シトリー邸の応接室。ソーナとシグルナが放つ知的な火花が、真羅椿の懸命な仲裁すら焼き尽くそうとしていたその時、扉が勢いよく弾け飛びました。
「ちょっと待ったぁー! ソーたん、お姉ちゃんも混ぜて!」
「……お姉様!?」
「セラフォルー様!?」
乱入してきたセラフォルー様は、顔を上気させ、いつになく真剣な……それでいて潤んだ瞳で私を指差しました。
「さっき確信しちゃった! 祐斗ちゃん、あんなにカッコいいこと言うなんて反則だよぅ! 私、もう決めたもん。ソーたんには悪いけど、祐斗ちゃんのこと、私(魔王)の特権で欲しくなっちゃった!」
この爆弾発言に、応接室は一瞬で極寒の静寂に包まれました。
「……お姉様。……今、なんと仰いました?」
ソーナの背後で、魔力の奔流が巨大な渦を巻きます。
「だから! 私も祐斗ちゃんのお嫁さん候補に立候補するの! ソーたんの『騎士』なのは認めるけど、一人の『男』としては私だって譲れないもん!」
「お、恐れながらセラフォルー様! 祐斗様を最初に見出したのは私です! 北欧の理において、最初に彼に魅せられた私が優先されるべきでは!?」
シグルナまで立ち上がり、事態はシトリー姉妹vs北欧の戦乙女という、三つ巴の泥沼へと発展しました。
椿の奮闘:女たちの合議
「……皆様、落ち着いてください。ここはシトリー邸です。魔王様が妹君の婚約者を奪い合うなど、冥界の不祥事になります!」
椿さんが必死に声を張り上げますが、三人の言い合いは止まりません。
「祐斗、あなたはどう思うの!?」と矛先がこちらへ向きそうになった瞬間、椿さんが私を背後に隠し、毅然と言い放ちました。
「木場君に選ばせるのは酷というものです。……いいでしょう、この場の序列は『私たちが』決めます。木場君、貴方はあちらで頭を冷やしていなさい」
私はそのまま別室へ「避難」させられ、応接室からは時折、氷が砕けるような音や激しい議論の声が漏れ聞こえてきました。
決定された比率:六・二・二の序列
数時間後。ようやく呼び戻された私の前に、どこかスッキリした、しかし強い意志を感じさせる表情の三人が並んでいました。
「……決まりました、祐斗。これはシトリー家の平穏と、あなたの心身を『解析』した上での最終決定よ」
ソーナが代表して、一枚の羊皮紙を突きつけました。
「あなたの時間と愛、そのすべてを**『6:2:2』**で分配します。もちろん、主であり正妻となる私が『6』。そして、お姉様とシグルナさんがそれぞれ『2』ずつ。……これが、私たちが合意した唯一の黄金比です」
「……あ、あの、私が意見を言う余地は……」
「ありません!」
三人の声が重なりました。セラフォルー様は少し照れくさそうに、シグルナは武人らしく満足げに頷いています。
騎士の独白:確かな愛と、小さな注意
深い夜。ようやく静まり返った邸内、私は一人で庭園を眺めるソーナの元を訪れました。
「……祐斗。あなたという人は、本当に……」
振り返った彼女の瞳には、怒りよりも呆れ、そして深い愛しさが混ざっていました。
「申し訳ありません、ソーナ。ですが、私の不徳の結果、これほどの強力な助力を得ることになったのも事実です。……決して、私が不埒な心で誘惑したわけではないことは、信じてください」
「ええ、分かっているわ。……あなたが真っ直ぐに『素敵だ』なんて言うから、お姉様までおかしくなったのよ。……次は、あまり他の女性にその『男気』を見せないように。いいわね?」
私は彼女を背後から優しく抱き寄せました。
「善処します。ですが、あなたが一番素敵であることは、解析するまでもありません」
耳元で囁くと、彼女の体温が微かに上がりました。
騒がしい夜。しかし、私の胸に宿るソーナを守護するための極剣は、愛する者を守るための絶対的な存在感を静かに湛え始めていました。