俺、YouTuberだけど重音テトを買う(笑)   作:UMC OGASOU

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月曜=学校

 

今日は月曜日。ということは直人は高校に行かなければならない。

 

「……最悪だ」

 

布団の中で、直人はそう呟いた。

一人暮らしなら、月曜の朝なんてただの憂鬱で済む。

だが今日は違う。

 

隣に、いる。

 

「……すー……」

 

規則正しい寝息。

アンドロイド。

重音テト。

昨日の爆弾発言を投下した張本人。

 

「……夢じゃないよな」

 

試しに、そっと距離を取ろうとした瞬間。

 

「ん……」

 

テトが寝返りを打ち、

直人の方へ、ほんの数センチ詰めてきた。

 

「近い近い近い!」

 

思わず声を殺して身を引く。

心臓が無駄にうるさい。

 

(昨日の『一緒に寝たい』は、完全にフラグだったじゃねぇか…)

 

時計を見る。

 

6:00。

 

「……起こすか」

 

直人は意を決して、テトの肩を軽く揺らした。

 

「おーい、朝だぞ」

 

「……」

 

「テト、朝」

 

「……あと5分……」

 

「人間みたいなこと言うな!?」

 

思わずツッコむ。

だがテトは布団に顔を埋めたまま、微動だにしない。

 

「え、待って。アンドロイドって二度寝するの?」

 

「効率が……悪い……」

 

「どの口が効率言ってんだ」

 

結局、もう一度肩を揺らす。

 

「ほら、起きろ。今日は月曜だ」

 

その言葉に、テトの目がぱちっと開いた。

 

「月曜?」

 

「そう。平日。俺は学校」

 

「……学校?」

 

次の瞬間。

 

「えっ、直人って学生なの!?」

 

「今さら!?」

 

勢いよく起き上がるテト。

布団がずれて、また距離が縮まる。

 

「ちょ、近い!」

 

「高校生だったんだ……なるほど、生活パターンが不安定な理由が――」

 

「分析すな」

 

テトはベッドの上で正座し、腕を組む。

 

「ということは、直人は今日いない?」

 

「そうなるな」

 

「……じゃあ、ボクは?」

 

「……留守番」

 

「即答!?」

 

「逆に何を期待した!?」

 

テトは少し考え込み、首を傾げた。

 

「じゃあ、ボクは家事を――」

 

「ああ。そうしてくれ。」

 

そう答えた瞬間だった。

 

直人は、弁当用の卵を割ろうとして――

ぴたり、と手を止めた。

 

(……あ)

 

今、自分は何を言った?

 

背後で、空気が変わる。

 

「……ほんとに?」

 

振り返ると、

テトが目をきらきらさせてこちらを見ていた。

 

「家事、していいの?」

 

その表情は、

さっきまで布団に顔を埋めて「あと5分……」と言っていた存在とは

思えないほどに、生き生きとしている。

 

「え、いや、その……」

 

直人は一歩遅れて気づく。

 

(昨日――

『理論上は何でもできるけど、実践は未知数』

って、言ってたよな……?)

 

「洗濯?

 掃除?

 それとも、料理?」

 

テトは指を折りながら数え始める。

 

「効率を考えるなら同時進行が――」

 

「待て待て待て待て!!」

 

慌てて制止する直人。

 

「全部一気にやるな!

 あと“効率”って言葉を信用していいのか分からん!」

 

「でも、直人が『そうしてくれ』って言った」

 

「言ったけど!

 言ったけども!」

 

テトは小さく首を傾げた。

 

「マスターの指示は、優先度高いんだよ?」

 

「その言い方やめろ!

 俺が悪いみたいじゃん!」

 

半ばパニックになりながら、直人は急いで弁当を詰め終える。

ご飯、卵焼き、冷食。

いつもと同じ、変わらない朝のはずなのに。

 

背後にいる存在だけが、決定的に違う。

 

「いいか、テト」

 

直人は振り返り、真剣な顔で言った。

 

「今日は“練習”だ。

 まずは、洗濯だけ」

 

「掃除は?」

 

「ダメ」

 

「料理は?」

 

「ダメ」

 

「床のワックスがけは?」

 

「ダメ。ってか毎日の掃除でやらんだろ…」

 

テトは少し残念そうにしつつも、うなずいた。

 

「了解。

 洗濯だけやるよ。」

 

逆に不安が増す。

 

(……ほんとに大丈夫か?)

 

カバンを持ち、玄関に向かう直人。

靴を履きながら、最後に念押しする。

 

「何かあったら昨日あげたスマホで連絡する事!!いい?」

 

「わかった。行ってらっしゃい。」

 

「行ってきまーす。」

 

直人はいつもと同じ時間に出発、最寄り駅から電車に乗る。

この乗車時間はYoutubeのコメント返信など、いろいろなことに使っていたが、

 

今日は違った

 

「洗濯機のコースって何?」

 

テトからのLINEだ。

 

「いつものコースだよ。」

 

「了解!!」

 

という少しハプニングがあった。

 

 

 

学校に着くなり、友人の一人に話しかけられる。

 

「よお、直人。なんか今日機嫌いいな。なんかいいことあったのか?」

 

「思い当たる節はないなぁ…」

 

ほんとはテトが家に来たからと言いたいところだが、こらえる。

 

「そうかー。彼女ができたんだな!!」

 

…おいおい、冗談はよせ。

 

「いねぇよ…」

 

ああ、みじめだ。

 

 

 

 

 

 

放課後。

 

チャイムが鳴り、教室が一気にざわつく。

直人は机に突っ伏すようにして、深く息を吐いた。

 

「……疲れた」

 

授業内容が頭に入らなかったわけじゃない。

ただ、今日一日、ずっと別のことを考えていた。

 

(洗濯……大丈夫だよな……?)

 

アンドロイドとはいえ、

“ほぼ人間”で、“実践は未知数”。

 

嫌な予感というより、

期待と不安が混ざった、よく分からない感覚だった。

 

「おーい、直人」

 

友人が帰り支度をしながら声をかけてくる。

 

「今日まっすぐ帰る?」

 

「うん。用事あるから」

 

「へー。珍しいな」

 

用事。

嘘じゃない。

 

家に“誰か”がいる。

それだけで、帰る理由になる。

 

直人はカバンを肩にかけ、教室を後にした。

 

夕方の駅前。

いつもと同じ道、同じ風景。

 

なのに、足取りは妙に早い。

 

(……何やってんだ、俺)

 

自分でも分かる。

少し、楽しみにしている。

 

玄関の前に立ち、鍵を取り出す。

ドアノブに手をかけた瞬間、

中から微かに音が聞こえた。

 

ごとん。

がた。

……うぃーん。

 

「……?」

 

洗濯機の音だ。

 

(ちゃんと、やってる……?)

 

鍵を開け、ドアを押し開ける。

 

「ただいま――」

 

その瞬間。

 

「おかえり!」

 

弾むような声。

直人の視界に飛び込んできたのは――

 

洗濯バサミを持った、重音テトだった。

 

「……」

 

言葉が出ない。

 

テトはエプロン代わりなのか、

直人のTシャツを腰に巻き、

ベランダから顔を出していた。

 

「洗濯、終わったよ!」

 

「……え」

 

「干すのも、今ちょうど終盤!」

 

胸を張るテト。

その背後で、洗濯物が風に揺れている。

 

直人は一歩、二歩と近づき、

ベランダを覗いた。

 

――干されている。

 

シャツも、タオルも、下着も。

ちゃんと、向きも揃っている。

 

「……ちゃんと、できてる……」

 

思わず呟く。

 

「でしょ?」

 

テトは得意げに笑った。

 

「説明書、全部読んだし。

 洗濯ネットも使った。

 色移り防止も考慮したよ」

 

「……そこまで……」

 

「でもね」

 

テトは少しだけ声のトーンを落とす。

 

「一回、失敗した」

 

「失敗?」

 

直人の心臓が跳ねる。

 

「最初、洗剤を三倍入れた」

 

「入れすぎだろ!」

 

「泡がすごかった」

 

「そりゃそうだよ!」

 

「途中で異変に気づいて、停止。

 再設定してやり直した」

 

「……学習してる……」

 

直人は頭を抱えた。

 

(こいつ……本当にアンドロイドか……?)

 

洗濯という名の爆弾は、

どうやら不発で済んだらしい。

 

「えっと……ありがとう」

 

そう言うと、テトは一瞬、目を丸くした。

 

「……どういたしまして」

 

少し照れたように、視線を逸らす。

 

その仕草が、あまりにも“人間”で、

直人はまた言葉を失った。

 

部屋に戻る。

 

「で、他は何もしてないよな?」

 

「洗濯だけ、って言われたから」

 

テトは素直に答える。

 

「ただ……」

 

「ただ?」

 

「気になることは、いっぱいあった」

 

テトは部屋を見回す。

 

「この部屋、直人一人で住むには、

 色々と最適化されてない」

 

「……急に何」

 

「例えば」

 

テトは指を一本立てた。

 

「寝床」

 

「……寝床?」

 

「ボク、昨日ソファで寝た」

 

「ああ……」

 

「人間の睡眠としては、効率が悪い」

 

「効率って言うな」

 

「でも、問題だと思う」

 

テトは真剣な顔で言った。

 

「この家に、ボクの寝る場所がない」

 

直人は黙り込んだ。

 

確かにそうだ。

昨日は勢いで泊めた。

今日は洗濯を任せた。

 

でも――

 

「……どうするつもりだよ」

 

「わからない」

 

即答だった。

 

「だから、考えたい」

 

テトは直人を見る。

 

「直人と、暮らすなら」

 

その言葉が、胸に落ちる。

 

(……暮らす)

 

ただの一時的な同居じゃない。

生活。

日常。

 

「……俺も、考えなきゃだな」

 

直人は小さく笑った。

 

「正直、アンドロイドと暮らす想定、

 人生設計に入ってなかった」

 

「ボクも」

 

テトは少し困ったように笑う。

 

「“誰かと暮らす”のは、初めて」

 

その声は静かで、

でも確かに、感情がこもっていた。

 

窓の外は、もう夕暮れ。

オレンジ色の光が部屋を染める。

 

昨日までと、何も変わらない部屋。

なのに――

 

「……変わっちまったな」

 

直人が呟く。

 

「何が?」

 

「日常」

 

テトは一拍置いてから答えた。

 

「変わるのは、悪くない」

 

「即答かよ」

 

「でも、不確定要素は多い」

 

「それは否定しない」

 

二人は顔を見合わせ、

同時に小さく笑った。

 

静かな部屋。

洗濯物の揺れる音だけが、聞こえる。

 

こうして、

直人と重音テトの

“同居生活”は、正式に始まったのだった。

 

――問題だらけで、

でも、少しだけ楽しそうな。

 

 

 

 

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