってた以上に質問責めしてきたので……あはは…っ」

「そう、だな……あれで仕事を回せているんだから、凄いよな」

 

 

 

時刻は2時を当に過ぎ、約5時間を共に過ごしてる計算だ。

 

彼女のエスコートのお陰でかなり衛非地区を周れたが……楽しい時間は直ぐに過ぎて去ってしまう。

 

 

 

「……なぁ、福福」

「ん?なんですか?」

「その、ありがとう。俺と……友達になってくれて」

 

 

 

犬太郎が、歩きながら御礼をする。

 

こんな感じであるが、二人はまだ友達の関係だ。

 

二人の、特に犬太郎の様子を見たら分かり易いが……この若者達は経験した事のない感情に振り回されている者達だ。

 

慣れていないのだ。だから、伝えたい事に対して上手く言葉に出来なければ、妙な事を口走ってしまうし、変な雰囲気に成ってしまう。

 

────上手くいかない事の方が多いのだ。

 

 

 

「あたしの方こそです。犬太郎くんっ」

「ッ…」

「あたしも、ありがとう御座います!今日みたいに凄く楽しい日は本当に久しぶりで、何だかっ、そのっ!犬太郎くんと遊べたからこその楽しさと云いますか!貴方とお友達になれて、心から良かったって思いますっ!!」

「そうかっ……あーっと、ふははっ…なんか、照れるなっ」

 

 

 

頬を掻いて、恥ずかしそうに……だが凄く嬉しそうに、その言葉を噛み締める犬太郎。

 

顔を赤くしながら、頑張ってそう告げてくれる橘福福に、更に愛おしくなってしまう。

上手くいかない。それも良い……その時もまた新鮮で、楽しいんだから。

 

 

 

「犬太郎くん、あたし……もっと犬太郎くんの事を知りたいですっ!何が好きで、何が嫌いか。どんな趣味を持ち合わせてて、この内容の仕事が一番大変だったとか、色々。あたしは貴方を、ちゃーんと理解したいんですっ!」

「福福……」

 

 

 

眼の前に来て、大きく手を広げてとびっきりの笑顔を向ける橘福福。

動きが軽やかで、その元気千万の権化さがヒシヒシと伝わる。

 

 

 

「(前々から、福福の事を見て、思ってた……あぁ、なんて素敵な子なのだろう。俺には、不釣り合いだ。そう感じてしまう)」

 

 

 

────”怪物”と云われた己には、いま眼の前で可憐たる表情を浮かべる彼女は、些か……眩しすぎる。

 

清純の極み。真面目で元気一番。人の為に動き、笑顔を決して忘れない。

 

この汚れた手で、彼女に触れても良いのか。

命を何百も奪ってきた己に、彼女といる権利はあるのか。

 

いや……そう思っても、良いのだろうか。

 

 

 

「……あぁ、俺も福福の事をもっと知りたい。これからも、宜しくな」

「はいっ!えへへへ!何だか、こうして言葉にすると少し恥ずかしいですねっ!あはは…っ!」

「そうか?いや、そうだな……」

 

 

 

己には目標がある。夢が、信念が。

 

【最強の盾】と成る、夢が。

 

それはいつになるか分からない。これに関しては世論が決める事。

今は【鋼鉄の盾】と謳われているか。いや、今に関してそれはどうでもいい。

 

祖の信念故、揺らいでしまっている。

 

 

この恋に現を抜かしても、良いのかどうか。

 

 

 

「(馬鹿がッ……何を一丁前に悩んでいる。好きなんだろ、彼女が……橘福福が)」

「……ん?」

 

 

 

そうだ、好きなんだ。

 

初めて会った時に、一目惚れを果たして。

そこから奇跡的に話して、連絡先を交換して、友達に成れて、ノックノックで話し合って、そして今……こうしてデートまで行けて。

 

なんて贅沢な事だ。明日死んでも文句は言えん。そう思っても良い程、己はいま幸せだった。

 

 

 

「(気付け。この子と俺の目標を天秤に掛けること事態が間違いだとッ。ライトさんが今の俺を見たら一発ぶん殴ってる……ダセェ男に成んな、俺っ)」

「あの……犬太郎くん?」

 

 

 

こんな人間じゃ無かった。らしくもなく悩むなんざ、己らしくない。

 

欲張れ、強欲に成るんだ。橘福福も己の掲げる目標も全て手に入れる。

漢なら、二言は無し。当然だ。

 

 

 

「犬太郎くんっ!!」

「ッ!!!」

 

 

 

瞬間、己の真下から大きな声が響く。

 

身体をビクッと震わせ、下を見る。そこには橘福福が心配そうに犬太郎の顔を覗かせていた。

 

 

 

「もう、どうしたんですか急に?幾ら声を掛けてもボーっとしちゃって」

「あっ……すまん、他の事を考えていた。悪い……」

「ふーん…………他の人のこと考えてた訳じゃないんですね?」

「え?まぁ(一概に違うとは言えないが(ライト))そうだな?」

「そうですか……ま、体調が悪いとかじゃなければ良いです!」

 

 

 

どうやら自分だけの世界に入ってしまったらしい。

彼女に要らん心配をかけてしまった。情けない…。

 

 

 

「さてっ!お腹も少し休めた事ですし、次の所に行きましょうか!あっ!犬太郎さんは何処か行きたい場所とかありますか?」

「ん?そうだな……そうだ、少し気になってたんだが、衛非地区が料理時に用いている(なた)みたいな包丁があるだろ?それって何処で見れるんだ?結構気になってたんだ」

「おっ!もしや中華包丁の事ですね!料理人でもある犬太郎くんはやはり気になりますか!それでしたら専用のお店があるので案内しますねっ!」

「本当か?助かるよ福福。じゃあ、行こうか」

「はいっ!」

 

 

 

そうして、二人は新たな場所へと向かう。

 

その店に行ったら、次はどこに行こうか。

橘福福が新たに面白い場所に連れてってくれるのか。

 

そしたら、本当に楽しいんだろうな。

 

そう思って、心の中で喜色の感情を作る。本当に、楽しみで仕方ない。

 

 

 

「あ、そう言えば何ですけど」

「ん?なんだ福福」

「その……呼び名以外にも、犬太郎さんに聞いてみたいなーって思ってた事が一つありまして」

「ほう?」

 

 

 

歩いて向かっている最中、橘福福が犬太郎を見ながらそう発語する。

 

今度はどんな事を聞きたいのだろう。こういう時、不思議とワクワクしてしまうのは己だけだろうか?まぁ、それはいい。

 

犬太郎は橘福福の問いに耳を傾ける。しかしそれは────

 

 

 

「────あたしが【虎】のシリオンだって直ぐに分かった事です」

「……は?」

 

 

 

余りにも突拍子もなかった事だった。

 

 

 

「あの、あたしって良く茶トラ猫のシリオンとかに間違われるんですよね~。身長も小柄なので子供だとも間違われますし……なので、会って直ぐにあたしが【虎】のシリオンだって分かったの、凄いな~って思って!なので、その、なんか気になっちゃって!犬太郎くんはあたしのどの部分を見て分かったのか」

 

 

 

橘福福がそう言う。

 

それは、犬太郎にとっては疑問だった。

 

なぜか?それは…。

 

 

 

「……え、いや、そんなん見れば分かるくないか?」

「へ?」

「だって、福福は何処からどう見ても勇ましい【虎】のシリオンだろ。茶トラ猫とは全く違う。まぁ確かに可愛いし、元気な部分や身長の事もあって間違われるってのは想像は出来るが、俺から見れば貴女はカッコイイ虎だ。逆に何処を見て福福が茶トラ猫に見えんのか、ソイツに解いてみたいものだ」

 

 

 

犬太郎にとっては全くのお門違いだった。

 

真っ直ぐに、そして真剣な表情でそう告げる犬太郎。

そう、彼は初めて橘福福と出会ったその日から、彼女が虎のシリオンで、大人の女性であると確信していた。だから今もこうして彼女に真剣なのだ。

 

 

 

「あっ……かわっ…かっこいッ……」

「にしても、変なことを聞くんだな福福は。おもしれ~!」

「あうっ……あ、そのっ……あ、あはは!そうでしたね!え、えへ、えへへ…っ!」

「んぅ?おい、どうした?急に俯いて……大丈夫か?」

「っ~~!にゃ、なんでも、ないですよっ!で、でもっ……その、今は少し、顔を見ないで頂けると……っ! 変な顔になっちゃってる気が、するので……っっ!」

「???……そうか?」

 

 

 

すると、橘福福は顔を俯く。

常に前を見続けている彼女らしからぬ行動。何だか珍しく、犬太郎はそう問う。

 

聞くに、どうやら大丈夫ではあるも、変な顔に成ってるとの事。

 

少し心配だが、女の子にはそう言う時があると『リン』や『パイパー』等の女子達から聞いていた。犬太郎はそう言う事なのだろうと思い、それ以上聞くのは辞めた。

 

 

 

「ふっ、ふぅぅぅ~~っ……! 落ち着くんです福福、あたしは雲嶽山の一番弟子ですよっ、ふぅぅ……あ、うっ………っっ!!」

「ん?何か言ったか?」

「ひゃあっ!い、いぃぃえ!なんでもっ!さっ、さぁ!早く行きましょう!あ、あははははっ!」

「むぅ?そうだな!早く行こう……って福福!?何か歩くの速くね!?おーいっ!」

 

 

 

そそくさと前へ進む橘福福。

それに追い付いて着いて行く犬太郎。

 

無自覚とは、時にとんでもない会心の一撃を放つのか……橘福福は、一つ学んだのであった。

 

 

 

 

 

「────あァ?」

 

 

 

橘福福の背中を追う最中……犬太郎は己を見る”何か”の気配に勘付いた。

 

背中。後ろの方向。距離は100mは無い。

 

数は……断片的だが複数。これは確定。

 

敵意は無し、それは理解。だが隙も無い。

 

 

 

「………まぁ、いい」

 

 

 

そう言って、その気配を無視して犬太郎は彼女の後を追う。

 

敵意が無いなら別に良い。無理に刺激する必要も無いだろうとの判断だ。

 

だが、半径5m以内に入った瞬間、迎撃の姿勢には成る。それだけ頭の入れ、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おい嘘だろ、この距離で?」

「ふむ、あの人々の中から正確に私達の視線、気配を気取るか。全く侮っていた訳ではないが、流石に驚いたな」

「お、お師さん、どうする?あの大剣使いの少年、俺等の存在に気付いちまったが……」

「焦るな阿呆。追うに決まっているだろう?気付いて尚こちらに来ないと云うのは、敵意を剥き出しにしなかったからだ。それに福福のあんな表情に雰囲気は、此方に戻ればもう見れんかもしれんぞ?」

「そいつは、そうか……」

「この距離間を誠実に保てば恐らく大丈夫だ。ほら、ボケッとするな。行くぞ」

「お、おぅ………(お師さん、絶対に楽しんでるな……)」

 

 

 

 

 

次回:しょうもない秘密がバレた。犬太郎は死ぬ。

 

 





デートは次回で多分最後に成ります。最後なので、色々あるので、お待ちくださいませ。


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