メフィラスは暁美ほむらに「地球をあげます」と言わせたい   作:外星人第1145141919810号

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第三話

 マミさんの部屋は、いつものように甘い紅茶の香りに満ちていた。

 窓から差し込む午後の陽光が、レースのカーテンを優しく揺らし、テーブルには手作りのクッキーとケーキが並んでいる。

 

 数回にわたる魔女退治の見学を終えた私たち——鹿目まどかと美樹さやかは、ソファに並んで座っていた。

 マミさんが優しくお茶を注いでくれる。キュゥべえはテーブルの端にちょこんと座り、赤い目で静かに私たちを見ている。

 

 最近、何度かマミさんの戦いを見学した。

 

 バラの結界、使い魔の群れ、マミさんのリボンが舞い、マスケットの銃声が響く。魔女は怖かったけど、かっこよかった。

 みんなを助けられる力……魔法少女って、すごいなって思う。

 でも、契約するってことは、命がけの戦いを背負うってこと。願いを一つ叶えてもらえる代わりに。

 

 さやかは、クッキーをつまみながら、ぼんやりと窓の外を見ていた。彼女の表情が、なんだか暗い。

 

 きっと、上条くんのことを考えてるんだ。上条くんは、腕を怪我してバイオリンが弾けなくなっちゃった。音楽の道を諦めて……

 さやかちゃんはそれを見て、ずっと心を痛めてる。さやかちゃんは正義感が強くて、誰かを助けたいって気持ちが大きいのに、自分の願いがはっきりしないみたい。

 

「ねえ、願い事って……自分のことじゃなきゃダメなのかな?」

 

 さやかが、ぽつりと呟いた。声が少し震えてる。

 お茶を注いでいたマミさんが、手を止めてさやかを見る。私も、ドキッとしてさやかを見た。

 

 マミさんが口を開く前に、キュゥべえがすぐに答えた。

 白い体を少し傾けて、無垢な声で。

 

「他者の願いを叶えたい、という事かい?

 問題ないよ。前例もいくつかある」

 

 マミさんが、眉をひそめた。ティーカップを置く手が、わずかに止まる。

 

「あまり関心できた話じゃないわ。他人の願いを叶えるのなら、なおのこと自分の望みをはっきりさせておかないと」

 

 マミさんの声は優しいけど、どこか厳しい。さやかは俯いた。青い髪が顔にかかって、表情が見えない。

 

「……そうですよね!いやー変なこと言っちゃってごめんなさい!私ってば優柔不断で……あはは」

 

 すぐに顔を上げて、空元気で笑った。でも、悩みが尽きない様子で、クッキーをかじる手が止まってる。

 私、さやかちゃんの気持ちわかるよ。上条くんを助けたい。でも、それが自分の願いになるのか、迷ってるんだろうな。

 

 しかし、キュゥべえが静かに続けた。

 

「でも、今はさやかを魔法少女にはできないんだ」

 

 さやかが、びっくりして顔を上げた。

 

「な、何で!? 私才能あるって言ってたじゃん!?」

 

 声が上ずってる。キュゥべえを問い詰めるように身を乗り出す。マミさんも、驚いた顔でキュゥべえを見る。

 

「キュゥべえ、それはどう言う事?」

 

 キュゥべえは、顔色一つ変えずに——いつものように感情のない赤い目で——答えた。

 

「誤解させてしまっているかもしれないけど、今回の事象にさやかの才能は関係ないよ。むしろ僕も残念なのさ」

 

 さやかが、言葉を失ってる。私も、ドキドキしてキュゥべえを見つめる。何のこと? 

 

 キュゥべえは、静かに続けた。

 

「付け加えておくけど、未来永劫さやかが魔法少女になる道が閉ざされたわけじゃない。今の問題が解決したら、魔法少女になってくれて構わないよ」

 

 マミさんが、鋭く聞いた。

 

「……どう言うことなの?」

 

 部屋の空気が、重くなった。紅茶の湯気が、静かに立ち上るだけ。

 キュゥべえが、ゆっくりと言った。

 

「実は、今この街に悪魔が来ているんだ」

 

 さやかが、目を丸くしてマミさんを見る。

 

「悪魔って……何?」

 

 マミさんが、首を振った。

 

「私も初めて聞くわ。悪魔ってなんなの? 魔女とは違うの?」

 

 キュゥべえの声が、少し低くなった。いつも無感情なのに、なんだか深刻。

 

「悪魔っていうのは、魔女とは違う僕らと敵対する存在だ。どこで生まれたのか、どんな目的なのかは僕にもわからない……ただ、邪悪な事だけは確かだ。

 そして、そんな悪魔の中でも今この街に来ている悪魔はあまりにも強大で残忍、それに強い魔法の実力を備えている。その上非常に狡猾で、その巧みな話術で君たちを騙し、意のままに操ろうとするだろうね」

 

 私は、背筋が寒くなった。さやかも、顔を青くしてる。

 キュゥべえは、続けた。

 

「実はマミにも忠告しておきたかったんだ。もし悪魔に声をかけられても、決してまともに対応してはならない。奴はとても頭がいいから、騙されて手駒にされるかもしれない」

 

 マミさんが、落ち着いた声で聞いた。

 

「悪魔はどんな姿をしているの?」

 

「わからない。奴はどんな姿にも化けることができるからね。

 本体は真っ黒な体に黄色く光る頭部の化け物だけど、普段は人の姿をしているはずだ」

 

 さやかは小さく悲鳴を上げた。私も手が震える。

 悪魔……そんなのが、この街に? 人の姿で、近づいてくるの? 

 

 マミさんは私たちを見て、優しく笑い、気丈に振舞う。

 

「私がついているから大丈夫よ。悪魔だろうと何だろうと、私がやっつけちゃうんだから」

 

 でも、声は少し無理してる。そんなマミさんを見て、キュゥべえはすぐに止めた。

 

「マミ、それだけはやめてくれ。申し訳ないが、奴に立ち向かおうなどとは思わないでくれ。僕の見立てでは、今日本にいる魔法少女が全員集まっても傷一つつけられない」

 

「そして、そんな時にいくらマミが付いているからと言え、新人の魔法少女を放り出すわけには行かないんだよ。

 さやかには悪いけど、これもさやかの為だと理解してほしい。さやかだって何も出来ずに死ぬのは嫌だろう?」

 

 三人とも、ゾッとした。顔が青くなる。マミさんでさえ、ティーカップを持つ手が止まった。

 日本中の魔法少女が集まっても……そんなに強いの? 

 

 キュゥべえが、私を見て言った。

 

「だからこそ、まどかに魔法少女になって奴を倒してほしいんだ」

 

 私は、息を詰めた。

 キュゥべえの目が、私をまっすぐ見る。

 

「君が魔法少女になれば、誰よりも強くなれる。

 正直どうなるかは僕にも予想がつかないけれど、あの悪魔を倒せるのは魔法少女になったまどかしかいないと思う」

 

 はっきりと言った。私なら悪魔に勝てると。

 

「そんなに強い悪魔に、私なんかが勝てるわけがないよ……」

 

 声が震える。怖い。魔女だって怖かったのに、悪魔なんて……

 

「まどか、お願いだ。魔法少女になってどうかあの悪魔を……『メフィラス』を倒してくれないか」

 

 メフィラス……その名前が、部屋に響く。私しかいないなら……契約しなきゃいけないの?

 私しか倒せないなら、私は……

 

 でも、さやかちゃんが私の手を掴んだ。

 

「待って、まどか!」

 

 さやかが、キュゥべえを睨む。

 

「そんな恐ろしい奴とまどかを戦わせるなんてひどいよ!」

 

 マミさんも、頷いた。

 

「そうよ。まどか一人に背負わせるなんて、許さないわ」

 

 キュゥべえは、静かに言った。

 

「すまない、でも奴に対抗できるのはまどかしかいないんだ」

 

 契約を迫る目。マミさんが、キュゥべえを窘めるように立ち上がった。

 

「貴女に全てを背負わせるわけには行かない。私も戦う」

 

 そして、キュゥべえに聞いた。

 

「その悪魔、メフィラスはいつ攻めてくるの?」

 

「それはわからない。でも奴が直接手を下すことは考えにくい。他の魔法少女を誑かし、差し向けてくると思う」

 

「もしかしたらメフィラスの手で魔法少女になった子もいるかもしれない」

 

 マミさんが、確認した。

 

「メフィラスが直接戦うことは無いのね?」

 

「悪魔たちには掟があって、直接戦うことは無いはずだ。しかし、奴は人間の心を操ることに長けている。僕が危惧しているのはそれだ。待っていては遅い、早くこちらから叩かないと取り返しのつかないことになる」

 

 マミさんが、強く言った。

 

「まどか……もしかしたら、私じゃ全然メフィラスには敵わないかもしれないけど……まどかが願い事を決めるまでは、私が守るわ。

 だから安心して!」

 

 啖呵を切るように。

 キュゥべえが、静かに答えた。

 

「わかった。でも出来るだけ早く願い事を決めて欲しい。僕も急かしたくはないけど、奴に先手を打たれるのだけは避けなければならない」

 

 部屋が、静かになった。

 

 私は怖くて、膝を抱えて震えてる。

 さやかは、蚊帳の外に置かれてるみたいで、唇を噛んでモヤモヤした顔。マミさんは、強い目で私たちを見て、心に誓ってるみたい——私が守らなきゃ、って。

 

 紅茶が冷めていく。外の陽光が部屋を優しく照らすけど、心は暗い。

 

 悪魔メフィラス。この街に、そんなものがいるなんて……

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