レーティングゲーム、開幕。
戦場に選ばれたのは、複雑な回廊と店舗が立ち並ぶ広大な「大型商業施設」を模したフィールド。ルールには、過度な破壊行動によるステージ崩壊の禁止が盛り込まれている。つまり、一誠の『プロモーション』やリアスの『滅びの魔力』といった広域破壊は大幅に制限される。これは、精密な制御を得意とするシトリー陣営に有利な盤面だ。
俺が指定した制限エリアは、中央吹き抜け広場。全フロアから視認でき、かつ本陣へ続くエレベーターホールを射程に収める、このゲームの「要所」だ。
「……祐斗、本当に大丈夫なのね? 相手はパワーアップした一誠君や、小猫ちゃんなのよ」
通信機越しに響くソーナの声。制限エリアに縛られ、魔剣も三本。主として俺を信じてはいても、その不安を完全に消すことはできないのだろう。
「心配いりませんよ、ソーナ。……過度な破壊が禁じられたこの『箱庭』で、俺を止める手段など彼らにはありません。君は、自分の指し示す先だけを見ていればいい」
俺は通信を切り、静かに眼を閉じる。
三本の魔剣――『解析』『捕食』、そして『真・聖魔剣』。
だが、この枷を補って余りある技術を、俺は既に手の内に収めている。
「……まずは、環境(フィールド)を味方につけるか」
俺は「天与の身体」を巡る自らの闘気を練り上げると同時に、周囲に満ちる自然のエネルギー――仙術の行使を開始した。商業施設という閉鎖空間に漂う微細な気を操作し、俺の周囲に「不可視の防壁」を張り巡らせる。
静かなる迎撃
正面の通路から、一誠と小猫が突っ込んできた。
「木場! 悪いな、派手に壊せねえルールなら、このまま接近戦で押し通らせてもらうぜ!」
「……先輩。……逃がしません」
一誠の重い拳と、小猫の仙術を乗せた一撃。
だが、俺は一歩も退かない。
俺は指先を軽く振るい、仙術によって自然界に存在する「悪性の気」を周囲の空間に呼び込んだ。
「……っ!? なんだ、急に体が……」
「……気が、逆流して……!?」
一誠と小猫の動きが目に見えて鈍る。仙術による内部からの不調。物理的な破壊を伴わないこの攻撃は、このステージにおいて最も回避困難な毒となる。
「悪いが、このエリアの中では、俺が『環境』そのものだ」
牙を隠す騎士
俺は二人の懐に滑り込む。闘気によって爆発的に強化された脚力が、床一枚傷つけずに神速を実現する。
「ソーナに心配をかけるわけにはいかないんでね。……ここで終わらせよう」
俺は二本目の剣――**『捕食の魔剣』**を抜く。
それは刃を持たない、影のような剣。触れた瞬間に相手の闘気と魔力を吸い上げ、俺の糧とする「飢えた」一振り。
「【捕食:起動】」
一瞬の交差。
一誠の『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』が放とうとした倍加のエネルギーを、魔剣が根こそぎ飲み込む。小猫の纏っていた白音の気も、俺が操る悪性の気に中和され、霧散した。
本陣でモニターを見ているであろうソーナに、俺が圧倒的に優勢であることを証明するために。俺はさらに三本目、**『真・聖魔剣(エクスカリバー・シトリー)』**の柄に手をかけた。
「一誠、小猫。お前たちの成長は認める。だが、俺がソーナに捧げたこの一振りを……この程度の戦術で突破できると思わないことだ」
破壊を禁じられた静寂の商業施設に、黒と白の混濁したプレッシャーが満ちる。
これが、ソーナ・シトリーの騎士。
主の理想を叶えるためなら、自らに枷を嵌め、技術と知略の極致で敵を蹂躙する怪物。
「さあ、始めよう。……チェックメイトまで、あと何分耐えられるかな?」