真面目新訳第二章 おてんば姫の望見   作:赤色ねんね

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(18) サントハイムにて

予想よりは早くに自然と目が覚めたが、コンディションは最高。夜に自分で明かりを消さなかった気がする、という軽い罪悪感以外は最高。

朝食を取った後、身支度を済ませる。

再出立が決まってからサリーとは、なんとなく、気まずい時間を過ごしていた。それはそれで、申し訳ないと思いつつ。

一旦メイド服に着替えてサーブルの部屋に行き、そこではサリーも手伝ってくれつつ、身支度、旅支度を整える。

「また軟禁ということになってしまうのかしら」

とサリーの身を案じた。

「王命の任務となれば致し方ないかと。そうですね、姫様のわがままではないとなれば、まだ我慢できます」

前回は私のわがままによるものだったと。その意図的な軽口に、私は笑ってしまう。

「旅に出て、なんとなくだけど、ここが私の家とわかったわ。帰ってくる場所と。任務が終わるのを待っていて。長くても、例えば3ヶ月?」

「長いような、短いような」

「本当にね」

準備が終わる。

サーブルの部屋を出、部屋前で待っていたサーブルと合流。サリーから例の大きな空箱を渡される。

箱を受け取るため近づいた際、お元気で、と小声があった。

私は体を左の方に向けて、付随して箱も左にずらすことで、サリーの目を見れるようにする。

「じゃあね、また。次会うことを楽しみにしてる」

そんなレナの言葉に対し、サリーは深々と頭を下げた。それを注意することはしなかった。

 

廊下をサーブルの後ろについて歩く。構わずサーブルは、声量を落としつつ話しかけてくる。

「言葉使いも学んでいるようだな」

そういう彼の言葉使いは、レナに対してのものだ。

「まあね。変?」

「あなたが話しているということだけで、どうしても変だが」

「なるほど」

曲がり角。周囲に人はいない。

「貴方が何をされたか、王からは教わりませんでしたが、貴方が王を治癒されたのですよね」

「買いかぶり。一体何が効いたんだか」

それは本心だ。

「君が帰って来、姿を見せたことだけでも価値があったのやもしれぬ」

ああ、十字路が近いからまたレナへの言葉使いになったのかな。

「私にはわからないけどねー」

見回りの騎士団(オリオン)隊員とすれ違う。

多分、私に見向きもしなかった。

入城した際は、箱に隠された私の顔を覗くような騎士団(オリオン)の仕草が何度か見られた。今は騎士団(オリオン)には私の話が伝わったのかな、と感じた。

「次の貴方の帰還を待ち遠しく思います。何の任務かは正直想像もできませんが、また驚かせてくださるでしょうと」

「あはは……」

今回の任務は手がかりがほぼ無い以上、自信はあるわけもなかった。

城門を抜ける。振り返りたくなる衝動に駆られたが、眼の前の箱がなんとなく、そうさせなかった。

門からの死角まで回り込むと、ブライとクリフトが待っていた。彼らはすぐに跪き、サーブルが口を開く。

「ご苦労。確かに品を受け取った。報酬はその箱に入っておる」

中に軽い何かが入っているかと思ったが、なるほど、お金かな。私達は何か配送を請け負っていたということだ。

「また何かあれば連絡する」

とサーブルが去る。

あっと今、箱を置いて私も彼に跪いた方が良かったかなと思った。

さて。

二人と向き合う。

「昨日ぶり。その……、よろしく」

事前に決めていた格好良い再会セリフは、全く出てくる余地が無かった。クリフトが答える。

「また、よろしくお願いします。ひとまずここから離れましょう。お聞きしたいことがいくつかありますので」

「どこに行く? どこか宿?」

「直近の目的地次第ですね。どちらです?」

「こ、国外」

どうも詳細の話は彼らには共有されていない様子。しかしなんとも間抜けな回答。

「なる、ほど? 少なくとも玄関であるフレノールへ行く必要はありそうです。ではフレノールへは、陸路か、海路か」

「海路……。少し魅力的ね」

「陸路であれば、道中重要な話がしやすいというメリットもあります。また、定期便は明日ですので、むしろ陸路の方が早いですね」

周りに人がいない方が、話しやすい事項もある。今回は特に、か。

「では残念、また陸路でフレノールを目指しますか」

「承知しました。準備は済んでいます。すぐにでも発てます」

なるほど。

「行きましょう」

三人で王城西門の方向へ進む。

サランの街が向こうに見えた。

街の中を十分回ったことは無かったなと気づく。裏返すと、フレノールもデザフェスも、楽しみ過ぎた。

今回の旅は楽しんで良いものなのか、よく、わかっていない。

幸い、フレノールに到着するまでは時間がある。一つずつ整理していこう。

皆で。

 

「さて、そろそろいい?」

「はい」

と、テンペまでの道を先導するクリフトに話しかける。隣のブライは頷いた。振り返っても街は見えない。

しかしクリフト、旅衣が変わっている。それ、神官帽にも似ているが?

「その格好、何?」

歩いているクリフトが振り返る。

「え? これですか。フレノールの事件を受けてです。目立つなら私が良いかと思いまして」

「教会の人間として?」

「はい。ご存じてはないですか? 教会の正式な旅衣です」

50cmはありそうな背の高い、若葉色の帽子。その正面の聖教印、サントハイム王紋にも使われる図形。今となってはその印、なんだか、いいなぁ。

「そうなんだ」

「そういう話ではなくですね」

「あ、うん」

開けた平野を貫く街道を進んでいる。この様子では直近、人とすれ違うこともないだろう。秘密話をするに好機だ。

「今回は、王命による極秘任務。地底から現れるだろう、大型の魔物による被害を減らせと。それは討伐できるレベルの相手ではないみたい」

「現れる、だろう、とは」

と、これは振り返らずに返答するクリフト。

ちらりとブライを見る。ブライは目を見開いていた。これだけである程度、伝わったようだ。

「お父様は、予知ができるみたい。今言った内容以上の話は把握されていないみたいだけど、被害をなんとか抑えられないか、と」

クリフトは別段驚かなかった。

「予知ですか。それでももう少し、具体的な情報を予知されたのかと思ってしまいますが」

なんでなにも驚かないの!?

「ちょっと待って! そもそも予知ということについては!? もしかして知っていた?」

クリフトは振り返り、こちらを見る。

「いえ? 驚きました」

「全然驚いていないじゃない」

「そう、言われましても。ブライ様だって」

「わしは知っておった。何十年も前だが」

「そうでしたか」

「これ、重要機密だそうよ」

「気をつけます」

全く軽く、受け取られている気がする。

念押しをもう一つ。

「あなたのお父様には特に言わないように」

「はい。……ああ、なるほど、そういう心配ですか」

一応思い至りはしたようだ。が、やはりクリフトはさらっと続ける。

「もちろん、予知というものがあるなら、それは不思議な技能とは思います。予知は、確かに聖書にもありますが、今回はどちらかというと、人を導くような方向ではないと思います。父上も全く気になさらないかと」

「そう……」

基本的に、クリフトの楽観的な考えは信用ならないとは思う。

ただ一方で、私のイメージの教皇カイラス様というと、面白がって予言能力の詳細を聞いてくるのではと。どういうのが見えるんだ?と。

あれ? 私の持つ、教会が厳格なイメージはどこから来るのだろう。彼ら二人以外が、厳格な信徒なのだと思うことにする。

 

ブライ、クリフトには、予言がいかに曖昧なもので、今回も全く具体的な情報がないことを説明した。

それを聞いた最初の私がそうだったように、クリフトは若干不満気味だったが、それを私に言われても困る。お父様に聞いてほしい。お父様はお父様で、そんなことは神に聞いてほしい、というのかもしれないが。

いや、神と表現するのは良くないんだってば。

「やはり最初に向かう国は、エンドール王国でよろしいでしょうか」

とクリフトは切り出した。

「お隣ね。それでいいけど、ちなみに他に選択肢はあるの?」

「いえ、エンドールを経由しないことには、船を借りでもしない限りは他国に出られません」

「そうなんだ。フレノールから船がエンドール以外には出ていないのね」

「定期便という意味では、出ていないはずです。あくまでもエンドール行きのみです」

「では私達は、フレノールから船でエンドールと」

「はい」

「では、さっさと行きましょうか。前は、方向こそ逆だけど、テンペまで、10時間くらい、そしてフレノールまではさらに7時間くらい? さて、今回何時間短縮する?」

あ、ブライは嫌そうだった。やめておこう、急ぎの旅ではないのだから。

 

夕方前にフレノールに到着した。いつもの宿で部屋が取れた。

クリフトは出港の日時を確認するというので、面白いことがありそうと私もついていこうかとしたが、止められてしまった。

誘拐事件の起きた街だ。そして、船着き場、そこに受付場もあるが、治安もあまりよろしくないようで。

……いや、ここはここで、誘拐事件の起きた宿だけどね?と発言してみたが、ここのような狭いスペースであれば、人数で押し切られることもなく、私とブライで遅れを取ることがないだろう、という回答だった。なるほど?

いったん自室に引っ込み、一人体を動かして退屈を紛らわせていると、音で、クリフトが船着き場から帰ってきたようだとわかった。

クリフトらの部屋に行く。

「いつ出港?」

「それが」

とクリフトはわずかにしかめた顔で切り出した。

結論から言って、定期便が休航になっていた。

そもそも定期便のルートは、フレノールからエンドール王国に行き、その後その北のボンモール王国まで進み、折り返し、またエンドール、フレノールへ戻るというもの。

その船が、一週間前にフレノールに戻ってくるはずが、戻ってこない。原因は未だ不明。そのための調査船が明日出航予定とのこと。定期便復旧のめどは立っていなかった。

とはいえ、私たちは待つしかない。これから1、2週間? それで済むだろうか?

そしてその間、何が出来るか。デザフェスも終わってしまったことだし、この国でやりたいことがすぐには出てこない。

どうしたものか。

そんな私の様子を察してか。時間をおいた後、ブライが1つの提案を出す。

「陸路の選択肢が、1つございますれば。我らの足をもってすれば、2日、3日程度でエンドールに到達できるかと」

「へぇ、そうなの?」

陸は繋がっていないという記憶なのだけど。

「一体どのように?」

とクリフトがブライに尋ねる。

「ゼグラス砂漠の東に、オーボンヌ教会跡と呼ばれる場所がございます」

教会。クリフトの様子を伺うも、眉間にしわが一本できただけだった。

「そこがエンドールの大陸に繋がってございます」

へぇ、知らなかった、地下道でもあるのかな、そういうこともあるのね。

「本当ですか、あそこの地下ですよね!? 危険なアンデッドが多いと聞きました」

お、おお? そういうリスクがあるということ?

「それはの、表向きの嘘よ。まあ、行けばわかる」

とブライはひげの下でニヤリとした。

アンデッド? 出ない?

「わかりました……、しかし教会跡も騎士団(オリオン)管理ですね。駐在がありますが」

「話は事前に通してあるに越したことはないか、さて」

「では、二番隊隊長に話をしに行きますか。彼はまだこのフレノールにいるでしょう。私の持つ命令書だけでは弱いので、彼をここに連れてきて姫を見せるというのは」

「よろしく頼む」

話がとんとんと跳ねて行ってしまった。

出ていったクリフトを待つ間、ブライからもう少し話を聞く。

オーボンヌ教会跡。

そこにはエンドールの大陸へ繋がる通路がある。実際にどういった通路なのかはお楽しみとして。その通路の重要性から、一般にはその通路の存在は隠蔽されているとのこと。

なんだろう。

広めない理由は、吊り橋のように、破壊しようと思えば簡単に破壊できてしまうため、などだろうか。あるいはエンドール非公認のルート?

まあ良い。

隠蔽の手段として、あそこはアンデッド巣食うダンジョンに繋がっており騎士団(オリオン)が封鎖中、ということになっている。通るためには王の許可が必要。今までの通行実績としては、王とそのお付が使用した程度。そこにはブライも一度含まれた。

騎士団(オリオン)ですら、あそこが大陸に繋がっていると知らずに警備しているものも多いのでは、とのこと。

なるほどね。

そうこうしているうちに、クリフトが戻ってきた。隊長を連れてくるかと思いきや、一人で帰ってきていた。

「すんなり許可証を頂けました」

「へぇ、そう。何か言っていた?」

「いえ、特には。私からは、エンドールの大陸に渡るためとは言いましたが、それだけです。あとは護衛が必要かと聞かれましたが、不要と回答しました」

「まあ、そうね、不要かな。彼は職務を越えて、味方になってくれているのかな?」

教会跡の利用可否は騎士団(オリオン)判断の範疇を超えていると思う。そこを曲げてくれた印象。

「どうでしょう。表情や態度には感情を出さない方ですので、なんとも言えません」

わかる。彼とは城内で会ったことはあるが、当時、話しかけたところで取り付く島もなかった。

任務に忠実すぎる人なのかなと思った。とはいえ今回、もし任務に忠実なのであれば、独断で通行許可は出さないはず。

読めないお人だ。

許可証を見てみる。……入場許可か。入るだけの許可であり、教会跡の中で何をするかは関せず、という判断なのかもしれない。

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