真面目新訳第二章 おてんば姫の望見   作:赤色ねんね

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(22) エンドールにて

朝。

特に連絡は来ていないが、今のところ二日後が武術大会という予定だ、それを前提に動く。

ではこの二日、どう過ごすか。

「やりたいこととしては、エンドールの次の目的地の検討と、エンドール内の一応の調査と、あとは、姫の武術大会参加の用意、というところでしょうか」

とクリフトは宿の部屋で話す。

「私の大会参加の用意って、何かあるの?」

「姫様次第です。これを機に武器防具を見直す、など」

「大会まで時間無いでしょう。慣れない装備には興味無いかな」

「承知しました」

「となると、次どこへ行くかを先に決めておくのが健全?」

と私が言い終わらぬうちに、クリフトは一枚の小さな地図を机に出す。

地図に対する私の感想は、

「知らない地図」

その地図をクリフトが持っていたとは知らなかった、という意味。このエンドール周辺の地図であることは見ればわかる。

「宿の受付で購入しました」

「へぇ、宿に売っているのね」

「宿に限らず、旅行者の寄りそうなところには大抵売ってますよ。道具屋や武具屋など」

「なるほど」

クリフトは地図の一点を指差す。ボンモール。

「エンドールから陸路で行けるのは北、ボンモールのみですね。さらにその北には、二つ集落が」

「ふぅん」

なんだか、わたし達が行くべきところとしては、違う気がする。

「陸路はわかった。海路はどう? 複数、選択肢あるよね?」

「そうですね、キングレオ大陸やコナンベリー地方には行けるかと。案内所に行って詳細の情報を知りたいところです」

キングレオ王国は情報制限されている、謎多き軍事大国だ。避ける気はない。そしてコナンベリーは世界のハブとなる独立港がある。

うん、世界とつながっている感触が出てきた。

「私もその案内所に行ってみたいかな。実際見て何か発見があるかも」

「そう、ですか。承知しました。今から行きますか」

「もちろん」

クリフトはエンドールの街内の地図も持っており、クリフトと二人で、メイン通りは避けつつ、案内所へ向かった。

 

案内所。

木造の大きな二階建ての建物、かと外見で思ったが、中に入ると広々とした吹き抜けの1階構造になっていた。

正面には3名待機している長い受付机と、少し距離を開けてその前には三つの丸テーブルと椅子、いやいや、やはり一番目につくのは、右の壁面の、巨大な掲示板だった。

この掲示板のために吹き抜けにしたように、高さ2階分を1枚の掲示板が占拠している。

そこには今日以降の到着と出発の予定が、船それぞれ1枚の張り紙で表現されているみたい。

掲示板の中で、やや左側にて縦に垂れ下がる赤い一本のロープの位置が、今日を示すのか。そのすぐ右の張り紙が気になる。

「ボンモール向け、休航中」

と読み上げてみた。

「エンドールからフレノールへの船到着が遅れていた件ですか」

「そう」

フレノールからの船はまずエンドールに到着し、その後ボンモールまで回って、またエンドール、フレノールへと帰ってくる。その内、エンドールからボンモールの船が休航ということ。

フレノールに船が戻ってこなかったことに対し、何か関係があるのかもしれない。大したことではないかもしれない。

しかし、もしかするとこのエンドールでは私達だけが、フレノールから見た遅延情報を持っている、かもしれない。

それが重要じゃないとは誰も保証してくれない。そういう気持ち悪さを感じる。

クリフトが言う。

「聞いてみましょうか?」

何を聞くのかいまいちピンとこなかったが、任せてみようと、私はうなずいた。

クリフトは空いた受付の一人に話しかける。

「質問、よろしいでしょうか」

「はい、なんでしょう」

「フレノールからボンモールまでの航路でこの一週間、何かトラブルはありませんでしたか?」

受付の女性の口調が一気に明るくなる。

「ありましたよ! 航路をまたぐ橋、ご存じでしょうか? エンドールの方にある橋です。それが落ちてしまって、それを知らずに航行しようとして船は座礁。数日掛けて船を無事座礁から離脱させ、エンドールには引き返して来れました。ということで、未だ橋の残骸が航路をふさいでおり、ボンモールまでは休航、今はフレノールとエンドールを往復するだけのコースにしています」

「そうですか。フレノールから来るはずの知り合いがまだ来ていなくて、不思議に思ったもので」

「エンドールまでであれば、座礁解決したのが昨日で、今は問題なく運行できているので、それは大丈夫かと」

「ありがとうございます。ところでボンモールまでの船はいつごろ再開されるのでしょう?」

彼女は軽く眉間に皺を寄せつつ口角を上げる。

「それが、ちょっと読めないですね。城には二度意見書を出していますが、表面上動きが見えていません。おそらく武術大会の用意で余裕が無いのでしょう。どうなることやら」

「橋が落ちたということは、陸路でもボンモールには今行けないということですか」

「あー、すいません、はい、行けません。ちょっと良いですか?」

と受付は地図をクリフトに見せていた。

私から見えなかったが、見に行くことも無いか。

受付は説明を続ける。

「落ちた橋はここ。もともとこれは陸路としてボンモールにつながっていません。一方でこれがボンモールまでの橋なんですか、これはこれで、1年ほど前ですね、落ちています。これはボンモール管轄の橋で、老朽化によるものと見ています。落ちる前から再三修復依頼を出していましたがボンモールからは反応無く、こちらの方が一層、復旧は読めないですね。ということで、陸路も海路もだめですね」

「ボンモールに行く手段が無いと」

「はい。この山は越えられませんし、可能性があるとすれば航路を、大きい船はもちろん不可で、例えば小型ボートを使ってとなりますが、座礁を避けるのはそれほど簡単ではないはずです。私は現場を見てませんが」

「そうですか、ありがとうございます、参考にさせていただきます」

としてクリフトと私はいったん受付から数歩離れる。

「だそうです」

「フレノールから見た遅延の原因がわかって何より。杞憂だったね。ただ、ボンモールに行けないという情報が事前にわかって良かった。と、なると」

と私は掲示板にある、定期船の直近の出発先を見る。

「5日後、キングレオ王国のハバリア、これかな」

キングレオ王国を私はあまり分かっていないからこそ、望みがある。

私がわかっていないだけではない。他国との交流が乏しい国だ。情報があるはずもない。国全体が、怪物発生ポイントの可能性と思えてくる。

そうして、5日後のハバリア行きの船の席を予約した。出発までまだ日数があるが、キングレオ王国の地図も併せてここで購入した。

 

その後、案内所の近くで昼食を取り、宿に戻り、キングレオ王国縦断計画、他の大陸への渡航計画を大雑把に立てた。

お父様と約束した期間は、たった三ヶ月しかないのだ。

まず、今日入手した地図では細かな村落まで記載されていない。キングレオ王国最初の港町、ハバリアに到着して細かい地図を入手し再検討しなければならない。現地の方が細かい地図が手に入りやすいとのこと。

しかしキングレオ王国だけに時間をかけるわけにもいかない、他の大陸へ行く必要もある。

キングレオ王国調査に割く時間は三週間と決めた。その間、5の集落を回ることが目標。それで果たしてどの程度、キングレオ王国を網羅できるのか。今は気にしても仕方がない。

そんな検討を三人で実施し、日が暮れ始めたため、早々に解散し、明日に備えることとなった。

 

翌日。

武術大会開催が明日の朝確定という連絡は昨夜受けている。大会までの、残りのこの一日。エンドールの街を回って過ごすこととした。

意外なのは、ブライも同行すること。ブライもブライで、単独この街でやることがなくなったのかな。

さて。

 

……。

…………。

………………。

日は暮れ、夕食を取り、宿へ帰った。

なんだろう、もやもやしていると言えば良いのか。ふわふわしていると言えば良いのか。

武術大会のことを考え込む時間が多く、集中に欠ける一日だった。信じられない。

今日、何があっただろうか。

宿の周り。飲食店が多かった。

これらを把握し、その中から自分の好みを見つけることは、先の長い難しさがあると感じた。しかし、見つけたときの達成感はありそうだと。

次は服屋の並ぶ通り。

旅用途としては耐久性が不足し、かといってデザインに惹かれるものがあるわけでも無く。人で賑わいを見せてはいたが、私には少し物足りなかった。

という意味では。

そこから二本ほど外れた通りだっただろうか。あれは面白そうだった! 仕立屋があった! 装飾品を扱う店もあった!

しかし店に入ることをクリフトに止められた。グレードが高すぎるらしい。

確かにそれで誘拐されるリスクを増やしては、意味がない。私たちが裕福に見えるのは好ましくない。

……ああ、それら店舗内を見られなかったことが、私にとってなかなかショックだったようだ。

その後は。

武具や旅行具を扱う通りもあった。

うーん。

とある店で見た、鉄の爪という武器は少し面白かったかも。ただ私が使うならと思うと、まだ構造に工夫が欲しい。引っ掻くだけの攻撃に意味は無い。

ちょっとした改造案も思いついた。テンペのゴーラなら改造を請け負ってくれないか。

という話をしていて、その武器屋の店主から、鉄の爪考案者の武具屋の場所を紹介された。

私たちのエンドール滞在中に何か改造ができるかもとそこを訪ねると、仕事道具全て処分した空っぽの家に住む、現役を退いたという老人と会って。

彼が鉄の爪考案者だった。本人曰く、武器屋ではなく発明家とのこと。彼はもうエンドールで仕事をする気が無く、一か月後に故郷に帰る、と。自分の代わりに、エンドールで隠れて店を構える弟子を頼るか、あるいは故郷に戻った自分を探し出したときには話を聞くと言われ。

いいじゃない、武術大会終わってから出航まで数日、エンドールに滞在する予定である。その数日で弟子を探し当ててみせよう。

そういった顛末のため、武術大会は結局やはり、従来の装備で臨む予定となった。

今日あったことと言えば、そんなところか。

明朝は、武術大会か。

不思議だ。24時間後には全て終わっているだなんて。想像できない。

緊張しているのか。よくわからない。楽しみなのか。わからない。

びっくり箱を開けるような気持ちかと言われると、その通りだ。開けてみないとわからないと言うところが特に。

さて。

今日は努めて早く寝よう、そう思った。

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