冥界、若手悪魔が集う盛大なパーティー会場。
豪奢なシャンデリアが輝き、名門貴族の令息や令嬢たちが着飾って集まる中、俺はシトリー生徒会の正装を纏い、ソーナの斜め後ろに控えていた。
「……ふぅ。やはり、こういう場は肩が凝るわね」
ワイングラスを片手に、ソーナが小さく溜息をつく。俺は周囲の視線を警戒しながら、彼女にだけ聞こえる声で囁いた。
「少しの間ですよ、ソーナ。嫌なら、適当な理由をつけて早めに切り上げましょうか?」
「……うふふ、ありがとう、祐斗。でも、次期当主としての務めもあるから。もう少しだけ、付き合って」
微笑み合う俺たち。だが、その親密な空気を切り裂くように、数人の男たちが歩み寄ってきた。中心にいるのは、煌びやかな鎧を纏った尊大な態度の男――中級貴族の嫡男、ゼパル家の息がかかった若手悪魔だ。
「これはシトリー様、お美しゅうございます。……しかし、お隣にいるその男。噂の『書記』とのことですが、少々場に不似合いでは? 名もなき人間上がりの転生悪魔が、貴族の隣に立つなど」
貴族の傲慢
男の言葉に、周囲の貴族たちからクスクスと冷笑が漏れる。ソーナの瞳に冷たい怒りが宿るのを、俺は制した。
「……私の素性が、何か問題でも?」
「大ありだ。我ら純血の悪魔にとって、お前のような出所不明の『騎士』がソーナ様の婚約者候補などと囁かれているのは、侮辱以外の何物でもない。……その魔剣とやらも、どうせまがい物だろう?」
男は腰の剣を抜き、俺の喉元に突きつけた。
「どうだ。ここで私と手合わせをしないか? もし私が勝てば、お前は即座にシトリーを去り、ソーナ様の隣を空けてもらう」
「……祐斗、相手にする必要はないわ」
ソーナが前に出ようとするが、俺は彼女の肩を優しく抱き寄せた。
「いいえ、会長。……俺の『真・聖魔剣』が、彼の持つ『高貴な因子』を味見したいと言っています」
騎士の断罪
会場の広間に特設の決闘場が用意された。
観衆が見守る中、俺は武器も構えず、ただ静かに立った。
「死ね、無礼者が!」
男が炎の魔力を纏った大剣を振り下ろす。だが、俺は「天与の身体」の機動でそれを紙一重でかわし、すれ違いざまに男の腕に軽く指先で触れた。
【因子解析:貴族(魔力増幅型)】。
「……浅いな。血統に頼りすぎた、中身のない魔力だ」
「なっ……!? どこを見ている!」
激昂した男が連続で斬撃を繰り出すが、俺は『真・聖魔剣』を生成することさえせず、以前解析した「加重の魔剣」の重力圧をその場に展開した。
「ぐ、あぁっ!? 体が……重い……!」
「ひざまずけ。……君がソーナを語るには、まだ100年早い」
俺は一歩踏み込み、男の腹部に拳を叩き込む。天与の身体による純粋な物理衝撃と、僅かに混ぜた「倍加」の衝撃。男の鎧は木っ端微塵に砕け、彼は会場の壁まで吹き飛んで白目を剥いた。
支配者の宣告
静まり返る会場。俺はゆっくりとソーナの元へと戻り、跪いて彼女の手を取った。
「失礼しました、会長。……お見苦しいところを」
「いいえ。……素敵だったわ、祐斗」
ソーナは堂々と俺の腕に手を絡め、周囲の貴族たちを冷徹な眼光で射抜いた。
「皆様、お聞きなさい。……私の隣に立つのは、この木場祐斗だけ。これ以上、私の騎士に無礼を働く者は、シトリー家が総力を挙げて『排除』いたします。……異論のある方は?」
魔王の妹としての威圧感に、先ほどまで嘲笑っていた者たちは一斉に目を逸らし、沈黙した。
俺とソーナは、まるで凱旋する王と女王のように、堂々とパーティー会場を後にした。
夜風に吹かれながら、屋敷のバルコニーに立つ二人。
「……少し、やりすぎたかしら?」
「いいえ、最高に格好良かったですよ、ソーナ」
俺がそう言うと、彼女は俺の胸に顔を埋めて、小さく笑った。
貴族たちの嫉妬も、血統の壁も、今の俺たちには関係ない。
この手に『真・聖魔剣』がある限り、俺は彼女を阻むすべての理を支配し、切り伏せてみせる。