フレノールへの道中、ふと、武術大会について話す機会があった。
「どうだった?」
「お見事でした」
とはクリフト。
「それだけ?」
「そう言われましても、いろいろはありましたが……。初戦、ハンとの戦いですね。彼はきっと、マリア先生の弟子ですよね」
「ちょっと待って、名前を知ってるんだ?」
「対戦表に書いていますが。ああなるほど、出場者には伏せられていたのですね」
「今ある? それ、後で見せて」
「ありますよ、では次の休憩時に」
「彼とはもうちょっと戦いたかったけれど、運悪く、運良く、攻撃が入ってしまって」
「あの時の残念そうな姫の顔は見ものでした」
「うわぁ……」
観客席から距離はあったでしょうに! あの時の感情は全て筒抜けだったのか……。
「彼の話をしたら、次はマリア先生の話をしないといけないわね」
「私は対戦表を見てすぐに気づきましたが」
「私は先生と戦う直前よ、もちろん気づいたのは!」
「見ものでした」
「あなたそれ以外に何かないの?」
「いえ……。私でも唐突に会うと、ああいった反応になるだろうと思うと、私の反応を客観的に見るようで、感慨深いものがありました」
「なんだか煙に巻かれたような」
「うまく表現できませんが、なんと言いますか、嬉しかったです」
「最初からそう言いなさい。私も、嬉しかった」
「はい」
私はクリフトの後ろを走っている。
彼は今どういう表情をしているんだろう?
「あれは、楽しかったわね。最初の撃ち合いで、これは負けるとわかったわ。何をやってもその上を行かれる、と」
「お勝ちになったようですが」
「勝ちを譲られたと思わない?」
「そういう表現になります? 認められたのだとは思いますが」
「手加減されても?」
「されたのですか?」
「いや、……わからない」
「聞いてみないことにはわからないですね」
「そうね」
その機会は、そう、いつになることか。
「でも、でも! とても綺麗だった」
「先生がですか?」
「先生が」
「姫もお綺麗ですが」
「あのね、容姿の話じゃないの」
「構えの話でしょう」
「なら! いつものように、言わないでちょうだい!」
「はい失礼しました、それで構えの話ですね」
私の言葉は彼に何も響いていないのではと思う。
「……先生の構えが綺麗だったという話」
「姫の構えも」
「いえ、数段、差があったわ」
「そうですか」
「それがわからないなんて、あなたは、鍛え直した方が良い。いや! わかったわ。私がその境地に至って、あなたに前の私との差を教えてあげる」
「……お手柔らかに」
ちょっと楽しくなってきた。
「あとは、決勝の相手、デスピサロは見たのよね? どうだった?」
クリフトからの応答が一拍遅れた気がした。
「凄まじかった、ですね」
「どういう風に!?」
「圧倒的です。全て、二太刀で終わらせていました」
「二太刀!? それって、瞬時に二撃ということ?」
「いえ、一拍、1秒ほどは開けた、二撃です」
「そう……?」
瞬時に二撃というのは個人的な研究テーマだったのでつい、興味が喉から出てきていた。まあ、剣ではあり得ないか。
クリフトが続きを話す。
「一太刀目は、部位が毎回異なりますが腕や脚の切断です」
「え、それもう決着ついてるじゃない」
「そうです。そして二太刀目は常に、首を切断します」
「……」
漠然と、その構図を想像する。
二撃目に何の意味が、と思ってしまった。
「余裕、というわけね」
「だと思います。ゆっくりと無造作に距離をつめ、目にも止まらぬ速さの初撃と、儀礼的な第二撃」
「陰湿?」
「そういう表現もできますね。そうですね、よほど自分の力を誇示したいか、相手に明示的な痛みを与えたいのか、相手の苦痛を見たいのか」
私が言葉にならなかったところを的確に表現してくるため、クリフトの性格も悪いのだろうな、などと思いつつ。
「そんな人には見えなかったけど」
「ご覧になりましたか」
「いえ、試合ではなくて。控え室近くで、彼が歩いているのを見たというだけ」
ただ当時見たときには、なんだろう、彼は理性的な人という印象を受けた。
私は言葉を続ける。
「試合になると高揚するタイプなのかな」
と言って、私もそれなのではと軽く自己嫌悪に入りつつ。
「いえ、淡々としたものでした。機械的に、何の感情も見せず、興味もなさそうで」
試合が、退屈。
私ならばそういう場合。
「相手が、物足りなかった?」
もしかすると、事前に私を見て、戦う価値が無いと考え、姿を消したのかも? 物足りない、と。もしかすると、剣を使わない相手とは交わる価値も無い、という意味かもしれない。
いやいや、あの時点では私は決勝戦の相手とは決まっていなかった!
……この考えはまずい。もしマリア先生のことも事前に彼がわかっていたのだとしたら。決勝戦の相手は、私か先生だ。
先生と、戦う価値も無いと?
……。
いや、やめておこう。そもそも対戦内容は参加者には伏せられていたはず。意味の無い想像だった。
「姫?」
先行するクリフトが振り向く。
「いえ、なんでもない。機会があるなら、彼に一泡吹かせたいとだけ」
「な、なるほど」
落ち着こう。別のことを考えよう。
とここで、直接的な質問をしていなかったことに気づいた。
「私相手なら、どうだった?」
「どう、でしょうか」
その反応はつまり、私でも同じ運命を辿った可能性が高いということだ。
ちらとブライを見る。ブライは視線を落とした。
クリフトと同じ意見ということだ。なるほどね。
クリフトが最後に付け足す。
「ただ、あれだけ鮮やかな太刀筋であれば、蘇生して傷1つ残らないでしょう。そこは心配せずに済みました」
クリフトは意図的に軽口を叩いている。
「ふふ、ふ」
思わず、私から不敵な笑みがこぼれてしまった。
しかし、私がデスピサロに対して持っている情報は少ない。勝てるかどうかについて、何も言えない。
それが、歯がゆい。なんとか次が無いものか。
まあ良い。楽しみができた。楽しいのは良いことだ。
不安なことは、考えたくない。