真面目新訳第二章 おてんば姫の望見   作:赤色ねんね

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(16) さえずりの塔にて

ダンジョン内ということをすっかり忘れて夢を見ていたところ、クリフトに起こされた。

「朝です、おはようございます」

「おは、よう」

地下は地下で燭台の灯りしかなく、朝という実感がない。

なんだか、空を飛ぶ夢を見ていたような。

そんなぼんやりとした頭の私に対し、クリフトが仕掛けてきた。

「今日も、お美しくていらっしゃいます」

一瞬で目が覚めた。目が見開いた。いやいや! 確かに、この旅以前から朝会うと、それはクリフトが使う定型文だ。

しかし野宿時の朝には言わない。宿で言う台詞。つまり言うのは、私が朝起きていくらかの支度をした後に会った時だ。

てっきり、そのいくらかの支度へのお世辞なのかと思っていた。

今回のこれはなんだ!? 無条件に、顔に対する皮肉? 野宿時はまだ気を張っていたが、今回は油断してだらしのない顔をしていた!?

なんだか、ため息が出た。

「ありがとう」

クリフトはこちらの感情を知ってか知らずか、それに、はぁと返した

ルーゼンのいる上へ上がる。

解読部屋やルーゼンの様子は、昨夜と変わりなかった。

さて。

この部屋を出て、もう少し塔を見ることになっている。最低限の荷物だけを持った。

クリフトがルーゼンに挨拶をする。

「いろいろとありがとうございました。周囲を軽く探索だけしてまたこちらに戻って来ますが、こうした拠点があって助かりました」

「いえいえ、こちらこそ食べ物を交換して頂きありがとうございます。魔物にお気をつけて!」

彼のための山積みの保存食が2種類しか無かったため、バリエーションを増やしたほうが楽しいだろうと、昨夜こちらから食糧交換を提案したのだった。

一週間おきに塔までの食料(二種類)の配達を、彼は運び屋にお願いしているという。これを機に新たな食事の注文を運び屋にしてくれると、なんとなく、交換した甲斐があったというもの。

まあ良い。

三人で部屋を出る。

正面には塔の出口となる扉。

天井が高いことを思い出した。2階分近くの高さ。その2階部は外の光をふんだんに取り入れており、塔内部はそれほど暗くなかった。一瞬感動した空中に浮くきらきらは、光に照らされたホコリだとすぐに気付いた。

さて。

上への階段は、この大塔の内周を回り込み、そうすると隣の小塔に接続する通路があり、その先にあるという。そしてその小塔にて、階段は簡単に見つかった。

最初は小塔の部屋に入ったとき、なにもない空っぽな円形の部屋なのかと思った。しかし入って正面の奥の壁の裏に、小塔の壁に沿ったらせん状の登り階段が隠れていた。

いや、隠れていたというのは大げさだ。単に壁の裏に階段があったというだけ。少し近づけばすぐ階段の存在に気づける。

階段。壁に張り付いて弧を描いて上へ向かう、人一人は通れるという程度の狭いものだ。

それよりも、

「これですね」

とクリフトは鉄格子に手を触れた。

そう、階段前には鉄格子が嵌め殺されていた。扉にもなっている。

鉄格子設置のために後で壁を再構成したようだ、折角他は深緑のブロックで統一されているのに、この鉄格子の周りは無骨な灰色。色は統一してほしいところ。

施錠された鉄格子の下には、ご丁寧にその理由が書かれた木製プレートがあった。崩落の危険につき立入禁止、と。騎士団(オリオン)の名前もある。塔、崩落?

「リオファネス錠かもしれませんね」

というクリフトの声で、意識が引き戻された。

そう、鍵。

鉄格子は施錠されている。諦めるべき、とクリフトは暗に言っている。おそらくブライも同様だ。それは、そうだろう。

しかし。ここまで来たのなら、これは、仕方が、無いか。

私は覚悟して、服の中で首に下げていたお守りをゆっくり取り出した。

「姫様、それは!」

そう、ワルトに返却したはずの模倣鍵。いや、

「違うの! あれはもちろんクリフト経由で返していて、これはあれとは別に、ゴーラに作ってもらったもので」

フレノールの宿に届けてくれたものだ。

二人に見せたら必ず何か言われるだろうと思って隠していたのだった。

「何をお考えですか!? いわば盗賊用の鍵ですこれは。姫に全く相応しくない!」

……何も言い返せない。クリフトは私の様子を見て語気を緩める。

「なぜ、それを複製されたのですか?」

「創意と工夫で道を切り開けることを、まるで体現した存在で、お守りにしたくて。ゴーラとは、腕輪の塗料を乾かす時間が余って、ついお願いを」

「ではお聞きしますが、鍵の枝は何本作成したのですか?」

「20、本?」

「使う気満々ですね」

「いや、本当に使う気はなかったの!  これは本当!」

ここでブライが割り入る。

「まあクリフト。姫の良識を信じても良かろうて」

私への助け舟だった。しかしクリフトは納得していないようだった。

「であってもです! 私は塔を登ることに反対します。崩落の危険は今の瞬間でさえ避けねばなりません。姫の良識を信じます」

そして私はというと、一度叱られて、落ち着いて、開き直りにも近い境地になっていた。

「私の良識なんてものは、なんの価値もないので捨て置くとして」

「姫」

「私は登ろうと思う。一つはもちろん、お父様のお加減が良くなる可能性が少しでもあること。もう一つは、小賢しい考えだけど、私の旅の成果が出ること。テンペの事件やフレノールの事件は人に言えないとしても、デザフェスを知ることができて、雑多な塊から有用な情報を得られたこと。あるいは、お父様の考えた砂漠活用の良い副作用を確認できたこと。私は学んでいるということを伝えれば今後、お父様は私に対する見方を変えてくれるかもしれない」

根拠は無いが、試しにそれにすがってみたいと素直に思えた。そうでないと、私は遊び歩いただけの旅になってしまう。

クリフトは黙って私の言葉を聞いていた。

ブライが口を開く。

「良いのではないか? 魔物の程度は今までの戦闘で知れておる。そして、魔物が数年徘徊していても倒れぬ塔じゃ。しかし刻限は守りましょうぞ。正午にはここを発つ、ですな?」

「もちろん」

と私は返し、クリフトは折れた。

「わかり、ました」

その直後のため息には、嗚呼という嘆きが混じっていたように聞こえた。

 

鉄格子の解錠はスムーズに行うことができた。つたない設計図だけでこれを再現するとは、流石ゴーラ、なのか。よほど古い錠前でなければ、こんなものなのかも。彼にはワルト作の枝を一つ渡してもいた。その強度の再現も、見事としか。

さて、扉の先、狭い螺旋階段が続く。

長い。距離も長ければ、かかる時間も長い。というのも先導のクリフトが、壁や階段ステップの固定具合を確かめるように進むのだ。一歩に時間をかける。

まあ、好きになさい。あなたの各質問に、全て塔は堅実に返すことでしょう。

おそらく4,5フロア分の高さを登ったのではと思えたとき、ようやく次の階に到着した。

その部屋は大部屋になっており、外への広い開放窓と柱以外に、特筆すべき特徴が無い。

隣の大塔への通路はあるので、上への階段はそちらか。少し考えてクリフトは、

「壁に沿って移動しますので、付いてきてください」

と言った。ん、部屋の中央を真っ直ぐ通過して通路に向かうのではなく、回り込む?

「何? 罠でもあった?」

「いえ、床が抜けて崩落するとすれば、中央は危険かと」

「……本気?」

さらに、クリフトは帯びていた二振りの剣の一本を腰から外す。

「それは?」

多分そういうことだろうと想像しながら聞く。

「少しでも重さを稼ぎます」

として、外への開放口から顔を出して覗き込んだ後、剣を下に落とした。そこまでする!? てっきり床に置くくらいだと思っていた。どちらの行為も、騎士の剣と思えばその行為はアウトだが。

「ブライ、ここまでする?」

「さて。今は騎士団ではそう教えているのやもしれませぬが」

「少しでもリスクを減らす努力をしているだけです!」

と先導しているクリフトには私の小声が聞こえていたようだ。

ブライを後ろに置き、クリフトについていくこととする。

大部屋を出ることで、隣の塔へ移る。

移る前の塔が大部屋フロアだった雰囲気とは大きく異なり、こちらの小塔は迷路のように入り組んでいた。とはいえ広さの限られる塔だ、迷うほどではないが。

塔ということは、人が設計したということなのだろうか。

「不思議な構造」

「塔に目的が、何かあるんでございましょうな。それこそ考古学者の範疇とは存じますが」

そのブライの言葉で、階下のルーゼンの顔を思い浮かべる。

鍵の話がなければ、彼も連れてきたかったところだ。例えばそこの柱の彫刻装飾を見て喜んでくれたに違いない、と勝手に思ってしまう。

上の階へ上る。再度隣の塔へ移る。うーん。

一つ不満があるとすれば、戦闘時クリフトの足が止まっていること。崩落を気にしているのだろうが。あの小型ドラゴンが跳躍したときの床の振動を体感したでしょう? 崩落していないでしょう?

クリフトのそれは無駄な努力に思える。

それを指摘するか迷ったが、指摘しない方向として結論づけた。と、先導していたクリフトの足が止まる。

魔物?

違う、すぐに理由が目に入った。

「すごいじゃないクリフト、心配した通りね」

「いえ……」

塔を移った先の大部屋。

そこの中央の床が、見事に抜けていた。

床の断面から、崩落によるものとしか思えない。

床が抜けたその階下は、通った部屋ではなさそう。そこは出入り口のない死に部屋に見える。つまり建築上の理由かで設けられた空間なのだろう。道理で、階をまたぐ階段が長いわけだ。

さて。

「じゃあ、行きましょうか?」

とクリフトに言ってみると、目を見開いてこちらを見てきた。

固まっている?

「ほら、あなたの言う通り、端に寄れば通れるでしょう」

端は崩落を免れていた。

「ちょっと! ちょっと待ってください! 本気ですか!?」

ありゃ、そういう反応になるか。

珍しく冷静ではないクリフトを、私はどうも楽しみたいらしい。

「端はまだ比較的安全でしょう」

「床がもう抜けていたら話は別でしょう!」

「それほど高さがあるわけでもなし」

「落ちた先がさらに崩落する可能性もあります」

「そこまで言う? 床の断面を見てみなさい。アーチ上の構造。端だと相当厚くなっている。あれで崩落の心配する?」

「途中で魔物に襲われたらなんとされます!」

「えっ!? この距離よ? 走り抜ければすぐでしょう」

「走り、抜ける!?」

笑みを表情に出さないことに苦心する。

「わかったわ、ほら、手を繋いでてあげるから」

「なななぜですかそれ!」

なぜ? あまり考えたことがなかった。

庭園で比較的大きな虫を見たときなんか、コーネリアの手を引いて切り抜けることがある。

「あなたが、目をつむっても、走れるように?」

「つむれるわけ、ないでしょう……」

あ、心が折れたかな?

追撃をやめ、ブライに話を振ってみる。

「これ、危険?」

「ま、まあ、そうですな、行っても良いとは、存じますが」

多分、クリフトの様子にブライも驚いている。

クリフトは観念した。しかし先導役は変更せず、自分、つまりクリフトが務めるとのこと。

私のタイミングで行きます、と言って、何分待たされるかと思ったが、1分ほどでさっと端を走り抜けて行った。

なんだ、できるじゃない。

次に私が後を追う。

階段を上がるところまで駆け抜ける。

あれ、階段が短い。

クリフトは上った先で両膝両手を床について息を整えていた。

そんなにスピード出していたの?とは聞くまい。帰りもまたあそこを通るけど?とも聞くまい。

クリフトはこぼす。

「次、こんなレベルのことは、さすがに、勘弁いただきたいです……」

ここで初めて私は、調子に乗った自分の狭量さを反省をした。

ブライの駆ける音が聞こえてくる。

さて、私は部屋の探索を開始しておくか。部屋の中央には幅4mはある巨大な角柱。

その奥に何があるかと回り込むと、それは上へ続く階段とわかった。階段の先に、青空が見える!

「屋上みたい!」

と駆ける。

光。

そこは、塔頂上の屋上庭園だった。

花畑に生け垣。

振り返って階下へ叫ぶ。

「庭園があった! もしかしたらここに蜜が──」

そのとき、背後、庭園奥から声が聞こえた。

リース? 名前?

その方向を見る。

遠く。花畑にぐるっと囲まれたちょっとした奥のスペースに、テーブルと椅子。

そこに二人の女性がいた。

そう思った。

やけにぼやけるなと思って目を凝らしたときには、その曖昧な輪郭ごと、すっかり彼女らはいなくなっていた。

おや?

気にはなった、走り寄りたくなったが、私一人しかこの現象に立ち会っていない。可能な範囲で、三人で行動すべきだ。情報共有の手間もある。私はブライとクリフトをその場で待った。

「きれいですね、その、手入れされているという意味で」

とは気を取り直したクリフトの台詞。

そう、まるで人がいる雰囲気。

「人が、居たように見えたのだけど」

「どちらに?」

「あそこ」

と正面奥の広場を指す。

「でも気のせいだったとでも言うのか、ぼやっと消えてしまって。二人居たの」

三人で、人が消えたように見えたテーブル場所に近づく。

これは……、バケットに、ティーセット。カップの表面を湯気が左右に走っていた。お茶請けとして、アクセント様々なクッキー。そして、驚くことに、ワッフルまであった!

サイズはデザフェスのものの二分の一というところ。

厚さも半分、しかし見ただけでも、均一に生地が整えられた、かなり上品な出来。

皿に並べられフォークも付くと、かなり印象が違う。

「隠れているのかもしれません。私は階段を抑えます、その上で、手分けして探してみましょうか」

食べ物の詮索は後に回し、そのフロアで人を探すも、結局見つけることはできなかった。

再度テーブルに三人が集まる。

「気のせい、だったかな」

「しかし何か居た痕跡にございます。妖精でございましょうか」

「妖精」

初めて見た、ということになるのか。この世界には、姿を現さない隣人がいるという。姿は捉えられないとしても、こんな如実な痕跡が確認できてしまうとは、笑っちゃうくらい信じられなかった。

クリフトが言う。

「これが、蜜のようですが」

と小瓶の一つを指す。そう、小瓶がいくつかある。

「どう、しようか。ちょっと、叫んでもいい?」

「どうぞ」

とクリフトは、私のやることがわかっている風だった。

さて、くるっとテーブルを背にする。息を吸う。そして叫んだ。

「初めまして! 私の名前はレナです!」

隠れているかもしれないと信じて。

「知り合いが喉の病気にかかっていて、この塔にある蜜が効くと聞いて来ました!」

聞いているかもしれないと信じて。

「正直、塔にあるわけがないと思いつつ登ってきました!」

いや、信じてはいないな。

「そうしたら今、まさか、蜜と一緒に知った、ワッフルを見ることになって!」

これは誰かの所有物だ。

「どなたの持ち物かわかりませんが、この蜜がそれなのでは、と思ってしまっています!」

一応聞くだけ聞くというのがマナーだろう。

「お話を聞かせてもらえないでしょうか!?」

少なくとも私は納得する。返答がなくとも、拝借して良いと。

私は息を吸って、吐いた。

ブライとクリフトに言う。

「じゃあ、10分は待ってみましょうか。それでも何もなければ、味見して蜜を特定して、拝借しましょう」

二人はうなずいて、周りの反応を伺う。

「ああブライ、紙と鉛筆を貸してくれる? 同じ内容で書き残してもおこうかと」

下敷きとなる木板も借りる。

品々が並んだテーブルは金属棒を渦状に曲げてまとめたような作りをしていて、つまり表面はごつごつし、書きにくいのだ。

叫んだ内容とは似て、しかし、拝借するではなく拝借した、という内容でしたためる。

その後は小瓶らに対し、あたりをつけつつ、周囲を注意しつつ、10分が経過した。

まあ反応は無いだろうとは思っていた。

「では、これよね」

と見た目が一番蜜と思われるものを手に取る。

スプーンも拝借する。

で、ワッフルを手に取った。

「それもですか」

とクリフトは窘めてくる。

塔の最上階に居ても、既に怖くはなくなったようで、いつものクリフトは健在だ。高さを忘れているだけかもしれない。

「あの店の味に近いというのが、私達の持つ判断基準じゃない? 同じように味を見ないと」

「なるほど」

なるほど詭弁ですね、という返答に聞こえた。

蜜をこれでもかと塗り(隣からの視線が痛いが)、では、手づかみで、頂く。一口で半分は口の中に入る大きさ。

おお、柔らかい。おおおお。甘さの厚さがすごい。なるほどワッフル本体も別種の甘さが。

舌の先から側面から口腔上部から、一度に甘さの圧がかかる。

果実? りんご? もしかして酢も入っている?

ワンテンポ遅れて鼻にも微涼が届く。文字通り頬が緩む、いや、溶かされる。どうなっているのだ。

飲み込むのが勿体ない。しかし喉でも味わいたい。ああそうすると口の中の量が減ってしまう。補充するしか!

半欠片も口に突っ込んだ。

なるほどなるほど、一口目の感想は全く間違っていない。これこれ。

ということはあと数秒でこの時間が終わる? 数秒じゃない。一瞬と言うのだ。

それは過ぎ去った。

長い間、テーブル上の他のワッフルを凝視していた。

「違いましたか?」

というクリフトの声で覚醒する。

いや、そう悩んでいるのではなく! ……うん、他のワッフルは諦めよう。

「多分、絶対、これね。りんごが隠し味なのではと店主に伝えたいわ」

「はぁ」

他の小瓶も試したくはなるが、色が違ったり、澄んでいなかったりと、まず蜜ではないだろう。ああ絶対これチョコだろうな、どんな至高なのだろう。

しかし、きりがない。大義名分も無い。諦めよう。

ふと、思いついて、書き置きに一文追加した。

「是非、機会あれば私もこの会に参加させてほしいです」

文追加の手が止まらない。

「お気に入りのチョコレートを持参します」

そして最後には、私の率直な思いが出た。

「また、来ます」

ははは。それは楽しそうだ。

さて。フレノールに帰る時間だ。

蜜の入った小瓶だけ拝借し、他はそのままにし、塔の庭園を後にした。

塔内をスムーズに駆け下りる。クリフトの動きに躊躇が無い。行きで倒壊する気配がなかったためか。最上階で、倒壊とおよそ無縁な空間を見たためか。……単に塔から一刻も早く脱出したいためか。それだろう。

無事地下の拠点まで戻った。塔の周りを調査するも手がかりなし、とルーゼンには嘘をつく。特に怪しまれることはなく、彼と別れ、フレノールへ発った。

ああそういえば、クリフトが外に放り投げたスペアの剣は、多少探したのだが、見つからなかった。冒険者が拾ったか、魔物が蹴り飛ばしたか。深く探すことはせず、諦めることとなった。

しかし、本当に、騎士の剣で同じことをしないでよ? むしろこれは良い機会として、一振りの剣を大事にすべきであると彼に説いておこう。

 

時間に余裕があるため、ペースを抑えて行軍。無事、20時過ぎにはフレノールに到着した。

いつもの宿、いつもの部屋で休む。蜜の小瓶を手に取って眺める。

うーん。

余計なお土産だったかもしれない。お父様の症状も知らず、この薬の効能も知らず。知っているのは味だけ。

ならば開き直って、味を前面に出して、効能は噂として、そっと出す以外に無い。そんな小さい覚悟が決まったことに満足して、あとは就寝前の体操に勤しむのだった。

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