真面目新訳第二章 おてんば姫の望見   作:赤色ねんね

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(24.6) エンドール北のほこらまでの道中にて

エンドール北の、旅の扉のある宿までの道中を三人。

駆ける気分になれず、ずっと早歩きだった。会話できる速度ではある。

「そろそろ良いかしら?」

「はい」

周りには私達しかいない。

「最初に言った通り、ゼロスは何かを私に伝えようとエンドールに来て、力尽きた。騎士団(オリオン)が力尽きるなんて、余程のこと。王城に何か起きているのは間違いない。早急に確認する必要があると思う」

「半分賛成です」

とは先行するクリフトのセリフ。

「半分とは?」

と聞きながら、既にクリフトの思考に追いついていた。

私は三人で一つと根拠無く考えていた。

「王城へ確認に行く必要はありますが、王城がどうなっているか不明な以上、危険がまずあり得ます。姫様は一旦エンドールに保護された上で、私たちの二人、あるいはいずれかが王城に戻り確認するのが良いと考えます」

ブライの反応を待たず私は、却下、と意図的に明瞭な声で返した。

「でしょうね」

「でしょうな」

「なによそれ」

「自分でも、実現し得ないことを話しているなと感じながら、話していただけです」

「大会のご様子も然り、守られるだけの姫様ではないと、よくわかり申した」

それ、腕力でなんでも解決しようとする世間知らずの娘、とも捉えられない?

「我ら三人で帰還すること、良いと思います」

とクリフトは結論づけた。少し納得はいかないが、結論自体には異論は無い。

とはいえ、様々な可能性は覚悟した上で動くべきだ。

「王城、どうなっていると思う?」

と私は、抱えていた疑問を率直に聞いてみた。

クリフトが答える。

「なんとも、読みにくいというのが本音です。まず我々にとっての情報は、ゼロス様しかありません。彼が命令書の類いを持っていないことが不可解です。ブライ様はいかがお考えですか」

「左様。王命であればもちろんのこと、王命が出せぬ状況であれ、代理命令書はあるべきじゃ。隠密として命令書を携帯しない、ということも、無いことはない。しかし、そこに緊急、重要が紐付くというのは、ちと妙だのぅ」

「そうですね。余程のことが起こった、いえ、憶測でしかありませんが」

「いいわ別に。憶測を膨らませるだけ膨らませておきましょう。王命が出せない状況……。戦争? クーデター? 魔物の襲来?」

お父様がお隠れになったことはすでに前提だ。

「そう、ですね。しかし、よほど鮮やかに仕掛けたとしか。何しろ体制が何も残らなかったということですから」

体制が何か残っていればそこから何らかの命令書がゼロスに出せたはず、という意味だ。

ブライが口を開く。

「余程のことが起こっておる。エンドールに何らかの知らせもすぐに届きましょうし、サラン、テンペ、フレノールもどうなっておるか。道中、ゆめゆめ油断なさいませぬよう」

「道中……。戦争であれば、どこに敵軍がいるかわからない。クーデターであれば誰が私たちの味方か。あるいは強力な魔物がひしめき合っているかも、ということかしら」

と言っておいて、実感は無い。

ブライは、そうですな、と、明言を避けた印象だった。

「情報が無いため、今言えるのはそのくらいでしょうか。あとはゼロス様の行動で、気がかりなところはあります」

「行動」

「行動というよりは目的かもしれません。ゼロス様はおそらく、何者かにより、我々の保護を命じられたのではと考えます。保護より前に、我々を捜索するということに、それほど献身する必要があったのか、違和感を覚えます」

私たちを守って命を落とすならまだわかる、と聞こえる。

「それも、ね」

それもあのゼロスが、とは言わないでおいた。私が彼の心境をわかるはずもない。

「どこまで無理をすれば、ああなるのかしら」

その独り言をクリフトが拾う。

「一般的に、長時間の行軍は危険です。騎士団(オリオン)に休憩細則もあり、そのため、さほど意識せずに習慣として長時間行軍を回避している印象ですが」

ゼロスがそれを怠ったということになる。

それが私だったらわかる。私も一人行動となると、無理しがちだ。

その行為は危険ということを改めて、肝に銘じないといけない。回復呪文は外傷にしか効果を発揮しない。そして生命活動に必要なエネルギーを使い切ってしまった後では、回復できない。死に至る。

そんなことを彼が知らなかった、わけはないのに。何を考えていたんだろう。

ふと、気づいたことがある。

「ゼロスは、私が武術大会に出ていると聞いて、安心した」

クリフトとブライは私の次の言葉を待つ。

「有力な手がかりを得られて、安心? もちろんわからなくもない。でもそれって、私と会わないと、じゃない普通? 何か、違う気がする」

「……生存確認ができた、ということでしょうか例えば?」

「ええ? それってまるで、私に命の危険があったとでも──」

黒の剣士。デスピサロ。

ふと、思い浮かんだ。

いやいや!

であれば、武術大会に参加中という情報は全く安心材料にはならないはずだ。

いやいや!

そもそも武術大会に危険があるなんて、サントハイムで知る術があるだろうか。

予知?

王の命令書があればその可能性もあっただろうが。

……話が循環してきた。

「姫様?」

「いえ、今ある情報だけではなんとも言えないわね。油断せずに、まずは帰りましょう。ペースを上げましょうか」

「承知しました」

走る。気を抜いて先ほどの思考のループに陥ってしまうことの無いよう。

 

日はとうに暮れた状況。エンドール北、旅の扉の付属する宿に到着し、そこで一泊。そして早朝に出発。もちろんサントハイム地方へは旅の扉を利用する。

先にクリフトが教会跡へ転移する。

予め決めた20分という時間でクリフトが戻らなかったら、という事前に決めた事項は杞憂で、10分も経たずにクリフトは戻ってきた。

その報告は。

 

教会跡前の騎士団(オリオン)詰め所。

一人詰めているはずの隊員ユアンが、いない。

「特に不審な跡も無いですね。乱された形跡もなく、人のいる形跡も無く」

とクリフトは詰め所を検め終わり、出てきた。

サントハイム領土に入った途端の異変と言える。しかしまだ、大きな異変であるとまでは言えない。

「なんとも、言えないわね。急ぎ、北上しましょう」

はやる気持ちを抑えたはずの声だった。

体が冷えていた。

 

フレノールへ向かって北上。

その道中東に逸れると、旧フレノール王墓がある。

ここも、騎士団(オリオン)が詰めていた場所だ。

そこをクリフトが先行して様子見するも、すぐに戻ってくる。 

「ミトス様がいました」

「えっ!?」

その割には何事も無かったかのように戻ってくる。

「軽く話しました。我々の敵では無いように、思いました。彼に内容が伏せられたままで、マーテル様には、王城へ戻るよう指示があったようです。マーテル様も、それとリーガル様も、つまりここにはミトス様のみです。そしてユアン様も同様に帰還されただろうと」

「ふうん……。ゼロスの話はあった?」

クリフトは回答を一拍開けた。

「ありました、が、文脈上あまり聞けてません。ゼロス様は姫様を探しながら、マーテル様やユアン様への連絡もこなされた、という程度です」

「ゼロスがエンドールに来る前にここでミトスと話したのね?」

「はい」

「なら今、私からもミトスと話したい」

「それは……」

とクリフトは渋い顔をした。

「まずい?」

「いえ、まず、問題ないとは思いますが、しかし、彼が敵ではないと確定できたわけではありません。上辺の会話はできましたが、彼が嘘をついている可能性もあります。例えば、騎士団(オリオン)全体が我々の敵であり、姫を確保する命令が出ている、など」

斬られる覚悟をもってクリフトは、ミトスと話したのだ。

なるほど、クリフトと話したくらいでは、その疑問が払拭できるわけではないか。だとしても、ゼロスの話が聞ける機会かもしれない。

「それならそれとして、今がチャンスなのでは? 今はミトス一人。さすがに私たち三人なら、遅れを取らないのでは? それで騎士団(オリオン)全体の話がつかめるのなら、悪くない賭けね」

「なる、ほど。賭けにはしたくないですが、価値はある、かもしれません。やりますか」

とクリフトはブライに尋ねる。

「承知」

とブライは、小気味よい音を立てて、左手の杖を右に持ち替えた。

どうやら、ブライはこの提案に乗り気のようだ。騎士団(オリオン)が私に、王家に害をなすことは、承服しがたいのかもしれない。心強い。

ただ、あまり殺気立たないようにね?

「どう、話されるのですか?」

「それは、──嘘をつきましょう」

 

堂々とミトスの方へ、私を先頭として三人で進む。

まだ距離はかなりあったが、ミトスはすぐにこちらに気づいた。別段驚いた風ではない。

事前のクリフトとミトスとの会話の中ではクリフトからは、私はエンドール滞在中という嘘をついてもらっていた。油断させるため。まあ、大したこと嘘ではないか。

ミトスは跪いた。

「数日ぶりにございます。まさかまた、このような場でお会いできますとは、姫様」

「やめてください。私は外では王女ではないのですから」

「なるほど、それは失礼しました」

とミトスは立ち上がる。

姉のマーテルがいなければ、なかなか落ち着いた青年という印象だった。

ミトスが尋ねる。

「何かあったのですか? 先ほどクリフトからは、エンドールにいらっしゃると聞きましたが」

「用心のため嘘をつかせてもらいました、ごめんなさい。実はゼロスから、クリフトの帰還命令を受け取ったわけでは無いの。私たちはゼロスとは会っておらず、だけどエンドールにゼロスは来ていることは知っていて、私を探していることも偶然知ることができて。ただそれ以上の情報が無く、私たちもゼロスを探したのだけど見つからず。ゼロスが来たということは、王城にて何かが起きていると考えて、今戻る途中です。何が起きているかわからないものですから、用心を」

「なるほど。確かに私も不思議に思っています。姉さんが招集される事態、それも私には説明無く、ユアンには説明があったって! まあ、守る拠点ごとの重要度の差かなとは思っていますが」

「ゼロスに会ったのよね? 変わった様子は無かった?」

「え、いえ……」

とミトスは斜め地面を睨む。

「よほど、急いではいるようでした。しかし私には説明がなかったので、重要度はそれほどでもないのかなと。多分、知らぬ間に解決する話なのかなと」

これ以上深くは聞けないかな。

あっ、と、ミトスが声を出す。

「奴は騎士団(オリオン)隊員の招集を急いでいたんだろうと今まで勝手に思っていましたが、そうではなく、姫を探すことを急いでいた、という可能性も、ありますね」

「……そうね」

絶対にそれだ。

「いやしかし、そんな状況は、王が、あいや、いや、なんでもありませんが!」

「いえ、大丈夫」

「申し訳ありません……。憶測は、良くないですね。私はここで、私の使命を全うすることに集中しなくては」

「はい、よろしくお願いします。私たちはこのままサントハイムに戻りますが、何か言伝などありますか?」

「言伝、姉にですか? いえ、あの人なら心配してません。何が一体どうなっているかは興味がありますが、次の交代の時を楽しみにしています」

「そう。わかりました。では、私達は行きます」

「はい。お気を付けて」

として、三人でその場を離れた。

 

「反省。クリフトが事前に聞けたこと以上に何か情報が得られたわけじゃない。単に私が直接話ができたという満足感があっただけね。今度は気をつけるわ」

「いえ、会話を重ねても、ミトス様に不審なところはありませんでした。ミトス様への疑いはほぼ晴れたのでは」

「そうね、変なところは無かった」

「左様ですな」

「隊員上位がどんな情報を共有しているかはわかりませんが」

「それは、そう。でも、根拠は無いけれど、騎士団(オリオン)が私の敵ということは無さそうな、そんな気がする」

「おっしゃりたいことはわかります」

「油断は禁物とはいえ、の」

少しだけ、多分少しだけ、心が軽くなる。

ミトスは、お父様の身に何かあったのではという気づきを見せた。

しかしその場合、正式なパスで私に連絡が行くはずだ。それが無い。

だから多分、大丈夫。

何か解決したわけではないのだが。

少しは前を見て、進めることができそうだった。

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