シトリー陣営が勝利の美酒に酔いしれている頃。グレモリー公爵邸のトレーニングルームには、重苦しい静寂と、荒い呼吸の音だけが響いていた。
一誠は、まだ拳を震わせながら壁に寄りかかっていた。
「……クソっ……負けたんだな、本当に」
これまでの戦いでは、どんな逆境も最後には『倍加(ブースト)』と根性でひっくり返してきた。だが、今回のレーティングゲームは違った。木場祐斗という、かつての戦友にして最強の壁。彼が構築した「シトリーの理」という盤面上では、一誠の熱量は全て効率的に中和され、吸い取られてしまったのだ。
「……匙の野郎。あんな禁手(バランス・ブレイカー)、聞いてねえぞ。……いや、あれは木場の『力』でもあったんだな」
悔しさと、それ以上に親友の底知れぬ進化に対する「恐怖」に似た畏敬。一誠の胸中には複雑な感情が渦巻いていた。
女王と騎士の反省
部屋の隅では、朱乃とゼノヴィアもまた、自分たちの戦いを振り返っていた。
「……木場君に魔力の芯を撃ち抜かれた時、一瞬、自分の力が自分のものではないような錯覚に陥ったわ。あの子の『解析』は、もう魔法の域を越えて、世界の理そのものを書き換えているようだった」
朱乃は、魔力を封じられた瞬間の、あの寒気のするような無力感を思い出していた。彼女の誇る雷光さえ、木場にとってはただの「データの一節」に過ぎなかったのだ。
「私は……誇りであるデュランダルを、あんなにも容易く受け流されたことが信じられない。木場は、私が剣を振るう『未来』が見えているようだった。……聖剣使いとして、あんな屈辱はないわ」
ゼノヴィアは愛剣の柄を強く握りしめる。彼女たちもまた、木場がエリア制限という「枷」を嵌めてなお、戦場全体を支配していた事実を突きつけられていた。
リアスの決意と、変化する関係
そこへ、主であるリアスがゆっくりと現れた。彼女の表情には、敗北の影はあるものの、その瞳の奥の炎は消えていない。
「皆、顔を上げなさい。……今回の敗北は、私の戦略ミスでもあるわ。ソーナと祐斗……二人の絆が生み出す計算外の力を、私は正しく評価できていなかった」
リアスは一誠の前に立ち、その肩に優しく手を置いた。
「一誠、悔しい?」
「……ああ。めちゃくちゃ悔しいっす、リアス部長。……俺、あいつの隣に立てるくらい強くなったと思ってた。でも、あいつは……俺なんかが見えないずっと先を走ってた」
「ええ。今の祐斗は、間違いなく冥界でも数えるほどしかいない『特異点』へと至ろうとしている。……そして、ソーナとの公認の関係。彼らは今、公私ともに盤石なパートナーシップを築いているわ」
リアスは眷属全員を見渡した。
「私たちはグレモリー。今回の敗戦は、私たちが更なる高みへ登るための、手痛いけれど必要な『教訓』よ。……次、祐斗やソーナと剣を交える時は、私たちが彼らを『解析不能』にするほど成長していればいい。そうでしょ?」
リアスの言葉に、一誠の目に再び力が宿る。
「……ああ。次は絶対に、あいつの『正解』をぶち壊してやる!」
「小猫も……もっと、お姉様に頼らず、自分の力を見直します……」
「うふふ、私たちの『リベンジ』は高くつくわよ、祐斗君?」
潜む日常、そして……
敗北を糧に、再起を誓うグレモリー陣営。
一方で、学園生活へと戻った彼らの前には、また新たな「日常」という名の時間が流れ始める。
だが、木場祐斗の進化は止まらない。
ソーナとの交際を公表し、周囲からの羨望と畏怖を一身に受けながら、彼は次なる「事象」を解析すべく、静かに牙を研ぎ続けていた。
「……神の因子、悪魔の因子、そして人間の可能性。……これら全てを統合した先に、俺は何を見るのか」
木場は生徒会室の窓から、遠い空を見つめていた。
北欧の影が差すまで、まだ少しの時間。
しかし、運命の歯車は着実に、彼を更なる神話の深淵へと誘っていた。