真面目新訳第二章 おてんば姫の望見   作:赤色ねんね

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(05) テンペへの道中にて

翌朝。森に入る。

「平野と違って森だと、音で索敵可能です。とはいえ平野と変わらず音の注意先は、前衛中衛後衛とで分担します」

「なるほど」

私は中衛なので左右に特化して警戒する、ということだ。正確には、音のした先が左右なら、凝視し問題を確認するのが私の責務。ただ森と言っても明るく、意外と見通しが利き、そんな特別に振る舞わなくても良い気もした。

特にトラブルもなく、順調に進む。

人手で開かれたスペースが何度か現れ、その二つ目でまず昼休憩を挟む。

そこから先は上り。足元が岩やら木の根やらで乱れてくる。

なるほど、足元をずっと見ながらの歩行になるので、耳で索敵できるのは都合が良い。最初は森自体の音の多さに驚いたが、今では自然な音、不自然な音の区別がつくようになった。意外と居心地が良いものだ、森は。

「ちょっと待って」

音に気づく。

「音ですか」

「そう、これ」

と人差し指を上に指しても、何も彼らに示せていないことに、数秒赤面した。

高い長い音。何かの鳴き声? こんな一定の高さで、一定の間隔?

少なくとも近くではない、と思う。危険ではない。歩き進めることとなった。

しかし。なんだか、聞いたことがある音。

なぜかお母さまのことを思い出した。冒険の本を読み聞かせてもらった、あの暖かい空気。

「ああ、葬鈴ですね」

とクリフトはずばっと言った。

人が思い出に浸っているのに、なんという言葉を!

私がくわっと目を見開いてクリフトに無言の抗議をするも、クリフトには伝わらなかった。

「私は職務上、これに接する機会が多いので」

じゃない! 別に音の内容を先に当てられて私は気分を損ねているわけじゃない!

「そろそろテンペ村じゃな」

とブライは言った。ブライの視線の先には、「テンペから1km」と書かれた方向つき看板があった。

日は傾きかけていた。

 

テンペ村に到着。入り口近くに宿。しかし宿には誰もいなかった。外にも誰も。そもそもまだ誰とも遭遇していない。

宿の外にあった、つまり屋外の、テーブルつきの椅子にブライと座り、周囲の様子を見に行ったクリフトを待つ。

すぐにクリフトは戻ってきた。

「やはり葬式で人が出払っているとのことです。私はこのままその手伝いに行こうかと。それまでお待ちいただいても?」

と言うクリフトを、片手を振って送り出した。うーん、私は疲れていないとは思うのだが、椅子に一回座ってしまうとだめになる。

「元気ね」

と彼を指して言った。

「騎士見習いには山岳訓練もあり、テンペとの往復も何度かございますれば」

「私も可能なら、この村との往復を定期的に実施したいのだけど」

ブライはふふと笑った。冗談と思ったのかもしれない。

「本気よ。森を歩くのは飽きないわね。この村も良い。まるで隠れ家みたい。ここに座ってただ時間を過ごすだけのことが、なんだか贅沢に思えてくる」

と、辺りの緑を眺めながら言った。まだ見飽きない。ああ、あと紅茶があれば最高なのだが。

「姫は、冒険者の素質が、おありになるようですな」

「あら、そう?」

「魔物との立ち振る舞いも、見事にございました」

「それは、ブライの教育のたまもの」

他意は無かったが、皮肉にも取れる、少し踏み込み過ぎた回答をしてしまったか。しかしブライはさほど気に留めないようで良かった。

ブライは続ける。

「姫様には様々な才がございます。某はそれを伸ばすことに、目がくらみ申した。姫の幸せと結びつかぬかもしれぬというのに」

「私は今幸せよ?」

「……」

ブライは考えあぐねているようだった。

「まあいいわ。もっと幸せになってやるんだから。嫌というほど、あなたにも実感させてあげる」

「そう、ですな。その日を楽しみにしておりまする」

クリフトが帰るまで、そう、和やかな時間を過ごせたように思う。

 

クリフトが宿屋の主人を伴って戻ってきた。

引き続き屋外のテーブルで少し待機、部屋の準備ができたということで、案内される。案内先は、村の外れにある別の家屋に。宿受付自体も外れに位置するが、さらに外れの方に家屋があるのだ。宿受付の家と宿泊する家が別なのね。

しかしこれ、

「ひと、へや」

そもそも建物が一部屋から構成された構造だった。

「はい。空いているだけ運が良いという話ですね」

と得意げにクリフトは言う。

これは、全員同室するということへの私の反応を楽しんでいるな?

「冗談。その程度で私が音を上げるって?」

考えてみれば昨日も屋外とはいえ、同じ空間で寝泊まりしたわけで。

とブライを見たところ、ん、目が見開かれている。

「クリフト、さすがにこれは耐えられぬぞ」

「え?」

「当たり前じゃ!」

「わ、わかりました。では我々二人は外で、野営としましょう」

と言って、慌てて荷物を持って二人は小屋を出ていった。止める間もなかった。

ま、まあ、いいか? 私も荷物整理をしよう。

 

宿が夕食を用意してくれるという初めての体験だったのだが、私の小屋に二人は入りたくないということで、皆で宿の外、つまり屋外での食事となった。

粗末だがテーブルや椅子はある。しかし野宿というわけではない。そういう食事は初めての体験だ。

「城でも真似したくなるわ。あえて外で食べるという趣向ね」

「すみません、部屋から出てきていただいて」

いや、皮肉ではないのだが。

「一人で食べるより全然ましよ。明日の話もあるでしょうし」

「はい」

とクリフトは続ける。

「地理の話を聞くことが出来ました。ここは山の頂上に近く、明日は北にさらに少し上って、そして下ってフレノールを目指します。ただ明朝天気が乱れる可能性があるようで。ですので、日が昇り始める時間にはここを出発して山頂から離れることで、雨を避けようかと思います」

「ふぅん、日の出とともに、ね。面白そう」

今までにない早さの出発だ。

早々に食事を切り上げ、休むこととなった。

一人だと広い部屋だ。

とはいえ特別やることもなく、ふわりとした倦怠感もあるので、日課は柔軟体操くらいに留め、寝ることにした。

なお朝はノックで私を起こしてくれるらしいので、今回は安心だ。

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