新幹線が京都駅に滑り込み、ホームに降り立った瞬間、私は古都特有の洗練された霊気が、不自然な「澱み」に侵食されているのを感知しました。
今回、修学旅行に参加しているのは私たち2年生のみ。生徒会長であるソーナや、3年生の先輩方は駒王町で留守を預かっています。
「……嫌な予感がしますね。解析リソースが、街全体の霊脈の『欠け』を警告している」
私が独りごちたその時、人混みを縫うようにして下手な隠形をした黄金色の耳と尾を持つ幼い少女――九重ちゃんが、必死の形相で私に縋り付いてきました。
「……お主、木場祐斗か!? 頼む、母様を……八坂を助けてくれ!」
騎士の迅速な報告
かつて使者として京都を訪れた際の縁を頼り、私を見つけ出した九重ちゃん。彼女の話によれば、京都の妖怪の総大将・八坂様が何者かに襲撃され、連れ去られたとのこと。
私は即座に九重ちゃんの肩を抱き、周囲の視線を遮る結界を張ると、駒王町の生徒会室へ秘数通信を繋ぎました。
「ソーナ、聞こえますか。修学旅行先で緊急事態が発生しました。……京都の総大将、八坂殿が拉致されました。街の霊脈が不安定化しており、放置すれば人間界にも影響が出ます」
『……祐斗? ええ、報告を受けたわ。……あなたの『解析』がそこまでの異常を検知しているのなら、事態は深刻ね』
通信越しでも、ソーナの冷静さと、私への信頼が伝わってきます。
「私はこれより、九重ちゃんと共に妖怪たちの会合へ潜入し、敵の正体を特定します。……主の許可をいただけますか?」
『……許可するわ、私の盾。ただし、独りで無茶はしないで。……私もすぐに手を打つわ。シトリーの眷属を動員する準備に入るから、あなたはまず現地の状況を完璧に把握しなさい。いいわね?』
「御意。……愛しています、ソーナ」
『……っ、急に何を……! 通信を切るわよ!』
赤面したであろう主の気配を感じつつ、私は通信を閉じ、表情を「騎士」のものへと切り替えました。
妖怪の会合、そして「禍の団」の露見
九重ちゃんに案内され、私は二条城の地下に広がる妖怪たちの秘密会合場所へと足を踏み入れました。そこでは、八坂様を失った動揺から、天狗や河童の重鎮たちが怒号を交わし合っていました。
「……静かに。一人の悪魔にこれほどの醜態を見せるとは、京都の格も落ちたものですね」
私が一歩足を踏み入れ、**『解析(アナライズ)』**の波動を空間全体に叩きつけると、荒れ狂う妖怪たちの妖気が一瞬で「静止」しました。
「九重ちゃんから事情は聞きました。……犯人の残した魔力残滓と、この街の霊脈の断裂パターン……これらを照合すれば、答えは一つです」
私は空間に蒼い幾何学的な等式を投影し、犯人のプロファイルを可視化しました。
「……間違いありません。『禍の団(カオス・ブリゲード)』。……彼らが、京都の巨大な龍脈を掌握するために、八坂様の力を利用しようとしています」
「禍の団」の名に、場は凍りついたような静寂に包まれました。
奴らは、神話の戦いを経てさらに進化した私の『盾』が、この京都にいることを計算に入れていないのか。
「九重ちゃん、安心してください。……あなたの母様は、必ず私が連れ戻します。……それが、シトリーの騎士の誓いです」
夕闇迫る古都。修学旅行の予定をかなぐり捨て、私は影へと沈み、敵の本拠地への解析を開始しました。