“祭囃子” 作:【風車之愚者】
□■彼または彼女、あるいはソレの郷愁
夏祭りが好きだった。
涼しげな夜を告げる風鈴。
どこからか聞こえる囃子。
揺れる提灯、足早に逸る子供、一歩踏み出せば。
異郷染みた派手な賑やかさと非日常感。
色鮮やかな面に、からりと回る風車。
みんな笑っていた。誰もが楽しんでいた。
さわげや、さわげ。のめや、うたえ。
はめをはずしてあそんでおどれ。
そんな、楽しい時間が好きだった。
……昔は昔。今は今。
されど、いまはむかし。
よろづのかみといふものありけり。
わらべにまざりてまつりでわらふ。
よろづのかみといふもの、ありけり。
◇◆◇
□【
「はぁ〜〜〜〜ん? 通行止めだぁ〜〜!?」
魔境レジェンダリアの密林にて。
足止めを受ける女がいた。うむ、儂じゃな。
きゅーとでぱーふぇくとな美女と表現してもよいかもしれんのぅ。まぁこの顔は借り物じゃし、参考元は可愛らしさの欠片もない暴君じゃけど。
生命としてジャンル違いじゃろ、あやつ。
「なぁ〜に抜かしとんじゃ! 昨日までは普通に旅人も入れておったじゃろ!?」
「ならぬものはならぬ」
「っ、融通の聞かん坊じゃのう」
風の噂で耳にした、エント氏族*1の祭事。
【アムニール】の枝が下賜されて盛大な宴が催されるからと、わざわざ足を運んだというのに……。
目の前でおあずけとはなんたる非道か。
「儂は【祭神】じゃ。儀式に関しては一家言ある。すこうしでよいから覗かせてくれんか? の?」
「祭事の期間、部外者は立ち入り禁止なのだ。芽も生えぬ苗木*2よ、早々に立ち去られるがよい」
「こ・の・ク・ソ・がぁ〜〜〜!」
儂は知っとるぞ! 同じく部外者で<マスター>の【征伐王】は参加しとるじゃろうが!
いやじゃいやじゃ! あきらめとうない!
儂も祭りに参加したいんじゃあ!
スゥ…………。
「……であれば是非もないか。邪魔したの」
儂はくーるにこの場を去る。
頭の硬い連中を相手にしても拉致があかんわ。
「諦めて観光でもするかのぅ」
そんなわけがないんじゃけどね!
祭りに忍び込む方法なんぞいくらでもある。
伊達に歳を重ねてないんじゃよね。儂ってば。
そこのエントも一千歳は超えてないじゃろ。
年功序列を知れ。というか儂、ゴッドぞ。
「待て。《真偽判定》に反応があったが」
「げ、指名手配は勘弁じゃあ!」
◇
と、まあ。追手を撒いて逃げたわけじゃな。
「そんで、どこじゃここ」
かなりの距離を稼いだ。もう別の氏部族の領地に足を踏み入れておかしくないが、儂は地理に疎い。
ただでさえ地図にない地形が多いのに加えて、愉快な配信サークルの
変わり映えのしない森の中、ただ、エント氏族の領地と比べると土地に活気が欠けておる。
空気に漂う魔力は濃密であるのに、白銀の枝葉は痩せて枯れ木のようじゃ。
「……懐かしい匂いがするの」
靄の向こうで漏れ出る気配が呼んでいる。
心地良い拍子と調子ハズレな抑揚。
足がつられて、儂は木立の先に迷い込む。
集落があった。
橙の篝火が燃えていた。
琥珀色の火の粉が薄暗い森を舞う。
時折り不規則に弾けるそれは、静かに満ちる、熱気の顕われであった。
光と闇に照らされた小柄な人影。
長いとんがり耳と褐色の肌を持つ美男美女。
「ダークエルフか」
黒エルフとも呼ばれる、エルフに似た亜人種。
白い方と違って礼節と道理を弁えておるし、他の種族に寛容な種族じゃの。だから政治で負けて冷遇されとるんじゃが。白いの的には亜種扱いで同じエルフ面されるのが我慢ならんとか。ポリコレとか大丈夫そ?
「ふむ、しかしこれは、ほぅ」
年代物の豪奢な天幕の下、竪琴を鳴らす詩人がおり、暖かな料理が湯気を立てる。
晴れ着の乙女が花冠をかぶって踊り、革鎧の戦士が陽気に酒盃を呷っておる。
これは、うん。どう見ても祭りじゃな!
「こうしてはおれん。儂は祭りと付くものが大好きなんじゃよね! いやっほーう!」
とりあえず酒じゃ酒!
エルフの酒は美味いと聞くからの!
「そこの店主。一杯くれ」
「君は……エルフではないね。<マスター>かい?」
「ああ? だとしたらなんじゃ。ダークエルフの祭りは余所者を差別するんか? えぇ? おおん?」
「なんだ、もう酔っているのか……君、悪いことは言わない。
「…………?」
……なんじゃあ、今のしけた面。
せっかくの酒が不味くなるわ。
あー、やめじゃ。興が削がれた。
酒は後にして踊るかの。祭りは踊らないといかん。
黒いのの旋律はちと儂の好みと異なるが、まあよい。くるくる回る乙女に混ざって、勝手に足を踏み鳴らすとしよう。
「わ……綺麗」
「なかなか見る目のある小僧じゃな。しかし見るだけではつまらん、近うよれ」
ダークエルフの小僧を観衆から引き離す。
童のように目を輝かせて、そのくせ自分は一歩下がるなど。さては祭りの楽しみ方を知らんな?
「でも僕、踊った事ない」
「適当でいいわそんなもん。小僧、名は」
「し、白銀の枝と族長アートルムの子*3、アルバス」
「よしアルバス、倒れるまで踊るぞ。それから飯をたらふく食う。お主の奢りでな」
「え?」
族長の息子なら金持ちじゃろ。
いやぁ〜、よい財布を拾ったのう。
さて。びーじーえむは妥協するとして、物寂しい感は否めんな。少し派手さを足してやるとするか。
儂、ライトアーップ! ぴっかーん!
「お姉さんが光った!? 眩しっ……!」
「わはははは! 祭りの時間じゃあーー!」
そこから先の記憶は曖昧じゃ。
心と腹が満たされた実感はある。
存外ダークエルフは好きもので、祭りだ無礼講だと一緒になって大騒ぎする気の良い連中じゃった。
何より顔が良い。右を向いても左を向いても美男美女しかおらん。白いのと違って高慢ちきでないし。
ただ、気になった事がある。
ダークエルフがアルバスの小僧を見る目。
純粋に祭りを楽しむ小僧を前にすると、皆が皆、夢から醒めた顔をする。
族長の息子という理由では説明がつかない。
単純なご機嫌取りなら分かる。加えて気兼ねもあるじゃろうな。しかし儂の見立てだと、あれは……。
くだらん。実にくだらん話じゃ。
祭りに無粋な感情が入る余地はない。
そうであって、そうあらねば。
「……つまらんのう」
「楽しかったぁ……」
舌打ちが隣のため息と重なった。
アルバスは疲れ切って地面に倒れていた。
「こんなに楽しい日は、生まれて初めてだ」
儂の呟きは聞こえなかったようじゃな。
それでよい。余韻に水を差すのは無粋が過ぎる。
宴もたけなわ。夜はすっかり冷えていた。
燃えさしの残火が僅かに燻るのみ。
先程までの騒がしさが嘘のようじゃ。
「このまま寝たら、終わっちゃうのかな。嫌だなぁ。ずっと今日が続けばいいのに」
「そうじゃな」
「ヤッチーも同じ?」
「誰がヤッチーじゃ。儂か」
ヤチヨじゃからヤッチーと。無礼な。
「儂は祭りが好きじゃが、この時間は嫌いじゃ。いつも必ず祭りは終わる。楽しい時間は有限じゃ。お主らはいつだって立ち止まらずに進んでしまう」
この世に明けない夜はない。
流れる時は移ろいゆき、一瞬、一瞬の輝きは、遥か悠久の彼方に置き去りにされてしまう。
振り返りはしても、引き返しはしない。
有史以来。ヒトはそうやって生きてきた。
儂はそれを誰より知っておるし、それはこの箱庭染みた世界においても例外ではない。
「
「……ヤッチー」
「なんての。戯言じゃけどね。わはは!」
いかんな。悪い酔い方をしてしまったようじゃ。
「童はもう寝る時間じゃな。家まで送ろう」
「あ、大丈夫。僕やる事があるから」
「はぁ? あ、さては
「ち、違うよ!? 祭りの最後に、
「…………なに?」
「じゃあねヤッチー! また明日!」
アルバスは手を振って駆け出した。
儂は後ろ姿を見送ることしかできず。
ずっと、いやな胸騒ぎが止まらなかった。
◇◆◇
□■彼または彼女、あるいはソレの記憶
また明日。
いつからだろう。その言葉が嫌いになったのは。
春の訪れを祝う祭り。
夏の趣きを味わう祭り。
秋の実りを祝う祭り。
冬の厳しさを和らげる祭り。
稚児の生誕を祝う祭り。
老爺の健康を祝う祭り。
恵みの雨を祈る祭り。
流行病を退ける祭り。
千代八千代と繰り返した。
祭りを楽しみ、人々の幸せを守った。
だが、しかし。
また明日が、また来年になり。
また来年が、またいつかになり。
またいつかは……いつまでも訪れず。
人間は成長し、進歩する生命体だ。
目まぐるしい速度でヒトの営みは変化する。
変わらないものが良しとされる一方で、変われないモノは淘汰され、忘れ去られていく。
置き去りにされたモノは、昔のまま。
今や知る人もないモノとなった。
されど、いまはむかし。
よろづのかみといふものありけり。
いとかけまくもかしこき。
よろづのかみといふもの、ありけり。
◇◆◇
□【
「儂とした事が……ぬかったわ」
夜深いダークエルフの森を抜けて。
小僧の後を追った儂は、最悪の光景を目にした。
黒曜石の祭壇に群がるダークエルフども。
祭事用の装束か? 一丁前に長耳以外の肌を隠して、大勢の連中が祭壇の前で跪いておった。
豪奢な装飾の祈祷師が祭壇の前に進み出る。
彼奴は蔦の縄を手に、その先に繋がったものを強引に引きずり出して、祭壇の中央に供える。
薬で眠る、まだ年若い同族のアルバスを。
「生贄とは。ふざけた真似をしてくれるのぅ」
まずアルバス本人の意思ではないじゃろう。
眠らせて意識を奪っておるからの。
最初から違和感を覚えていた。
なぜ、酒売りは儂に帰るよう伝えた?
やつの視線には本音の『親切心』が込めてあった。
つまり、この未来を知っていた。
否、やつだけではない。
集落の連中は、祭りに興じていた誰も彼も、これを知っていながら隠しておった。
だから、やつらの視線は『憐憫』と『無念』が混ざっていた。待ち受ける結末を知らず、呑気に祭りを楽しむアルバスを気の毒に思って……待てよ。
「ならば本意ではない……のか?」
事情がまるで分からぬな。
ひとまず木陰に隠れて様子を窺う。
奇襲強奪は妙案じゃが、攻撃した途端に生贄の命がドカン……という可能性がある。
「ご要望の者を、連れて参りました」
祈祷師が祭壇に言葉を投げる。
同時に、夜から“闇”が浮かび上がった。
……そうとしか言いようがない。濃い黒のモヤが輪郭を持って現れたんじゃ。
「我が一族で最も血が濃く、最も若く……最も純粋な同胞に、ございます……」
『口を閉じろ。誰が発言を許可した』
夜の闇、おまけに遠目では判別が難しいが、モヤの頭上には文字列が表示されておる。
銘を――【喪黒総征 ブリーチ】。
『嗚呼、穢らわしい。貴様らのような醜い「黒」が、我々の耳を汚して良いとでも?』
「……」
『本来であれば我々エルフの名を冠する事すら烏滸がましい存在が貴様らよ。だが「黒」など潰したら汚れてしまう。ゆえに見逃してやっているだけのこと』
「…………」
『おい、亜種は口もきけぬのか?』
「……申し訳、ございません」
『これは奇妙な。「黒」共は唸り声を交わすものだと思っていたが、なるほど、なるほど! ……やはり立場を理解しておらんな?』
モヤが祈祷師に触れる。
それだけで、祈祷師は悶えて苦しみ出す。
「ぐっ、ぉ、があ!?」
『ほっほっほ。それだ。薄汚い獣はよく吠える!』
よく、ようく分かった。理解したわ。
諸悪の根源は<UBM>。
性根の腐った真性のど外道じゃとな。
おおかた、支配者気取りで生贄を要求するタイプのあれじゃろ。それも昨日今日の話ではないの。
……反吐が出る。
『さて、さて。今宵の贄は一際の「黒」。
「おいお前。ちょっと黙れ」
『は――ッ!?』
儂はカスに飛び蹴りを叩き込んだ。
「思ったより手応えがないのぉ。精霊……いや、レイス系の
直撃したにも関わらずダメージは皆無。
儂の貧弱なステータスでは是非もない。
ま、なんとかなるじゃろ。ざっと試してみたが、こやつ相手に
つまり圧倒的な格上ではない。その時点で勝ちの目はある、というか儂が戦わないと人が死ぬからね!
「今日の儂は機嫌が悪い。つまらん事情で祭りを楽しめなかった上に、余韻までぶち壊されたからじゃ」
おまけに。
また明日、なんて言われてしまっては。
約束を
「故に、今から貴様を血祭りに上げる」
先手必勝。懐の紙片に魔力を流して起動する。
「儀礼全略――《十二支无将:摩虎羅》」
招来するは兎耳の神使。
これなるは儀礼スキル特化型超級職【祭神】の奥義、《式神:十二支无将》の一柱。十二支の卯。
その能力は『常に相手の速度と防御を上回る』という格上殺し。
《摩虎羅》は跳躍して回し蹴り。
<UBM>の頸椎を無造作に捩じ切った。
本当は七面倒な前準備と召喚条件を満たして、ようやく呼び出せる神話級の式神なんじゃが……【祭神】のスキルは、その辺の『七面倒な前準備の儀式』の部分をショートカットできる*4。
後者の召喚条件も『【
つまり【祭神】ならいつでも呼べる。
あまりに使い勝手が良いので、並の相手は基本《摩虎羅》単体で済ませてしまう、儂ってば。
「……ま、そう簡単には死なんわな」
が、【ブリーチ】を仕留めるには至らない。
アンデッドの特性か。そも“闇”のモヤに実体が存在しないのか。落ちた首を拾ってくっつけておる。
……物理攻撃は効果が薄いかもしれんのー。
『ギ、ザ、ま……何をする』
「ケンカ売ったんじゃが。その耳は飾りか?」
『黙れ、丸耳の短命種ごときが!』
おーおー。まるで差別の見本市じゃの。
別に儂、短命ではないんじゃけど。
むしろ長命どころか永命クラスじゃよ。
「というか、さっきから気になっておったが。お主の自認エルフなの? どう見ても怨霊の類じゃろ」
『猿は知能も猿並みだな。猿程度に語るのは不服だが、しかし高貴な威光を知らしめるのも我々の勤め! ゆえに名乗ってやろう! 我が名は■■■■■・■■■・■■■■! 由緒正しきハイエルフにして“黒征将軍”! 「黒」を一掃せんと【妖精女王】陛下より剣を賜った者である!』
「なんて?」
内容どころか名前も分からん。
あー……つまり、あれか?
選民思想強めのハイエルフの怨霊。あるいは、差別主義という『負の悪感情』が凝り固まって生まれたアンデッドだと。やっぱ
『嗚呼、穢れた「黒」! 我々が浄化せん!』
闇が【ブリーチ】を中心に広がる。
同時に。儂と《摩虎羅》の片足から、色が消えた。
まるで漂白された布地のように。
色彩という要素が肉体から抜け出している。
影響は白黒になった程度の微々たるもの。
いや、仮にも<UBM>のスキルが漂白なんぞで完結するとは思わない方がよいじゃろう。
ステータスは……割合で減っている。
おまけにMPが継続的に減少していく。
あのモヤに直接触れた箇所の色・ステータス・魔力を奪うスキルといったところか。
飛び蹴りをかましたのは失策じゃったわ。
「ぐ、うぁあ!」
「ぅ、からだが」
「ちっ、見境なしか。いかんな」
祭壇付近のダークエルフ達も対象らしい。
全身の色が徐々に失われて、苦しみ悶えている。
反対に【ブリーチ】は強化され続けるわけで。
これではいささか具合が悪い。
祭壇から距離を取り、場所を移す。
これが最善手なんじゃが……【ブリーチ】は儂や《摩虎羅》よりダークエルフを優先的に狙っておる。
儂が逃げるフリしても無視してダークエルフを虐殺する雰囲気がぷんぷんしておるわ。
「弍号如月 権能限定解放」
ならば、“目を奪う”しかない。
「《
儂は<エンブリオ>で全身を光に変える。
正しくは光そのものに置換した肉体を、人間態から本来の形にほどいたという表現になるかの。
光となり、目にも止まらぬ速度で移動する。
そして輝く儂は周囲の耳目を
この誘引効果は、視界内にいる一般モンスターのヘイト関心を集める程度じゃが。
『お、オ、Ooooooo!!』
「我を忘れたか!? その様では、どっちが獣か分かりゃせんのう!」
四方八方から押し寄せるモヤを振り払う。
接触の度に漂白されるが、
「元から光は白っぽいんじゃよね!」
肉体を再構成すれば無視できるし?
色がなければステータスも奪えておらんし?
むしろ光属性を帯びた儂に接触することで、【ブリーチ】側にダメージが積み重なっておる。
このまま人気のない場所に釣り出して――
『――《ホワイトアウト》』
――まずい、という直感が生死を分けた。
咄嗟に人型に戻る。地面に転がる。
立ち上がろうとしてバランスを崩す。
漂白に巻き込まれた右足が、灰になっていた。
「漂白したものを灰にするスキル……か?」
なら白もダメなんじゃけど。黒はダメ白はいいみたいなこと言っといて、それはないじゃろ!?
連れてきた《摩虎羅》も片足をやられた。
機動力半減、攻撃力は七割減じゃ。
蹴り技主体だとこういう時に不便じゃよな。
「《摩虎羅》、自爆」
もう敵に特攻させるしかないわ。たーまやー。
よし、式神の尊い犠牲で時間が生まれた。
相手の手札はおおよそ割れた。
闇のモヤを広げて色・ステータス・魔力を奪うスキル。仮称《ブラックアウト》とでも呼ぶかの。
そして漂白したものを灰に変えて崩壊させるスキル《ホワイトアウト》。
相性は良くもなく悪くもなし。
極端に弱点を突かれる、そんな噛み合わせの悪さではない。しかし特攻で有利を取れる能力でもない。
純粋な出力勝負。色を奪う能力の汎用性を踏まえて、やや不利寄りといったところか。
『……勝負は見えた』
「奇遇じゃの。同意見じゃ」
『我々に敗北はない。貴様を屠り、その後で「黒」どもを白く染め上げるのみよ』
「なぜそこまでやつらを目の敵にする。ダークエルフがお主……達……? に何かしたのか?」
『悪しき闇。穢れた「黒」。存在そのものが罪深い』
なるほどの。まあ想像の範疇じゃな。
理由なんてない。その方がいっそ分かりやすい。遠慮なく戦えるというもの……
『「黒」は我々の下にいるべきだ。我々に管理されるべきだ。我々の下僕であるべきだ。我々の娯楽であるべきだ。我々の玩具であるべきだ。そうでなくてはつまらない。そうでなくては、面白くない』
「……」
『下僕を支配するのは楽しい。娯楽に興じるのは楽しい。玩具で遊ぶのは愉しい。嗚呼……例えば、「黒」に祭事を行わせるのは楽しい』
「…………」
『何も知らずに幸福から絶望に転じる顔は面白い。全て知っていて地獄を作り出す苦痛は滑稽だ』
「……おい」
『やはり、
その妄言は――聞き流せんぞ。
「――《
◇◆◇
□■彼または彼女、あるいはソレの始まり
夏祭りが好きだった。
否、祭りが好きだった。
もっと正確に言えば、祭りのヒトが好きだった。
苦しくても、辛くとも。
祭りの間はみんな笑っていたから。
みんなと楽しく過ごせたから。
だが、今は。
しずかだ。つまらない。
さみしい。さみしい。さみしい。
だれかいないのか。
しっているヒト。しらないヒト。
みんな、みんな、いなくなった。
もはやおとずれるひとはなく。
ただひとり、こどくにくるしみ、ゆめをみる。
……それでも。
たいせつなおもいでの、たいせつなばしょ。
それまでてばなすことはできなくて。
むかしむかしの、しあわせを。
たのしかったじかんを、おもいかえす。
そんなとき。
『<Infinite Dendrogram>は新世界とあなただけの
ルイス・キャロルなる差出人からの手紙と。
名前に鳥と数字が入った女との、奇妙で物騒で野蛮で暴力的な出会いを経て。
ソレは、十二季月ヤチヨになったのだ。
◇◆◇
□【祭神】十二季月ヤチヨ
「捌号葉月 権能限定解放――」
気付いた時には誦じていた。
「――《
一言で、景色は“夏”に塗り替えられる。
涼しげな夜を告げる風鈴。
どこからか聞こえる囃子。
揺れる提灯、足早に逸る子供の笑い声。
異郷染みた派手な賑やかさと非日常感。
色鮮やかな面に、からりと回る風車。
あの夏の日の夜。祭りの只中に儂はいる。
『何、を――』
「なんじゃ。お主の姿がよく見えるの。ああ、なるほど? ダークエルフが住む森一帯がお主の縄張り……力を吸い取る『黒』の供給源あってこそのスキルであり、闇のモヤだったというわけか」
モヤが晴れた【ブリーチ】は、エルフの軍人染みた輪郭を持つ
黒を穢らわしいと口にしながら、黒で身を包んでいたというのは……よく考えると皮肉じゃの。
「祭りは良いものだ、と言うたな? 儂も同意見じゃ。なので貴様には素敵な時間をくれてやる」
予備の紙片に魔力を流して、こうじゃ。
「参号弥生 権能限定解放」
呼び招くは獅子。召喚するは兎。
「《
神話級の式神を、張子の獅子が咀嚼する。
するとどうじゃ。式神が二体に増えたではないか。
式神を獅子が咀嚼する。咀嚼する。咀嚼する。
咀嚼して咀嚼して咀嚼して咀嚼して咀嚼して。
咀嚼して咀嚼して咀嚼して咀嚼して咀嚼して。
咀嚼して咀嚼して咀嚼して咀嚼して咀嚼して。
しめて百体の《摩虎羅》が複製される。
「総攻撃じゃ」
百体の《摩虎羅》が、百回【ブリーチ】を蹴る。
単純な話。雨垂れがいつか岩をも穿つように。
効果が薄い攻撃も重ねればいつかは通る。
『っ、獣と猿如きに、我々は』
「安心せい。どっちにしろ死なん」
傷ついて倒れた【ブリーチ】に、
『…………!?』
「驚くことはない。元通りになっただけじゃよ」
これが、いやさ、これも儂の<超級エンブリオ>。
TYPE:レギオン・ボディ、【
例えば《燦々》は『光』に体を置き換え。
咀嚼したモンスターを複製する《獅子舞行軍》なら、『張子の獅子』をアバターに。
「《8月32日》は、この『夏祭りの風景そのもの』がすべて、儂のボディとして扱われておる」
そして《8月32日》の効果は巻き戻し。
一定時間が経過したら、内部を発動時点の状態にリセットするというスキル。
闘技場の決闘結界のようなもの、と例えれば分かりやすいかもしれんのう。
「受けた傷も、魔力消費も。すべて元通りになるから安心せい。……ああ、それと」
これを言っておかないと不安じゃろう。
「儂、わりと気が長い方じゃから。百年くらいゆっくりしていってね」
再度呼び出した百体の《摩虎羅》を背に。
儂は心が折れないことを自己申告した。
◇◆◇
「おはようヤッチー!」
「おぅ、アルバス。祭りの支度は順調か?」
「任せて! 今日はね、物見櫓で太鼓を叩くよ!」
「分かっとるのぉ〜! よし、儂が一肌脱ごう!」
「それはいいけど……ヤッチー、あれは?」
「んー? 今は何回くらいかのぅ。もう数えとらんが。安心せい、儂ってば基本ログアウトしないし。今こうして《燦々》が外側にいるから、中のボディを何度殺してもデスペナルティにはならんのじゃよね」
回復アイテムは山ほどあるし、そもそも《8月32日》を壊すなら空間破壊でもないと無理むり。
色を奪うスキルは懸念じゃったが、巻き戻しの対象内であったからのう。やつに脱出の手はないわ。
「よく分かんないけど……ありがとう」
「わはははは! よいよい! その分、儂も楽しませてもらっておるからの!」
「そっか。じゃ、いこう!」
「おう! 祭りじゃあ〜〜!!」
余談というか今回の蛇足。
ヤチヨのリアル
(U・ω・U)<人外
【マクラノソウシ】
(U・ω・U)<好きなだけ盛った
(U・ω・U)<同時に複数展開できる異質なTYPE:ボディ
(U・ω・U)<明言されてないし二次創作していいかなの精神
(U・ω・U)<……流石にやり過ぎたな。ごめんなさい
※原作コメント返し参照
〇チェシャせんせー。TYPEボディと他のTYPEって共存できるんですか?
(=ↀωↀ=)<とりあえずアポストルやメイデンとくっついてるパターンは見たことない
(=ↀωↀ=)<あと「うん? これアームズじゃない? あ、でもボディ単品だね」ってパターン
(=ↀωↀ=)<じゃあ他と複合するのかって話は追々
《8月32日》
(U・ω・U)<もちろんコスト消費あり
(U・ω・U)<でも内部にかかる部分はリセットされてる
(U・ω・U)<足が出た分をアイテムで回復して維持している
《摩虎羅》
(U・ω・U)<ふるべゆらゆら
(U・ω・U)<過去の式神作成に長けた【祭神】が編纂した
(U・ω・U)<【祭神】は儀式に関する才能なら幅広く対象に取ってる
《獅子舞行軍》
(U・ω・U)<キメラサイクル
(U・ω・U)<あるいはガタキリバ