俺、YouTuberだけど重音テトを買う(笑)   作:UMC OGASOU

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テトを買う。

 

「動画のためとはいえ、流石に満員電車はきつかった…」

 

電車から降りて開口一番、現役高校生でありながら50万のフォロワーを持つYoutuber、

 

宮本直人。

 

なぜ彼がそんな無茶をしてまで何のために来たのかというと、今日行われるアンドロイドショーを見学するためだ。内容のイメージとしてはジャパンモビリティショーのような感じである。なので気に入ったアンドロイドがいればその場で買うことも可能。

 

直人は買うことはないだろうと考えつつも少し楽しみにしていた。

 

入場ゲートでパスを見せる。今日は一般の人は入れないのだが、ところがどっこい。直人には少しコネがある。沢山の人でごった返す開放日が嫌だったため、何故だか知り合った出展企業の方にお願いしてスタッフとして入れてもらえることになった。その代わりとして、宮本は企業さんのPRをすることになっている。

 

「どうぞ。パスの確認終わりました。」

 

「ありがとうございます。」

 

「ところで君何歳?とても就職しているようには見えないんだけど」

 

やることがなく、暇だったのかそうゲートの人は聞いてくる。

 

「17ですね。職業は…言いたくないですね。」

 

「そう。ごめんね時間取らせてしまったわ。」

 

「いいえ。お気になさらず。」

 

入場ゲートをくぐり、ブースに向かうため階段を直人は降りる。

 

その時「ガッ」という音と「やべっ」という声が聞こえてきた。

 

ほぼ反射的に振り返ると、階段を踏み外し自由落下を始めている少女がいた。

 

たかが階段ではあるが、少女は慌てたおかげで階段の側面を思いっ切り蹴ってしまった。だから宙に体が浮き、落下していた。

 

「やばいやばいやばい…!!」

 

少女は着地しようにも体勢が悪いし、体勢がよかろうと怪我するようだろう。そう考えた直人は走る。

 

「ガッ」という音が聞こえてからこの判断に至るまで約1秒。

 

「オーライ。ジタバタしないでー。」

 

「え!?」

 

予想着地地点に直人は到着する。

 

そうして、予想通りに落ちてきたのでお姫様抱っこの体勢で少女を受け止める。

 

ムカつくコメントが来た時の気晴らしにサンドバッグたたきまくったりしているためそう負担はなかった。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、ありがとう。足がすくんだ…」

 

ん?この娘、見たことあるような…?

…あ、ボカロの重音テトだ。

 

「降りれる?あ、違う。歩ける?」

 

言ってることにそんなに大差がないのに訂正する直人。

 

「歩けそうです。」

 

「降ろすよ~。」

 

そうしてテト(?)は再び地上に降り立った。

 

「改めて、助けてくれてありがとう。ボク、アンドロイドの重音テトっていうんだ。」

 

「そうか。俺は宮本直人。ここだけの付き合いだと思うけど、よろしく頼む。」

 

「うん。よろしくね。直人。」

 

直人は時計を見る。

 

「ごめん、広報でミーティングがあるんだ。後でじっくり回るから、その時に。じゃ!!」

 

唐突な別れ方ではあったが、テトはそう気にすることもなく、「じゃーねー」とだけ言い、歩き出した。

 

そうして、しばらくお世話になった企業さんの手伝いをした。

 

あれから2時間後。

 

「ようやく終わった…」

 

「PR動画も忘れるなよー。」

 

なんと鬼畜な…

 

「何はともあれ、回ってみるか。」

 

そう言い、直人は歩き出す。

 

ここにはアンドロイドロボットの展示、仕組みの解説などが各企業ごとに分かれていて、他者との違いがわかりやすくなっていて非常に興味深く、全部のブースを回ろうと考えた。

 

テトって何円するんだろ。

 

そういう考えが少し生まれて複雑な気分になったが、言葉を変えるとイメージが変わる…そう信じて言った。

 

テトの引き取り料、何円するんだろう。

 

そうして最初のブースに足を踏み入れる。

 

人型、獣型、作業特化型。

説明パネルには、処理能力、稼働時間、価格帯。

 

「……高ぇ」

 

思わず声が漏れた。

一体数百万から、安くても数十万。

家電というより、もはや車に近い。

 

それでも、展示されているアンドロイドたちは皆、

どれも、さっきの“彼女”とは違う。

目的が違うからなのかもしれないが、何というか、「人」というよりは「製品」という感じがする。

 

次のブース。

の次。

気づけば、直人は無意識に“赤い色”を探していた。

 

「……あ」

 

視界の端で、揺れるツインテール。

 

いた。

 

ツインテールは直人に気づいた瞬間、ぱっと表情が明るくなる。

 

「直人。」

 

呼び捨てだった。

しかも、やけに嬉しそう。

 

「さっきの人だよね。ミーティング、終わったんだ」

 

「……よく覚えてるな」

 

「覚えますよ。助けてくれた人ですから」

 

さらっと言われて、少し言葉に詰まる。

 

「そうか。やっぱテト第一候補だな。」

 

「それってどういう意味ですか?」

 

「買うなら誰だって話。買うと決まったわけじゃないけどね。」

 

そうしていると説明員さんが話しかけてきた。

 

「あの、買った後の説明とか必要でしょうか?」

 

「買うと決まったわけではないけど、お願いします。」

 

「わかりました。どうぞこちらに。」

 

そう言い、商談ブースの席に座る。

 

「テトも来るのか?」

 

「はい。商談の時は。」

 

少し苦笑いをテトはする。

なにかあったのかな…?

 

「えっと、ライセンス所得とか色々合わせると金額は、148万円になります。」

 

知ってた。高いってこと。

 

「えー。本体価格は?」

 

「100万円ぐらいですね。」

 

たっか。まあ仕方ないか。感情もあるし皮膚もあるしこんだけ高くなることは納得。

だが、値引き交渉のプロ、俺ならできる!!

 

「一応買えるんですけど、安くなりませんかね…?」

 

説明員は少し悩んでから言った。

 

「テトちゃんの方に不具合がないから、どうも下げれないわね…」

 

「私、チャンネル登録者数50万人のYoutuberである、モトミヤの中身であります。」

 

「は、はぁ…え?」

 

「あなたたちの製品を紹介するので安くなりませんか?」

 

説明員は再び悩んだものの決心したようで

 

「上司呼んできます。少しお待ちください。」

 

と言い、この場から席を外した。

 

説明員が席を立ってから、数分。

商談ブースには、妙な沈黙が流れていた。

 

直人はテーブルの上に置かれた資料を眺めるふりをしながら、

横目でテトを見る。

 

テトは、じっと自分の手を見つめていた。

落ち着いているようで、どこか緊張しているようにも見える。

 

「……なあ、テト」

 

「はい?」

 

「もしさ。仮に、だよ?」

 

 一拍置く。

 

「俺が買わなかったら、どうなるんだ?」

 

テトはすぐには答えなかった。

少し考えてから、淡々と言う。

 

「データを一部リセットして、販売されます。」

 

「……リセット?」

 

「はい。もう十分データは収集したらしいので。」

 

その言い方が、やけに事務的だった。

 

「それって……今のテトは?」

 

「消えますよ」

 

 あっさり。

 

「“重音テト”という個体は残りますけど、

 今、直人と話している私は、残りません」

 

 直人は、思わず言葉を失った。

 

「人間でいう、魂が変わるって感じか。」

 

 ――それをわかっていながらも、さっきまで笑顔で話してたのか。

 

 その時、足音が近づく。

 

「お待たせしました」

 

スーツ姿の男性が現れた。

明らかに、さっきの説明員より立場が上だ。

 

「お話は伺いました。

 動画でのPRをご検討いただける、ということで」

 

「はい。

 案件として、ちゃんと一本出します」

 

男性は腕を組み、少し考える。

 

「条件があります」

 

来た。

 

「動画は最低一本。

 タイトル・概要欄に当社名の明記。

 内容は事実に基づくこと」

 

「それは当然ですね」

 

「その代わり――」

 

資料を一枚、差し出す。

 

「総額、128万円。

 このまま、現状渡しです」

 

直人は、息を呑んだ。

 

20万円引き。

破格だ。

 

「ただし」

 

男性は続ける。

 

「未成年である点が問題です。

 契約は保護者同意が必須になります」

 

 ……来た。

 一番現実的で、一番重い壁。

 

「それともう一つ」

 

男性は、テトを見る。

 

「この製品は、“人として扱われる環境”でないと、性能が安定しない可能性があります」

 

 テトは、黙っていた。

 

 直人は、深く息を吸う。

 

「……テト」

 

「はい」

 

「俺と来る?」

 

質問は、シンプルだった。

 

テトは、一瞬目を見開き、

それから、ゆっくりと笑った。

 

「一緒に生活する“相手”としてなら――

 行きたいです」

 

 その一言で、

 直人の中の迷いは、ほとんど消えた。

 

 残ったのは、不安と覚悟だけ。

 

 男性は、書類を一枚めくりながら言った。

 

「一点だけ確認させてください。

 未成年の場合、通常は保護者の同意が必要になります」

 

 直人は、少しだけ間を置いた。

 

 迷っているように見せないための、間。

 

「……両親は、他界しています」

 

 その場の空気が、わずかに変わった。

 

「親類もいません。

 法定代理人は、今はいない状態です」

 

 男性は眉をひそめ、説明員と目配せを交わす。

 

「……なるほど」

 

 資料を閉じ、考え込む。

 

「その場合、成年後見人の指定が必要になりますが、

 今回は“動産の購入契約”に限定する形であれば――」

 

 言葉を選びながら、続ける。

 

「本人の意思確認と、資金の出所が明確であること。

 この二点が満たされれば、契約自体は可能です」

 

 直人は、内心で小さく息を吐いた。

 

「資金は、すべて私個人の口座です。

 動画収益と、案件報酬です」

 

「確認させていただきます」

 

 説明員が、端末で何かを操作する。

 

 沈黙。

 

 テトは、直人の袖をそっと引いた。

 

「……直人」

 

「ん?」

 

「ごめんなさい。

 ボクのせいで、思い出したくないことを――」

 

「いいよ」

 

 直人は、視線を外さずに言った。

 

「今さらだし。

 それに――」

 

 一瞬だけ、言葉を探して。

 

「一人で決めるのには、慣れてるんだ」

 

 テトは、何か言いかけて、やめた。

 そして、少しだけうつむく。

 

「……それなら」

 

 小さな声。

 

「ボク、ちゃんと役に立てるように頑張るよ」

 

 説明員が顔を上げた。

 

「確認が取れました。

 資金面に問題はありません」

 

 男性は、ゆっくりとうなずく。

 

「では、契約を進めましょう。

 重音テト――引き取り先は、宮本直人様個人」

 

 書類が差し出される。

 

 ペンを握る。

 

 迷いは、もうなかった。

 

 名前を書き終えた瞬間、

 テトは、ほんの少しだけ笑った。

 

「これから、よろしくお願いします」

 

 その言葉は、

 さっきよりもずっと、静かで重かった。







ふてーきこーしんなのであります。

テトさんの口調がよくわかりませぬ。
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