動きのないまま、朝に。
隣の、クリフトとブライの泊まる部屋の物音で目が醒めた。あちらにノックと声。
「おい起きてるか!? 向こうから条件が来た!」
イラムがクリフトの部屋に向かって言ったセリフということ。
がばっとベッドから起きる。
ええと、最低限の支度をして、隣へ。
さて、私の入室に誰も目をくれない、いや一人はくれた。
昨夜、意識のなかったワルトだ。昨夜のうちに快復したのは聞いている。
彼はおどおどと頭を下げた。
私は片手で応えようとして、それは違うかと思い至り、ごまかすように手でこめかみをかいた後、同じように軽く頭を下げた。
「クロハの腕輪、とは?」
「いや知らねぇよ!」
「フレノール国宝じゃな。昔の話よ。国であったころの、国主の証となる腕輪じゃ」
話が進んでいる!
クリフトが八つ折り跡の乗った紙を回してくる。ええと?
姫を返してほしくば○月○日の夜零時、街の墓場まで、クロハの腕輪を一人でもってこい。
拙い文字でそうとだけ、書いてあった。なる、ほど。今夜。
「もう、あれだな」
とイラムは吐き捨てた。
「犯人らに事実を話すしかねぇ。騎士団には、どうするか。信用して良いんかね?」
「武力はありますが、交渉事まで確実かと言われると」
「そっちじゃねぇ。確実に救出できると思ったら動いてもらって、少しでも難しいと思ったら静観してくれるってのは、やってもらえるもんだろうか?」
イラムは攫われたメイの身を案じていた。
「間違いなく」
クリフトは真っ直ぐ断言する。
「そうか、それだな、じゃあ」
とイラムは深いため息をついた。安堵のではなく、腹をくくった時の息だ。
クリフトはちらっと私を見た。私? んん、意見はあるが。どうしたものか。
「あの、ちょっといい?」
と切り出す。
「騎士団を巻き込んで皆に打ち明けるのは良い作戦だと思う。ただそれとは別の作戦を、並行して用意してもよいと思う。二つの作戦のうち、うまく用意できた方を採用すればいい」
イラムもワルトも、私の続きの言葉を待つ。
「……別の作戦というのは、クロハの腕輪を入手する作戦」
「んな馬鹿な!」
「できるかは不明だけど、試しに入手しようとするだけ、良いんじゃない? 幸い夜まで時間はある」
「……」
異論は無いようだった。
「そして、クロハの腕輪というはどこに? 知ってる?」
ブライが答える。
「5年ほど前の話じゃ、フレノール王墓に奉納されたと聞く」
「あそこは長い間封鎖されているはずですが、5年前とは、新しい話で驚きました。王墓、フレノール南にある洞窟ですね。
「うーん、とりあえず、そこに行ってみる?」
洞窟までどのくらいの距離なのか続けて聞こうとしたが、イラムに遮られた。
「待て待て! 考えがなさすぎだろ!」
確かに、単に王墓に行ってみるだなんて。そういう気持ちもよくわかる、が。私の気持ちとしては、
「時間も無いことだし、考えるよりもやってみたほうが良いと思う。やりながら考えることもできる。私達だけで行くから、あなた達は騎士団や誘拐犯への説明を考えてみて。あるいは第三案の発案を」
「ちょっと待って下さい!」
と初めてワルトが高い声を上げる。
「私も連れていってください!」
ん? 意外で、頭がついてこなかった。
「……それは、どうして? 冒険慣れした私達に付いて来ることができる自信が?」
ただ、洞窟への到達、洞窟内探索が短い距離で済むなら、私のは恥ずかしい発言だなと今気づいたが。
「鍵、施錠って話がありましたよね? 私ならばお役に立てるかも」
そのワルトの言葉を聞いていたイラムがあからさまに顔を歪める。
ますますよくわからない。
「それは、どういうこと?」
「鍵によっては、私なら開けられるかもしれません」
だめだ、やっぱりよくわからない。
クリフトを見るが、彼も軽く頭を横に傾けた。
「具体的にどう、開ける?」
「ちょっと待ってもらっていいですか!?」
とワルトは部屋を飛び出る。イラムがため息と同時に漏らした。
「予め言っとくが、あいつはいい奴だ。よろしく頼む」
その意味はすぐ後でわかった。
「これで開けられるかもしれません」
とワルトがとある道具群をテーブルに置く。まず目につくのは、穴が等間隔に空いた金属製の、10cmほどの棒。片端には親指ほどの金属円盤が、不格好に溶接されている。コインみたいな。
あとはバラバラと、2cmほどの長さの木製の棒、その同じものが10個ほど。
その一つをつまんで見ると、大体長さ5mmごとに、側面をぐるっと沿うように溝が彫られていて、つまり長さ5mmの円柱を四つ縦に連結させたような見た目だ。
ワルトは金属棒の穴に木製棒を嵌めていく。
これは、鍵、か?
┴┴┴┴○
あっ。わかっちゃったかも。そわそわしてつい聞いてみる。
「この木の短い棒達を、錠前の中で、折る?」
「えっ!? わ、かりましたか」
クリフトの眉間にシワが一つできた。どちらの意味のシワだろうか。
ワルトが説明を始める。
リオファネス錠と呼ばれるタイプの錠前に限定して、解錠できるという道具だ。
まず、今組み上げた模倣鍵(と彼が呼んだ)を鍵穴に差し込む。模倣鍵の枝(最初は全て2cmほどの長さの木製棒4本)は、まず開錠するには長すぎる。
鍵を回そうとしても、錠前の中のガードが枝と干渉し、すんなり回すことはできない。その状態にも関わらず模倣鍵を強引に回すと、ガードで邪魔された箇所だけ、邪魔された高さだけ、枝が折れて、結果、模倣鍵が正解の鍵と同型になるという流れだ。
もちろん、鍵を回す抵抗が強すぎると全て折れてしまい役に立たないという、繊細さも併せ持つ。
しかし。
……面白い! 鍵って面白い! 鍵穴の方の構造はどうなっているのだろう? また、これで開かない錠前の構造とは?
「しかしこれは……」
「うむ」
クリフトとブライは難色を示す。
「鍵を壊すのは法律違反、正確な表現に自信はないですが、施錠された場所へ不正に侵入するのも違反。しかし、では偽の鍵を作るのみとなると、どこかに言及ありましたでしょうか……。いや
などとクリフトはブツブツ続ける。
「今回私達が使うのは?」
「断然アウトです。……あいえ、……やはり、アウトです」
王族である私の侵入はオーケーだろうが、それを部外者のいるこの場で肯定するわけにもいかない、ということかな。
「なるほど、これを使った解錠にあなたの技術が必要ということね?」
とワルトに話を振る。彼は驚いていた。
「いや、あの、そこまで理解されてしまっては、私でなくとも、解錠できるかなと、思います……」
あれ、そうなの?