フィジカルゴリラな木場祐斗   作:お粥のぶぶ漬け

4 / 39
第4話:双王の集い、或いは選別

駒王学園は、一見すれば平穏な、どこにでもある日本の私立高校だった。

 だが、夕暮れ時の旧校舎付近に漂う空気だけは、明白に異質だ。西洋の古城から切り取ってきたかのような重厚な内装、そしてそこに集う者たちが放つ「神秘」の残滓。

 俺は、京都の八坂様から託された親書を懐に、その「魔王の妹」たちが支配する密室の扉を叩いた。

 扉が開くと同時に、複数の視線が俺の全身を射抜く。

 部屋の主賓席には、紅蓮の髪をなびかせたリアス・グレモリー。その傍らには、既に彼女の眷属として名を連ねている「女王」姫島朱乃、「戦車」塔城小猫が控えている。

 対する席には、冷静沈着な瞳を眼鏡の奥に光らせるソーナ・シトリー。彼女の背後には、副官である真羅椿が静かに佇んでいた。

 一誠がまだこの場所を知らない、物語の夜明け前。

 そこに現れた「木場祐斗」という異分子に対し、室内には張り詰めたような緊張が走る。

 

「……京都からの使者が、まさかこれほど若い少年だとは思わなかったわ」

 

 リアスが鈴を転がすような声で沈黙を破った。彼女の横に立つ朱乃が、品定めするように目を細める。

 俺は、フィジカルギフテッドの制御によって、自身の心拍数と呼吸を完全に一定に保ったまま、一歩前へ出た。その一歩だけで、床の僅かな軋みさえ許さない完璧な重心移動。武に長けた小猫が、僅かに眉を動かして俺の足元を注視するのが分かった。

 

「お初にお目にかかります。グレモリー様、シトリー様。八坂様より遣わされました、木場祐斗です。……以後、お見知り置きを」

 

 俺が深々と一礼した瞬間、室内の空気が「揺れた」。

 俺が意図的に、京都で培った仙術の気と、内側に封じ込めた「因子の破片」を僅かに漏らしたからだ。

 聖なる輝き、魔の禍々しさ、そして東洋の荒々しい霊気。それらが渾然一体となった不可思議な気配に、リアスの瞳に強烈な輝きが宿る。

 

「……素晴らしい。あなた、自分の価値を理解してここに来たのね?」

 

 リアスが椅子から立ち上がり、俺の元へ歩み寄る。彼女の放つ「破壊」の魔力が、誘惑するように俺の肌を撫でた。

 

「その若さでそれほどまでの完成度……。どうかしら、私の『騎士(ナイト)』として、その剣を私に預けてくれない? 望むなら、あなたの過去にある『因縁』も、私が共に背負ってあげるわ」

 

 彼女の言葉は甘い。だが、その背後にあるのは「救済」という名の支配だ。

 俺が求めているのは、甘い依存先ではない。己の能力を最大限に効率化し、バルパーという絶望を確実に討ち取るための「盤面」だ。

 俺はリアスの差し出された手を、視線だけで静かに拒絶した。

 

「身に余る光栄です、グレモリー様。ですが……俺が必要としているのは、俺を導く光ではなく、俺を使いこなす知略です」

 

 俺はリアスの隣を通り過ぎ、一度も視線を動かさずにチェス盤を見つめていたソーナ・シトリーの前へと進み出た。

 ソーナは眼鏡のブリッジを押し上げ、冷徹なまでに理性的な瞳で俺を見据える。彼女の周囲にはまだ椿以外の眷属は少なく、その陣営は発展途上だ。だからこそ、俺が入り込む余地がある。

 

「ソーナ・シトリー様。私は、あなたの規律こそが我が剣の鞘に相応しいと考えています。……俺を、あなたの『騎士』として盤面に加えていただきたい」

 

 部屋が静まり返った。

 朱乃が小さく溜息を吐き、椿は驚愕を隠せずに俺を見つめている。

 ソーナはゆっくりとチェスのクイーンを手に取り、それを盤上に置いた。

 

「……私を選ぶということは、感情的な救いは期待できないということよ? 私が求めるのは、勝利への論理性。そして、私のルールに従う忠誠心だけ。それでもいいの?」

「もちろんです。対価として、俺が抱える『聖剣計画』の残滓……この特殊な因子の制御理論を、あなたの知恵で完成させてほしい。それが俺の望みです」

 

 俺は腰に帯びた『捕食の魔剣』の柄に手をかけた。

 この剣は、ただの武器ではない。敵の衝撃を喰らい、魔力を喰らい、いつかあのバルパーをも喰らうための器だ。

 

 ソーナは僅かに口角を上げると、懐から漆黒の駒――ナイトを取り出した。

 

「いいでしょう。その『イレギュラー』、私が預かるわ。……ようこそ、シトリーの生徒会へ。木場祐斗」

 

 駒が俺の胸へと沈み込む。

 フィジカルギフテッドの肉体と、シトリーの魔力が衝突し、融合し、加速する。

 俺の視界は、これまで以上に鮮明に世界を捉え始めた。

 

(……これで、駒は揃った)

 

 リアスの惜しむような視線を背中で受け止めながら、俺はソーナの影に立つ。

 ここから、俺の「木場祐斗」としての第二幕が始まる。まずはこの街にはびこる塵(はぐれ悪魔)どもを、俺の剣の最初の糧にするとしよう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。