遠野姉妹の牢屋敷生活   作:白原うい

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1-1 見知らぬ場所で目が覚めて

 

――――あたくし……遠野カンナには、物心ついたころから家族が1人しかいませんでした。

夢見がちで、感情的になりやすくて……でも、顔も知らない誰かさん(ははおや)の分まであたくしを育てて(あいして)くれた――――世界で1番大好きな、あたしのハンナおねえさま。

 

あたくしとおねえさまはいつもいっしょ。

2人でお買い物をして、2人でお料理をして、……夜な夜なちょっと不思議な力の特訓をしたりもして。

たとえ子供だけの2人暮らしで生活が苦しくても、おねえさまが一緒ならつらくない。

 

そんな、貧しくても幸せでいっぱいの、おねえさまとの生活がずーっと続くって……あたしは、思っていました。

 

――――思って、いたのに。

 

 

 

 

 

あったかいお布団の上で、おねえさまと向かい合ってお話ししながら目を閉じたあたくしが、次に目を開けたとき。

……あたくしがいるところは、いつものお部屋ではありませんでした。

 

真っ先に目に飛び込んできたのは、寒々しい石の壁。

眠る前まですぐそばにいたはずの、目を開けたらすぐにお顔をみられるはずのおねえさまの姿がみえなくて……眠気なんて、どこかに消し飛んでしまって。

 

「おねえさま? ……おねえさま、どこ?」

 

寂しさと不安が、どくんどくんと音をたてて心の中を埋め尽くしていく。

ひとりはやだ。 おねえさま、あたしをおいてけぼりにしないで。

どこにいるの、おねえさま――――おねえさま、おねえさまおねえさまおねえさま……!!

そうだ、おそとにいこう。 おそとをさがせばいるにきまってる。 だけどなんかじゃまなものがあるな。 このてつさく、すごくじゃま。 ばきばきにこわれちゃえばいいのになぁ……!

 

「……カンナ、落ち着いて! ……わたくしは、あなたのおねえさまは、ここにいますわ!」

 

――――おねえさまの声!

いつの間にか握りしめていた鉄格子のとびらから手を放して振り返ると、2段ベッドだったらしいお布団の上の段から身を乗り出しているおねえさまの姿が見えて……心の底からほっとして、力が抜けてしまいました。

……よかった。 おねえさま、ちかくにいたんだ。

 

「それにしても、ここはどこですの……!?

 わたくしたちをこんな所に閉じ込めるなんて、何を考えてやがるのかしら……」

 

くたりとその場で座り込んだあたくしを、駆け寄ってきたおねえさまが抱き寄せてくれながらつぶやきます。

……そういえば、この牢屋みたいなお部屋はなんなのでしょう?

どうしてあたくしとおねえさまは、こんなところにいるのでしょうか?

 

「誰だか知らないけど、何人もこんな場所に……それも小さい娘まで閉じ込めるなんて! 少女監禁って犯罪なんだよ!? 人生終わるよ……っ!?」

「いますぐ出せっ、出せよオラァ、(ちい)せぇ子供泣かせるようなマネしやがって! ぶっ殺してやる……!」

 

お部屋の外のあちこちで、知らない誰かが叫んでいます。

……閉じ込められているのは、あたくしたちだけではないようでした。

なにか想像もできないような出来事に巻き込まれてしまったかもしれない予感に、1度は消えたはずの不安がお胸の中でまた生まれて、じわじわと膨らんでいくのがわかります。

 

「わたくしたちだけではなく、大勢の方が閉じ込められているみたいですわね……!?

 いったい誰がこんなことするんですの!?」

 

そう口にしたおねえさまに応えるようなタイミングで――――ぶつん、と音がして。

壁に取り付けられたモニターの画面に、鳥さんのような何かが映されました。

 

『あー、もしもし。 ……ちゃんと映ってますかねぇこれ。

 なにせ古くて故障も多いもので……困ったものです』

 

画面の向こうでぼやいた後、その(ふくろう)さんは言いました。

自分はゴクチョーという名前のフクロウで、この牢屋敷を取り仕切る役目をしている者であること。

詳しい説明をしたいので、看守の案内でラウンジに向かってほしいということ。

……逆らったら、命の保証はしない――――ころされる、ということ。

 

そして、ゴクチョーさんの話が本当だということの証拠を示すように、……やってきた看守さんは、物語に出てくる死神さんみたいに、とても大きな鎌を持っていて。

お口が三日月(おつきさま)みたいに広がった、おそろしい笑顔の仮面越しに、あたくしとおねえさまを見下ろしていました。

 

「お、おねえさま……!」

「だっ、大丈夫よカンナ……! 黙ってついていけば危害は加えないって、言ってたはずですものっ……! 怖かったらわたくしの腕につかまってていいですことよ?」

 

怖がるあたくしにおねえさまが腕を差し出してくれたので、ぎゅっと両腕で抱きしめて……同じくこの場所に閉じ込められていたねえさまたちに混じって、看守さんのあとをついていく。

……その途中でそういえばと思い立って、小声でおねえさまへささやいてみる。

 

「ところでおねえさま。 どうしてあたくしたち、こんなすてきなお洋服を着せられてるのでしょう?」

「そんなのわたくしが聞きてぇですわ……」

 

げんなりさせてしまいました。

でも、本当にいいお洋服です――――ここから帰れることになったら、このお洋服は持って帰りましょうね、おねえさま。

 

 

 

案内された先は、ちょっと古びているけれど、おねえさまといっしょに夢見たような立派なお屋敷の、その1室でした。

あたくしたちをのぞいて12人のねえさまたちが部屋に入ると、看守さんが扉の前に立ったので……これで全員のようです。

 

まっさおになったお顔でお部屋の1点を見つめている、さくらのお花が散りばめられた服を着た白い髪のねえさま。

スケッチブックを両腕の中にしまい込んで、お部屋のすみっこに丸まっているお人形さんみたいなねえさま。

楽しそうにお歌を口ずさみながらお部屋の中にあったものをいじっている、なんだか色いっぱい(からふる)なねえさまに……どうしてだか寂しそうな目であたくしたちを見つめる、髪の色も着ている服も真っ黒なねえさまもいます。

 

「いやー、すごいですねー!」

 

そんな中、ひときわ明るい声ではしゃぎまわるねえさまがいました。

探偵さんのような格好をした水色の髪のねえさまが、こんな時なのにおめめをきらっきらに輝かせて、白い髪のねえさまの両腕を握って上下にぶんぶん振り回しはじめます。……ちょっと痛そうです。

 

「ちょっと貴女、やべーことになってるんですわよ!? もっと危機感を持ってくださいませ!」

 

そのお気楽さに、思わずといった様子でおねえさまがツッコミを入れるけれど……水色の髪のねえさまはどこ吹く風です。

……むしろ声をかけたからか、興味のお相手がこっちに向いてしまいました。

 

「むむっ、あなた方はさっきの姉妹さん! おふたりとも連れてこられててよかったですねー!」

「いやまあ離れ離れにされるよりはずーっといいけどよくねーですわ! もうちょっと言い方を考えてくださいな!」

 

おねえさまと水色の髪のねえさまの、なんだかちょっと気の抜けるような言い合いをおねえさまの腕の陰からのぞいていると――――さっきまでより、おねえさまの肩の力も抜けているのに気づきます。

いいことです。 このねえさまとは、あたくしも仲良くしたいと思います。

 

「あの、水色の髪のねえさま! おなまえ、お聞かせくださいませんか?」

「あー、そうですね、まだ名乗っていませんでした! 私、(たちばな)シェリーっていいますっ!

 事件あるところに私あり! この名探偵にお任せあれですよー!」

 

名探偵のシェリーねえさま。 覚えました!

きっとあたくしたちをこのお屋敷にかどわかした犯人も推理で解き明かしてくれるに違いありません!

……と思いましたが、ミステリーなご本に詳しいだけで実際に事件を解決したことがあるわけではないようでした。 しょんぼりです。

 

「私の自己紹介は済んだので、今度は姉妹さんの名前も教えてくださーい!」

「ええ、わたくしは遠野ハンナですわ! 以後お見知りおきくださいませ。それからこちらが……」

「おねえさまの妹の、遠野カンナです! よしなにおねがいもーしあげますっ!」

 

「ハンナさんにカンナさんですね! 仲良くしましょー!」

 

シェリーねえさまに自己紹介するためにおねえさまの陰からぴょこんと飛び出して挨拶すると、今度はあたくしたちがぶんぶんされる番でし――――わわわ、浮いてる、あたくし浮いてる……っ!

 

「ちょっとシェリーさん、カンナが大変なことになってますわ! 振り回すのはおやめくださいませー!?」

「……おっと、これは失礼っ。 カンナさんごめんなさいでしたー!」

 

さっきぶりです地面さん。 ……なんだか足がふらふらします。

おねえさまの魔法(おちから)以外で宙に浮いたのなんて初めてです……。 シェリーねえさまって、怪力(ごりらさん)になる魔法をお持ちなんですね……!

 

「あー、こほん。 話が1段落したところですまないが、少しいいだろうか?」

 

そんなあたくしたちのお話の切れ目を見計らってか、声をかけてくるひとがいました。

さきほどからこちらを見ていたねえさまたちの内の1人……どこかで見たような覚えのある、きらびやかで背の高いねえさまです。

 

「……私の名前は蓮見レイア。自己紹介の流れに乗って、みんなの名前を聞いておきたいと思う。

 まずはそちらの君、名前を教えてくれないか?」

 

なんだかちょっぴり強引に話の流れを持っていかれたような気もしますが……ねえさまたちの名前を聞いておきたいのも確かです。 ここは流されておきましょう。

話を振られた、優しそうな白い髪のねえさま――――桜羽(さくらば)エマねえさまから始まって、残った9人のねえさまたちが順繰りに名乗っていきます。

ねこさんのお耳つきのヘッドホンを付けた配信者(すとりーまー)さんの沢渡(さわたり)ココねえさまに、派手なドレスを着ている佐伯(さえき)ミリアねえさま。 ココねえさまは、見られるとおめめが増える魔法をお持ちのようです。 ……増えたり減ったり、ちょっとおもしろいですね!

とびきり大人びた雰囲気の宝生(ほうしょう)マーゴねえさまと、黒いマスクの紫藤(しとう)アリサねえさま……アリサねえさまはさっき、泣いてたあたくしの声を聞いて怒ってくれてた人。 とげとげしいお言葉づかいとはうらはらに優しい人なんだと思います。

スケッチブックで自己紹介する夏目(なつめ)アンアンねえさまに、黒部(くろべ)ナノカねえさま。 ……さっきは寂しそうな表情でしたが、いまはなんだか――――なにかの決意をかためたようにみえます。 なにをするつもりなんでしょうか……?

ずっと怖い顔をしている、赤いお花飾りの二階堂(にかいどう)ヒロねえさまと、シスターさんみたいな恰好の氷上(ひかみ)メルルねえさま。

……それから最後に、部屋に来てからずっと周りのものをいじって遊んでいる、城ケ崎(じょうがさき)ノアねえさま。

途中でレイアねえさまがやっぱり有名な芸能人さんだったことが明らかになりつつも、自己紹介を終えたところで――――天井からゴクチョーさんが飛んできて、机の上に止まります。

そして、ゴクチョーさんの説明が始まりました。

それによれば、あたくしたちは国の検査で《魔女因子》というものをいっぱい検出された魔女候補――――ゴクチョーさんの隣にいる看守さんのような《なれはて》というバケモノになってしまうかもしれない、社会の中にいてはいけない危険人物として……一生をこの牢屋敷で暮らしていかないといけないそうなのです。

 

……だから、つまり。

あたしたちはしぬまで、おうちにかえることはできないと――――ゴクチョーさんは、そういっているようなのでした。

 

「いいえ、それは間違いです。 私は、(あく)ではない……!」

 

じくじくと熱い頭に、ヒロねえさまの冷たい声が響きます。 ……なにかをゴクチョーさんと言い争っているみたいだけれど、ゴクチョーさんの言うことなんてなにもわかりたくありません。

そのうちに、ぼやけた視界の向こうで、ヒロねえさまは壁に立てかけられた何かを手に取って……。

 

「おっと、これはいけませんねー!」

「カンナ、見ちゃいけませんわ!」

 

そこから先を、あたしは見聞きできませんでした。

おねえさまとシェリーねえさまに両目と両耳をふさがれてしまったから。

 

……ただ何か、とっても恐ろしいことが起こっているのだと――――それ以外のことは、何もわからない。

あたしの牢屋敷での生活は、そんな……2人の濡れた手が作る、暗闇の中から始まったのです。

 

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