今回はリゼも登場します。
バイクのエンジン音が静かに止まり、四人はラビットハウスの前に到着した。
ココアが先に降り、ヘルメットを外しながら元気に手を振る。
「着いたよー!マイキーくん!ドラケンくん!ここがラビットハウスだよ!」
チノはドラケンの背中からそっと降り、服の裾を握りながら小さくお辞儀をする。
「…あの……ありがとうございました」
ドラケンはチノの小さな背中を優しく見守り、マイキーと一緒に店の裏手の方へバイク停めに向かう。
ココアがドアを開けると中からラビットハウスのアルバイト、天々座理世の声が響いた。
「いらっしゃいませ!…っとココアとチノか。おかえり、遅かったじゃないか。どうしたんだ?」
リゼはカウンターで一人、バイトをこなしていた。
制服姿で銃を腰に差したまま、いつもの男勝りな口調で二人を迎える。
「ただいまーリゼちゃん!お仕事お疲れ様!」
「リゼさん。遅くなってすみません」
「いや、それは別にいいよ。大して客も来なかったし…でも遅いから心配したぞ……ん?ココア、お前ほっぺた少し赤いぞ」
リゼはココアの頬に少し赤みがあることに疑問を抱く。
ココアは少し申し訳なさそうに、でも明るく説明する。
「ごめんねリゼちゃん!実はね、帰り道で不良たちに絡まれて……超ピンチだったの!でもマイキーくんとドラケンくんって子たちが、カッコよく助けてくれたんだよ!」
不良に絡まれたとココアが口にした時、リゼの目が鋭くなった。
「……ココアのそれ、不良にやられたのか?…チノ、お前は怪我は?」
チノが小さく首を振る。
「私は、大丈夫……です……」
その時、カランと店のドアが開き、マイキーとドラケンが入ってきた。
リゼは2人を一瞬で捉え、腰の銃に手をかけ臨戦態勢に入る。
「お前たちか?……チノとココアに絡んできた不良は?」
鋭い視線で睨み、ドスの効いた口で問いただす。
マイキーは一瞬驚き、ドラケンも目を見開く。
(この女……俺らに全くビビってねェ……)
(それどころか、堂々と立ち向かってきやがる……)
ココアが慌てて間に入って、誤解を解く。
チノもすかさずフォローする。
「リゼちゃん違うの!誤解だよ!この二人が助けてくれたの!不良たちを追い払ってくれて!ここまで送ってくれた恩人だよ!」
「ココア庇わなくていい。本当はこいつらが…」
「リゼさん…このお二人は本当に、私たちを助けてくれたんです」
「…えっ!?そうだったのか!!?……私の早合点だったみたいだ。」
「あれ!?なんでチノちゃんの時は信じるの!?」
リゼは一瞬固まるがすぐに手を下ろし、マイキーとドラケンに向き直り、目線を合わせる。
「お客様。この度は不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ありませんでした」
リゼは自分の勘違いで、二人を見た目だけで判断し、敵視したことを深く反省した。
そして頭を下げ、誠心誠意謝罪する。
マイキーは笑って手を振り、ドラケンも頷く。
「気にすンな。あの不良たちはともかく、この街見たけど雰囲気も治安も良いし、俺らみたいなヤツそうそういねェから、警戒したンだろ?」
「それに俺たち、こういうのには慣れてるから大丈夫」
「そ…そうか。ありがとう。それより立ち話もなんだし座ってくれ!ココアとチノの恩人なら歓迎するよ!」
お互いに誤解も解け、ラビットハウスにはいつもの緩やかな空気が戻った。
◆
それからお互い自己紹介が始まった。
「それじゃあ改めて、私は天々座理世。ラビットハウスのバイトで高校三年生だ。よろしくな」
「俺は佐野万次郎。マイキーって呼ばれてるから、そう呼んで」
「わかったよマイキー。私のこともリゼでいいよ」
「ん。よろしく、リゼ」
「俺は龍宮寺堅って言います。俺もドラケンって言われてるので、そう呼んでください。あと俺もリゼさんと呼ばせてもらいます」
「あぁよろしくなドラケン。…ん?なんで敬語なんだ?さっきまでタメ口だったのに?」
「いや、一応年上なので、失礼のないように…」
「………ちなみにお前ら学年は?」
「中三」
「俺もです」
「…なんだ、まだ中学生だったのか。だったらチノと同い年だな…………ってええええええええ!!!!!!!」
先ほどのココアと同じような反応をするリゼ。
「あはは!なんかさっきのココアちゃんみたいな反応だな!」
「マジか…マイキーはまだ納得がいくが、ドラケンは普通に私と同い年か年上かと思ったぞ…」
「はは。よく言われます」
先ほどのココアとのやりとりを思い出したマイキーは笑い出し。ドラケンも苦笑いする。
自己紹介も済み、二人から注文を取る。
マイキーはパンとカフェラテ、ドラケンはオリジナルブレンドをそれぞれ注文する。
「ご注文、承りました!マイキーくん!お姉ちゃんがとっても美味しいパン作ってくるから、楽しみに待っててね♪」
(ドラケンさんに……お礼を……ちゃんと淹れなきゃ……)
ココアは張り切って、マイキーにパンを作る。
チノもドラケンに、いつもより気合を入れてコーヒーを淹れる。
リゼもマイキー用のカフェラテに、ラテアートの準備をする。
その間、マイキーとドラケン、リゼは軽く会話する。
「改めて、さっきはすまなかったな。私、チノとココアが絡まれたと聞いて……ついカっとなって」
「もういいって。それより、俺ら相手にビビらねェ度胸があって驚いたぜ」
「リゼさんって、なんか格闘技でもしてンスか?すぐに臨戦態勢取ってたし…」
「だよな。いつも喧嘩してる不良たちと違って全く隙がなかったし、動きからして相当鍛えてンだろ?」
マイキーとドラケンはリゼの動きから運動神経の良さを感じ、率直な感想を述べる。
リゼは少し照れながらも、嬉しそうに。
「ま…まぁな。私は、軍人の親父に昔から護身術、特にCQCを叩き込まれてるから」
「あぁ、それで…だから銃とか持ってたンスね」
「CQCか……すげェな。いつか訓練してるとこ見せてくれよ」
「マイキー落ち着け」
「ハハッ。まぁそのうちな。それよりホラ、先にマイキーのカフェラテから」
リゼは、会話の片手間で精密なラテアートを描く。
ハート型、うさぎ型、星型──見事な出来栄え。
完成したラテをマイキーに差し出す。
「おおお!これどうやって作ってンだ!?超上手ェな!!」
「…マジで上手だな。ラテアートってやつか?つーか、あの短時間でこんなクオリティ出せンのかよ…」
「ふふ。コレくらい朝飯前だよ」
マイキーは初のラテアートに興味津々。
ドラケンも目を丸くし、ラテアートの出来栄えに見惚れる。
リゼは照れながらも嬉しそうにする。
そうこうしているうちに、コーヒーは完成。
チノはいつもより緊張しながら、ドラケンの前にオリジナルブレンドのコーヒーをそっと置いた。
「おまたせしました…」
「おっ。俺のもきたか」
カップから立ち上る香りは、深みのある苦味とほのかなフルーティーさが混ざり、店内に優しく広がる。
ドラケンはカップを手に取り、まず香りを嗅ぐ。
「……いい香りだな……」
ゆっくりと一口。
ドラケンの目が、わずかに見開かれる。
苦味が舌に広がり、すぐにまろやかな酸味と甘みが追いかけてくる。
後味はすっきりしていて、喉を通るたびに心地よい余韻が残る。
「……美味い……」
チノの頰が、ぽっと赤くなる。
「……ありがとう……ございます……」
ドラケンはもう一口、目を細めて味わう。
「チノちゃん…このブレンド、俺の好みにぴったりだ。香りも味も、深みがあって……最高だよ」
「こ…光栄です…」
「俺、普段そんなにコーヒー飲まないから、あンま詳しいことはわかんねェけど、これはマジで美味しいよ」
「ドラケンさんに……そう言ってもらえて……嬉しいです……」
チノは顔を真っ赤にしながら、視線を落とす。
ドラケンはカップを置いて、チノに優しく微笑む。
「俺と同い年なのに、こんな美味しいコーヒー淹れられるなんて、チノちゃんマジですげェよ。毎日でも飲みたいくらいだ」
ドラケンはチノに目線を合わせ、本心からチノのコーヒーの味を褒め称える。
チノはドラケンに優しい目に、自分の努力を認めてもらえたことに、嬉しくなり、胸が温かくなる。
(ドラケンさん……私のコーヒー……美味しいって……)
その時、ドラケンの頭に白いもふもふが乗る。
突然現れ、ドラケンの頭に鎮座していた。
「ん?なんだこれ……」
「これはティッピーです…一応うさぎです」
(………飲食店に動物って大丈夫なのか…?)
「それうさぎなのかよ?毛玉かと思ったわ」
ドラケンは、動物の持ち込みに衛生管理など内心で色々思い。マイキーはティッピーを毛玉呼びしながら突っつく。
すると、ティッピーが突然。
「誰が毛玉じゃ!それと、チノはやらんぞ小僧共!!」
マイキーとドラケンが、一瞬固まる。
「今喋った?」
「私の腹話術です」
「いや、今喋って……」
「私の腹話術です」
「でも……」
「腹話術です」
「…………」
「腹話術です」
「………カフェラテ、マジで美味いな。リゼ、カフェラテおかわりしていい?」
「ん?ああいいよ。今度はマイキーのリクエストに応えてやるよ」
「ラッキー。じゃあ、バイクのラテアート見たいから描いて」
(マイキーが諦めた!?)
マイキーは、突然ダンディな声で喋り出したティッピーに驚き、チノに詮索するも、腹話術の一点張り。
これ以上の詮索は無駄と悟ったマイキーは、考えるのをやめ、カフェラテを楽しむ
そのマイキーが食い下がった様子を見て、ドラケンは驚愕する。
「おまたせー!パン焼き上がったよー!」
ココアがトレイにパンを乗せて、マイキーの前にドンと置く。
表面はこんがり黄金色に焼け、中から湯気がふわっと立ち上る。
バターの香りと小麦の甘い匂いが、店内に広がった。
「マイキーくん!これ、お姉ちゃんの特製ハート型パンだよ!愛情たっぷり入れて焼いたから、絶対美味しいよ♪」
「いい香りだな。サンキュー、ココアちゃん」
マイキーはパンを手に取り、じっと見つめる。
そして── 一口、大きくかじる。
「……ん……」
最初は静かに噛みしめていたマイキーの目が、ゆっくりと見開かれた。
外側はサクッと軽く、中はふわふわでしっとり。
バターのコクとほのかな甘みが口いっぱいに広がり、噛むたびに小麦の香りが鼻を抜ける。
マイキーの頰が、ぷくっと膨らむ。
「…美味い……」
「えっ……!? 今……美味いって……!?」
その一言に、ココアの目がキラキラと輝く。
マイキーはもう一口、もっと大きくかじる。
頰を動かすたびに、幸せそうな表情が少しずつ浮かんでくる。
「これ……すげェ柔らかい……バターの味が……ちゃんと染みてて……甘さもちょうどいい……」
「マイキーくん……!マイキーくんが……そんなに美味しそうに食べてくれるなんて……!」
ココアは感極まって、目が潤む。
マイキーはココアと目を合わせ、感想を伝える。
「ココアちゃんの作ったパン、俺好きになったよ。こんな美味いパンご馳走してくれてありがとな」
次の瞬間、ココアはマイキーに抱きついた。
「うわぁぁん!!マイキーくんありがと~~~!!お姉ちゃん嬉しいよぉぉ!!」
マイキーはパンを咀嚼しながら、されるがままに抱きしめられる。
ココアはマイキーの頭をぎゅーっと抱きしめ、頰をすりすりしながら甘やかす。
「ココアちゃん近ェって。…でもこのパン、ほんとに美味い」
「マイキーくんはもう、私の大事な弟だからね!もっと食べて!お姉ちゃん、もっともっと焼いてあげるから!甘やかしてあげるから!もふもふ~♪」
マイキーは照れくさそうにしながらも、嫌がらずにパンをもう一口。
頰が緩み、目が細くなる。
「サンキュー、ココア"お姉ちゃん"」
その言葉に、ココアはさらに感極まって、涙目でマイキーをぎゅうぎゅう抱きしめる。
「お姉ちゃん……マイキーくんにそんなこと言われたら……もう……幸せすぎて死んじゃう~~~!!」
「はは…面白れェな。ココアちゃんって」
「……マイキーのやつ、めちゃくちゃココアちゃんに気に入られてますね」
「まぁ…自分の作ったパンを褒められて、待望の姉呼びまでされたからな。感極まったんだろ」
談笑は続き、みんなで笑い合う。
マイキーはリゼのラテアートを褒め、ドラケンはチノのコーヒーを絶賛。
ココアはマイキーに抱きつき、もふもふしながら「マイキーくんはお姉ちゃんの弟!」と主張。
最後に会計を済ませ、全員、連絡先を交換する。
◆
ラビットハウスは、夕陽の柔らかなオレンジ色に染まっていた。
ココア、チノ、リゼの三人は、マイキーとドラケンの見送りをする。
ココアが一番に飛びついてきた。
「マイキーくん、ドラケンくん!今日は本当にありがとう!また絶対来てね!お姉ちゃん、もっと美味しいパン焼いて待ってるから!」
マイキーは少し照れくさそうに笑う。
「ココアちゃんのパン、マジで美味いからな。また来るよ」
ココアはマイキーの無邪気な笑顔を見て、胸がきゅんとなる。
「うん!マイキーくんはもう、私の可愛い弟だからね!お姉ちゃん、ずっと待ってるよ!」
「だから近ェってココアちゃん。でもまァ…ありがと」
「うん!」
そう言って、ココアはマイキーをぎゅーっと抱きしめる。
マイキーはされるがままに抱きしめられながら、苦笑い。
「マイキー、ドラケン。またいつでも来いよ。私も待ってるよ」
「俺もリゼのカフェラテ好きだし、またラテアート見たいから、また来るよ」
「俺も、マイキーの見てたら作ってもらいたくなりました」
「ふふ…その時はドラケンの分も作ってやるよ」
リゼは男勝りな口調で、マイキーとドラケンに挨拶する。
マイキーはみんなの顔を見て、軽く手を上げる。
ドラケンも丁寧に頭を下げる。
「また来るよ。みんなありがとな」
「ココアちゃん、チノちゃん、リゼさん、…今日はありがとう。また来るよ」
マイキーはバイクに跨り、エンジンをかける。
ドラケンもバイクに乗ろうと後ろを向いたその時──
チノが、奥から小さな足音を立てて駆け寄ってきた。
小さな手が、ドラケンの服の袖を、ちょこんと掴む。
「……ドラケンさん……」
チノの声は、蚊の鳴くように小さく、顔は真っ赤。
視線は地面に落ちたまま、でも袖を離さない。
「……また……来てください……」
ドラケンは驚いて立ち止まり、ゆっくりとチノの方を向く。
チノの小さな手が、袖をぎゅっと握っている。
ドラケンは優しく微笑み、しゃがんでチノの目線に合わせる。
大きな手で、チノの頭をそっと撫でる。
髪がサラサラと指の間を滑る感触に、チノの心臓がドキドキする。
「……ああ。約束するよ、チノちゃん」
ドラケンの声は穏やかで、温かい。
「また来る。チノちゃんのコーヒー、楽しみにしてるからな」
チノは頰を真っ赤にしながら、こくこくと小さく頷く。
「……はい……待って……ます……」
ドラケンは立ち上がり、最後にみんなに軽く頭を下げる。
「じゃあ、またな」
ドラケンもバイクに跨り、エンジンをかける。
ココアが手を振る。
「マイキーくん、ドラケンくん! 絶対また来てねー!」
リゼが腕を組んで。
「マイキー。次はもっとすごいラテアート描いてやるよ」
二台のバイクがゆっくりと動き出し、夕陽に向かって走り去る。
チノは店の前で、ドラケンの背中を見送りながら、胸に手を当てる。
(ドラケンさん……また……来てくれる……)
ココアはチノの肩を抱き、チノにニッコリと微笑む。
「チノちゃん……よかったね……ドラケンくん、絶対また来るよ」
チノは頷きながら、頰を赤らめる。
「……はい……」
夕陽が二台のバイクを優しく照らし、木組の街に新しい絆が生まれた瞬間だった。
◆
マイキーとドラケンは、木組の街を後にして、夜の高速を走っていた。
バブとゼファーのエンジン音が、並走しながら低く響き合う。
街灯の光が断続的に二人の顔を照らし、ドラケンの辮髪が風に揺れる。
マイキーは前を向いたまま、アクセルを緩めずに走る。
ドラケンは少し後ろを走りながら、マイキーの様子を気にしていた。
やがて、都心に近づいた頃、マイキーが突然スピードを落とし、路肩にバイクを停めた。
ドラケンもすぐに追いつき、隣に停める。
エンジンを切り、ヘルメットを外すと、夜風が二人の頰を撫でた。
マイキーはバイクに跨ったまま、俯いて呟く。
「……今日……なんか、すげェ疲れたな」
ドラケンはヘルメットを膝に置き、マイキーの横顔を見る。
「……ああ。俺もだ」
短い沈黙。
街の喧騒が遠くから聞こえてくる。
マイキーが、ぽつりと続ける。
「ココアちゃんたち、いい奴らだったな。……なんか、落ち着くっていうか……」
ドラケンは小さく頷く。
「……ああ。それにチノちゃんの淹れるコーヒー、俺の好みにドンピシャだった。あの子、ちっちゃいのに……ちゃんと自分の世界持ってるよな」
マイキーは少し笑う。
「ココアちゃんは……うるせェけど、優しいよな。『お姉ちゃん』ってうるさく言ってくるけど……なんか、嫌じゃなかった」
ドラケンが苦笑い。
「ココアちゃん、お前を弟認定してたからな。俺も『ココアちゃん』って呼ぶようになって……なんか、照れくせェけど……悪くねェ」
マイキーは空を見上げる。
「また……行こうぜ。あの街に」
「ああ……絶対だ」
二台のバイクが、再び夜の高速を走り出す。
エンジン音が、二人を優しく包み込んだ。
──木組の街は、二人を待っている。
そして、二人の心にも、あの温かさが残っていた。
ストックが尽きてしまった…
いっそストック貯まってから放出しようかな…