真面目新訳第二章 おてんば姫の望見   作:赤色ねんね

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(06.2) テンペにて

ゴーラの家から宿に戻ると、ブライは宿の前で荷物を広げていて、ちょっとした拠点を形づくっていた。

「ご対応ありがとうございます。こちらは特に問題ありませんでした」

と言ってクリフトは地面に座りだす。

「あの、ちょっといい?」

と私は切り出す。

「あなたたちにも、部屋を、使ってほしいのだけど」

と宿を指さして、続ける。私一人で使っていた小屋だ。

「話はいろいろ聞いたわ。きっとあなたたちは用心して、昨夜も交替で番をしたのでは? 疲れを残されるのは不安。いっそ仮眠を取ってしまっても良いと思うのだけど」

ブライとクリフトは顔を見合わせた。数秒。

この場合、ブライの首を縦に動かさないといけない。私はため息とともに続けた。

「ブライ、クリフト両名に命じる。その部屋でしばし休息を取ること」

「はっ」

この言い方、効果あるのね?

 

さて。そうやってブライとクリフトは部屋に押し込めて。

私は部屋に戻る気分でもなく、しかしどうしようか。

先ほどクリフトが言っていた、北にある村外れの集会場。早朝、村を出ようとした際もその存在は確認できた。

そこ含めて、村の北側を見ておこうか。魔物が攻めてくるならそれはどうも北側らしい。そう歩いていくと、先ほどのゴーラの家が見えた。

……今更ながら、気になり、そちらへ向かう。

扉をノックした。

「なんだ、どうした、気でも変わったか」

「いえ、そういうわけではないのだけど」

家の中が気になった。

「中? 入るか?」

「是非!」

やはり中は変わらず、武器防具に囲まれた工房という印象だ。

「ここは、武器防具を扱っている、お店なの? ですか?」

しかし客相手に陳列している風には見えない。そういう丁寧さからはほど遠い。

「そのものを売ってるわけじゃねぇ。主には、武器や防具を預かって細工するのさ」

「細工。装飾を彫るような?」

「そういうこった」

「なるほど……」

その目で見ると、また違って見えてくる。盾は一つ一つ文様が異なるし、剣は柄だけでなく刀身にだって業が見える。

……。

「嬢ちゃんの得物はなんだ? 一段落したら彫ってやろうか?」

「獲物? 特には。立ちふさがる魔物であれば何でも戦うのだけど。ほる?」

「いや、そうじゃなくて、武器の事なんだが」

「武器……。宿に置いてきたけれど、革製のグローブね。ただ消耗が早くて、その見栄えを整えようとまでは」

「……グローブ」

ゴーラは変な顔をした。

「呪文は使うか?」

「いいえ、残念ながら全く」

「あんた、本当に戦うのか」

「何かおかしい?」

「護身術くらいでなんとかなる相手じゃないぞ」

私が武器を持たないことを、彼は不安視しているようだ。まあ、気持ちはわかる。私の身を案じてくれているのもわかる。

どうしたものか。

「なんなら私と手合わせ、してみる?」

例の魔物に対峙したことのある人間から見て、私をどう評価するかは興味もある。

 

外。

彼の頬を軽く小突くのは三回目。

木刀をたたき割ったのはこれが初回。

「マジかよ!」

尻もちをつくゴーラ。まだ信じてもらえないらしい。

「また、手加減していたと言います?」

「いや、ただ、狐に化かされたような気持ちだ」

三回全て五秒以内で決着がついている。彼にとってはあっという間の出来事だ。残念ながら、クリフトの剣の方が彼よりよほど鋭い。

「村を襲撃してきた魔物と比較して、どうでした?」

彼は放心したまま口を動かす。

「いや、俺ごときにはもうわからんな……。人相手と魔物相手というのもまた違うんじゃないか?」

それを言ってしまうと、もう実際に私が対峙しないとわからないという結論になるが、おそらくそれは正しい。

「いやしかし、武器無しでも強いというのが、信じられん……」

武器防具に日頃触れる人間ゆえの固執だろうか。私だって、扱える武器があれば使ってみたいのだが。

「私にお勧めの武器ってあります?」

地面の上であぐらをかき、彼は答える。

「いや、扱ったことはないからな。そうさなぁ、鉄製のガントレットで殴るとか」

「それって攻撃よりも防御目的にしかならないのでは? いや、殴っても中の手が痛いだけ」

私もしゃがんで、視点高さを彼に合わせる。

「中にクッション性あるものを詰めてだな」

「そうすると力の起こりが伝わりにくくなってしまう」

「表面にとげ、突起物を付けるのは」

「そんなに効果あるかしらそれ」

「だめじゃねぇか!」

と彼はそのまま仰向けに倒れた。右手を天に向けて突き出して、天をつかむような仕草を数回行っている。

それにしても、私の武器、か。面白い。考えたこともない。

もう少し考えれば、何か発案できるかもしれない。彼の拳は天に突き出したまま、握った状態を維持していた。

「……ナイフを逆手で持つのはどうだ?」

ん。

至ってシンプルなアイデア。

しゃがんでいた私は立ち上がり、試しに両こぶしを握って構えてみる。空想のナイフをそれぞれ逆手で二本持って。

うーん。

「バリエーションが増えて面白いのだけど、掌底も使いたいのよね」

と手のひらを開いて彼に見せる。

「なら、そのときはナイフをそのまま地面に捨てりゃいいさ」

捨ててしまう? ナイフを?

「なるほど、面白い発想!」

ナイフをずっと持っておく必要はない。自分の偏見が打ち砕かれるのは正直爽快だ。

ただ、きっとそれは簡単に実現できるスタイルではない。ナイフを自然に捨てる練習、そういう意識を持つ練習が必要になる。

とはいえ、今まで全く考えもしなかった技術!

そのままご厚意に甘え、工房にて、彼の保有していたナイフを二本選ばせてもらった。

ホルダーを作ってくれるというので、合わせるためそのナイフは預けておく。また、慣れていない武器を今夜の決戦に使わないという判断でもある。

 

宿に戻るなり、クリフトは口を開いた。

「今夜の段取りについて検討しました。その共有をさせていただきたく」

「……あなた、ちゃんと寝たの?」

「ご命令通りに」

「あっそう」

何時間休めと指定しなかったことを後悔した。

「では」

となにやら紙を片手に、私とブライに説明を始めるクリフト。

「前回二回の襲撃はいずれも夜12時を回った後のものです。ですので今夜は11時から日の出まで、北の集会場で待機しましょう。何もなければ明日も同様です。明後日も継続したいと個人的には考えます」

実はテンペから王城にも使いが出ている。もしかすると王城から騎士団(オリオン)が来るかも知れず、それも一つの私達の本件クリア条件だった。

ちなみに集会場といっても、荒い石畳の50m×50mほどの開けたスペースなだけだ。木々に囲まれたスペース。

隣接する家もない。戦闘するのならば絶好の場所だ。

「なお待機はこの三名で。協力を申し出ているゴーラは離れた場所、集会場と村落との間で別途待機してもらいます。村の異変を監視する役目とします」

最前線にゴーラを配置するのは反対しようと思っていたが、クリフトはすでに同じ考えらしい。

「魔物を待つ間は、姫がこちらにいることを魔物に示すことが重要と考えます、申し訳ありません、おとりのようなものですが」

「ま、仕方がないわね」

魔物は過去に北の家を狙ったというだけで、北の集会場を必ず通ると決まったわけじゃない。

今回は、通ってもらわないと困る。私達がそこに待機しているのだ。魔物が私たちに気を取られてくれると良いのだが。

クリフトは紙を広げる。簡単な地図が書かれていた。

「これが集会場です。こちらが北、最北の家。我々は広場中央に固まります。焚き木を周囲4点と中央1点に配置します。姫は中央に。我々二人は外向きでここに待機」

「はい」

「次に魔物の話です。魔物は獅子のような獣型の2体を、村人が確認できています。もちろん3体以上出現する可能性があります。その戦闘能力は不明ですが、敵数に応じてルールを検討しました。まず7体以上を誰かが目視できた場合、撃退は諦めましょう。村を捨て我々は撤退します」

「そ、そんなレベルから仮定して決めてしまうのね。まあ、その場で考えこむよりはましか」

「はい。したがって6体以下ならば戦闘続行します。基本はブライ様の呪文を主力とします。多数の敵に対する、それが我々の一番の強みですので。敵はどこから現れるか不明なため陣形は決めませんが、立ち位置は常にこれを意識します。まず4体以上を目視できた場合、それでも退き気味に戦いましょう。退きながら10m以上の距離を稼ぎ、私と姫も距離を稼げるよう立ち回りながら、ブライ様の呪文で敵の数を減らします。次、3体を目視できた場合、あるいはブライ様の呪文などで3体まで減らした場合。我々3人それぞれで1体ずつ相手します。ブライ様は防御維持。私か姫が1体を倒す想定です。次、2体を目視できた場合。ブライ様は1体相手に防御維持。もう一体は私と姫の二人で直ちに倒します。最後に1体の場合。基本は私と姫で倒します。ブライ様は可能なタイミングで攻撃援護」

「わしが防御とはの。相当に敵を買っておる」

「万一ブライ様が落ちると、全員の撤退も難しくなりますので」

「よかろう」

「敵の数が多い時はブライに頼り、少ない時は私たちで戦う、ね。敵の数で何が本質的に違うのかしら?」

「敵は俊敏と仮定しました。加えて夜間です。呪文はおそらく、そう簡単には狙ったように当たらないでしょう。敵の数が多ければ何体かには命中するでしょうしそれを頼りますが、敵の数が少ない場合は、もう少し確定的な方法で対処したいと考えました」

「ふぅん、そういうものなのね」

「元魔導士団長のブライ様を主力とし、騎士見習い(オニオン)の私、そして姫様も十分、見習い以上のお力があると確信しています。騎士団(オリオン)3名並には、立ち回れるはずです」

「悪くない策じゃ」

ちなみに魔導士団というのは、年々縮小し、最終的には騎士団(オリオン)に編入されたものの、私が生まれたときくらいには解散していた部隊だ。

「ありがとうございます。これで話の半分が終わりました」

「え、まだあるの?」

「はい。次に、我々撤退時の話の詳細に移ります」

「な、なるほど」

それも短くない話だった。

 

そうして、長い話がようやく一段落つきそうな気配だった。

「最後に姫」

「なによ」

「こうして行動を決める以上、姫ももちろん、今の話を守っていただく必要があります」

「その気持ちはわかるけれど、事態が全て想定できるものじゃない」

もうちょっと言い訳を重ねようかと思っていたがクリフトが簡単に、

「その通りです」

と言ってきた。さらに彼は続ける。

「何か想定外のことが起きた場合、姫が独断で動かれることは想像がつきます。ただ私が今重ねてお願いすれば、姫の意識に残り、それで足を止めて、取り決め通りに動いていただけるかもしれません」

「けなげなことで」

「はい。姫も今決まったことをどうか、守っていただければと」

「はーい。なら! 決まったこと以外のことを今指摘させてもらうのだけど。この計画には、私たち三人の内一人でも戦闘不能になった場合が考慮されていないわ」

「ああ、なるほど」

とクリフトは涼しげな様子だった。

「簡単なことだったので最後にお伝えする予定でした」

と言ってクリフトは紙面上、地図の中央を人差し指でなぞる。

「一人でも欠けた場合、このルートで撤退するだけです」

その道は、村の中心を北から南へ通り抜ける、至ってシンプルなもの。先ほどまで説明のあった撤退のルートは、村を迂回して西に逃げるものだった。

「それは、村を盾に逃げるということね」

「その通りです」

……。

素直にハイとは言えない。

しかし、私がこの村に首を突っ込むということはそういうことだ。クリフトがじっと私を見る。私の覚悟を問う目だ。応えよう、と思った。

「なんとか、やってみるわ」

仮に撤退する時私が何を思うのか、今の私ではわからないけれど。

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