最強の盾は橘福福しか見えなくなる。〈旧題:最強の盾〉   作:カブトムシの相棒

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大姉弟子かわいい。


では、本編です。


しょうもない秘密。そして、それがバレる時。

 

 

 

 

 

「────毎度ありぃっっ!」

「うっす……いやぁ良い買い物をしたわ。まさかこんな所でこの地特有の包丁に出会えるとは思わなんだ」

「長い間吟味してましたね~!中華包丁は使い所が多く在る万能タイプの包丁ですから、きっと役に立つと思いますよ!」

「そうだな。野菜に肉、デケェ魚やその他の食材をコイツで捌く。ふっ……今から腕が鳴るぜ。ポキポキ」

「ぷふっ!自分で言っちゃってますよっ…!」

 

 

 

犬太郎がチョイスした包丁屋まで橘福福が連れて行き、数十分もの間その場で包丁の選別をしていた犬太郎。

 

デートで中々に面白いスポットではあるが、この二人ならではだろう、非常に有意義な時間であった。最後には確りとそれなりの中華包丁を買った犬太郎。その顔は非常にホクホクしている。

 

 

 

「あんな良い店、六分街には中々ない。教えてくれてありがとう福福」

「いえいえ!お気に召した様で何よりですっ!これで犬太郎くんの料理の腕が上がると思うと、今からその料理を食べるのが楽しみです!」

「そう言って貰えるとめちゃんこ嬉しいな。よし、決めたぞ福福。俺は真っ先にこの包丁で食材を捌き、自前のフライパンで中華料理を貴女に振舞おう。是非、楽しみにしててくれ」

「ふわぁぁ~~っ!聞いただけでお腹が空いて来ちゃいますよ~!はいっ!楽しみにしてますね!」

「(あんな食っといてまだ腹が!?マジでどんな胃袋してんだ……)」

 

 

 

瞳をキラキラさせてそう言う橘福福に、若干の戦慄を見せる。

この小柄な体躯で未だ食を求める……正に肉食獣のシリオン、恐るべし。

 

そんな中、橘福福が彼の発言に少し違和感を覚える。

 

 

 

「ん?あ、そう言えば犬太郎さん。さっき六分街って……」

「あぁ、そういや言ってなかったか。俺は六分街に居場所を置いているんだ。まぁ、家賃クッソ安めのボロアパートだがなぁ。日々食い繋ぐのに必死だよ」

「はえ~、そうなんですねぇ。護衛屋のお仕事ってかなり危険な任務もありそうなので、ちょっと驚きました」

「ははっ、だがまぁ貯金はしてる。料理で節約も出来るしな、そういう所は得意なんだ」

 

 

 

まるで主夫だな。

 

そう思ってしまう。変な所で頑固なもんだ……自分でも痛感する。愚かだなと。

とはいえ、今日はその貯金を少し崩して多めに財布に入れて来てある。

 

デートの為、そして何かあった時の為だ。

 

少し散財気味ではあるが、メチャクチャに楽しいのでオールオッケーである。犬太郎はそう思う。

 

 

 

「(ふぅ……だが……もう、頃合いか)」

 

 

 

ふと、そう思う。

 

空は少し暖かい色相を見せる。

青く快晴だった空が、まるで紅葉のような色に。

 

 

 

「────福福、こう言っては何だが……もう4時を過ぎている。時間は大丈夫か?」

「え?……わっ!もうこんな時間!うーん……時間は、あたしは大丈夫……あ、でも……」

 

 

 

犬太郎が腕時計を確認すると、既に4時20分を通り過ぎていた。

 

時間帯的にはそう遅くはない。だが、橘福福はその事に気付いた後、少しオドオドした様子になる。

 

 

 

「……そろそろ、戻った方が良いんじゃないか?」

「え!?で、でもっ……」

「俺はもう十分楽しめた。それも、今迄でトップに入る位にはな。福福はどうだ?」

「っ!それはもうっ!とっても楽しかったですよ!あたしとしても久しぶりの休日でしたし!」

「そうかっ。土地勘も何もない場所だったから、エスコートさせて貰った身としては少し不安だったんだ。俺だけ楽しんでるんじゃないかってな。だが、貴女がそう言うんなら良かったって思える。ありがとう」

「いえいえ!それは此方のセリフですよっ!エスコートした身として、犬太郎くんには100%楽しんで頂けなければだったのでっ!寧ろこっちがありがとうです!」

 

 

 

互いに会話を弾ませる。同時に御礼も告げ合って。

今日は互いに良い日になったのは間違いなかった。それは嘘偽りなく本当の心声。

 

7時間ほどのお出掛けだった。そして、濃密な時間を過ごした。

橘福福は言わずもがな、犬太郎にとっても至福の時間だった。

 

本当に、心の底から……楽しかった。

 

 

 

「家の近くまで送るか?いや送らせてくれ」

「えっ!?そ、そんな……此処から少し歩きますよ?」

「良いんだ。エスコートしてくれたじゃないか。その御礼と思ってほしい……だめか?」

「んぐっ……そんな顔で言われたら断れませんよ~っ」

 

 

 

犬太郎は少し不安そうな顔でそう言った。

自覚は無いが、彼女から見た犬太郎はまるで心底穏やかじゃない子犬の顔に見えた。

 

こんな大柄の男が、少し可愛く見える不思議。その意味を、橘福福は理解している。

 

そう、理解している……だから、凄く困ってしまう。なんでも応えてしまいそうになるから。

 

 

 

「では、お願い出来ますか?犬太郎くん」

「ッ!あぁ、勿論だ」

「あはは!じゃあ一緒に行きましょうか!着いて来て下さいっ!」

 

 

 

そう言って、橘福福は彼を連れ己の居場所に繋ぐ道を歩き進む。

その道中は少し遠い。だけど……時間の概念を忘れてしまう程に早く感じて。

 

道歩く人が視界に入らない。もう、終わりなのか。そう思ってしまって、何だかグッと来てしまう犬太郎。

 

もう少し、この女の子と一緒に居たい、我儘な己の心がこれ以上進むのを拒んでいる。

 

情けない。そう促したのは他でもない己だろうが。

 

 

 

「何だか、時間が過ぎ去るのはあっという間ですね~!特に楽しい時間を過ごしたのなら、尚更っ!」

「そうだな。くくっ、丁度いま俺もそれを思っていた」

「ほんとですかっ!えへへ!貴方と同じ考えなの、結構嬉しい……かもですっ!」

「……あぁ、そうだな」

 

 

 

そう、照れ臭そうに告げる橘福福は……本当に愛おしく見えて。

 

産まれて初めての初恋。大事に、大事にしたくって、情けなくとも己を見せた。

するとどうだ、こんなにも幸福な瞬間を連続で迎えている……夢か現実か、分からなくなりそうだ。

 

 

 

「(……焦るな、俺。別に今生の別れでも無いだろうがッ……次だ、次、またデートするんだ、それで……いつの日か、俺は、この子に……)」

 

 

 

双眸に映る橘福福。

 

虎特有の尻尾と耳、黄色をベースにした様相。

 

愛おしく感じてしまう、太陽の様な笑顔。

 

人を慮れる清純の心。努力を惜しまぬ女の子。

 

 

 

「(────この子に、俺は……)」

 

 

 

告げるべき、事を────

 

 

 

「犬太郎くんっ!そう言えば何ですけど……」

「んあっ!?」

「ひゃっ!?ど、どうしたんですか!?急におっきな声を出して…?」

 

 

 

橘福福に声を掛けられ、身体全体をビクッとさせ、変な声を出してしまう。

まただ、またやってしまった。この子を前にすると、己は自分の身の世界に入ってしまう。

 

だめだ、シャキッとしろッ……!

 

 

 

「い、いや、何でもない。少し考え事をしてしまった」

「そ、そうですか?でも、急に驚かせてしまってすみません……」

「イヤッ!?謝らなくって良い、俺の責任だ!うん、うん!」

「わっ!あ、は、はいっ!」

 

 

 

犬太郎はズイっと橘福福に顔を近づけ、己が悪いと告げる。

 

その行為に橘福福は顔を赤くさせ、下に顔を俯かせる。その事に、彼は気付かない。

 

 

 

「その、何を言おうとしたんだ?遮ってすまん……」

「いえっ!その、特に深い意味はないので大丈夫ですよっ!えっと、どうか気を付けて帰って下さいって言おうとしただけなので…っ!」

「あ、そういう……ありがとう。安全運転で帰るよ」

 

 

 

こんな他愛もない会話でも、凄く楽しい気持ちに成る。

遮ってしまったのは申し訳ないが、それでも、こんな風に笑顔で大丈夫と言って頂ける。なんて、良い事か。

 

 

 

「では、その……近くまでで大丈夫ですので!着いて来て下さいっ!」

「っ!あぁ、分かった」

 

 

 

そうして、二人は赤面を見せるも、笑顔のまま歩いた。

 

その後ろ姿は、ほんの少し……寂しそうに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ふむ、予想以上に早めの解散だな」

「そうみたいだ……あっ!そうか福姐のやつ、今日俺と夕飯の買い出しに着いてくって言ってたの覚えてたな~!?」

「あぁ、そう言う事か。確か今日は野菜多めの食卓になる献立だったな?あやつめ、そこまでして藩の邪魔をするか」

「くぅぅ~~!許さん!今から連絡……は、野暮か」

「そうだな、やめておけ。それに幾ら福福でも怪しまれる」

「はぁ……まぁ、福姐に免じて、今日は豪勢にしてやるかっ!」

「ふっ……私達は少し何処かで時間を潰すとしよう。頃合いを見て、私達も帰るぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────そうして、数十分後…。

 

 

 

 

 

 

「────此処までで大丈夫です。送って下さり本当にありがとう御座います!」

「いや、俺の方こそありがとう。まだマスターしたって訳じゃねぇが、かなり衛非地区を知る事が出来た。貴女が完璧にエスコートしてくれたお陰だ」

「そう言って下さると、あたしも嬉しいですっ!」

 

 

 

適当館とは違う住宅街のとある電柱の下まで送り、そこで会話する犬太郎と橘福福。

 

時刻は4時30分を過ぎている。二人の雰囲気間は、今日のデートを終わりだと表している。

名残惜しい気持ちがある。だが、その感情が有るのはプラス加点だろう。そう思う。

 

 

 

「犬太郎さんはこれからどうするんですか?何処かお泊りに?」

「いや、今日はこのまま車で帰宅する。時間は掛かるが、このお出掛けで得た余韻を存分に楽しむとするよ」

「そうですか。分かりました!あ、行きと帰りのを交通費を教えてくだs」

「いらんいらん!経費(大嘘)で落としたから大丈夫だ、そこは心配しなくて良い」

「え?本当ですか?……では、そういう事にさせていただきますねっ!」

 

 

 

彼の心意気を、少し理解した橘福福。

こういう時は男の意地がある。それを、全てでは無いにしても、橘福福は理解はできる。

 

 

 

「……じゃあ福福。その、またノックノックで連絡する」

「はいっ!今日は本当にありがとう御座いましたっ!とても、とーっても楽しかったですよっ!!」

「ふふっ、あぁ、俺もすげぇ楽しかった。本当にありがとうな」

 

 

 

会話を終え、終了の雰囲気が訪れる。

 

そして、遂に……。

 

 

 

「────またな」

「────はいっ!また、お出掛けしましょうっ!お気をつけて!」

 

 

 

犬太郎が踵を返す。

 

手を振り、笑顔で彼が過ぎ去るのを見守る。

 

彼、犬太郎の後ろ姿を見つめる……。

 

 

 

「……大きい背中……でも、何だか……」

 

 

 

────寂しそうに、見えて。

 

 

 

なんでだろう。己と同じで、少し名残惜しいとかなのか?

 

でも、それにしては、少し……違和感があった。

 

大きいのに、小さい。威風堂々として、孤影飄零(こえいひょうれい)にも見えた。

 

不思議だった。なんでだろう。本当に……不思議だった。

 

 

 

「……っ!……見えなくなっちゃいましたね」

 

 

 

そんな、変な違和感に囚われてしまい、彼の背中が消えるその時を見逃してしまった。

 

こんな妙な違和感を覚えて、彼の去った時を見て無かったなんて……何をしているのか。

手をパンッと叩き、息を整える。

 

 

 

「ふぅぅ……戻りましょう。今日は、ふへへっ……お師匠さま達には今日の事を話して……少し、濁して話してあげましょう!」

 

 

 

そう言って、ルンルンな気持ちでその場を後にした。

ここから少し歩けば時期に着く。今日あった事を、皆にも話してあげたい気持ちを抱えて向かう。

 

今日は野菜多めと聞いている。早く帰らなければ、藩が買い出しに行ってしまう。ウマイこと肉料理多めにしなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”タッタッタッタッ……!”

 

 

 

「はぁ、はぁ……あっ!居ました~!」

「ん?あれ、貴女は……」

 

 

 

少し経って、もう住処まで直ぐそこまでの近辺。門が見えた場所に……後ろから声を掛けられた。

後ろを振り向き、その姿を視認。その者は……。

 

 

 

「ケアンさんっ!どうして此処に?」

「はぁ、はぁ、はっぁ……あ、あれ?今日一緒に居た方……えっと、犬太郎さん?でしたっけ、その人は、いま何処に…?」

「彼なら先程、もうお帰りになりましたけど……」

「え、えぇっ…!?そ、そんな、どうしよう…っっ!!」

 

 

 

フラッフィーの店員。ケアンだった。

 

橘福福は少し意外だった。こんな所でまさか会えるとは思わなかったからだ。

加え、こんな息も絶え絶えの状態に成るまで走って来たのだ。それも、犬太郎を探しに来たような言い方で。

 

橘福福は少し疑問に思うも、彼女が……衝撃的な物を見せて、告げる。

 

 

 

「そ、そのっ!コレ…ッ!もしかしなくとも、彼の物ではないかと…っ!」

「え?えっ………こ、コレって……ッ!!」

 

 

 

そう、それは────

 

 

 

()()っ!実は、ウチの猫ちゃんがいつの間にか隠し持っていたみたいでッ……今日お店に来た方々に聞いても、皆違うと言いましてっ!最後に残ったのが、そのっ、御二人でして…っ!」

「こ、コレッ!犬太郎くんの携帯ですっ!間違いありません!この鍵付きのストラップは間違いなく────あれ?しかもこの鍵……あーーーっっ!!く、車のカギですっ!名札に『愛車』って書いてますっ!」

「はぁぁぁわわわわわ……っっ!!!ど、どうしましょう…っ!!」

 

 

 

そう、彼の携帯であり、彼の車のカギだったのだ。

 

聞くに、どうやら橘福福の傍に居た一匹の猫がいつの間にか犬太郎のポケットから抜き取り、そのまま隠し持っていたらしい。

 

ケアンは非常にテンパり、焦りに焦っている。

 

 

 

「だ、大丈夫ですケアンさん!あたしが追いかけます!まだ遠くには行っていないと思うので!」

「で、でもっ……!」

「ケアンさんは動物の子達を見て上げて下さい!大丈夫です!この携帯とカギは必ずお届けしますからっ!」

「ッ!…はいっ!申し訳御座いません、その、宜しくお願いします~~!」

 

 

 

橘福福は瞬時に状況を判断し、自分が彼を追い掛けると告げる。

合理的だ。ケアンは営業中、犬太郎はここからまだ遠くに行っていない上に、駐車場の場所も何となく分かる。

 

自分が行った方が良い。橘福福は犬太郎の携帯、そして付属されている車のカギをケアンから受け取り、そのまま彼が向かった先へと進む。

 

 

 

「犬太郎くん!このままじゃ帰れないですよ~~っ!」

 

 

 

そう言いながら、走る。

 

焦りはある。だがそれ以上に……少し、嬉しい。

 

また彼の顔を見れる。彼に会える。少し気まずくなっちゃうかもしれないけど、それでも良いって思える程、心をウキウキしている。

 

こんな事、いま困っている彼を想えば最低だろう。でも、だって……思ってしまうのだ。

 

ただ、第一として悪いのは彼だ。貴重品をこんなにも簡単に、しかも猫に盗られるとはどういう事だ。意識外と考えれば致し方ないかもしれないが……それでもだ。

 

これを渡したら、少し注意させなくっては!

 

そう意気込み、橘福福は駆けだす。

 

 

────だが、彼女はまだ知らない。

 

 

それ以上に、とんでもない事が起きる事を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆同時刻、犬太郎は……。

 

 

 

 

 

「────ヤバいヤバいヤバいヤバイ……携帯プラス車のカギが無い……え、詰んだ??」

 

 

 

思いもよらない事態に、大焦りをかましていた。

 

ふと、今まで触れて来なかった携帯を弄ろうとポケットに手を伸ばしてみれば、何故か携帯が無くなっている事にやっと気付いた。

 

今日の事のあらすじをするかの様に。犬太郎は記憶の整理を始める。

 

 

 

「(福福と会って、ギャラリーで料理を見せて……見せて…………あ、ここまでだ。ここまで触った)」

 

 

 

鮮明に思い出し、己が携帯を触った瞬間を思い出す。

 

そう、橘福福に己の料理を見せた、そこまで触った。そして問題は、ここからだ。

 

一体、どこに置いてきた? or 一体、どこで落とした?

 

結局はこの2択になる。

 

 

 

「(推理しろ。先ず、俺は携帯を触っていない。そして触れていない以上、ポケットから出す事もない。つまり、俺は店の中に忘れて来たとか、そういう事はしていない。即ち………)」

 

 

 

────知らぬ間に、何処かへ落としてしまった説。

 

コレしかない。店の中で触れていない以上、店に有る可能性は限りなく低い。

 

しかし、そうなると大変だ。この衛非地区の遊んだ周辺を探さきゃいけなくなる。

かなり広いのは明らか。

 

時刻は16時40分。まだ早い時間帯だ。

 

 

 

「────よし」

 

 

 

犬太郎は決めた。先ずは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”シュボッ……”

 

 

 

「────すぅぅぅ……ふぅぅぅ………先ずは、落ち着くのだ」

 

 

 

この男、正真正銘のアホである。

 

人気のない裏路地で、落としていなかった【タバコとZippo】を取り出し、そのまま一服を始めたのだ。

 

 

 

「ふぅ、ウメェ……達成感もあって至福だなァ。至福と云えば、今日の福福の服装、可愛い私服だったなァ」

 

 

 

ニコチンで頭をやられているのか、犬太郎は何処か幸せそうな顔でそう言う。

 

今日のデートは成功と云える。まぁ何度か狼狽えた瞬間はあったが、福福との時間を有意義に過ごせた、その自覚はある。

 

 

 

「片思いだけど、どうかな……少しは、俺の事をイイ男って思ってくれただろうか……」

 

 

 

吸いながら、そう思う。

 

いつも思うのは、彼女の事だ。

 

橘福福………ハッキリ言って、大好きだ。初恋だ。

 

彼女の存在は、常に己の心を躍らせる。

初めての経験だった。ライトの様な、自分を出しても良いと思えるような存在……いや、それ以上に、出さなくてはイケナイと、そう思えるような人は。

 

 

 

「……タバコ、止めようかな」

 

 

 

吸いながら何を言っているのだと、自分でも心の中でツッコンででしまう。

 

タバコ。それは、10歳ほどで触れ、いつのまにか9年以上も吸い続けて来てしまったモノ。

未成年の自覚はある。だが、辞められないのだ。

 

家で一人の時は…特に。

 

 

 

「アキラさん、ヴィクトリア家政の皆にも言われたか……特にリンさんにはよく叱られるな。あぁ、朱鳶ちゃんやセスくん、ジェーンちゃん………【青衣】にも、言われてたっけ」

 

 

 

思い浮かべる、己が関わって来た者達。その中でも、喫煙を辞めさせようとした者達だ。

 

皆、己を思って言ってくれているのだと理解している。

でも、気付けば吸っている自分が居る。

 

心が落ち着かないんだ。どうしても。

 

 

 

「……こんな所、福福で見られたら終わるな。はッ、洒落になんねぇ。さっさと吸おう」

 

 

 

すぅぅぅ……と、なるはやで吸い始める。

 

路地裏としても、ここは衛非地区。吸い殻も自前の携帯灰皿に詰めて吸う。

それに万が一がある。まぁ、既に橘福福は送った。その万が一はもう絶対、100%────

 

 

 

「────あっ!こんな所に居たんですねっ!住民の皆さんが此処に貴方が入って行ったと教えて……………………」

「すぅu…………………………」

 

 

 

……100%、あった。

 

どうやら己は世界一運が無いらしい。

 

まさか、その万が一を、こうも簡単に引いてしまうとは。

 

焦っているのか、そう思考回路を繋げてしまう。

 

 

 

────ハッキリ言おう、終わった。もう、何もかも。

 

 

 

「…………え?」

「………………」

 

 

 

吸う手が止まる。

 

まるで、時間が止まったようだ。

 

唯一聞こえたのは、橘福福の疑問の一言。

 

ジジジ…と、タバコの延焼音も同じくらい聞こえる。

 

 

 

「…………」

「……あーーーっと」

 

 

 

携帯灰皿にタバコを入れ、消火。

 

背中に脂汗が凄まじく垂れ流れる。

もう言い訳のしようが無いほどの現場を目撃された。

 

犯罪を見られた者は、こう言う気持ちなのだろうか……そんな事を考えてしまう。

 

 

 

そんな中……彼女の沈黙に耐えかねた犬太郎は、こう…告げる。

 

 

 

「その、福福………見逃してくれません???」

 

 

 

こうだった。

 

もう一度言おう……彼はアホだ。それも、世界一の。

 

 

 

「……して……」

「?……あ、あの?」

 

 

 

数秒の間、橘福福は何かもブツブツ呟く。

 

しかし、如何せん小さく聞き取れない。

恐る恐る、犬太郎は耳を傾ける。もう、絶望にも近い秘密がバレたのだ。何でか知らないが、もう、何でも良くなっている自分が居る。

 

 

すると、橘福福が顔を上げる────その顔は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────未成年がなにしているんですかァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!!」

 

 

 

ガチギレした猫の様な顔立ちで、壮絶にブチギレたのだ。

 

絶大的なまでの絶叫。周囲の鼓膜を破壊せん程の声量で。

 

先程までの可憐だった橘福福は、もういない。

 

今居るのは……虎視眈々と大馬鹿をかました者を見つめる最強の虎。

 

彼女の周りから溢れる、計測不能な程の怒気。

 

彼は悟った。あぁ、もう……本当に終わりなのかもしれないと。

 

 

────その後の事は、余り覚えていない。

 

 

気付いた時には────歴史が深そうな、趣のある寺の様な場所に居た。

 

それは、己が橘福福に連行されたとのだと、即座に理解した…。

 

 

 

 

 

 

次回:連行される犬太郎。行われるは、大姉弟子による空前絶後の大説教。

 

 




次回から『儀玄』たちが総並びに出演いたします。

そして、恐らく次回はかなり重めの内容になるんじゃないかなと思います。



感想、誤字報告、お気に入り評価ここすき、大変嬉しく思います。いつもありがとう御座います。
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