フィジカルゴリラな木場祐斗   作:お粥のぶぶ漬け

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第3話:異邦の剣、京の霊気に染まる

欧州の雪山を抜けてから、日本へ至るまでの数週間。それは「木場祐斗」という個を削り出し、再構築する旅だった。

 

(魔力には限りがある。頼れるのはこの肉体と、最小限の跳躍だけだ)

 

 貨物船のコンテナの隅、あるいは喧騒に紛れた東南アジアの路地裏。俺は「飛雷神」の投擲とワープを、移動手段ではなく「生存技術」として研ぎ澄ませた。

 国境を越えるたびに、俺の肌は異国の風と魔力を吸い込み、フィジカルギフテッドの肉体は過酷な環境に適応して、より密度を増していく。

 

(バルパーから奪った『因子』が、格納の中で疼いている。……待っていろ。これは単なる復讐の道具じゃない。俺がこの世界で『頂』に立つための、最初のパーツだ)

 

 そして、ついに俺は日本の土を踏んだ。

 目指すは極東の霊的中枢――京都。

 千年の都、京都。その中心部に近づくにつれ、空気の質が変わるのが分かった。

 西洋の「魔力」とは異なる、大地から立ち昇る濃密な生命の奔流。……「気(オーラ)」、あるいは「仙術」の源泉だ。

 

「……止まりなさい、人の子よ。それ以上は、我らの領域だ」

 

 竹林の影から、音もなく現れた数影。烏天狗の面を被った戦士たちが、錫杖を構えて俺を取り囲む。

 俺は抵抗の意志を見せず、静かに手を挙げた。

 

「西欧の禁忌から逃れてきた。……この地の主、八坂様に目通りを願いたい」

 

 周囲の妖怪たちが息を呑む。

 彼らが驚いたのは、俺の言葉ではない。俺の「肉体」だ。

 魔力を纏っていないにもかかわらず、その存在感だけで周囲の空間を圧する、フィジカルギフテッド特有の圧倒的な質量。

 

「木場……祐斗だ。俺を、ただの迷い子と思うな」

 

 八坂との謁見は、静謐な奥殿で行われた。

 九つの尾を揺らし、圧倒的な霊気を放つ美女――八坂は、俺の瞳をじっと見つめ、やがて小さく口角を上げた。

 

「面白い。人でありながら、これほどまでの『器』を持ち、内側には相反する巨大な力を封じているか。……西の『魔剣』とやら、我が京都でどう咲かせるつもりだ?」

「咲かせるつもりはありません。根を張り、あらゆる力を吸い上げ、折れぬ剣になりたいだけです」

 

 その日から、俺の京都での修行が始まった。

 妖怪たちの修行は、西洋の術式構築とは根本から異なっていた。

 まずは「呼吸」と「瞑想」。

 フィジカルギフテッドの超人的な感覚で、大地の気を捉える。仙術の基礎である「気の操作」を学ぶことで、俺の肉体はさらに変質していった。

 

(魔力は外から生み出すものじゃない。世界と自分を繋ぎ、循環させるものだ)

 

 仙術の理を「魔剣創造(ソード・バース)」に組み込む。

 ただの鉄の塊だった魔剣に、京都の霊気を循環させる「経絡」のような術式を刻む。

 さらに、格納の中で暴れていた「光の因子」を、仙術の柔らかな気で包み込み、俺の肉体に少しずつ「同化」させていく。

 修行の合間、俺は木刀一本で高位の妖怪たちと手合わせを繰り返した。

 フィジカルギフテッドの瞬発力に、仙術による「先の先」を読む直感が加わる。

 俺の動きからは一切の無駄が消え、ただ一撃で万物を断つ「理」へと近づいていく。

 

「祐斗よ、お主の剣……もはや『魔』でも『聖』でもないな。それは、全てを喰らい、己の糧とする『道』か」

 

 八坂の言葉に、俺は手にした魔剣を見つめて応える。

 

(そうだ。俺は木場祐斗。……いずれ現れるソーナ・シトリー、そしてバルパー。彼らの想像を絶する場所まで、俺はこの京都で昇りつめてやる)

 

 数年の月日が流れ、俺の背丈が伸び、少年の面影が消え始めた頃。

 俺の手の中には、聖と魔、そして仙術の気が複雑に絡み合う、完成されつつある「第一の魔剣」が握られていた。

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