フィジカルゴリラな木場祐斗   作:お粥のぶぶ漬け

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第8話:龍王の慟哭、あるいは歪な教育

兵藤一誠がグレモリーの「騎士」として覚醒したのと時を同じくして、シトリー陣営にも新たな同胞が加わった。俺と同じ2年生でありながら、これまで「神秘」とは無縁だった実直な男――匙元士郎。

 彼の手首に宿るのは、黒い鎖を繰り出す神器『黒邪の龍王(アブソープション・ライン)』。

 

「……あ、あの。今日からよろしくお願いします! 会長のために、俺、精一杯頑張りますから!」

 

 放課後の生徒会室。同じ学年とは思えないほど、緊張で背筋を伸ばし声を裏返らせている匙を、ソーナは慈愛と理性が混ざり合った瞳で見つめていた。

 だが、その視線はすぐに、傍らに控える俺へと向けられる。

 

「ええ、期待しているわ、匙君。同じ2年生として、早く馴染んでほしいわね。……祐斗、彼の『教育』はあなたに任せてもいいかしら? まずは悪魔式の歓迎を兼ねて、戦力調査をお願いするわ」

「承知しました、会長。……同級生(タメ)として、たっぷりと可愛がってあげましょう」

 

 俺が静かに微笑むと、匙の肩がびくりと跳ねた。

 フィジカルギフテッドの肉体が放つ、生物的な階級の差。そして、一年前の縁談騒動を経て「会長の最愛の騎士」としての地位を盤石にしている俺への、本能的な恐怖と、隠しきれない嫉妬。

 ソーナは俺の肩にそっと手を置き、親密な距離で囁く。

 

「あまり、壊さないであげてね。……後で、私の部屋でチェスの続きをするのを忘れないで。お茶の準備もさせておくから」

 

 その甘い声と、部外者を寄せ付けない二人だけの空間。匙はその光景を目の当たりにし、顔を真っ青にして絶叫した。

 

「そ、そんな……! 会長、まさか木場とそんな関係なのかよ……! 俺の、俺の初恋が、始まった瞬間に終わっちまったぁぁ!!」

 

 場所を旧校舎裏の訓練場へ移し、俺と匙は対峙した。

 椿たち他の眷属が見守る中、匙は涙目で神器を起動させる。彼はまだ知らない。同じ学年に、もう一人「龍の神器」を宿して悪魔になった男(一誠)がいることを。今の彼にとって、越えるべき壁は、自分の隣に座るはずの「もう一人の書記」――木場祐斗という絶対的な騎士だった。

 

「木場! お前がどれだけ強くても、会長への愛は俺が一番だ! 略奪してやる……! 俺が会長を、お前から奪い取ってやるんだぁぁ!」

「……威勢だけはいいな。来い、匙」

 

 匙が吠え、神器から黒い鎖が蛇のように放たれる。相手の魔力を吸い取る『龍王』の力。

 だが、俺はそれを避けない。

 バシィィンッ!

 鎖が俺の右腕に巻き付く。匙は勝ち誇った顔をしたが、次の瞬間、その表情は戦慄に変わった。

 

「なっ……!? 魔力が、吸い取れない……っていうか、逆に俺の力が、抜けていく……!?」

「残念だが、吸い取るのは俺の魔剣の得意分野だ。同格(2年)なら、もう少し工夫しろ」

 

 俺は『解析の魔剣』を実体化させ、巻き付いた鎖に刃を触れさせた。

 【因子解析:黒邪の龍王(ヴリトラ)】。

 鎖を通じて、匙の神器の奥底に眠る古代龍の残滓へと意識をダイブさせる。「相手の力を奪い、束縛する」という概念。それを構成する術式、そして龍王ヴリトラの因子の配列を、脳内のハイスピード演算で一気に解体していく。

 

「あ、が……あぁぁぁっ!?」

 

 匙が白目を剥いて膝をつく。ダメージを与えているのではない。彼の神器から、情報の核(因子)を強引にコピーしているがゆえの精神的負荷だ。

 

(……見えた。これが龍王の力か。魔力を吸う性質、そして空間に干渉する鎖の理。……面白い、俺の『捕食の魔剣』の拡張パーツに使えるな)

 

 解析を終え、俺は一歩で匙の懐へ踏み込んだ。

 鎖を握り拳一つで引きちぎり、呆然とする彼の喉元に、魔剣ではない「ただの指先」を突き立てる。

 

「……終わりだ、匙。お前の『愛』とやらは、この程度の絶望で折れるのか?」

「う、あ……あぁ……」

 

 匙は、圧倒的な実力差、そして自分が恋焦がれるソーナからの視線が、一度も自分ではなく、目の前の俺だけに向けられているという残酷な事実に、ボロボロと涙をこぼした。

 

「……負け、たよ……。でも、でも俺は諦めない! いつか絶対に会長を、お前の隣から略奪してやる……!」

 

 地面を叩き、悔しげに宣言する匙。

 後に彼は、同じ境遇である兵藤一誠と出会い、共に「主(リアスとソーナ)」を愛でる親友となるのだが……今の彼にとっては、俺という巨大な影を乗り越えることこそが全てだった。

 俺は冷たく彼を見下ろし、心の中でほくそ笑んだ。

 

(いいぞ、匙。その嫉妬、その悔しさ、すべてが龍王の因子を活性化させる燃料になる。……お前が強くなるほど、俺が喰らえる因子の純度も上がるんだからな)

 

 訓練を終え、俺は駆け寄ってきたソーナの元へ戻る。

 彼女は心配そうに俺の手を取り、ハンカチで僅かな汗を拭った。

 

「お疲れ様、祐斗。……匙君も、良い根性を見せてくれたわね」

「ええ。これからの成長が楽しみですよ、会長」

 

 俺たちは、項垂れる匙を置き去りにして、二人で連れ立って校舎へと戻る。

 背中で叫ぶ匙の略奪宣言を、心地よいBGMとして聞き流しながら。

 木場祐斗の掌の上。

 新たな魔剣の糧――ヴリトラの因子が、黒い火花を散らして脈打っていた。

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