フィジカルゴリラな木場祐斗   作:お粥のぶぶ漬け

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第2話:絶望を喰らう閃光

その日は、唐突に、しかし必然として訪れた。

 施設のスピーカーから流れる、バルパー・ガリレイの乾燥した声。

 

「……残念だよ、諸君。実験は終了だ。君たちは聖剣の輝きに至るには、あまりに不完全すぎた」

 

 それは死の宣告だった。直後、通気口から微かに甘い、それでいて喉を焼くような異臭のするガスが流れ込んでくる。

 

「ゲホッ、あ……イザイア、苦しい……っ」

 

 先ほどまで隣で震えていた少年が、泡を吹いて倒れ伏す。一人、また一人と、小さな命の灯火が消えていく。その光景を、俺は「死んだふり」をしながら、薄く開けた瞼の裏で凝視していた。

 

(……肺を閉じる。皮膚からの吸収も、練り上げた魔力膜で最小限に防ぐ)

 

 フィジカルギフテッドの代謝能力。常人なら数秒で意識を失う毒の中でも、俺の脳は冷徹に、そして加速して回転していた。

 

 部屋の重厚な扉が開き、防護服を纏った研究員たちと、一人の男が入ってきた。

 バルパー・ガリレイ。

 彼が手にした杖のような装置が起動すると、息絶えた子供たちの体から、眩いばかりの光が立ち昇った。

 

「おお、これだ……! 命を散らしてなお輝く、聖剣の適性因子……。これを集めれば、ついに完成する!」

 

 バルパーが狂喜に歪んだ顔で、抽出された「光の因子(クリスタル)」を回収容器に収めようとした、その瞬間――。

 

(今だ)

 

 俺の肉体が、静止から一気に音速へと爆発した。

 ドォォォンッ!

 床を蹴った衝撃波だけで、周囲の研究員たちが吹き飛ぶ。バルパーが驚愕に目を見開く暇さえ与えない。俺は最短距離、直線上の最短時間を、質量を伴う「影」となって駆け抜けた。

 

「な……ッ!?」

 

 バルパーの視界から俺が消える。

 直後、彼の目の前にあった回収容器が、不可視の力でひったくられた。

 

「……悪いな、これは俺がもらう」

 

 バルパーの横を通り抜ける一瞬、俺は「格納の魔剣」を顕現させ、手中に収めた因子のすべてをその虚無へと叩き込んだ。

 怒声が上がる。教会の騎士たちが武器を構える。だが、俺は止まらない。

 

(ここからが、練習の成果だ)

 

 俺は、あらかじめ用意していた二振りの魔剣――『双子魔剣:比翼』を起動させる。

 一振りを、施設の天井に向けて全力で投擲。フィジカルギフテッドの剛腕が放つ魔剣は、強化コンクリートを紙のように貫き、遥か上空、施設の外部へと突き抜けていく。

 

「逃がすな! 殺せ、その被験者を殺せぇぇ!」

 

 バルパーの絶叫。

 だが、俺の意識はすでに、空を飛ぶ「片割れ」の座標と同期していた。

 

(……飛べ)

 

 【空間跳躍(ワープ)】。

 シュン、という風切り音すら置き去りにして、俺の体は密室から消失した。

 

 次に俺が目にしたのは、雪の降る冷たい夜空だった。

 施設の外、高度数百メートルの空中。俺は自分を追い越していく魔剣を掴み取り、空中で姿勢を制御する。眼下では、山中に隠された研究所が、まるで小さな箱庭のように燃え始めていた。

 

(計画通りだ。追っ手が来る前に、この距離を一気に引き離す)

 

 俺は空中で、さらに一振りの魔剣を生成し、日本の方角へ向けて投擲する。

 刺しては跳び、跳んでは刺す。

 夜の静寂を切り裂き、俺は一度も地面に触れることなく、雪山の彼方へと消えていった。

 手の中の魔剣には、仲間の命が、重すぎるほどの光を宿して眠っている。

 俺はもう、イザイアではない。

 この呪われた過去を、いつか最強の剣へと変える男。

 

「……木場、祐斗だ」

 

 新しい名を夜風に刻み、俺は極東の地を目指して加速した。

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