| 推奨平均レベル 昇進1 LV.50 | |
街への最後の試練。死の宣告を刻む番人を前に、一行は全力で立ち向かう。 | |
演習 行動開始 | |
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街への最後の試練。死の宣告を刻む番人を前に、一行は全力で立ち向かう。 | ||
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光が、近づいていた。
幻影の嵐の向こうに見えた淡い明滅——それは一歩進むごとに輪郭を増していく。
「もう少しだ」
ドクターが言った。
一行の足取りは自然と速くなっていた。長い旅路の終わりが見えている。
アーネストの胸には、期待と不安が入り混じっていた。
マグノリアは、あの光の先にいるのだろうか。
その時——空気が変わった。
「……止まれ」
イプセンが片手を上げた。
一行が足を止めた瞬間、大地が震えた。
「何——!?」
地面に亀裂が走る。砂塵が舞い上がり、視界を遮る。
そして——地面から、光が溢れた。
巨大な魔法陣だ。
紫色の光で描かれた複雑な紋様が、大地に浮かび上がっている。
直径は20メートルはあるだろうか。その中心が、脈打つように明滅していた。
「これは……」
ドクターが息を呑む。
魔法陣の中心から、それは現れた。
最初に見えたのは、骨だった。
朽ち果てた頭蓋骨が、地面からゆっくりと浮かび上がる。
続いて肩、腕、胴体——黒いローブを纏った骸骨が、大地から這い出てくる。
右手には、禍々しい杖。
眼窩には、青白い炎が灯っている。
「……リッチか」
イプセンが低く呟いた。その声には、驚きとは別の——困惑が混じっていた。
(なぜ、この大地に……?)
リッチ——古い図鑑の片隅に記された、不死の魔物。
イプセンも実物を見たことはない。だがあの姿は、図鑑の挿絵とよく似ていた。
そしてそれは、この大地の生き物ではないはずだ。源石病とも、天災とも無関係な——魔物。
なぜここにいる。偶然の一致か、それとも——
疑問は尽きない。だが今は——
「……まるで試練の番人だな」
答えは、倒してから考える。イプセンは剣を抜いた。
リッチが杖を掲げた。
「散開」
ドクターが低く命じた瞬間——杖が振り下ろされた。
轟音。
大地が隆起した。地面が波打つように盛り上がり、一行を吹き飛ばす。
「ぐっ……!」
アーネストは何とか着地したが、ハンスと医療班が倒れている。
「ハンスさん!」
「大丈夫……です……」
ハンスは立ち上がろうとするが、足がもつれる。衝撃で体力を奪われたのだ。
リッチが再び杖を掲げた。次の一撃が来れば——今度は耐えられない。
メテオが弓を構えた。
「私が射る。誰かがあいつを止めて!」
「俺が抑える」
イプセンが前に出た。
盾を構え、リッチと対峙する。
イプセンの目が、リッチの動きを捉えていた。
長年の戦闘経験が、危険な攻撃とそれ以外を瞬時に選り分ける。
イプセンがリッチに迫った。
リッチが杖を振り下ろす——イプセンは盾でそれを受け止めた。
金属と骨が激突する音。衝撃波が周囲の砂塵を吹き飛ばす。
「重い……だが、これは受けられる」
その瞬間——リッチの眼窩が、一際強く光った。
青白い炎が燃え上がり、イプセンの体を照らす。
「——っ!?」
イプセンの胸に、黒い紋章が浮かび上がった。
円形の紋様。それが、ゆっくりと広がり始める。
まるで時計の針のように、弧を描きながら完成へと向かっていく。
「……まずい」
イプセンの顔色が変わった。
「これは——」
死の宣告。
カウントダウンが、始まった。
「イプセン!」
メテオが叫んだ。
腰のホルダーに手を伸ばす——通常のボトルではない。最奥に収められた、赤と青の二層構造を持つ特殊なボトル。ソウルレゾナンス。
(これを最初から使うなんて……)
だが本能が告げていた。あの存在は、危険だ。格が違う。
狙撃手として戦場を渡り歩いてきた経験。数え切れないほどの敵を射抜いてきた直感。
その全てが叫んでいる——手加減するな。最初から、全力で叩き込め。
通常なら、まず威力偵察をする。敵の耐久力を測り、最適な火力を選択する。
カートリッジは有限だ。無駄遣いは許されない。
だが、今は違う。
あのリッチの纏う気配は、これまで相手にしてきたどんな敵とも違っていた。
源石汚染生物でも、敵対組織の術師でも——こんな底知れない恐怖を感じたことはない。
(出し惜しみしたら、死ぬ)
迷いはなかった。
カートリッジを三本、装填口に叩き込む。
カチン。カチン。カチン。
弦を限界まで引き絞り——放つ。
ソウルレゾナンス。最大出力。
矢がリッチの胸部に着弾した。
最初に炎が爆ぜた。フレアスター——紅蓮の業火がリッチの体を焼き尽くす。骨が黒く焦げ、ローブが燃え上がる。
続いて氷が走った。グレイシャルスター——蒼い冷気が炎を塗り替え、リッチの全身を凍結させる。
そして——
砕ける音。
氷結した部位が、次々と崩れ落ちていく。
「……やった?」
だが——リッチは、まだ立っていた。
体の一部が欠けている。だが眼窩の炎は消えていない。怯んだだけだ。
そして、イプセンの胸の紋章は——完成しようとしていた。
黒い紋章が、閉じた。
「くっ……!」
イプセンの全身を、激痛が貫いた。
咄嗟に体を光で覆う。インビンシブルの残滓——だが、完全には防ぎきれない。
衝撃がイプセンの体を襲い、彼は吹き飛ばされた。地面を転がり、砂塵の中に消える。
「イプセン!」
アーネストが叫んだ。
だがリッチは止まらない。
杖を振り上げる。その動きは——全員を薙ぎ払う構えだ。
「来る——!」
メテオが歯を食いしばる。ソウルレゾナンスはもう使えない。
通常のマジックボトルでは、あの怪物は止められない。
「アーネスト」
ドクターが低く言った。
「アーツで拘束しろ。時間を稼げ」
アーネストは剣を抜いた。
迷っている暇はない。
駆け出し、リッチの前に躍り出ると——剣を地面に突き立てた。
「——止まりなさい!」
アーツが発動する。
剣を中心に、淡い光が波紋のように広がった。
地面に刻まれた術式陣から、紫色の鎖が伸び上がる。
一本、二本、三本——鎖は蛇のようにうねりながらリッチの足首に絡みつき、膝を這い上がり、両腕を縛り上げた。
最後の一本が胴体を締め付けると、リッチの動きが止まった。
「ぐ……」
リッチが身じろぎする。鎖が軋む音がした。長くは持たない。
「メテオ、弱体を入れろ。拘束が解ける前に」
ドクターの指示は静かだった。今、残された手札で最善を尽くす——その判断に迷いはなかった。
メテオは頷いた。
腰のホルダーから、別のボトルを取り出す。透明なガラスに、紫色の液体——「ファントムダート」の刻印。
カートリッジを一本、装填。
弦を引き、放つ。ファントムダート。
放たれた矢は、実体を持たない幻影だった。
リッチの体を貫通する。傷は浅い——だが、効果は別にある。
リッチの体表に、亀裂のような紋様が走った。
防御が脆くなっている。次の一撃が、致命傷になる。
「イプセンは……」
アーネストが周囲を見回す。砂塵の中に倒れているはずだった。だが、姿がない。
「上よ」
メテオが空を指差した。射手として常に視界を確保している彼女は、最初から追っていた。
遥か上空に、小さな影があった。
イプセンは跳んでいた。
吹き飛ばされた勢いを利用して、空へ——そして今、落下しながら槍を構えている。
いつの間に盾から持ち替えたのか。いや、そもそもあの槍はどこから——
アーネストの疑問は、全て吹き飛んだ。
イプセンの槍が、紅い光を纏っていた。
「——墜ちろ」
天から、光が降り注ぐ。
蒼天より墜つ一撃——スターダイバー。
脆弱化したリッチの胸を、槍が貫いた。
轟音。
大地が砕ける。衝撃波が砂塵を巻き上げ、周囲の岩を吹き飛ばす。
光が収まった時——リッチの姿は、どこにもなかった。
番人は、声もなく塵と化して消えていた。
戦闘が終わった。
イプセンは槍を杖にして、膝をついていた。
「……イプセン、大丈夫?」
メテオが駆け寄る。
「問題ない。少し、疲れただけだ」
「……すごかったわ、あの技」
メテオが言った。
「空から槍で突っ込んでくるなんて。どうやったの?」
「……跳んだだけだ」
「跳んだだけって……」
「そういう戦い方があるんだ。説明は難しい」
イプセンは立ち上がり、槍を背中に戻した。
ポーチから小さな結晶を取り出す。淡い青色の光を放つ、透明な鉱石。
握りつぶす。
結晶が砕け、光の粒子となって掌から体内へと吸い込まれていく。
「……何、それ」
メテオが目を丸くした。
「回復薬のようなものだ」
イプセンは短く答えた。詳しく説明するつもりはない。
説明したところで、理解されるとも思えない。
目を閉じる。
35日前の記憶が、脳裏をよぎった。
あの日——イプセンは、時空の狭間にいた。
エオルゼアの原初世界から、第一世界へ。
クリスタルタワーを経由した『テレポ』は、何度も経験していた。だが、あの日は違った。
転移の最中、声が聞こえた。
『——王を、助けてください』
女の声だった。切実で、悲痛な響き。
誰だ。どこから聞こえている。
答えを得る前に、転移が乱れた。
光が歪み、空間が捻じれ、イプセンは未知の大地に投げ出された。
目覚めた時、そこは砂漠だった。
エーテルの流れが、おかしい。いや——エーテルそのものが、ほとんど存在しない。
「……ここは、どこだ」
見知らぬ星座。見知らぬ植生。見知らぬ言語。
光の戦士として、数々の世界を渡り歩いてきた。
原初世界、第一世界、古代——だが、この大地は全く異なっていた。
「越える力」のおかげで、会話は何とかなった。だが文字を書くのは未だに拙い。アーツと呼ばれる力に関しては、分かるようで全く分からなかった。
それでも——この世界を知るほど、その過酷さを思い知った。
源石病。
鉱石が体に結晶化し、やがて死に至る病。街を歩けば感染者がいる。市場で、工場で、路地裏で。誰もが当然のように罹患し、当然のように死んでいく。
エオルゼアにも致命的な病はあった。トンベリ病は都市ひとつを滅ぼし、封印せねばならなかった。罪喰いは人を異形に変えた。だが、それらは「災厄」だった。立ち向かい、封じ、治療法を探すべきもの。
源石病は違う。この大地では——病が、日常だった。
そして何より悪辣なのは、この文明が源石に依存しているということだ。
エネルギー源。アーツの触媒。産業の基盤。
源石がなければ、この文明はおそらく成り立たない。だが、その源石こそが病を生む。文明の恩恵を受けるほど、病に近づく。
エオルゼアのクリスタルとは違う。確かに過剰なエーテルは災いを招く。属性の偏りは霊災を起こし、過剰なエーテル放射は人を怪物に変える。だがそれは例外だ。クリスタルそのものは、命を脅かさない。
感染者の末期を、イプセンは見た。体が結晶に侵され、やがて人の形を失っていく。あれは死ではない。源石に「還る」のだ。この大地に生きる限り、誰も逃れられない。
そして——感染者は、当然のように迫害されていた。
隔離され、追放され、時には殺された。「仕事を奪う」「穢れている」「近づくな」——病に苦しむ者を、さらに追い詰める言葉の数々。
サルカズと呼ばれる種族は、感染しやすいという理由で差別されていた。悪魔の末裔。呪われた血。国を持たない流浪の民。——彼らは生まれながらにして、病と偏見を背負わされている。
イプセンは、エオルゼアでも差別を見てきた。獣人への偏見、帝国の支配、蛮神に縋る者たちへの迫害。だが、テラの差別は——より根深く、より日常に溶け込んでいた。善人ですら、無意識のうちに距離を置く。
変えられるかは分からない。だが、目の前の一人なら——手が届く。
天災もまた、この世界の日常だった。
源石を撒き散らす災厄が、定期的に訪れる。街を呑み込み、大地を汚染し、人々の生活を根こそぎ奪っていく。だからこの世界の人々は、都市ごと移動する。巨大な移動都市が、天災から逃げるように大地を渡り歩く。
エオルゼアにも災厄はあった。蛮神の脅威、ガレマール帝国の侵攻と解放、竜詩戦争、第一世界の光の氾濫——終末すら経験した。だが、それらは「終わらせるべき危機」だった。立ち向かい、解決し、日常を取り戻すもの。
テラの天災は違う。終わらない。解決できない。ただ、逃げ続けるしかない。
この世界の人々は、生まれた時からそれを当然として生きている。逃げ続けることが、日常そのものなのだ。
ロドスアイランドとの縁は、偶然だった。
転移から10日後。街道で、感染者の一団が暴徒に追われているのを見た。
イプセンは、何も考えずに割って入った。
感染者だから助けた訳ではない。ただ、彼らが助けてほしいと願ったから。
エオルゼアでも、テラでも、イプセンの行動原理は変わらない。
その姿を、ロドスアイランドの現地職員が見ていた。
「あなたのような人を、探していました」
声をかけてきたのは、感染者支援を行う組織の一員だった。
もしあの時、先に接触してきたのが別の組織——だったら、イプセンはそちらに加わっていたかもしれない。
ロドスとの縁は、本当にただの偶然だった。
だが、縁とは往々にしてそういうものだ。
ロドスに身を寄せてから、イプセンは一つの問題に直面した。
エーテルだ。
エオルゼアでは、大気中にエーテルが満ちている。戦闘で消耗しても、すぐに環境から補充される。
光の戦士の力——魔法も、武技も、全てはエーテルを源としている。
だが、テラには——エーテルが存在しない。
少なくとも、イプセンが感知できる形では。
一度使った力は、戻らない。このままでは、いずれ戦えなくなる。
解決策は、意外なところにあった。
エオルゼアから持ち込んだクリスタルの備蓄がある。冒険者として、長年貯め込んできた膨大な量だ。さらに——ロドスから不要になった装備や物品を受け取り、分解する。これまで培った技術で、この大地の物質からでも微量のエーテルを抽出できた。
効率は悪い。エオルゼアなら一瞬で済む作業に、何時間もかかる。だが、塵も積もれば山となる。
幸運にもクリスタルの備蓄は——まだ十分にある。当面は問題ない。だが、無限ではない。
イプセンは目を開けた。
エオルゼアへ帰る方法は、分からない。
だが——やるべきことはある。
「王を助けてください」
あの声が、イプセンをこの大地に導いた。声の主が誰なのか、まだ分からない。だが、助けを求められた以上——応えないわけにはいかない。
それに、この大地にも困っている人々がいる。感染者も、非感染者も関係ない。目の前で助けを求める者がいれば、手を差し伸べる。それがイプセンの在り方だ。
だが今は声の依頼が先だ。まずはそれを果たす。
「……必ず、使命を果たす」
光の戦士は、静かに誓いを新たにした。
リッチが消えた後、変化は劇的だった。
幻影の嵐が、晴れていく。
紫色の粉塵が薄れ、視界が開けていく。頭上に広がるのは——青い空だった。
「……空が」
アーネストが呟いた。
清浄な空気が、肺を満たす。源石の濃度は、ほとんど感じられない。
そして——
「見えた……」
メテオが指差す先に、それはあった。
白い石造りの街。
陽光を浴びて輝く建物の輪郭。遠くからでも分かる、整然とした街並み。
ウイユヴェール。
感染者の楽園と呼ばれる、蜃気楼の街。
「……着いた」
ハンスの声が震えていた。
「ついに、着いたんだ……」
アーネストの胸に、熱いものがこみ上げてきた。
2年間、探し続けた場所。マグノリアがいるかもしれない場所。
それが、今——目の前にある。
「アーネスト様」
声と共に、マニュエラが傍に駆け寄った。
「お怪我はありませんか?どこか痛むところは……」
「大丈夫よ、マニュエラ。ありがとう」
「……行こう」
ドクターが言った。
「街が待っている」