レーティングゲームの劇的な勝利と、シトリー公爵からの公認。
学園に戻った俺たちを待っていたのは、以前よりも存在感が上がったのかどこか畏敬の念が混じった周囲の視線と、相変わらず山積みの生徒会業務でした。
放課後の生徒会室。窓から差し込む夕日が、書類を捲るソーナの横顔を淡く照らしています。
「……これで最後ですね。お疲れ様、祐斗。あなたの処理速度、また上がったのではありませんか?」
ソーナが眼鏡のブリッジを指先で押し上げ、ふっと息をつきました。俺は最後の一束をトレイに置き、彼女のために淹れた紅茶を机にそっと置きます。
「『解析』を応用して、文章の構造をパターン化して把握していますから。……ですが、少し急ぎすぎました。せっかくの二人きりの時間が、予定より三十分も余ってしまいましたね」
「あら、それは計算外です。……ですが、嫌な計算違いではありませんね」
ソーナは紅茶を一口啜ると、少しだけ表情を和らげました。周囲に他の眷属はいません。今は、主と騎士としてではなく、一組の恋人としての時間です。
次なる「正解」はデートの中に
俺は彼女の背後に回り、その華奢な肩を優しく解しました。
「ソーナ。次の休日のことですが……『解析』の結果、あなたには休息が必要だという結論が出ました」
「ふふ、また大袈裟なことを。……それで? その計算は、私をどこへ連れて行くつもりなのですか?」
「水族館、なんてどうでしょう。あなたの魔力は水と親和性が高い。静かな深海の青に囲まれれば、きっと心身ともにリフレッシュできるはずです。……その後は、街で一番と評判のイタリアンを予約してあります」
俺の提案に、ソーナは少し驚いたように目を見開きました。
「……あら、そんなに前から準備していたのですか? 試合の解析と同じくらい、綿密なプランですね」
「当然です。俺にとって、あなたの笑顔を引き出すための最適解を導き出すことは、どんな神話級の魔剣を創造することよりも重要な任務ですから」
俺が耳元で囁くと、彼女の耳たぶが林檎のように赤く染まりました。ソーナは小さく笑いながら、俺の手に自分の手を重ねます。
「……分かりました。そのプランに乗せてもらうことにしましょう。……とても楽しみですよ、祐斗」
甘い沈黙と、騎士の誓い
夕暮れの生徒会室。
俺はソーナを抱き寄せ、その柔らかな唇に触れました。
かつては復讐と魔剣のことしか考えられなかった俺の脳内が、今は彼女の体温と、甘い花の香りで満たされています。
「……祐斗。最近のあなた、本当に変わりましたね。以前よりも、ずっと……人間らしく、そして強くなりました」
「全てはあなたのおかげです。……俺を、復讐の道具ではなく、一人の男として認めてくれた。だから俺は、この力を誰かのための『暴力』ではなく、あなたを守るための『理(ことわり)』として磨き続けられるのです」
俺は彼女の細い指を絡め、強く誓いました。
この安らぎを壊すものは、神であろうと蛇であろうと、俺がその存在の根源から解析し、消し去ってみせる。
「……愛していますよ、祐斗」
「俺もです、ソーナ」
静かな室内、時計の音だけが時を刻む。
北欧の激動が訪れる前の、束の間の蜜月。
この平穏があるからこそ、騎士はさらなる冷徹な強さを手に入れられるのでした。