フィジカルゴリラな木場祐斗   作:お粥のぶぶ漬け

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第9話:盤上の静寂、あるいは騎士の安らぎ

兵藤一誠の「赤龍帝の籠手」の覚醒、そしてアーシア・アルジェントを巡る騒動が落ち着きを見せた頃。駒王学園の旧校舎の一室には、グレモリーとシトリー、両陣営の眷属が再び集結していた。

 目的は、表向きには「新米悪魔である一誠と匙の紹介」、そして裏向きには「近隣に漂うライザー・フェニックスの気配」への対策会議である。

 

「……というわけで、一誠。こちらがシトリーの眷属よ」

 

 リアス・グレモリーの紹介に、一誠は緊張した面持ちで俺たちを見渡した。隣では、先日の「歓迎会」で俺に完膚なきまでに叩きのめされた匙が、複雑そうな顔をして一誠に話しかけている。

 

「……よお、兵藤。お前も『龍』の持ち主なんだってな」

「匙……! お前も大変なんだな、生徒会の方は」

 

 似た者同士、あるいは同じ「新米」としての連帯感が芽生えつつある二人。だが、一誠の視線はすぐに、ソーナの隣に静然と立つ俺へと固定された。

 

「……木場、さん。教会の時は……ありがとうございました」

 

 一誠は、あの「奇跡」の瞬間に背後に現れた俺の気配を、朧気ながら覚えていたらしい。俺は表情を変えず、短く頷くだけに留めた。

 

「気にするな、兵藤一誠。俺はただ、俺の役割を果たしただけだ」

 

 俺が口を開いた瞬間、リアスの「女王」である姫島朱乃や塔城小猫が、わずかに身構えるのが分かった。一年前の共同訓練以来、彼女たちの瞳には、俺への深い畏怖と警戒が刻まれている。

 魔力を一切使わず、ただの体術だけで自分たちを完封した「天与の身体」。そして今、その肉体にはさらに「解析」と「吸収」を繰り返した異質な因子の層が幾重にも重なっているのだ。

 

「……さて。顔合わせはこの程度にしましょう」

 

 ソーナが凛とした声で場を締めくくる。

 

「ライザー・フェニックスの件は、引き続き注視するわ。リアス、あなたが望むなら、シトリーはいつでも協力の準備はできているけれど」

「ありがとう、ソーナ。でも……これは、グレモリーの問題よ」

 

 リアスの毅然とした、だがどこか翳りのある言葉を背に、俺たちは旧校舎を後にした。

 その日の夜。生徒会の仕事をすべて終えた後、俺とソーナは校舎の屋上にいた。

 涼やかな夜風が、ソーナの美しい黒髪を優しく揺らす。彼女は眼鏡を外し、疲れたように柵に寄りかかった。

 

「……疲れたかしら、祐斗」

「いいえ。会長の隣にいる間は、疲れなど感じません」

 

 俺がそう告げると、ソーナは小さく苦笑し、こちらを向き直った。

 

「相変わらずね。……一誠君の『赤龍帝』。それから、ライザーの『不死鳥』。彼らのような規格外の存在が現れるたびに、私の盤面が揺らぐのを感じるわ。……冥界の理屈だけでは、守りきれないものがある」

 

 彼女の吐露した弱音。それは、並み居る眷属の中でも、俺だけに許された「特別」な時間だった。

 俺は一歩近づき、彼女の隣に並んだ。

 

「会長。以前も言いましたが、その盤面は俺が守ります。理屈が通じない相手なら、俺がその理屈ごと、物理的にねじ伏せて喰らい尽くすだけです」

「……あなたは本当に、心強いわね。でも、時々怖くなるのよ。あなたが遠いどこかへ行ってしまうのではないかって。……この『天与の身体』と、あなたが隠しているその魔剣。それらは、悪魔の枠組みさえ超えようとしている」

 

 ソーナの瞳に、寂しさと熱い独占欲が入り混じる。

 俺は思わず、彼女の細い肩を引き寄せた。ソーナは驚いたように体を震わせたが、拒絶はしなかった。それどころか、俺の胸にそっと顔を埋め、深い溜息をついた。

 

「……行かせませんよ。俺の鞘(居場所)は、ここにしかないんですから」

 

 俺の腕の中で、ソーナの心拍が速まるのが伝わってくる。

 天与の身体による過敏な触覚は、彼女の肌の温もり、微かな呼吸の乱れ、そして彼女が俺に抱いている「主従」を超えた深い恋心を、残酷なほど鮮明に伝えてきた。

 

「……祐斗。……私の、騎士様(ナイト)」

 

 彼女が俺の服の裾をぎゅっと掴む。

 俺は彼女の髪に優しく唇を寄せた。

 

(ライザー・フェニックス。……お前の『不死』の因子、俺が余さず頂くよ。この人の安らぎを乱す、すべてのノイズを消し去るために)

 

 夜の静寂の中、二人の距離はかつてないほど近づいていた。

 それは、来たるべきフェニックスとの決戦前の、嵐の前の静けさ。

 木場祐斗の心は、今や復讐心と同じくらい、この「シトリーの王女」への執着で満たされていた。

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