休日の市街地は、多くの人々で賑わっていました。
水族館の巨大なアクリルパネル越しに差し込む蒼い光が、ソーナの横顔を神秘的に照らし出します。
「……綺麗ですね、祐斗。水の中にいると、魔力が自然と周囲に馴染んでいくのを感じます。計算や策略から離れて、こうしてただ眺めているのも……悪くありませんね」
ソーナは少しだけ肩の力を抜き、穏やかな微笑みを浮かべていました。
主として、恋人として、俺を全幅の信頼で受け入れてくれるその姿。
この時間が永遠に続けばいい。そう願わずにはいられないほど、穏やかな一日でした。
黄昏の襲撃
しかし、幸福な時間は、不快なノイズによって引き裂かれました。
駅へと続く、人通りの途絶えた夜道。
俺の『解析』が、大気中に混じる不純な魔力を捉えます。
「……ソーナ、私の後ろへ」
俺が彼女を庇うように一歩前に出ると同時に、空間を歪めて数人の男たちが姿を現しました。纏っているのは、禍々しい旧魔王派の紋章が刻まれたマントです。
「シトリーの次期当主と、その飼い犬か。……ゲームの勝利で浮かれているところを、冥土の土産にしてやろう」
「旧魔王派の残党、ですか。……せっかくの素晴らしい一日を、あなたたちのような『不純物』に汚されるとは、計算外でした」
ソーナの声が、冷徹な氷のように温度を下げました。
ですが、俺の中に渦巻く感情は、彼女のそれよりも遥かに苛烈で、暗いものでした。
怒りの駆除:加重の崩落
「……解析終了。あなたたちの構成データに、これ以上の存続価値は見当たりません。――消去します」
俺の周囲に、無数の小さな魔法陣が展開されます。
そこに現れたのは、掌に収まるほど小さな十数本の**『加重の魔剣(短剣サイズ)』**。
「ハッ、そんな玩具で何ができる!」
残党たちが嘲笑い、一斉に闇の魔弾を放ちます。
「……いいえ、これで十分です。――『過負荷(オーバーロード)』」
俺が指先を弾いた瞬間。
宙に浮く短剣の一本一本が、限界を超えた魔力の充填により、白銀の光を放って脈動し始めました。
短剣が放つのは、もはや斬撃ではありません。
超高密度の重力質量。一本一本が空間をネジ曲げるほどの重圧を帯び、周囲の空間そのものを歪ませていきます。
「な、なんだ……体が、動か……ッ!?」
逃げようとした男たちの足元へ、オーバーロードした短剣が突き刺さります。
次の瞬間、短剣を中心に**「重力崩壊」**が発生しました。
逃げ場のない超重力が、旧魔王派の男たちの肉体を、骨ごと中心点へと引き摺り込みます。
メキメキと嫌な音が響き、彼らの悲鳴さえもが、歪んだ空間の中に飲み込まれていきました。
「……無に還ってください。彼女との記憶に残る価値すら、あなたたちにはない」
短剣が限界を迎えて自壊すると同時に、凝縮された重力が爆散しました。
爆風が収まったあと、そこには血の一滴すら残っていません。
男たちの肉体は、分子レベルまで粉砕され、夜の闇へと霧散したあとでした。
「……祐斗、もういいですよ。落ち着きなさい」
背後から、温かい温もりが俺の背中に触れました。ソーナが俺を後ろから抱きしめていたのです。
その体温を感じた瞬間、俺の脳内を支配していた赤黒い熱波が、急速に引いていきました。
「……申し訳ありません、ソーナ。取り乱しました」
「いいえ。……私を想って怒ってくれたのでしょう? 少し怖かったですが、それ以上に……あなたが愛おしいと感じてしまいました。……帰りましょう、私たちの場所へ」
俺は彼女の手を握り直し、静かになった夜道を歩き始めました。