ハクビシン   作:塩ビパイプの紙

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はくびしん

「はくびしんって知ってる?」

 

こちらを向かずに彼女が聞く

 

hakubisin

はくびしん

ハクビシン

 

「ハクビシン?」

 

「そう。ハクビシン。知ってる?」

 

「知ってるけど、それがどうかしたの?」

 

「知ってるんだ。」

 

「私は知らないんだけど、どんな姿の動物か説明してくれない?」

 

「ハクビシンを?」

 

「ハクビシンを」

 

ハクビシン。いったいどんな動物であっただろうか。

名前は聞いたことがある。ただ、それ以外のことを私は知らない。

どんな姿なのだろうか?

何を食べるのだろうか?

何処に生息しているのだろうか?

どんな漢字を書くのだろうか?

なんとか考え出そうと目線が揺れる

 

「ハクビシンは、」

 

そのあとにつながる言葉が現れない。

 

「ハクビシンは?」

 

彼女は私の言葉を待ってくれているようだ。

何とか言葉を出そうとしても空を切ってしまうばかりだ。

 

「、、、」

 

「わからないんだ」

 

説明ができない。

私はハクビシンを本当に知っていたのかと疑う気持ちさえも出てくる。

 

「ハクビシンを見たことある?」

 

「見たことは、、」

 

あっただろうか、あったとしても今覚えていないのだから見たことがないのと同義なのかもしれない。ではなぜハクビシンを知っていると答えたのだろうか?

 

「あると思う」

「でも覚えていない」

 

「ふーん」

 

彼女はこちらに向き直った

 

「じゃあさ、」

「ペガサスって知ってる?」

 

ペガサス

それは分かる。知っている。

 

「もちろん」

 

「説明できる?」

 

「ペガサスは、羽の生えた空を飛ぶ馬のことだよ」

 

彼女は満足そうにうなずいた

 

「見たことはある?」

 

「それは、どっちの意味で?」

「絵を見たことはあるけど、」

 

実物は、

そうつなげようとして彼女が割って口をはさむ

 

「面白いと思わない?」

 

「、、なにが?」

 

「存在するのに名前しか知らないものと」

「存在しないのに姿形がわかるもの」

 

たしかに。

 

「面白い。かも?」

 

彼女は私のどっちつかずな感想がおかしかったのかクスリと笑った

 

「どっちが好き?」

 

「どっちって、ハクビシンとペガサス?」

 

「うん」

 

私は

 

「ハクビシンが好きかな」

 

「へぇ」

「見た目がわからないのに?」

 

「でも」

「存在しているから」

 

「そっか」

「私はペガサスのほうが好きだな」

 

どうして?

 

「だって」

 

私の言葉を待たずして答える

 

「存在していないから」

 

彼女のその言葉は、まるで自分をたとえているようだった

 

それは

 

「違うよね」

 

「、、え?」

 

彼女は私の言葉が予想外だったようで固まった

 

「そうじゃないでしょ」

「あなたは存在しなくても覚えられているからペガサスが好きなんだ」

 

彼女は私の言葉を何とかかみ砕こうと瞬きを繰り返した

 

「そっか」

「そうかもね」

 

じゃあ

彼女の口からその声は出なかった

 

「私はペガサスになれると思う?」

 

私は

 

「わからない」

「でも、」

「挑戦するためにここ来た」

「そうじゃないの?」

 

「そうだね」

 

彼女は私に背を向ける

一歩を踏み出した

 

「最後に」

 

彼女がまるで最後の確認をするように言った

 

「私は飛べると思う?」

 

彼女は踏み出した

 

 

 

 

 

「私にとってあなたはペガサスだよ」

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