メフィラスは暁美ほむらに「地球をあげます」と言わせたい   作:外星人第1145141919810号

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第二話

 屋上のフェンス越しに、街並みを見下ろす。風が髪を乱し、制服のスカートを撫でる。

 

 下の通りを、鹿目まどかと美樹さやかが歩いている。隣には、巴マミ。金色の髪をリボンでまとめ、優雅に微笑みながら二人に話しかけている。ティータイムのお誘いだろう。

 マミの部屋で、お茶を飲みながら魔法少女の話を聞く。何度か見た光景だ。

 

 私は息を潜め、遠くから見守った。今回はまだ、まどか達と関わりを持てていない。悪印象を持たれるよりは遥かにマシ……

 

 放課後、二人はマミの後について歩いていった。私は影から尾行し、彼女たちがマミのマンションに入るのを確認する。さやかは興奮した様子で、まどかは少し不安げ。

 

 ……今はこれでいい。でも、ワルプルギスの夜が来るまで、時間は少ない。

 

「……今度こそ、救ってみせる」

 

 決意を新たにし、今日は帰宅する。

 お菓子の魔女までは危険は少なく、契約を結んだ試しもないから。

 

 ……それに、今回は私の方に考える時間が必要なのだ。

 

 家に帰り、ベッドに腰を下ろす。

 

 ソウルジェムを手に取る。紫の宝石は、昨日メフィラスが浄化したおかげで、まだ澄んでいる。

 

 メフィラス。

 

 今までのループの中でも、最大のイレギュラー。

 インキュベーターの事を知る宇宙人。私の穢れを一瞬で消し、魔法に干渉できる……否、魔法だって彼らからすれば科学の一部なのだろうか。

 

 丁寧で、紳士的で、しかし底知れぬ力を持っている。

 

 信頼できるはずがない。なにせ宇宙人だ……インキュベーターと同じく、地球に何らかの目的があって来訪したに違いない。

 

 インキュベーターはエネルギーを求めている。

 ならメフィラスは? 確か、地球人類の「価値」を理解していると言っていた。発展を見守りたい、友人になりたい——そんな甘い言葉を信用する訳がない。

 

 あまつさえ、私は一度きゅうべぇに騙されている訳だし……

 

 ソウルジェムの浄化、肉体の蘇生技術、インキュベーターの知識……。私一人では到達できない領域。

 

 こちらの情報は、できるだけ渡さない。当然だがループのことは絶対に隠す。時間停止の魔法もなんとか誤魔化したい所だ。

 

 だが、彼から情報を引き出し協力を得る事は絶対に必要。少なくともインキュベーターとは敵対しているようだから、協力できるはず。

 たとえ、チープな漫画やアニメの宇宙人よろしく彼が地球の侵略を狙っていたとしても、今は味方として扱うしかないだろう。

 

 まどかを守るためなら、何でもする。悪魔に魂を売ったって構わない。

 しかし、事はそう単純には運ばないでしょうね……

 

「頭が痛いわ……

しかし、まずはメフィラスとの信頼関係の構築ね」

 

 ある意味、メフィラスと私の意思は一致している。互いに信用を得るため、一定の利益を与えながら腹の中を探るしかない。そして、最終的には私に……地球に不利益が及ばない形でインキュベーターをこの星から追い出せればベストだ。

 

 そんなことを考えていると、ポケットの携帯が振動した。

 画面を見る。知らない番号——いや、メフィラスが登録したと言っていた連絡先だ。

 メッセージが届いている。

 

『暁美ほむらさん。

 突然の連絡、失礼いたします。インキュベーターの件、私に協力できることがあればいつでも力になろうと思っています。』

 

『奴らに対抗するため、まずは現行の魔法少女システムについて情報提供をお願いできますでしょうか。どんな細かなことでも構いません。

 当然、貴女が隠したい事項があれば、連携しなくとも問題ございませんので、ご安心ください。

 まずは互いに信頼関係を築いていきましょう。

 メフィラス』

 

 自然と眉間に皺が寄っていた。

 

 おそらくは、ただの推測だろうが。

 しかしプランクブレーンだかなんだか……宇宙人の技術で私の頭の中を監視している可能性すら捨てられない。

 

 人間の記憶を覗き見たり、読み取ったりする……魔法なら可能だからだ。

 

 魔法というもの自体、宇宙人の技術力で再現できると考えたほうがいい。

 そもそも、メフィラスと同じ宇宙人のきゅうべぇが発端なのだから、私たちの魔法少女化や魔女化にも理屈があるのだろう。

 

 携帯を握りしめ、深呼吸する。

 インキュベーターより、遥かにタチが悪いかもしれない。

 

 だが——まどかを魔女にさせない。まどかを、契約させない。彼女の笑顔を守るためなら、どんな困難だって乗り越えてみせる。

 決意を新たに、私はメッセージを打った。

 

『了解しました。私が知る限りの情報をお伝えします。

 良い関係を築いていきましょう』

 

 

 

 まどかとさやかは、ソファに並んで座って、マミの話を聞いていた。

 昨日、魔女の結界を少しだけ覗いた後、「もっとちゃんと説明するわね」と、マミの家に招かれたのだ。、

 

 マミはにこっと笑って、手のひらに光を浮かべた。金色の輝きが集まって、綺麗な宝石みたいなものが現れる。

 

「ふふ」

 

「わぁ、綺麗……」

 

「これがソウルジェム。キュゥべえに選ばれた女の子が、契約によって生み出す宝石よ。魔力の源でもあり、魔法少女である証でもあるの」

 

 今回のさやかとまどかは、マミとしか接触していない。魔法少女同士の争いなど頭の隅にも無い状態だ。

 

「魔女との戦いは、いつも命がけよ。だからあなた達も慎重に選んだほうがいい。

 キュゥべえに選ばれた貴方達にはどんな願いでも叶えられるチャンスがある。でもそれは死と隣り合わせなの」

 

 マミは、丁寧に魔法少女の危険性を伝えた。

 魔女のこと、命懸けの戦いになること、他の魔法少女とのグリーフシードの奪い合いまで。

 

「急いで決めなくていいわ。しばらく、私の魔女退治に付き合ってみない?

 実際に戦いがどんなものか見て、その上で、危険を冒してまで叶えたい願いがあるか、しっかり考えてほしいの」

 

 マミは魔法少女の体験ツアーを企画し、まどかとさやかはこれに参加する事にした。

 

 次の日の放課後、マミはまどかとさやかを連れて魔女の結界へ。マミの力量は高く、『薔薇園の魔女』を華麗に討伐した。

 

 2人は未だ魔法少女の穢れを知らず、希望と羨望の目を向けている。

 

 

 

 

 路地の奥、崩れたフェンスの影に、黒いスーツの長身の男が立っていた。

 黒髪を丁寧に撫でつけ、整った顔立ちに穏やかな微笑みを湛えている。彼は壁に軽く背を預け、視線を前方に注いでいた。まるで舞台の幕が上がるのを待つ観客のように、静かに。

 

 ———メフィラスは、これを見つめていた。

 

「ふむ、やはり暁美ほむらと接触したのは正解だったようだ」

 

 夕陽が彼の黒いスーツを深い影に沈め、顔だけを浮かび上がらせる。瞳は愉しげに細められ、口元に薄い笑みが張り付いている。

 

「あれが、魔法少女の巴マミか」

 

 低く、独り言のように呟く。声は風に溶け、誰にも届かない。

 彼はゆっくりと視線を動かし、マミの仕草を追う。後輩たちを気遣う優しい笑顔、戦いの前だというのに落ち着いた歩き方。

 そして、その高揚。

 

「地獄への道は善意で舗装されている、私の好きな言葉です。

面倒見が良く、それでいて孤独に人一倍弱い。インキュベーターにとっては都合が良い駒だろう」

 

 笑みが深くなる。マミの性格を、まるで古い友人を見守るように分析する。彼女は先輩として振る舞い、仲間を欲する。だからこそシステムに絡め取られやすい。

 

 視線を、まどかとさやかに移す。二人はまだ第二次性徴期の少女。頰に残る幼さと、瞳に宿る純粋な好奇心。

 

「感情のエネルギーか。

 第二次性徴期の女性が最も強い力を持つ、と言うのも都合がいい。実にインキュベーターらしい悪辣な手口だ」

 

 感情の起伏が大きく、絶望の落差を深くする。

 共感や願望、羨望に劣等感。契約を迫るのも簡単だろうな。

 メフィラスは静かに首を振るが、口角は確かに上がっていた。

 

 結界の入り口が完全に開き、三人が中へ消えていく。バラの匂いが強くなり、歪んだ空気が路地にまで波及する。

 

 メフィラスは、ゆっくりと壁から体を離した。夕陽が最後の光を失い、影が濃くなる。

 

「さて、私も動くとしよう」

 

 呟きと共に、彼の体が細かく分解され始めた。ポリゴンのように輪郭が崩れ、空気に溶け込む。黒いスーツが、影ごと消えていく。風だけが、わずかに埃を巻き上げ、跡も残さず。

 

 路地は、再び静寂に包まれた。カラスの鳴き声が、もう一度遠くで響く。

 

 そう遠くない場所で、暁美ほむらの携帯にメッセージが届いた。

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