真面目新訳第二章 おてんば姫の望見   作:赤色ねんね

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(24.5) エンドールにて

城前で大会前最初に私が待機していた場所。

彼がいた。

「止めて!」

カザフが馬車の御者に止めるよう指示を出す。

「どうした?」

「外に私の、仲間がいて!」

そのまま馬車扉のかんぬきを開ける。

「待っていて!」

馬車を飛び出す。クリフトはこちらに気づいた。

「クリフト!」

彼は馬車を不審そうに見ていて。それはどうでもいい!

駆ける。

「ゼロスがエンドールに来ていて!」

彼の口は、はい、と形作った。

「そのまま! 疲労で、亡くなったって!」

やっと彼の前に到達する。

彼の顔を見れなかった。

彼は何も言わない。

私の両肩にそっと手が添えられる。

彼は私の顔を下からのぞき込もうとした。

正直に言うと、ちょっと私の目に涙が溜まっていた。顔を上げたら決壊しそう。

つい顔を少し背けようとして、それだけでああ、涙が一滴ずつ、地面に吸い込まれるのが見えた。

弁解もしておこう。ゼロスが亡くなって悲しくて、ではない。全く無いとは言わないが。

ゼロスに何が起きたか。きっと王城で何かあった。悪い想像しかできない。

それは、つらい。

そんなときに、クリフトの顔を久々に見たら、緩むものってあるじゃない?

どちらにせよ、涙は私の弱さというのは、間違いない。

クリフトは一言、

「きっと、大丈夫です」

と言った。

根拠もなくそんなことを言う人ではないのに! 言わせてしまった。なんだか悔しいな!

大丈夫なのはゼロスなのか王城なのか私なのかお父様なのか、問いただしたくなる。

「おい、二人」

と、馬車から降りてきたカザフが声を掛けてきた。

「済ませるべき急ぎの用件がある。続きは中でやれ」

と馬車を親指で指した。

クリフトは私を見た。

「行こう」

と、私は馬車を見据えて言った。

 

馬車の中。

「改めて、私はこの国の執政官を務めているカザフだ。武術大会の推進役でもある」

クリフトも私と共に、三日前に城内で彼から武術大会について説明を受けていた。

「そうですか」

とクリフトは一言で返し、すぐに隣の私に向き合う。

「落ち着きましたか?」

「私は大丈夫」

「ゼロス様のことは、確認されたのですか?」

「いえ、これからよ。今私たちは西門に向かっていて、そこで確認することに」

「今わかる情報は他に何が?」

私は正面のカザフをちらっと見た。

カザフは咳払いをした。

彼は懐から丸まった紙を一枚出した。

「ここに書いている」

クリフトは受け取ってそれを読む。

……。

書いている内容を読み終える程の時間が過ぎても、クリフトは顔を上げなかった。

私も横から紙を覗き込んでみる。

前半は聞いた通り。後半は。

医者による死亡確認。目立った外傷無く、疲労による循環器異常ではないか。そして、エンドール司教による蘇生失敗。

そう、か。

クリフトは紙面を見つめ続けていた。

 

城門に到着。

カザフの案内で、城門横の建物に案内される。

一度クリフトからは、

「レナ様はお待ちいただいても」

と提案があったが、

「大丈夫」

と返した。

案内された部屋。二つあるベッドのうち、手前。ゼロスが横たわっていた。

寝ているかのようで。窓からの暖かな光。綺麗な顔。だけど髪や服を見ればわかる。これは長距離移動を強行した跡だ。

それで、死ぬまで疲労するなんて。

おかしいね?

あなたは何を思っていたの?

あなたの望みは何?

彼のこめかみを撫でた。その冷たさに少し驚いた。

私は息を吸い、視界をいったんリセットした。

「確かに、サントハイム騎士団所属のゼロスであることを確認しました。お手数ですが、遺体をサントハイムまで送っていただけますでしょうか? 騎士団長ゲイン宛てに」

「かしこまりました。丁重に対応いたします。船で三日後には。同乗されますか?」

カザフは跪いていた。

「お心遣い、感謝いたします。船は定期便利用でお願いします。私たちが向こうで用意をする時間も頂きたいところ。私たちは別に帰還を予定します」

「かしこまりました」

おそらく、国へは慎重に近づく必要があるように思った。次にクリフトへ向く。

「クリフト。急ぎサントハイムへ帰還しましょう」

彼も跪いていた。

「はっ。ブライ様とも相談した上で、判断いただければ」

「良いでしょう。ではここは、失礼しましょうか」

「いえ、今──」

と、跪いていたカザフが立ち上がろうとして、それは扉の小さなノックで停止することになった。

「待て!」

とカザフは扉の外へ言いながら、クリフトを指差し、そのまま指を上へ向けるジェスチャーを二回取る。

跪いていたクリフトが立つ。

それを受けてカザフが、入って良い、と扉奥の人物に返す。

入ってきたのは。見たところ、エンドール兵士に見えた。そうか。

カザフが兵士に説明する。私を指す。

「彼女が彼の探し人だ。何があったか話してあげなさい」

「あの、俺……!」

カザフはそれを制する。

「時間が無い。前置きは不要だ」

兵士は戸惑いながら、話し始めた。

 

彼はその時間、門番の役についていた。西門の利用者は四門の中で一番少ない。

そのため、ゼロスの接近には早い段階で気づいていた。ふらふらの旅行者が来ているぞ、と。

ゼロスは門の手前20mほどの地点で倒れ込んだ。

たまらず兵士は駆け寄った。

「大丈夫ですか!?」

男はへらへらと笑っていた。

「いや、はは、ペース間違えて、このざまだ、大丈夫さ一応」

「そうは見えませんが! 中で休みましょう」

「休む暇は、無いんだな! 人を探してるんだ」

息は荒かったが、特に問題なく会話はできていた。

「それは休んだ後で良いでしょう?」

「だめだ、情報が無いし、余裕も無い! レナという娘を、知らないか? お供二人でこの門を、五日ほど前にくぐった、はずだ」

「私はその日は門にいませんでしたけど、レナというのは、今武術大会に参加している人ですか? 丁度聞いたことがあります。鮮やかに勝ち進んでいるとか……」

彼は破顔した。

「絶対それだ! なんだ、早かったな、良かったぁ……」

彼が脱力するのがわかった。

「夕方には大会は終わるはずです。私が取り次ぎますので、あなたはそこで休んでいったらいい。あ、私運びましょうか!」

「あー、ああ、すまねぇ……」

肩を貸して宿直の建物に入ったときには、すでにゼロスは寝ていた、ようだった。

そのまま仮眠室のベッドへ。

本当に寝ているのかどうか、確認しようとは全く思い至らなかった。

 

「すいません、私がよく確認していれば!」

と、再度兵士が私に頭を下げる。彼の目は涙を溜めていた。

「お前の責任ではない」

とカザフは断じる。

いや、その通りだ。

そしてなぜかそれは、私が言われているような錯覚を覚えた。

兵士の左肩に手を置く。

「顔を上げてください。お話ししてくれてありがとう。彼の最期は、まだ不明な点もあるけれど、穏やかなものだったと、信じます。あなたはよくやってくれた」

その兵士の涙を溢れさせてしまった。私のそれよりも綺麗な涙だ。

それは、良かった。

「カザフ様も、ご対応ありがとうございます」

「大会推進役の範疇だ、気にするな」

とカザフは素っ気なかった。

兵士は退出した。

私たちも宿に戻ることに。カザフは宿まで馬車に乗せてくれるという。その申し出を有難く受け取った。

メインの通りから離れているとはいえ、人目が全く無いこともない。レナとして、カザフとはあっさりと別れた。

 

宿でブライと合流。

これから、サントハイムに帰るかも未定として、それでも結論が出るまではとりあえずサントハイムに向け、旅支度を早急に整え、エンドールを発った。その道中で今後の計画を話し合うことにした。

エンドール西門を出た。そこから見える風景。草原上の道が丘の向こうで見えなくなっている。

なんでもない風景。

全て、淡い橙一色で塗りつぶされているその様は、なんとなく、鼈甲を連想させた。

私の中で永久保存される。

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