レーティングゲームの喧騒が去り、勝利の余韻に包まれた俺たちは、冥界にあるシトリー公邸へと招かれていた。
豪奢な大広間には、シトリー陣営(眷属)全員が顔を揃えている。いつもは厳格な生徒会室とは違い、今日は無礼講だ。
「――乾杯!」
匙の発声とともに、祝勝会が始まった。
「いやあ、まさか本当に勝てるとは思わなかったっすよ。俺のあの禁手、マジで凄くなかったすか!?」
「ええ、匙君。あなたの粘りがあったからこその勝利よ。……少し、見直したわ」
「椿先輩! マジっすか! うおおお、俺、明日からもっと頑張れる!」
椿さんの言葉に鼻の下を伸ばす匙を横目に、花戒や草下、真羅といったメンバーたちも、戦いの中での互いの動きを称え合い、笑い合っている。俺はその光景を眺めながら、改めてこの「家族」の一員になれた喜びを噛み締めていた。
月下の誓い
宴が中盤に差し掛かった頃、俺は人混みを離れ、バルコニーで夜風に当たっていた。
「……ここにいたのね、祐斗」
後ろから声をかけてきたのは、ドレス姿のソーナだった。月光を浴びた彼女は、戦場での凛々しさとは打って変わって、どこか儚げで、そして深く澄んだ瞳を俺に向けている。
「ソーナ。素晴らしい祝勝会ですね」
「ええ。でも、私にとっての本当の『勝利の証』は、今ここにあなたが隣にいてくれることだわ」
俺は彼女の手を取り、その指先にそっと唇を寄せた。
「制限エリアの中で、俺は確信しました。俺の剣も、命も、そしてこの魂に宿る全ての『解析』も……あなたを守るためだけに存在している。愛しています、ソーナ」
ソーナの頬が朱に染まり、彼女は俺の胸にそっと顔を埋めた。
「……ずるいわね。そんなことを言われたら、次のゲームでも、その次でも……あなたを一番厳しい場所に配置して、私を独占させたくなってしまうじゃない。……私も愛しているわ、私の騎士様」
父との問答、そして公認へ
愛を確かめ合う二人の影。しかし、背後から重厚な咳払いが響いた。
「――コホン。盛り上がっているところを済まないな」
そこに立っていたのは、シトリー公子。ソーナの父親だった。その眼光は鋭く、俺の「天与の身体」さえも射抜くような圧がある。
「木場祐斗。貴殿の活躍、そして娘への忠誠は聞き及んでいる。だが……一人の親として、貴殿を娘の隣に置くには、まだ懸念がある」
「お父様!」
俺はソーナを制し、真っ直ぐに公子を見据えた。
「懸念とは?」
「家柄、血筋……それらはこの新しい冥界において二の次だ。だが、貴殿はあまりに強すぎる。いつかその剣先が娘に向かぬという保証があるか?」
「俺の解析は、自分自身を裏切る計算をしません」
俺は一歩踏み出し、迷いなく告げた。
「俺が解析する『正解』は、常にソーナ・シトリーの幸福という一点に集束します。それ以外の未来は、俺の手で切り捨てます」
静寂が流れる。やがて、公子はふっと肩の力を抜いた。
「……フン。結婚などという話は、まだ気が早い。だが……娘の『恋人』として隣に立つことだけは、認めてやろう。泣かせたら私が相手をするぞ」
「……光栄です」
翌日の発表、そして匙の絶望と希望
祝勝会の翌日。学園の生徒会室。
ソーナは全員の前で、凛とした声で宣言した。
「改めて報告します。私、ソーナ・シトリーは、騎士(ナイト)である木場祐斗と……正式に交際することに決めました」
「――えっ」
匙の時間が止まった。
「……嘘だ……俺の青春が……俺のソーナ会長が……木場あああああああああ!」
叫びながらのたうち回る匙。しかし、彼はすぐに立ち上がると、涙を拭いて俺を指差した。
「……見てろよ木場! 結婚まで認めてもらったわけじゃねえ! 俺は……俺はいつかお前を超えて、会長の隣を……!」
「ああ、待っているよ、匙」
俺が微笑むと、その匙の「折れない心」を見ていた真羅や花戒、草下たちが、どこか慈しむような、熱い視線を匙に向けていた。
「……匙君って、ああいうところだけは本当にカッコいいわよね」
「ええ、応援したくなっちゃうわ」
「えっ!? 椿先輩!? 花戒さん!? ……あれ、俺、モテてる?」
シトリー眷属の中に、新しい「絆」の形が芽生えようとしていた。