フィジカルゴリラな木場祐斗   作:お粥のぶぶ漬け

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第7話:不戦の蹂躙、あるいは静かなる拒絶

駒王学園の放課後、旧校舎の裏に広がる訓練場。

 そこには、グレモリーとシトリー、両陣営の眷属が集結していた。

 

「改めてお願いするわ、ソーナ。部下たちの連携を確認するためにも、あなたの新しい『騎士』と手合わせをさせてほしいの」

 

 リアス・グレモリーの言葉に、ソーナは隣に立つ俺へ視線を向けた。俺の「天与の身体」のスペックを測りかねている彼女にとって、この共同訓練はデータ収集の絶好の機会だ。

 

「……祐斗、構わないかしら?」

「ええ。会長の指示であれば」

 

 俺は一歩前へ出た。対峙するのは、グレモリーの「戦車」塔城小猫、そして「女王」姫島朱乃の二人。

 小猫は小柄な体に似合わぬ怪力を秘め、朱乃はその異名通り、苛烈な雷撃を操る。

 

「……木場、さん。手加減、いらない?」

 

 小猫がボクシンググローブを嵌めた拳を突き出し、無表情に問いかけてくる。

 

「ああ。全力で来てくれ」

 

 俺はそう答えながら、腰の魔剣には指一本触れなかった。それどころか、両手をポケットに入れたまま、ただ自然体でそこに立つ。

 

「あら、剣は抜かないのかしら? 舐められたものね」

 

 朱乃がサディスティックな笑みを浮かべ、指先に黄色い稲妻を走らせた。

 

「訓練ですから。……俺の体術で十分でしょう」

 

 次の瞬間、空気が爆発した。

 ドォォォォンッ!!

 小猫の小さな体が、一瞬で俺の懐へと潜り込む。常人の動体視力では追えない超速の踏み込み。放たれた渾身のアッパーカットが、俺の顎を狙う。

 だが、俺は首を僅かに傾けるだけでそれを回避した。

 

「……ッ!?」

 

 小猫の瞳が驚愕に揺れる。彼女の攻撃は、かすりもしなかった。

 俺は天与の身体による「超感覚」で、彼女の筋肉が収縮する予兆、重心のわずかな移動、そして押し出される空気の圧力を完全に読み取っていた。

 

「上よ!」

 

 朱乃の叫びと共に、頭上から巨大な雷の槍が降り注ぐ。

 俺はポケットから手を出さぬまま、最小限のステップでその雷撃の隙間を縫うように歩いた。焦げた地面の熱気が肌をかすめるが、服の裾一つ焼くことはない。

 

「逃がさない……!」

 

 小猫が即座に追撃に転じる。連打。重戦車のような猛攻が、俺の急所を的確に突いてくる。

 それを、俺はすべて「紙一重」で躱し続けた。

 一分、二分。

 一方的な攻撃が続く中、観戦していたリアスとソーナの表情が次第に強張っていく。

 なぜなら、俺は一度も防御(ガード)をしていない。ただ歩き、屈み、避けているだけだ。その動きには一切の無駄がなく、まるで未来を予見しているかのような不気味さがあった。

 

「どうした。悪魔の『戦車』の力は、その程度か」

「……ううぅっ!」

 

 挑発に乗り、小猫が大振りの右ストレートを放つ。

 その瞬間、俺は初めてポケットから手を出した。

 パシッ、と乾いた音が響く。

 小猫の必殺の一撃を、俺は人差し指と中指の二本だけで、その拳の「芯」を捉えて静止させた。

 

「な……ッ!? 指だけで、小猫のパワーを……!?」

 

 リアスが声を失う。

 天与の身体が生み出す絶対的な硬度。そして、奪った「はぐれ悪魔」の因子によって強化された俺の筋繊維は、もはや純粋な物理量において、下級・中級の悪魔を遥かに凌駕していた。

 

「次は、俺の番だ」

 

 俺は指先を弾いた。

 たったそれだけの動作。だが、弾かれた小猫の腕を通じて、天与の質量が波紋のように彼女の全身を駆け抜けた。

 

「ふぎゃっ!?」

 

 小猫の体が木の葉のように舞い、後方の壁まで吹き飛ぶ。ダメージはない。だが、その衝撃の質があまりに異次元すぎた。

 

「そこまでよ、朱乃。……祐斗、あなた、本当に一度も魔力を使っていないわね」

 

 ソーナが厳しい顔で訓練の中止を告げた。

 俺は呼吸一つ乱さず、再び手をポケットに収める。

 

「魔剣を見せるまでもないと、言ったはずです。……これが、俺の『人としての地力』です」

 

 嘘だ。

 俺は戦いの最中、小猫が放った「衝撃」と、朱乃が落とした「雷の魔力」を、皮膚を通じて微かに吸い取っていた。

 魔剣を出さずとも、天与の身体は今や、それ自体が一種の「受容器」として機能し始めている。

 リアス・グレモリーが、震える手で自身の髪を弄りながら、熱に浮かされたような瞳で俺を見ていた。

 

「……恐ろしいわね。木場祐斗。あなたは、私が思っていた以上の『化け物』だわ」

 

 俺はその視線を冷たく受け流し、ソーナの隣へと戻った。

 今回の訓練で、俺の「物理的な完封能力」は周知の事実となった。だが、俺が本当に狙っているのは、彼女たちが次に放つであろう、さらに高純度な「滅びの力」や「聖の欠片」だ。

 

「会長。次の事務作業に戻ってもよろしいでしょうか」

「……ええ。お願いするわ、私の最強のナイトさん」

 

 ソーナの言葉には、誇らしさと、どこか得体の知れない存在を飼い慣らしてしまったという危うい優越感が混じっていた。

 俺は心の中で静かに笑う。

 

(見せてやるさ。いつか、この肉体がすべての理を喰らい尽くすその時を)

 木場祐斗の牙は、まだその鞘から半分も出ていない。

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