俺、YouTuberだけど重音テトを買う(笑) 作:UMC OGASOU
土曜日の朝。
普段なら休日を満喫する時間帯。
だが今日の直人は珍しく早起きだった。
理由は一つ。
「忘れ物ない?」
玄関で靴を履きながら聞く。
「大丈夫」
テトは小さなショルダーバッグを肩にかけていた。
スマホ。
充電器。
財布。
ハンカチ。
そしてメモ帳。
「遠足みたいだな」
「研究所だけどね」
「そうだな」
しかし。
テトの表情は少し硬かった。
直人は気づいていた。
メールを受け取った日から。
テトは何度か考え込むことが増えていた。
同型機。
自分と同じ存在。
普通に考えれば会いたいはずだ。
だが。
テトは研究所時代の話をほとんどしない。
嫌な記憶があるわけではない。
ただ。
「思い出が少ない」
そう言っていた。
研究所の部屋。
テスト。
歌唱データ収集。
会話学習。
毎日同じことの繰り返し。
だからこそ。
今さら過去と向き合うのが怖いのかもしれない。
研究所は都心から少し離れた場所にあった。
巨大な白い建物。
企業の本社というより大学の研究棟に近い。
「でかいな」
直人が素直に感想を漏らす。
「ボクもそう思う」
「住んでたんだろ?」
「研究棟の一部だけ」
テトは建物を見上げた。
その目には懐かしさと緊張が混ざっていた。
受付を済ませる。
案内役として現れたのは以前会った説明員だった。
「お久しぶりです」
「どうも」
「元気そうね」
「はい」
テトも頭を下げる。
案内されながら廊下を歩く。
白い壁。
ガラス張りの研究室。
機械音。
いかにも研究施設という雰囲気だった。
「緊張してる?」
直人が小声で聞く。
「少し」
正直な返事。
直人はそれ以上聞かなかった。
案内された先は会議室のような場所だった。
しかし。
部屋に入った瞬間。
テトの足が止まる。
「……え」
そこには。
赤い髪の少女がいた。
いや。
一人ではない。
二人。
三人。
四人。
合計五人。
全員。
顔が似ていた。
髪型は違う。
服装も違う。
身長も微妙に違う。
それでも。
明らかに。
同じ設計思想から作られた存在だった。
「こんにちは」
一人が言う。
「初めまして」
もう一人が頭を下げる。
「君が販売された個体?」
さらに別の一人。
テトは固まったままだった。
「テト?」
直人が呼ぶ。
「……あ」
ようやく現実に戻る。
「ご、ごめん」
「無理しなくていい」
そう言われて。
少しだけ肩の力が抜けた。
交流実験。
名前は大層だが。
実際は会話会みたいなものだった。
同型機同士の交流によって人格形成にどう影響が出るか。
それを観察するらしい。
「なるほど」
直人は研究員から説明を受けながら頷く。
一方。
テトたちは別テーブルに座っていた。
「外の生活はどう?」
一人が聞く。
「楽しいよ」
テトは答えた。
即答だった。
「へぇ」
「そんなに?」
「うん」
少し考えてから。
テトは続ける。
「毎日違うから」
その場にいた全員が黙る。
研究所生活は基本的に同じだった。
朝。
診断。
学習。
テスト。
充電。
変化が少ない。
だから。
『毎日違う』
その言葉は彼女たちにとって新鮮だった。
「例えば?」
「洗濯失敗した」
「え」
「洗剤三倍入れた」
「何してるの」
「泡がすごかった」
その瞬間。
初めて笑いが起きた。
しばらく会話が続く。
その中で。
テトは気づいた。
みんな少し違う。
同じ設計。
同じベース人格。
なのに。
話し方。
考え方。
反応。
全部微妙に違う。
その時だった。
部屋の隅にいた一人が言う。
「羨ましいな」
空気が変わる。
「外の世界」
その個体は窓の外を見ていた。
「ボクたちまだ販売予定ないから」
静かな声。
誰も反論しない。
テトは胸の奥が少し重くなる。
もし。
あの日。
直人が来なかったら。
自分もここにいたかもしれない。
「会ってみたい」
その個体が言う。
「街とか」
「学校とか」
「ゲームセンターとか」
テトは返事に困った。
なぜなら。
全部経験したことがないからだ。
学校。
行ったことない。
ゲームセンター。
まだない。
旅行。
当然ない。
それでも。
「きっと楽しいよ」
そう答えた。
根拠はなかった。
でも。
そう思った。
一方その頃。
直人は研究員と話していた。
「率直に言います」
主任研究員らしき男性が言う。
「重音テトは予想以上です」
「予想以上?」
「はい」
資料を見せられる。
グラフ。
数値。
分析結果。
難しい。
全然分からない。
「簡単に言うと」
研究員は言った。
「成長速度が異常です」
「成長?」
「人格形成です」
直人は眉をひそめる。
「どういうことです?」
研究員は少し考えてから答えた。
「普通は数年かかる変化を数ヶ月で起こしています」
「……」
「おそらく」
そこで。
研究員は真っ直ぐ直人を見る。
「あなたとの生活が原因です」
「俺?」
「はい」
直人は理解できなかった。
ただ一緒に暮らしているだけだ。
特別なことなんてしていない。
研究員は苦笑した。
「本人も気づいていないでしょうね」
「何をです?」
「あなたは彼女を商品として扱っていません」
直人は首を傾げる。
当然ではないか。
「それが珍しいんです」
研究員は静かに言った。
「非常に」
その言葉が。
なぜか少しだけ胸に残った。
交流会終了。
帰り道。
研究所の外。
夕焼けだった。
「どうだった?」
直人が聞く。
テトは少し考えた。
長く。
本当に長く。
「複雑」
そう答えた。
「会えてよかった?」
「うん」
「会わなきゃよかった?」
「それは違う」
即答だった。
テトは空を見る。
赤い夕焼け。
どこまでも続く空。
「でも」
「うん」
「ボクは運が良かったんだなって思った」
直人は何も言わない。
「たまたま」
「うん」
「たまたま直人が来て」
「うん」
「たまたま買ってくれて」
「うん」
「たまたま今ここにいる」
少しだけ。
寂しそうな笑顔だった。
その時。
直人は立ち止まった。
「違うだろ」
「え?」
「たまたまじゃない」
テトが目を瞬く。
「あの日」
直人は言う。
「階段から落ちてきたのは偶然かもしれない」
「うん」
「でも買うって決めたのは俺だ」
テトは黙る。
「動画撮るのも」
「洗濯するのも」
「部屋作るのも」
「一緒に暮らしてるのも」
直人は少し笑った。
「全部選んだ結果だろ」
夕焼けの中。
テトはしばらく何も言わなかった。
そして。
「……ありがとう」
小さな声でそう言った。
その横顔は。
研究所にいた時よりも。
展示会で会った時よりも。
ずっと人間らしく見えた。
帰りの電車。
窓の外には夜の街が流れていく。
テトは静かに外を見ていた。
その胸の中には。
初めてできた同じ存在の友達と。
研究所に残る仲間たちと。
そして。
自分の帰る場所のことが。
静かに残り続けていた。
AIを使用して作成し始めました。
時間がないためです。