真面目新訳第二章 おてんば姫の望見   作:赤色ねんね

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(25) フレノールへの道中にて

フレノールへの道中、ふと、武術大会について話す機会があった。

「どうだった?」

「お見事でした」

とはクリフト。

「それだけ?」

「そう言われましても、いろいろはありましたが……。初戦、ハンとの戦いですね。彼はきっと、マリア先生の弟子ですよね」

「ちょっと待って、名前を知ってるんだ?」

「対戦表に書いていますが。ああなるほど、出場者には伏せられていたのですね」

「今ある? それ、後で見せて」

「ありますよ、では次の休憩時に」

「彼とはもうちょっと戦いたかったけれど、運悪く、運良く、攻撃が入ってしまって」 

「あの時の残念そうな姫の顔は見ものでした」

「うわぁ……」

観客席から距離はあったでしょうに! あの時の感情は全て筒抜けだったのか……。

「彼の話をしたら、次はマリア先生の話をしないといけないわね」

「私は対戦表を見てすぐに気づきましたが」

「私は先生と戦う直前よ、もちろん気づいたのは!」

「見ものでした」

「あなたそれ以外に何かないの?」

「いえ……。私でも唐突に会うと、ああいった反応になるだろうと思うと、私の反応を客観的に見るようで、感慨深いものがありました」

「なんだか煙に巻かれたような」

「うまく表現できませんが、なんと言いますか、嬉しかったです」

「最初からそう言いなさい。私も、嬉しかった」

「はい」

私はクリフトの後ろを走っている。

彼は今どういう表情をしているんだろう?

「あれは、楽しかったわね。最初の撃ち合いで、これは負けるとわかったわ。何をやってもその上を行かれる、と」

「お勝ちになったようですが」

「勝ちを譲られたと思わない?」

「そういう表現になります? 認められたのだとは思いますが」

「手加減されても?」

「されたのですか?」

「いや、……わからない」

「聞いてみないことにはわからないですね」

「そうね」

その機会は、そう、いつになることか。

「でも、でも! とても綺麗だった」

「先生がですか?」

「先生が」

「姫もお綺麗ですが」

「あのね、容姿の話じゃないの」

「構えの話でしょう」

「なら! いつものように、言わないでちょうだい!」

「はい失礼しました、それで構えの話ですね」

私の言葉は彼に何も響いていないのではと思う。

「……先生の構えが綺麗だったという話」

「姫の構えも」

「いえ、数段、差があったわ」

「そうですか」

「それがわからないなんて、あなたは、鍛え直した方が良い。いや! わかったわ。私がその境地に至って、あなたに前の私との差を教えてあげる」

「……お手柔らかに」

ちょっと楽しくなってきた。

「あとは、決勝の相手、デスピサロは見たのよね? どうだった?」

クリフトからの応答が一拍遅れた気がした。

「凄まじかった、ですね」

「どういう風に!?」

「圧倒的です。全て、二太刀で終わらせていました」

「二太刀!? それって、瞬時に二撃ということ?」

「いえ、一拍、1秒ほどは開けた、二撃です」

「そう……?」

瞬時に二撃というのは個人的な研究テーマだったのでつい、興味が喉から出てきていた。まあ、剣ではあり得ないか。

クリフトが続きを話す。

「一太刀目は、部位が毎回異なりますが腕や脚の切断です」

「え、それもう決着ついてるじゃない」

「そうです。そして二太刀目は常に、首を切断します」

「……」

漠然と、その構図を想像する。

二撃目に何の意味が、と思ってしまった。

「余裕、というわけね」

「だと思います。ゆっくりと無造作に距離をつめ、目にも止まらぬ速さの初撃と、儀礼的な第二撃」

「陰湿?」

「そういう表現もできますね。そうですね、よほど自分の力を誇示したいか、相手に明示的な痛みを与えたいのか、相手の苦痛を見たいのか」

私が言葉にならなかったところを的確に表現してくるため、クリフトの性格も悪いのだろうな、などと思いつつ。

「そんな人には見えなかったけど」

「ご覧になりましたか」

「いえ、試合ではなくて。控え室近くで、彼が歩いているのを見たというだけ」

ただ当時見たときには、なんだろう、彼は理性的な人という印象を受けた。

私は言葉を続ける。

「試合になると高揚するタイプなのかな」

と言って、私もそれなのではと軽く自己嫌悪に入りつつ。

「いえ、淡々としたものでした。機械的に、何の感情も見せず、興味もなさそうで」

試合が、退屈。

私ならばそういう場合。

「相手が、物足りなかった?」

もしかすると、事前に私を見て、戦う価値が無いと考え、姿を消したのかも? 物足りない、と。もしかすると、剣を使わない相手とは交わる価値も無い、という意味かもしれない。

いやいや、あの時点では私は決勝戦の相手とは決まっていなかった!

……この考えはまずい。もしマリア先生のことも事前に彼がわかっていたのだとしたら。決勝戦の相手は、私か先生だ。

先生と、戦う価値も無いと?

……。

いや、やめておこう。そもそも対戦内容は参加者には伏せられていたはず。意味の無い想像だった。

「姫?」

先行するクリフトが振り向く。

「いえ、なんでもない。機会があるなら、彼に一泡吹かせたいとだけ」

「な、なるほど」

落ち着こう。別のことを考えよう。

とここで、直接的な質問をしていなかったことに気づいた。

「私相手なら、どうだった?」

「どう、でしょうか」

その反応はつまり、私でも同じ運命を辿った可能性が高いということだ。

ちらとブライを見る。ブライは視線を落とした。

クリフトと同じ意見ということだ。なるほどね。

クリフトが最後に付け足す。

「ただ、あれだけ鮮やかな太刀筋であれば、蘇生して傷1つ残らないでしょう。そこは心配せずに済みました」

クリフトは意図的に軽口を叩いている。

「ふふ、ふ」

思わず、私から不敵な笑みがこぼれてしまった。

しかし、私がデスピサロに対して持っている情報は少ない。勝てるかどうかについて、何も言えない。

それが、歯がゆい。なんとか次が無いものか。

まあ良い。楽しみができた。楽しいのは良いことだ。

不安なことは、考えたくない。

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