俺、YouTuberだけど重音テトを買う(笑)   作:UMC OGASOU

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窓から差し込む朝日が、容赦なく直人のまぶたを焼いた。

目覚ましよりも原始的で、そして確実な起床方法だ。

 

「……まぶし……」

 

半ば引きずり出されるように意識が浮上し――

その瞬間、直人は完全に固まった。

 

視界いっぱいに、テトの顔。

 

「……え?」

 

距離が近い。

いや、近いなんてもんじゃない。ほぼゼロ距離だ。

 

本来ひとりで寝ていたはずのベッド。

その布団の中で、テトは当然のように丸くなり、規則正しい寝息を立てていた。

 

(ソファーで寝てたはずじゃ……)

 

混乱したまま視線を下げる。

布団は確かに、二人分使われている。

 

それにしても――

寝ている間も、テトのツインテールはきれいなドリル状を保っていた。

 

(これ、セットじゃなくて自然形成なのか……?)

 

どうでもいい疑問が浮かんだ、その瞬間。

 

ぱちっ、とテトの目が開く。

 

「……あ」

 

「うおっ!?」

 

反射的に上体を起こす直人。

テトも少し驚いたように目を瞬かせた。

 

「おはよう、直人」

 

「お、おはよう……いや、ちょっと待て。

 なんで俺のベッドにいる?」

 

テトは一拍置いてから、少し歯切れ悪く答えた。

 

「えっと……夜中、寒そうだったから」

 

「理由になってない!」

 

「ソファー、想定より硬かったんだよね……」

 

「それは同情する」

 

布団を掴んだまま、直人は頭を抱えた。

 

「……それで、どうして俺のベッドに入ろうと思った?」

 

「ここしかなかったから」

 

まあ、そうだよな。

このマンション、無駄に部屋数だけは多いくせに、

実際に“使える”部屋は限られている。

 

リビングと直結した和室。

そこにベッドを置いて、直人はずっと寝てきた。

残りの個室二つは、いつの間にか物置扱い。

人が寝られる状態じゃない。

 

――でも。

 

(……これは、さすがに考えないとな)

 

直人は一つ、心の中で決断した。

 

「まあ、いいや。

 今日は服、買いに行こう」

 

「え?」

 

「午前と午後、どっちがいい?」

 

「午後からでもいい?」

 

「了解。そうしよう」

 

こうして、

直人の“一人暮らし”は、完全に終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

直人の家の近くのショッピングモール。

 

「直人。実際に見たことないのがいっぱいあるよ!」

 

「あんまり、はしゃぐなよ…」

 

はしゃぐ気持ちもわからなくはない。

いままで研究所かなんかで暮らしていたら、こういう所に来る機会なんて初めてだろうし。

 

「今日来た意味を忘れるんじゃねぇ…」

 

そう言うとテトは少し頬を赤らめて謝った。

 

「じゃあ、行こうよ。」

 

「そうだね。」

 

そうと決まれば3Fの衣料品売り場に直行。

道中に乗るエスカレーターにも目をキラキラさせて乗るテト。

それを見ていると、こっちは何故かほっこりする。

 

「ほんと、何なんだろうなぁ…?」

 

つい思ったことが口に出てしまった直人だった。

 

 

 

 

 

 

 

「直人、あそこ?」

 

テトは指をさす。

 

「そうだよ。欲しいのを上下10着買ってあげる。選んでおいで。」

 

「そんなにいいの?」

 

「これから、動画撮影でこき使うからね。」

 

「うえぇ。…まあ、できることは頑張るよ。待ってて。」

 

テトはそう言いながら、ハンガーがずらりと並んだ売り場へ突撃していった。

直人は少し離れた場所から、その様子を眺める。

 

(なんかやらかしそうだな…)

 

 

約10分後…

 

 

 

「直人ー!」

 

嫌な予感は、だいたい当たる。

 

振り向くと、テトが両腕いっぱいに服を抱えて立っていた。

Tシャツ、パーカー、スカート、ワンピース、なぜかジャージまで混ざっている。

 

「……もう10着?」

 

「え?これは“候補”だよ?」

 

「候補でその量!?」

 

「だって用途別に考えたら必要じゃない?

 普段着、外出着、部屋着、就寝用、作業用、あとテンション上げる用」

 

「最後なんだよ」

 

テトは首を傾げた。

 

「テンションは大事でしょ?」

 

いや、まあそうだけども…

理屈としては否定しづらいのが厄介だった。

 

「とりあえず、試着な」

 

「試着?」

 

「サイズ合わなかったら意味ないだろ」

 

「……なるほど」

 

妙に感心した顔で、テトは試着室へ向かう。

カーテンが閉まり、少ししてから中から声がした。

 

「直人ー」

 

「はいはい」

 

「これ、どうやって着るの?」

 

「大丈夫か…」

 

仕方なく説明すると、しばらくしてカーテンが開いた。

 

「どう?」

 

出てきたテトは、シンプルなパーカーにスカート。

軍服の面影は一切なく、完全に“普通の女の子”だった。

 

直人は一瞬、言葉を失う。

 

「……似合ってる」

 

「ほんと?」

 

「うん。変じゃないむしろいい感じ。」

 

「よかった」

 

少しだけ、嬉しそうに笑うテト。

 

(……あー)

 

この感じは、よくない。

色々な意味で。

 

「次、次!まだあるからな!」

 

直人が誤魔化すように言うと、テトはくすっと笑ってまた試着室に戻った。

 

その後も、

「これは動きやすい!」

「これは寝るとき向いてないかも」

「これ、ポケット多くて好き」

と、やたら実用重視なコメントが飛び交い。

 

気づけばカゴはしっかり満杯になっていた。

 

レジを終え、紙袋を抱えてエスカレーターを降りる。

 

「……なんか、10個以上買った気がする」

 

「でも、これで当分困らないね」

 

「まあな」

 

ショッピングモールからの帰り道。

紙袋がぶつかり合う音だけが、妙に大きく感じられた。

 

テトは袋を覗き込みながら、ふと思い出したように言った。

 

「そういえば、寝床の話」

 

「うん?」

 

「今日からは、ちゃんと部屋使うんだよね?」

 

「ああ。物置、片付ける」

 

「じゃあ――」

 

テトは一瞬だけ、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「ベッドに潜り込む必要、なくなるね」

 

「……もう二度とやるな」

 

「えー?」

 

「えーじゃない」

 

そう言いつつ、直人はどこかホッとしていた。

 

少なくとも今日は、

“朝起きたらアンドロイドが隣にいる”

なんて事件は起きないはずだ。

 

――たぶん。

 

その時だ。直人が最も重要なことを忘れていることに気づいた。

 

「ねね、テト。」

 

「ん?」

 

「ベット買うの忘れてた…」

 

しばし、沈黙するも、

 

「あー。ボクと一緒に寝る?」

 

原子爆弾ともいえる発言によって沈黙は過ぎ去った。

ってかやめろ。さらっと爆弾発言をすな。

 

「まあ、どうせ今日中に掃除なんて終わるわけねぇし。」

 

「じゃあ、もし終わったら一緒に寝てくれる?」

 

ん?

 

え?

 

あ…

 

「一緒に寝たいの?」

 

「うん。」

 

「じゃあ、そうゆうことでいいよ。今日、冷え込むらしいし。」

 

そう答えた後のテトは心なしか歩き方が弾んでいるように見えた。

本当に一緒に寝たいのなら、色々心配になってくるなぁ…

 

「ねぇ、直人」

 

「ん?」

 

「人間って、一緒に寝ると安心するって本当?」

 

いきなり核心を突いてくる。

 

「……場合による」

 

「ふーん」

 

それ以上は聞いてこなかったが、

テトの歩調は相変わらず弾んでいる。

 

帰宅すると、部屋は相変わらずの一人暮らし仕様。

床に置きっぱなしの段ボール、積み上がった機材、

そして“部屋のはずなのに部屋として機能していない”二つの個室。

 

「……まずはここからだな」

 

直人が物置化した部屋のドアを開けると、

テトは中を覗き込んで、正直な感想を口にした。

 

「うわ。ダンジョンみたい」

 

「否定できないのが辛い」

 

段ボールを一つ動かすたび、

過去の通販履歴と記憶が掘り起こされていく。

 

「これ、何?」

 

「昔買った配信用ライト」

 

「これも?」

 

「三脚」

 

「……これは?」

 

「失敗したやつ」

 

テトは一つ一つを観察しながら、

まるで研究対象を見るみたいな目をしている。

 

「直人って、意外と溜め込むタイプだね」

 

「一人だと、まあ……な」

 

その言葉に、テトは少しだけ動きを止めた。

 

「――じゃあ」

 

テトは段ボールを一つ持ち上げ、

何でもない調子で言った。

 

「これからは、二人分になるね」

 

「……そうなるな」

 

気づけば、夕方になっていた。

完全な片付けには程遠いが、

床が見える程度には空間ができている。

 

「今日はこんなもんだろ。」

 

「直人、おなかへったよ…」

 

「夜ご飯作るから、待ってて。」

 

 

 

 

 

 

 

そうして、直人はテトと寝ることになったのだが…

 

テトにベットの7割を占領されたため、彼は寝不足になった。

 

 

 

 

 





ね、、、み、、、い




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