俺、YouTuberだけど重音テトを買う(笑) 作:UMC OGASOU
鍵を回す音が、やけに大きく響いた。
「……ただいま」
返事はない。
当たり前だ。今までずっと一人だったんだから。
――だった、けど。
「……ここが、直人の家?」
後ろから聞こえた声に、直人は一瞬ビクッとした。
「そう。狭いけどな」
玄関は一人暮らし用の1K。
靴は一足、傘立ては空、生活感は最低限。
「思ってたより……静かですね」
「防音はまあまあ。配信に向いてる」
「なるほど。住環境としても、合理的だね。」
そう言い、玄関に入ってきちんと靴をそろえたテトは期待の目をして周りを見渡していた。
「がっかりすんなよ?」
そう言いリビングにつながる扉を開けた。
そこにはテレビ、キッチンはまあ普通。ダイニングテーブルには雑に機材が置いてあって、少し離れたところにゲームPCが鎮座していた。
「おー。The Youtuberって感じがするね。」
「それは褒めているのか煽ってるのかどうなんだ?
…まあ、夜ご飯食べる?」
「食べる。今後のことで色々話したいこともあるし。」
「了解。30分ぐらい待ってて。」
っていうかアンドロイドだけど、食物アレルギーとかってあるのかな?
聞いてみ…
「ボク、アレルギーとかないよ~。」
「え、テト今心読んだ?」
「まさか~。勘だよ勘。」
まあ、いいか。
テレビでも見てまってや。
きっかり30分後、宮本は二人分の納豆パスタを持ってキッチンから出てきた。
「テト~できたぞー。」
「はーい。」
「それじゃ、いただきます。」
「あ、いただきます。」
うむ。今回は我ながらよくできた。
醬油をちょっと多めに入れたからかな?
そう思い、目の前にいるテトを見た。
うまい、うまい…という目をして黙々と食べ続ける姿がそこにあった。
直人は話したいことがあるんじゃないのか。とも思ったが夢中な彼女に声をかけれずに、夕食は終了した。
「…ごめんなさい。夢中になっちゃった。」
申し訳なさそうに言うテト。
「別にいいよ。その話したいことってなにさ。」
直人はそう気にした様子でもなく質問した。
「ボクに必要なものです。例えば…エネルギーとか。マスターの認識とか。」
「ほーん。今日はまだ時間あるし、話せるとこまで話してくれる?」
直人は気になることだったのか、興味を持った。
「それじゃあ、最初は食事とか、日常生活について説明するよ。 ボクは、食事が食べれるなら食べたほうがいいんだ。それはボクが動く動力源にもなるからね。」
「なるほど、しっかり3食食べるんだな。」
そう言った直人にテトはうなづく。
そのあと、何かに気づいた様子で少し慌てていった。
「うん。あ、防水機能ついてるから、風呂とかにも入れるよ。
っと、話を戻して。 料理、買い物などの家事も、やり方はわかる。」
テトの少し意味深ないい方に直人は引っかかった。
「やり方“は”?」
テトは苦笑いを浮かべて、静かに言った。
「実際にやってみないと分からないじゃないか。今、完璧にこなせるかというとそうでもないと思うし。」
「……つまり」
直人は腕を組んだ。
「理論上は何でもできるけど、実践は未知数、と」
「うん。初見プレイみたいなものかな」
「嫌な例えだな」
「でも失敗しても、学習データとしては美味しいよ?」
さらっと家を実験場のような感じに言われたので、ムッっとした直人はしっかりつっこむ。
「俺の家を実験場にするな…‼」
テトは少しだけ楽しそうに笑った。
「それと、睡眠についてなんだけど」
「まだあるのか」
「うん。基本は人間と同じで、寝たほうが効率がいい。
それと――」
「?」
「完全に目を閉じなくても、休止モードには入れる」
「つまり?」
「起きてるように見えて、実は寝てる」
直人はよく考えた。
そうしたら、目を開けていても一ミリも動かないことだと気付くなり、
「怖いなそれ!」
と、言った。
「直人が変なことしないか監視できる利点もあるよ?」
「しなくていい!変なことなんてしねーから!!」
しないとは言いつつ何故か焦る直人。
「えへへ、ごめんごめん。それじゃあ、次は法律とか、屋外で活動するときの話。」
「あー。テトを買い物に行かせないといけないしなぁ…」
「ボク一人で行かせようとしないでください。」
テトはパシらされることに、ムスッとした表情で反撃したが、法律の話に戻る。
「今のところは、屋外へ出ても良いんだけど、自動車免許とかは取れないみたい。あ、あとアルバイトとか仕事はできない。」
「テトの地位向上を政府に訴えたい気分だ。」
「いや、ボクに限った話じゃないから!!それに、まだ困ったことなんてないじゃん。」
直人はそれもそうだな。という笑顔になり、話題を変えた。
「まあ、そういうのはいったん置いておいて、今3つぐらい我々は大きな問題に直面している。」
「というと?」
「寝るとこ、風呂、洗濯物だ。」
「ボクは最悪ソファーで寝るからそこは大丈夫だし、風呂に関してもなんとも思わないかな。
ただ…ボクも少し洗濯物は思うところがある。」
「というか、着替えある?」
「付属の軍服なら1着。パジャマは勿論のことないね。」
「明日、買いに行こうか。今日はパジャマ代わりに服貸すわ。」
「ありがとう。」
そうして、直人が持ってきたTシャツをテトは広げる。
「…ねぇ、大きくない?」
そのTシャツはテトにはぶかぶかだった。
「仕方ないよ。自分に合ったやつ買ってるんだもん。」
「まあ、そうだよね。」
「お風呂、お先にどうぞ。タオルはなんか新品あったから出しといた。それ使って。」
「気が利くね…」
「それじゃ、ごゆるりと~。」
直人は契約の動画、どうしようかなーと、とにかくぼーと考えていた。
「直人ー」
「うわっ!?」
思わず変な声が出た。
振り向くと、そこには借りたTシャツを着たテトが立っていた。
裾は太ももの半分くらいまであり、袖は完全に余っている。
髪は少しだけ湿っていて、
タオルで雑に拭いたのが一目でわかる。
「ドライヤー、どこ?」
「そこ。」
直人は指差した。
「ありがとう」
テトは何事もない様子で洗面台に向かい、
ブーンという機械音が部屋に加わる。
「あー。なんかビビったぁ…」
しばらくして、ドライヤーの音が止まった。
「直人ー。さっきなんで驚いてたの?」
「そうだね…動画の内容をぼーっと考えてたからかなー。」
「ホントー?」
「え、なに?俺がそんなこと考えるとでも?」
「さぁ?」
テトは意味ありげに首を傾げると、それ以上は何も言わずにソファの方へ向かった。
ぶかぶかのTシャツの裾が、歩くたびにゆらゆら揺れる。
一人暮らしが長すぎたせいか、
部屋に誰かがいるというだけで、普段の感覚がどこかズレている…気がする。
「風呂入ってくるわー」
「りょーかい」
直人が風呂から出てきたら、もうすでにテトは目を閉じて、寝息を立てていた。
「布団、かけずによく寝れるな…」
そうして、直人は布団を持ってきて、優しくテトにかける。
「動画、どうしようねぇ…」
そのまま電気を消し、直人はベッドに潜り込んだ。
天井を見つめながら、頭の中で考えることにし、寝た。
次回内容予告、「なんかマズそう」