いつかは訪れる、優しい眠りを 作:夢破れた羽
よしよしします。
※育てるとは言ってない
職員が慌ただしく動き回る治安局。その中を素知らぬ顔で素通りしていく帯炉──オベロンは居た。
帯炉は仲介業者としての名前だが、巷ではオベロンと名乗る。こちらは本名である。
ドタバタしている最中、二人の人物が端で会話していた。青衣と朱鳶である。
青衣は知能機械人であり、オベロンが来た事に直ぐ気づく。
「オベロン、来たか」
「やぁ、待ったかい?」
「書類に追われてそれ所ではなかったぞ。して、情報は正しかったか?」
「勿論。山獅子組の情報は正しかったよ。今はテロを仕掛ける気満々さ。だから君達の潜入調査は正解だね。……ただ、別の面倒事も引っ付いて来たけど」
「別の面倒事?」
「……ここでは話せないな。少し奥に行こう」
会議室の扉を通り過ぎ、更に奥にある休憩スペースまで移動する。オベロンは神妙な面持ちで語る。
「裏に讃頌会の影が見えてきたんだ。どうやら何かしらの保管場所もあるらしい。これは真意がはっきりしないが、山獅子組も1枚噛んでると見て良いかもしれない。金の出処が恐らく、讃頌会からかもしれない」
「……厄介だな。奴らの尻尾を掴んだと思ったら尻尾切りされてるのはザラじゃ。今回もそうだと思った方が良いかもしれんな」
「僕に情報が回ったなんて、とっくに予見してたかもね。僕も奴らに警戒されてるから、どうやっても手掛かりが薄い。あったとしても絞りカスか古い情報のみ、なんてザラさ」
実際にオベロンが持ってる情報もそこまで多くない。衛非地区まで赴いてまで集めた情報である。確証が無いままラマニアンホロウまで移動してかき集めたのだから、ほぼ確定と言っても良いと付け加える。
「寧ろ、衛非地区の方が活発かもね。行った瞬間に襲撃されるぐらい警戒されているから、僕は衛非地区の方にはあまり行かないようにするよ」
「そうして貰えると助かります。オベロンさんは貴重な人材なんですから……」
朱鳶はオベロンを高く評価している。正しい情報に作戦の道筋、内部の構造まで伝えるのだ。ブリンガー長官がどうしても入れて欲しいと強権振り翳してまで欲しい訳である。
正直、昨今の治安局の活躍はオベロンによる所が大きい。ヤヌス区総監選挙が近い事もあってか、精力的に動いている。
ココ最近のホロウレイダー検挙率も高いが、これもオベロンの情報によるものだ。山獅子組の情報もオベロンによる物で、潜入調査が入った背景には勿論、その順序もオベロンによる物が大きい。
裏でブリンガーが大金をオベロンに手渡していたが、これまでの仕事っぷりをみて「正当な評価」と口を揃えて言う他ない。青衣も朱鳶もそれがわかっているからこそ、腑に落ちない部分がある。
「どうやってそんな情報を得てるんですか?」
「わしも気になる。正確過ぎて怖いというのがこちらの意見じゃな」
「そんなに気になるかい?……言うのは引けるんだけどね」
「勿体ぶらずに言ってくれ。少なくとも、逮捕できる程の内容じゃない。貢献が過ぎるから捕まえたら内部が荒れる」
「そうだね。軽くだけど、変装してレイダー達に紛れたりして集めてくるんだよね。つまり、潜入調査をしてるようなものなんだよね、僕」
二人は納得しかしなかった。嘘を感じられず、実際に紛れて得た情報だという裏付けが済んでるからだ。初見では怪しい奴でしか無かったが、その正確さは類を見ない。
それこそ、そういう組織の奥深くにいなければ得られなさげな情報まで持ち帰るのだから。
「なるほどのぅ。ま、そうでなければおかしいのが山ほどじゃなからな。山獅子組にも居た事があると見て良いんじゃな?」
「そうだよ。と言っても、彼らが零号ホロウに行ったりする時に紛れてそのままついて行ったら、アジトまで辿り着いた感じなんだけどね」
「良くバレずに脱出したもんじゃな。上手く変装できたのか、それとも外出してもおかしく無い立場なのか……」
「残念ながら、数合わせで呼ばれただけの人員だったから、入口近くで帰ったフリして尾行したんだよね。ほら、光学迷彩って奴。防衛軍にも流してるからその報酬で貰ったんだよねぇ」
「強かな奴だ。だからこそ、か」
防衛軍にもコネがある。これが後々に大きな影響があるとはオベロン自身も気づくことも思い付く事もないが、光学迷彩の出処がわかったので必要以上に疑う必要が無くなった朱鳶と青衣。
「実はジェーンさんに渡そうと思ったんだけど、自前でやると言われちゃってそれっきりなんだよね。無事なのは一応確認してるけど、やんちゃはしてる感じかな?そうじゃないとバレるからってのもあるけどね」
「その辺は彼奴の裁量に任せるしかなかろう。現状は待つしか出来ないのが歯痒いがな」
オベロンは疑いが晴れたのも相まって、いつもより気分良く治安局から離れたのであった。
「……怪しいのは相変わらず、じゃな」
「そうですね。ですが、彼がいなければ
「まるで財布を握られたような感じじゃのう」
深夜。港で二人が会話をしていた。
「ご苦労だったな、オベロン」
「お安い御用さ。……で、何がお求めだい?」
件のブリンガーとオベロンの二人である。公然の秘密と化した関係だが、それとは別の思惑があった。
「痕跡を消す仕事、探すのが面倒だからな」
「僕は金が貰えるんなら良いけどね。にしても骸討ち・無尾ね。虚狩りから奪えとは……無理難題にも程がないかい?流石に降りるよ?」
「金はやる。どうしても欲しいのだ」
「無理だね。彼女らに睨まれてないから自由に動けてる中、そこまでリスクは背負えない。それに、いざ戦闘に入られたら僕も無事では済まない」
「そうか……なら」
多数の戦闘員が現れ、オベロンに銃を向ける。
「やれ」
ブリンガーの号令とともに、引き金に指をかけた瞬間に、眠りに落ちた。
「は?」
疑問を口にしながら、銃をその場で落としながら眠りに着く。何人かは海に銃を落とし、何人かはそのまま海に落ちる。
「いや〜、困ったなぁ。僕だってやればできるけど、それはそれとしてだね」
何が起きたかわからず呆然とするブリンガーを横目に、落ちている銃を拾い上げる。品定めするように上下右左と銃本体を動かして観ている。
「整備性は良いけど、違法改造された物か。これ押収品にあった讃頌会の武器だねぇ。いや、詳しく言うなら零号ホロウのジェペット鎮圧用のを改造した感じかな?」
「な、何を言って……」
「威力を強化した、対エーテリアス用の銃弾が装填されてる。でもダメだ、これは価値にならない。バラして売った方が良さそうだ」
ふと、現れた黒いモヤが銃を全部拾い上げて回収していく。それがいなくなる頃に武器所か耐侵食アーマー、拳銃、ヘルメットも全部剥ぎ取られていた。
奇怪な現象にブリンガーは腰を抜かす。ただでさえ奇妙な奴が起こした怪現象となったらブリンガーとて恐怖を感じざるを得ない。
「ああ、安心してくれ。君はどう足掻いても失敗する。例え骸討ち・無尾を手に入れたとしても、ね」
まるで、貼り付けたような笑顔で話すオベロンを見たブリンガーは、気がついた時には治安局の自室に居た。
そう、まるで今までの出来事が夢のように。
「いや〜儲けた儲けた。ツケは払い切ったし、これで本業ができる」
ただ1人、蟲が勝利の美酒に酔う。
山のように積み上がった、ブリンガーの私設部隊員の死体の頂上で嗤う。
永遠の眠りに落ちた彼らは起きることはない。文字通り、眠るように死んでいるのだから。
勝利の美酒に酔う──フリをして気分を紛らわしていたオベロンは温厚な笑みを消して、歯軋りする。
(──どうやっても、上手く機能しない。夢のおわりも単に深く眠らせる程度の効果にまで落ちてしまっている。おかげで二度手間が必要だ)
眠るように死んでいるが、額には銃弾によってできた孔が空いていた。
顔を安らかである。痛み無く逝けたのは幸福と言わんばかりだが、単純に面倒であるのは事実だ。
朝のひばりは攻撃回数増加だけだし、夜のとばりは軽いバフだ。全体的に弱体化している。
それがわかるからこそ嫌悪しており、
この世界は詰んでいる。だが、それでもと生きる者達がいる。
無理難題のダンジョンを掘り進む冒険者を助ける役割。オベロンはそれに興じる事にした。
音動機を改造してみたり、ボンプをホロウに配置して定期観測して得た情報を元に作ったキャロットだったり、それを治安局に提供したり、それとは別ルートのキャロットをパエトーンに横流ししたりと。
捻くれてはいるが、こっちの方が性に合う。眉唾程度の玩具だが、それでも役立つ。
弱体化した身の上だが、有るのと無いとで天地程差がある。作った槍の投擲も罠もしっかりと、エーテルの侵食も干渉も受けずに、ダイレクトにダメージを与えられる。確かに、これはレイダー達が安物でも欲しがる訳だ。重装備になる奴が相応に強い理由でもある。
それ以上に欲しがられるのはキャロット。ホロウの内部を正確に精査されたキャロットは善人も悪人も欲しがる。
過去にポーセルメックがオベロンに取引を持ちかけた事があった。勿論断ったが、目的が明白。
タダで欲しがったのだろう。囲って来た人員を眠らせるだけで留めたのは慈悲と思っているが、そういう事をするから高値で売りつける方向に舵を切る。ギブアンドテイクだ。
タダで渡すのはパエトーンだけだ。彼らはこれから先、必ず真実を暴く。そう心の中で断じ、期待する。
決して口には出さない。
「僕だからね」
──お気に入りがねじ曲がるのは、夢見が悪いからね