フィジカルゴリラな木場祐斗   作:お粥のぶぶ漬け

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第12話:聖なる不協和音、あるいは静かなる簒奪

駒王学園に漂う、懐かしくも忌まわしい「聖」の残滓。

 校門の前に立つ二人の少女――ゼノヴィアと紫藤イリナ。彼女たちが背負う布に包まれた物体から溢れる波動を、俺の「天与の身体」は、心臓を抉るような鋭さで察知していた。

 かつての「聖剣計画」。仲間たちの絶望と、焼き付くような光。

 胸の奥で燻る黒い復讐心が、熱を帯びて脈打つのを感じる。だが、俺はそれを冷徹な理性で抑え込んだ。今の俺は、過去に縛られた亡霊ではない。ソーナ・シトリーという「王」の隣に立つ、ただ一人の騎士なのだから。

 

「……祐斗? 顔色が悪いわ。やはり、彼女たちの存在が障るのかしら」

 

 生徒会室。窓から二人の使徒を監視する俺の背中に、ソーナがそっと手を置いた。彼女の掌から伝わる温もりが、逆立ちそうになった俺の神経を静かに解きほぐしていく。

 

「いいえ、会長。……少し、懐かしい味の空気が流れてきただけです。心配ありません。俺は、あなたの騎士ですよ」

 

 俺は振り向き、彼女の細い指を絡めるように握った。ソーナの瞳には深い懸念と、それを上回るほどの俺への信頼が揺れている。

 

「……ええ。もし耐えきれなくなったら、いつでも私に言いなさい。その時は、私がシトリーの権限を持って、彼女たちをこの街から叩き出すわ」

 

監視と解析の数日間

 それから数日間、俺は「教育係」としての立場を利用し、グレモリー眷属と行動を共にするゼノヴィアたちの監視を続けた。

 ゼノヴィアの持つ「破壊(ディストラクション)」、そしてイリナの「擬態(ミミック)」。

 放課後のパトロールや、模擬戦の機会を窺い、俺の『解析の魔剣』は常に彼女たちが帯びる聖剣の波長を捉えていた。

(破壊の共振、擬態の変異コード……。採取完了。残るは、バルパーが隠し持っている4つの欠片か)

 復讐心が消えたわけではない。だが、彼女たちを斬り伏せるよりも、その力の根源を奪い、自分の血肉に変えることの方が、バルパーへの、そして教会への最大の冒涜になる。俺は静かに、その時を待った。

聖魔の統合

 そして、運命の夜が来た。

 コカビエルの襲撃。校庭に突き立てられた4本の聖剣――「高速」「幻影」「透明」、そして「祝福(ブレッシング)」。

 バルパー・ガリレイの狂気の手により、強奪されていたそれらが1本の巨大な「真・エクスカリバー(ルーラー欠落版)」へと再編されていく。

 

「見ろ! これこそが究極の聖剣だ! 失敗作の生き残りよ、これに焼かれて消えるがいい!」

 

 バルパーの嘲笑が響く中、俺は一歩前に出た。

 ゼノヴィアたちがその圧倒的な光に気圧される中、俺は『解析の魔剣』を抜き放ち、あえてその光の奔流へと踏み込む。

 

「バルパー。……お前が作ったその『究極』、俺の解析の『素材』に丁度いい」

 

 ドォォォォンッ!!

 激突。俺は左手で聖剣の刃を直接掴み、天与の身体による異常な再生と、獲得したばかりの「自動治癒」の因子で、崩れる端から掌を修復していく。

 

「なっ……!? 悪魔が聖剣に触れて耐えるだと!?」

「……これで6つ。高速、幻影、透明、祝福……すべてのコードを読み取ったぞ」

 

 脳内でバラバラだった6つの能力が、一本の数式へと統合される。

 俺は解析した全データを、自分の内なる「魔剣創造」の核へと流し込んだ。

 聖なる属性と、魔剣の闇。本来反発し合う極性が、俺の器の中で一つに編み上げられていく。

 顕現したのは、白銀の輝きを黒い霧が覆う、歪で美しい一振り。

『未完成の聖魔剣(プロト・エクスカリバー)』。

 

「……聖剣の能力を、魔剣として再定義した。……過去の清算は、これで終わりだ」

 

 俺は一閃の下に、コカビエルが掲げた統合聖剣を粉々に打ち砕いた。

 呆然とするバルパーの胸ぐらを掴み、俺は彼の瞳の奥に宿る「知識」さえも魔剣で吸い出し、ゴミのように捨て置いた。

盤上の安らぎ

 戦いが終わり、静寂が戻った学園。

 俺は、砕け散った聖剣を見つめるゼノヴィアたちを背に、生徒会室へと戻った。

 そこには、俺を信じて待ち続けていたソーナがいた。

 彼女は俺の姿を見るなり、崩れ落ちるように駆け寄ってきて、俺の胸に顔を埋めた。

 

「……祐斗……! ああ、無事だったのね……その気配、本当に、終わったのね……」

「ええ。もう俺を縛る過去はありません。……あるのは、この剣と、あなたへの忠誠だけです」

 

 

 俺は生成した『聖魔剣』を消し、震える彼女の体を強く抱きしめた。

 ソーナは俺の背中に腕を回し、まるで自分の宝物を確かめるように、何度も何度も俺の名前を呼ぶ。

 

「……愛しているわ、祐斗。……あなたは私の、誇りよ」

 

 その言葉と共に交わした口づけは、聖剣の光よりも熱く、俺の魂を真に救済する唯一の奇跡だった。

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