真面目新訳第二章 おてんば姫の望見   作:赤色ねんね

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(20.2) エンドールにて

エンドール城壁に圧倒された後はもう、なされるがままだった。門を見上げて通り過ぎた後は、3階建ての建物が並び立つメイン通りが出迎え。こんな時間にも関わらず盛況な市場が左右に。

人。

人混みのせいで、通路が機能していない。こんなことがあるの? これはこれで、一人で歩けと言われると怖い。

人、人、人。

クリフトもたまらず、

「いったん通りを外れましょう!」

と提案してくる。

そして路地に入って。人通りはほどほど減ったが、メイン通りの方向から降ってくる喧騒が絶えず。心が落ち着かない!

「とりあえず、宿ですね。ブライ様はどこか、あてがありますか?」

「わしが利用したところなど大したものではないが、行くか」

クリフトはエンドールに来たことがなかった。もちろん私も。

ところで通りの外れた道だとしても、雑貨屋など、見たい場所がいくつかある。後の楽しみにしよう。

いや! それがこの旅の目的なのだ! 見ること。それが、やらなければならないことなのだ、多分?

 

さて、宿にて。クリフトが受付で空き状況を聞いている。

「今日ですか。申し訳ありませんが、満室となっておりまして」

「なるほど。では明日以降、いつが空いていますか?」

「そうですね、まず、四日後なら、そこから二日とか」

「……わかりました。では、もう少し調べてみようと思うのですが、近くの宿屋を教えていただけませんか?」

「なかなか厳しいと思いますよ。人気なさそうなところ、いくつか挙げましょうか」

「是非お願いします。いつも、このような賑わいぶりなのですか?」

「特別最近は人が多いですね。あれ、知りません? 武術大会が開催されるんですよ」

「武術、大会」

「ルールほぼ無しで、強いものを決めるというやつですよ!」

と宿屋のスタッフの語気が熱くなる。

ブライとクリフトが私を見る。

……なに?

「ああ知らなかったです? ならちょっと聞いてください、 その優勝景品がすごいんですよ! 景品と言っていいかはありますが。なんと、エンドールのお姫様と結婚できると!」

ん? それ、どういうこと?

クリフトは「馬鹿な」と吐き捨てた。

スタッフは笑う。

「まー、聞きつけた人は、大会を見たいってことでこの街に集まってきます。人が集まれば商売人も集まる。最近はそんな感じですね」

「その大会はいつ行われるんですか?」

とクリフトが聞く。

「いやぁ……、出場者は確か昨日あたりに締め切って、開催内容を詰めているところだそうで。まあ1,2週間以内には開催されるんじゃないですかね」

「ありがとうございます、参考にさせていただきます。……ところで、空いているかもしれない宿の紹介というのは」

「ああ失礼しました!」

と彼はカウンターの上に街の地図を出す。メインの通り(十字通りと呼ぶらしい)から離れることがポイントとのこと。宿屋3店舗を教わった。

 

その一店舗目に向かう途中。

クリフトが言う。

「武術大会には興味がありませんか」

「私出られないでしょう!?」

女性同士の結婚、ありなの!?

「あ、そうですね、そういうことですか」

「どういうこと」

「いえ、武術大会という名前を鵜呑みにすると、性別はさほど重視されないのでは、と無意識に思ってしまっていました」

と言われてもだが。

「んー、締め切りを過ぎたとも言われてしまうとね。それとは別にしても、私が出場してもなとは思う。注目を集めるべきでもないし、賞品は困るし、私は遊びに来たわけでもないし。あと、ルール無しという話があったでしょう。さすがに、武器と呪文が主役なんじゃない?」

意外と理由はぽろぽろ出てきた。

「その、安心しました。何と言ってお止めしようかと」

「ははは」

ふと後ろを歩くブライを見ると、彼は私から視線を逸らす。あ、同じ懸念だったと。

「締切に関しては、我々が身分を明かせば、無理が通ったかもしれません」

「何それ。なんの関係が? そういう、つじつまの合わない権力の使い方は嫌い。恥ずかしくなる」

「失礼しました。私もそう思います」

「でしょう」

 

宿は紹介された3店舗目で、無事に空きを発見することができた。そこで長く滞在も可能だったが、とりあえず2泊とする。

街の外れとはいえ宿のグレードは、今までで言うとフレノールに次ぐ第3位だった。上から、フレノール、サラン、エンドール、テンペの順となる。

まあ良い。

その夜、クリフトらの部屋で、明日明後日の計画を立てる。

明日は街中央にある城を訪問する。どこまで城内を自由に歩き回れるかは不明だが。その後は街の中、特に城の周りを回る予定。

そして明後日は街の中の探索の続きだ。それでエンドール探索は終了。次の目的地も決めねば。

 

さて翌朝。

ブライらの部屋を訪問する。

「レナ様が起床なさいました」

と言ったのは私だ。

「おはよう、ございます?」

と言ったのはクリフトだ。

「おはよう」

と私は返す。クリフトは固まっている。

「……私から挨拶するのはおかしいでしょう? こういうクッションが必要なの」

「はぁ」

だめだ、王城の文化が伝わっていない。

朝食後は予定通り、城を訪問することに。

門は誰に対しても開かれていた。サントハイム城と同じと言える。

いや、あっちは私に対しては開かれていないが。そんな皮肉が浮かんだ。

扉横の衛兵に怪しまれることなく、堂々と入る。

そこは大広間。

配置物をシンプルにして、正面左右の巨大な柱の彫刻に印象を移させる。

赤絨毯がまっすぐと正面上り階段に伸びており、それを塞ぐように二人の衛兵が階段前で立っている。

王の間にでもつながっているのかな。

よくわかっていないふりをしてその衛兵に尋ねる。

「ここ、通って良いの?」

「いえ、だめです」

と若い衛兵が、苦笑混じりに答える。

「コロシアムならそこから入って、曲がり角まで真っ直ぐ。それを曲がって左手の扉をあけると、あとは直線です」

「ありがとう」

コロシアムとは、武術大会の会場である。もちろんそこが私達の目当てではないが、衛兵からはそう見えたのだろう。

しかし疑問が一つ湧き出た。

衛兵に聞いてみる。

「まだ開催はしてないよね?」

「ええ。まだ単なる一般公開です」

「施設の」

「はい」

会場が建設完了してからまだ一ヶ月ほどという。お披露目としての自由公開の期間だった。国の建造物の一般公開など、サントハイムには無い文化だ。

ありがとう、と、言われた通りに広間横の通路に進む。もちろん目指す場所はコロシアムではない。この城の城壁四隅に立っている塔だ。そこから街を見渡したい。

塔への階段を探す。そして結局、誰かに止められることなく、目的の塔をすんなり登ることができた。敵国の間者対策を思うなら、どこかで止められるかと思ったが。しかし多分、サントハイム城も同様の緩さだろう。

さて。

塔から城下町、そしてその周囲を見渡す。山に挟まれた広大な平野が川で東西に分断されており、その川に寄り添うように、この城塞都市が鎮座している。川は丁度都市の前で川幅広く展開しており。そこの川はもはや海の一部と言える。

城壁はその海も刈り取り、城内に港を持つという、なんとも剛毅な構造。

いや、この高い城壁が街ごと丸々囲んでいるというところからもう、以前は想像していなかった。

そしてあれが、コロシアムか。あれ単体が小さい城と表現できるような、正方形の建物。天井は無く、すり鉢状になった会場をここから眺めることができる。その城壁も高い。間違いなく、戦争時は防衛拠点として活用できるだろう。

なんて規模の都市だろう。

規模を比較しようとすると、サントハイムとサランを隣接させて、さらに2を乗算したようなもの。言葉ではそうだとしても。実際に目で確かめてしまうと、この規模は表現が難しい。

世界最大都市。良かった、最大で。それ以上の表現は不要なのだから。

いや待った。将来も負けを認めることはない。この規模をサントハイムで実現するとしたら?

サントハイムとサランをつなぐ街道。それを起点に街を拡張すれば、超えられないこともない。それも睨んだサントハイム街道整備なのかも?

「どうですか?」

というクリフトの問いに、意識が戻される。当初の目的を思い出す。地下の怪物だ。

「んー、ピンとこない。第一ここであれば、すぐにお父様は問題の地がエンドールとお気づきになる気もする。……うん、違う、としましょう。好奇心も満たされたので、行きましょうか」

とはいえ、一応、次は城地下のフロアも目指してみる。怪物は地下から出現するのだ。

本当は王族の住まう上階を興味がてら見てみたい。が、許されるわけがない。これから地下を探すのは、その欲求解消の代わりのためと思えた。

地下をいちいち探す必要は無いとお父様から言われている。でも未練がましく、行けるところは行っておこう。

一階へ降りてきた。

今まで地下への階段は見当たらなかった。

城全体は線対称の構造に思える。地下への階段もそうだとしたら、東半分を既に歩いたのだ、見つかっているべき。

いや、外周側にないのかも。もう少し分岐に注意して回ってみようか、と思ったときだった。

正面から衛兵2名がこちらに向かってくる。そしてその奥に、人が一人。直感的に何かがわかる。

ええと、こういうときは!

狭い通路。ひざまずくのはいけない。端に寄って頭だけ垂れる! これだ!

きっと向かってくるのは王族。

ブライ、クリフトも私に倣っている。私の対応は間違ってはいないようだ。

衛兵二人の足が通り過ぎるのを見て、次は、ドレス、深く赤いヒール靴。多重のレースで形作るピンクのスカート。ボリュームがありながら、乱雑な印象を与えないレースたち。

相当計算されている。面白いなーと思って見ていたが、その女性の足が私の目の前で止まった。

んん。

んん!?

慌てて目を閉じる。わからない! 視線すら失礼だったか!? さすがに目までは気が回らなかった!

「あなた」

と、頭奥に響く声を掛けられる。

私、だよね。目を伏せたまま、どう答えようかと逡巡したが、

「この子、どう?」

ん、これは私向けのセリフじゃないかな。

「えっ!? いや、どうでしょう、これだけ見てわかるものでは」

顔を上げてみる。答えていたのは彼女の隣の衛兵だった。女性が言う。

「私から見て、とても、隙の無い立ち方なのだけど」

長髪を頭上にまとめあげて留めている金細工のバレッタも見事なもの。まとめた髪で膨らんだ頭とスカートの広がりのバランスも計算されたもの。顔のあどけなさなんて些細に思わせる淑女だ。

装飾品の派手さではなくシルエットに拘っている、それは非常に私の好みの思想だ。

年齢は、私と同じくらいだろうか。背は私のほうが5cmほどは高いが。

彼女は私に問う。

「あなた、名前はなんと?」

「レナと、言います」

「レナ、さんですね。腕に、自信はあります?」

何を、何を聞かれているのか。

「た、多少は……」

などと答えてみた。

彼女はお付きの衛兵にささやく。

「この謙虚な態度、相当の使い手だったり?」

「い、いや、一概にそうとは言えないかと」

な、なんなのだ。

彼女は笑顔で私を向いた。

「今から少し、お時間よろしい?」

 

クリフトと応接間に通される。

ちなみにブライはすぐに、疲れたので先に宿に戻る、と言って去って行った。あのブライである。疲れたというのは間違いなく嘘だ。しかし、ブライはこの城をお父様と歩いたことがあるはず。城内で目立つのは避けたいという判断だろう。

「かけて頂戴」

と女性に促され、クリフトと共に椅子に座る。テーブルを挟んで向かいに女性が座る。

「単刀直入に言います、武術大会は知っています? 興味はありません?」

彼女は終始私しか見ていない。答える。

「それは、見る方ではなく、参加する方として、ですよね?」

「はい」

「いえ、いろいろありますが、第一、参加目的が、ありません。間違っていたらごめんなさい、あなたと、結婚するためのもの、なのでは?」

「はい、私と結婚……、あああごめんなさい。そこからですよね! 失礼しました、私はモニカ・エンドール。この国の王女です。ご存知の通り、私の結婚相手を探すための武術大会になってしまっています」

王女。これは、これは一層、油断できない! ボロが出ないようにしなければ!

そして今まで笑みを絶やさなかった彼女だが、一つ自嘲めいたため息を横に吐く。

「そうなってしまったのはもちろん私の望みではありません。事故のようなもので、王、あのアホ王が! ちょっとした勘違いの芽を植えてしまって、結果こうなってしまったのです」

アホ王。私だったら少なくとも絶対口に出さない言葉だなぁ。面白いなぁ。

「しかし一度公になったことはどうしようもありません。残るは、それを正面から叩き壊すしかありません」

なるほど。私と気が合いそうだな、と再度思った。

「今考えている方法としては、私との結婚を辞退する人に優勝してもらう、です。幸い、大会名は武術大会。付け込む余地はありますし、今はお父様も、そうなれば仕方がない、と認めてくださっています」

何かを思い出したのか、再度彼女は黒いため息をついた。が、すぐに気持ちは切り替えたようだ。

「無関係な方にお願いするのも申し訳なく思いますが、ぜひ参加して優勝していただければと思っています。いかがでしょう!」

「な、るほど」

王に振り回される側の気持ちはよくわかる。知らない間に物事が頑強に決まっていくのは、とても気に入らないことだ。ああだめだ、もう心は固まってしまっている。

「結果の約束はできませんが、やって、みましょう」

「本当ですか!?」

彼女は破顔した。ふと我に返り、隣のクリフトを見てみる。クリフトは私の目を見て、頷いた。

ええええ?

これはあれだ、首を横に振りたいところだが、場が場なだけに、エネルギーを90度方向転換したのだろう! この場で私に聞くな!ということだ。

ああ、私はまた、やってしまったのだろうか。

彼女から一通りの感謝をもらって。

「では、お父様にも会っていただけないでしょうか?」

「えっ、どうして!?」

彼女はキョトンとした。

「それは、募集締切を過ぎていることもあり、私が参加者追加のために表立って動くのは、あまり好ましくありません。お父様が、なんらかの適切な推薦理由をつけてくれることが無難です。おそらく、お父様が直接会われるのが一番早いかと」

「なる、ほど」

エンドール国王に会ったことは無い。おそらく大丈夫だとは思うが、会って良いものか自信が無かった。

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