俺、YouTuberだけど重音テトを買う(笑) 作:UMC OGASOU
あの日から数日が経ち、我が家は新しい局面に到達していた。
「家具の配置を変え、テトと俺の部屋を作る……!!」
直人は拳を握って宣言する。
彼がようやく物置部屋の掃除を完了させ、設置できるスペースが開いたのである。
埃を被った段ボール、謎のケーブル類、いつ買ったかも分からない雑誌の山。
それらを一つずつ片付け、ようやく“部屋”と呼べる空間が戻ってきた。
そして今。
直人とテトは、郊外の大型家具屋に来ていた。
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「……広い」
テトは入口に立ったまま、天井を見上げていた。
整然と並ぶソファ、ベッド、棚。
生活を象った空間が、無数に広がっている。
「全部、売り物……?」
「そうだね…」
「すごいね……買わないといけない圧が強なぁ」
「圧って言うな。というかなんだよその圧」
テトは一歩進むごとに首を左右に動かし、
展示された部屋を一つひとつ観察していく。
「この空間は“二人暮らし想定”」
「こっちは“単身者向け”」
「ちょっと静かに見てくれ」
直人は苦笑する。
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最初に向かったのはベッドコーナーだった。
「で、寝床はどうする?」
「個別が合理的」
即答だった。
「だよな」
直人は少しだけ、安心したように頷く。
「ボク、睡眠中に無意識で回転するからさ」
「それはそれで怖いな…え、それって普通の寝返りじゃね?」
展示用のシングルベッドを、テトは真剣な顔で叩く。
「これはフレーム剛性が低い」
「これは軋み音が出る」
「これは耐久性は高いけど、寝心地が硬すぎるよ…」
「……こだわるなぁ。」
結局、
・シンプルなシングルベッド
・収納付き
・軋みにくい構造
という、実用全振りの一台に決まった。
「じゃあ、机いる?」
「机は必要だと思う」
「即答だね…」
テトは、机と椅子の高さ関係を確認しながら言う。
「直人は、動画編集と勉強を机でやってるよね?」
「そうだよ。」
「ボクも、直人と編集とか、ゲームのチーム組みたい。」
「……和室でやる?」
「出来るなら」
ぐいっとテトが迫ってきた。
直人は一瞬、言葉に詰まった。
(……距離、近くないか?)
だが、口には出さない。
「まあ、どうせ机買うことになるんだけど」
「うん。別に今日じゃなくてもいいし。」
テトは当たり前のように言った。
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一通り見終え、
二人は展示ソファに並んで腰を下ろす。
「……なあ、テト」
「なに?」
「その……ここの生活に慣れた?」
「例えば?」
「人間と暮らすこと、家事をやること…とかかな。」
テトは少し考えてから答えた。
「不便な点は多いし非効率な判断も多いと思ったりしてるね。」
「そうか。」
「でも」
テトは直人を見る。
「直人は、ボクを“モノ”として扱わない」
その言葉に、直人は息を止めた。
「それは……普通だろ」
「違う」
テトは首を振る。
「普通じゃない。普通は最低限人の生活をさせるの。それに比べたら、ボクが歌うという事以外にも家事とかやらせてくれるし。」
「……」
「だから、嫌とは思わないかな。いや、むしろいいかも。」
直人は、視線を逸らしながら言った。
「……じゃあさ」
「うん?」
「ちゃんと“家”になるようにしよう」
「家にする?」
「帰ってくる場所。いや、帰ってきたくなるような魅力のある場所…ってとこかな」
テトは小さく笑った。
「いいね。作ろう」
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会計を済ませ、配送手続きを終える。
レシートの金額を見て、直人は一瞬だけ顔を引きつらせたが、
すぐに深呼吸した。
(……まあ、必要経費だ。幸い配信でがっぽり稼いだばっかだったしな)
駐車場に出ると、夕方の風が吹く。
「直人」
「ん?」
「ありがとう」
「急にどうした」
「なんか、いつもボクに尽くしてくれているような感じがしてさ。」
直人は少し照れたように頭を掻いた。
「……テトが来たから、一人暮らしが終わったからな」
「うん」
「やるっきゃないんだよって思うんだ。」
テトは頷いた。
「そうかぁ…」
夕焼けの中、
二人は並んで歩き出す。
部屋が分かれても、
生活は、もう一緒だ。
それを自覚した一日だった。
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家具が届いたのは、次の日の昼過ぎだった。
インターホンが鳴るより早く、テトは立ち上がっていた。
「来たね」
「まだ鳴ってないけどな」
「でも、来たと思う」
直人が玄関を開けると、配送員の後ろに大きな段ボールが二つ見えた。
シングルベッドのフレームと、マットレス。
想像していたよりも、ずっと存在感がある。
「和室横の部屋でお願いします」
「了解です」
段ボールが運び込まれた瞬間、
物置だった部屋は、はっきりと役割を与えられた。
「……空間が変わった」
テトは小さく呟く。
「置いただけだろ」
「違うよ。ここはもう物置部屋じゃない」
「そうだな…!!」
カッターでテープを切った。
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段ボールを開けると、木材と金属の匂いが広がる。
「説明書、あった。」
テトは自然にそれを手に取った。
「読ませてくれ。」
「うん。いいよ。」
「あ、この工具いるんだ。」
直人は工具を準備しながら笑う。
作業は着々とと進んだ。
「この部品、上下逆」
「まじか。助かる」
「ネジ、ここは一旦仮止め」
「了解」
会話は少ない。
だが、無駄もなかった。
ベッドフレームが形を成していくにつれ、
部屋は少しずつ「誰かの場所」になっていく。
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最後にマットレスを置く。
「……完成」
直人がそう言うと、
テトは一歩下がって全体を見た。
「どう?」
「いい感じ。」
「そりゃあ、良かった」
テトはベッドの縁にそっと触れる。
「ここは、ボクが使う場所なんだね」
直人は一瞬だけ手を止めてから、
「そうだね」
と、当たり前のように答えた。
その言葉に、
テトは何も返さなかったが、
表情はわずかに柔らいでいた。
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段ボールを畳み終えた部屋には、
新しい家具と、空いた空間が残った。
「今日から、ここがテトの部屋だな」
「うん」
短い返事。
けれど、その声には、
どこか決定的な響きがあった。
物が置かれ、
役割が決まり、
それでもなお、
人が居ることで初めて完成する部屋。
その始まりの日だった。
自分の作品を気に入って何が悪い…!!