フィジカルゴリラな木場祐斗   作:お粥のぶぶ漬け

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第22話:蒼穹に輝く特異点、あるいは勝利への解答

朱乃が放った『雷光』の閃光が、商業施設の吹き抜けを白一色に染め上げた。

 仙術による「気の探知」すらも飽和させられる盲目の刹那。俺の感覚が戻ったとき、視界の端を赤と白の影が過った。

 

「一誠、小猫……!」

 

 二人は俺が守るべき「絶対領域」の境界線を、その神速の連携で突破していた。

 背中を向けて、ソーナが待つ本陣へと肉薄する影。

 守ると誓った。彼女の隣は誰にも譲らないと決めた。その矜持が、慢心ゆえの一瞬の隙で崩された。

 

(……許さない。彼女を危険に晒す、俺自身の未熟を……!)

 

 内側から爆発的な**「怒り」**が突き上げる。

 だが、その熱波が脳を焼く直前、俺の中の「解析」がそれを冷徹なリソースへと変換した。

 

 脳内で『オーフィスの蛇』の因子が、演算速度を神話の領域へと押し上げる。

 朱乃の雷光、一誠のブースト、小猫の仙術。この場の物理法則、さらには自分自身の感情さえもが、数式となって虚空に記述されていく。

 三本の制限? エリアの縛り?

 そんなものは、この世界の「理」を書き換えれば、ただのノイズに過ぎない。

 

「――跪け。あらゆる事象は今、シトリーの名の元に収束する」

 

 俺の心臓が、世界と共鳴するように大きく波打った。

 漆黒の魔力と白銀の聖気が、蒼い仙術の光と混ざり合い、螺旋を巻いて一本の剣へと凝縮されていく。

 

「禁手(バランス・ブレイク)――」

 

 その光は、吹き抜け広場の天井を貫かんばかりに立ち昇り、すべての音を消し去った。

 俺の手に握られているのは、数多の魔剣ではない。

 透明感を帯びた黒銀の刀身に、幾何学的な紋様が脈動する、究極の一振り。

 

『蒼穹覇理の極剣(シンギュラリティ・ブレード・オブ・シトリー)』

 

 この剣には、俺が解析したすべての因子がレイヤー(層)となって重なっている。

 作り替える必要などない。俺が念じるだけで、この一振りが「破壊」にも「支配」にも「雷光」にも、瞬時に姿を変える。

 

(……だが、待て)

 

 極限まで研ぎ澄まされた計算が、覚醒の昂ぶりを抑え込む。

 ルール。過度な破壊の禁止。そして俺に課された、三本とエリアの制約。

 今、この禁手を発動し続ければ、この施設そのものが俺の「存在」に耐えきれず崩壊するだろう。それは、シトリーの敗北を意味する。

 

「……ふぅ。まだ、その時じゃない」

 

 俺は一瞬で『極剣』を精神の奥底へと収納した。

 覚醒の残滓による神速の機動。俺は一歩で、頭上から次なる雷を落とそうとしていた朱乃の懐へと、文字通り「転移」した。

 

「なっ……!? 祐斗、今のは――」

「朱乃さん。……これで終わりです」

 

 俺は実体化させないまま、脳内で構築した『雷光の魔剣』の逆位相エネルギーを指先に集中させ、彼女の魔力の核に触れた。

 バチィッ! と乾いた音が響き、朱乃の魔力回路が一時的に強制シャットダウンされる。

 

『女王(クイーン)姫島朱乃、リタイア!』

 

 審判の声が響く中、俺はすぐさま念話を飛ばした。対象は、愛する俺の主。

 

『――ソーナ。すみません、俺の失態です。二人をそちらに行かせてしまった』

 

 悔しさを滲ませる俺の声に、少しの沈黙の後、念話越しにクスクスと鈴を転がすような笑い声が返ってきた。

 

『……いいのよ、祐斗。あなたが今、どれほど凄まじい「答え」に辿り着いたか、モニター越しでも分かったわ。……少しだけ、嫉妬してしまうほどにね』

『ソーナ……』

『謝る必要なんてないわ。私を狙う二人は、椿たちが食い止めている。……それに、あなたがそんなに私を想って怒ってくれた。……それだけで、私はどんな宝石をもらうより幸福だわ。私の誇らしい、世界で唯一の騎士様?』

 

 甘く、そして全幅の信頼を寄せた声。

 その惚気(のろけ)に近い言葉が、俺の昂ぶった熱を優しく溶かしていく。

 

『……了解しました。すぐに、二人を背後から「支配」しに行きます。待っていてください、ソーナ』

 

 俺は再び、冷徹で熱い騎士へと戻る。

 手の中に剣はない。だが、その掌には既に、勝利を決定づける「特異点」が握られていた。

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