真面目新訳第二章 おてんば姫の望見   作:赤色ねんね

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(10) フレノールにて

動きのないまま、朝に。

隣の、クリフトとブライの泊まる部屋の物音で目が醒めた。あちらにノックと声。

「おい起きてるか!? 向こうから条件が来た!」

イラムがクリフトの部屋に向かって言ったセリフということ。

がばっとベッドから起きる。

ええと、最低限の支度をして、隣へ。

さて、私の入室に誰も目をくれない、いや一人はくれた。

昨夜、意識のなかったワルトだ。昨夜のうちに快復したのは聞いている。

彼はおどおどと頭を下げた。

私は片手で応えようとして、それは違うかと思い至り、ごまかすように手でこめかみをかいた後、同じように軽く頭を下げた。

「クロハの腕輪、とは?」

「いや知らねぇよ!」

「フレノール国宝じゃな。昔の話よ。国であったころの、国主の証となる腕輪じゃ」

話が進んでいる!

クリフトが八つ折り跡の乗った紙を回してくる。ええと?

姫を返してほしくば○月○日の夜零時、街の墓場まで、クロハの腕輪を一人でもってこい。

拙い文字でそうとだけ、書いてあった。なる、ほど。今夜。

「もう、あれだな」

とイラムは吐き捨てた。

「犯人らに事実を話すしかねぇ。騎士団には、どうするか。信用して良いんかね?」

「武力はありますが、交渉事まで確実かと言われると」

「そっちじゃねぇ。確実に救出できると思ったら動いてもらって、少しでも難しいと思ったら静観してくれるってのは、やってもらえるもんだろうか?」

イラムは攫われたメイの身を案じていた。

「間違いなく」

クリフトは真っ直ぐ断言する。

「そうか、それだな、じゃあ」

とイラムは深いため息をついた。安堵のではなく、腹をくくった時の息だ。

クリフトはちらっと私を見た。私? んん、意見はあるが。どうしたものか。

「あの、ちょっといい?」

と切り出す。

「騎士団を巻き込んで皆に打ち明けるのは良い作戦だと思う。ただそれとは別の作戦を、並行して用意してもよいと思う。二つの作戦のうち、うまく用意できた方を採用すればいい」

イラムもワルトも、私の続きの言葉を待つ。

「……別の作戦というのは、クロハの腕輪を入手する作戦」

「んな馬鹿な!」

「できるかは不明だけど、試しに入手しようとするだけ、良いんじゃない? 幸い夜まで時間はある」

「……」

異論は無いようだった。

「そして、クロハの腕輪というはどこに? 知ってる?」

ブライが答える。

「5年ほど前の話じゃ、フレノール王墓に奉納されたと聞く」

「あそこは長い間封鎖されているはずですが、5年前とは、新しい話で驚きました。王墓、フレノール南にある洞窟ですね。騎士団(オリオン)つながりで訪問したことがあります。……あそこは、騎士団(オリオン)が3名勤めているはずです。さらに、洞窟入口が施錠されていたかと」

「うーん、とりあえず、そこに行ってみる?」

洞窟までどのくらいの距離なのか続けて聞こうとしたが、イラムに遮られた。

「待て待て!  考えがなさすぎだろ!」

確かに、単に王墓に行ってみるだなんて。そういう気持ちもよくわかる、が。私の気持ちとしては、

「時間も無いことだし、考えるよりもやってみたほうが良いと思う。やりながら考えることもできる。私達だけで行くから、あなた達は騎士団や誘拐犯への説明を考えてみて。あるいは第三案の発案を」

「ちょっと待って下さい!」

と初めてワルトが高い声を上げる。

「私も連れていってください!」

ん? 意外で、頭がついてこなかった。

「……それは、どうして? 冒険慣れした私達に付いて来ることができる自信が?」

ただ、洞窟への到達、洞窟内探索が短い距離で済むなら、私のは恥ずかしい発言だなと今気づいたが。

騎士団(オリオン)と会話する私達は彼らに見られないほうが良いとは思った。

「鍵、施錠って話がありましたよね? 私ならばお役に立てるかも」

そのワルトの言葉を聞いていたイラムがあからさまに顔を歪める。

ますますよくわからない。

「それは、どういうこと?」

「鍵によっては、私なら開けられるかもしれません」

だめだ、やっぱりよくわからない。

クリフトを見るが、彼も軽く頭を横に傾けた。

「具体的にどう、開ける?」

「ちょっと待ってもらっていいですか!?」

とワルトは部屋を飛び出る。イラムがため息と同時に漏らした。

「予め言っとくが、あいつはいい奴だ。よろしく頼む」

その意味はすぐ後でわかった。

「これで開けられるかもしれません」

とワルトがとある道具群をテーブルに置く。まず目につくのは、穴が等間隔に空いた金属製の、10cmほどの棒。片端には親指ほどの金属円盤が、不格好に溶接されている。コインみたいな。

あとはバラバラと、2cmほどの長さの木製の棒、その同じものが10個ほど。

その一つをつまんで見ると、大体長さ5mmごとに、側面をぐるっと沿うように溝が彫られていて、つまり長さ5mmの円柱を四つ縦に連結させたような見た目だ。

ワルトは金属棒の穴に木製棒を嵌めていく。

これは、鍵、か?

┴┴┴┴○

あっ。わかっちゃったかも。そわそわしてつい聞いてみる。

「この木の短い棒達を、錠前の中で、折る?」

「えっ!? わ、かりましたか」

クリフトの眉間にシワが一つできた。どちらの意味のシワだろうか。

ワルトが説明を始める。

リオファネス錠と呼ばれるタイプの錠前に限定して、解錠できるという道具だ。

まず、今組み上げた模倣鍵(と彼が呼んだ)を鍵穴に差し込む。模倣鍵の枝(最初は全て2cmほどの長さの木製棒4本)は、まず開錠するには長すぎる。

鍵を回そうとしても、錠前の中のガードが枝と干渉し、すんなり回すことはできない。その状態にも関わらず模倣鍵を強引に回すと、ガードで邪魔された箇所だけ、邪魔された高さだけ、枝が折れて、結果、模倣鍵が正解の鍵と同型になるという流れだ。

もちろん、鍵を回す抵抗が強すぎると全て折れてしまい役に立たないという、繊細さも併せ持つ。

しかし。

……面白い! 鍵って面白い! 鍵穴の方の構造はどうなっているのだろう? また、これで開かない錠前の構造とは?

「しかしこれは……」

「うむ」

クリフトとブライは難色を示す。

「鍵を壊すのは法律違反、正確な表現に自信はないですが、施錠された場所へ不正に侵入するのも違反。しかし、では偽の鍵を作るのみとなると、どこかに言及ありましたでしょうか……。いや(にせ)かに関わらず、鍵複製という話ですか。複製しただけで罰せられるというのは、聞いたことがなく、しかし、どう考えても不正使用される、鍵複製する手段を提供、公開することには、さすがに一定の制限があるべき、いや、手段に制限など……」

などとクリフトはブツブツ続ける。

「今回私達が使うのは?」

「断然アウトです。……あいえ、……やはり、アウトです」

王族である私の侵入はオーケーだろうが、それを部外者のいるこの場で肯定するわけにもいかない、ということかな。

「なるほど、これを使った解錠にあなたの技術が必要ということね?」

とワルトに話を振る。彼は驚いていた。

「いや、あの、そこまで理解されてしまっては、私でなくとも、解錠できるかなと、思います……」

あれ、そうなの?

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