今回、千夜シャロが登場します
それではどうぞ
木組の街は、春の柔らかな陽射しに包まれていた。
マイキーとドラケンは、バイクを駐車場に停め、ヘルメットを外してのんびり歩き始めた。
今回、東卍の特服を着た二人は、街の風景に少し浮いていたが、本人たちは特に気にしていない様子だ。
「相変わらずこの街はなんか落ち着くな。甘いもん飲み食いしてェ」
「ラビットハウスまでのんびり歩いて行こうぜ。腹減ったし、チノちゃんのコーヒーと一緒に、俺もココアちゃんのパン頼もうかな」
「ココアちゃんの作ったパン、マジで美味かったからな〜。俺もまたリゼのカフェラテ飲みたい」
「マジすごかったよな、あのラテアート。コーヒーと一緒にカフェラテも頼もうかな…」
あれからマイキーとドラケンは、何度か木組の街に赴き、すっかりラビットハウスの常連になっていた。
ラビットハウスまでの道中、街の雰囲気を楽しみながら、のんびり散歩して、着いた時に頼むメニューを考えていた。
二人は路地を抜け、街の中心部へ向かう。
その時、前方から甲高い悲鳴が聞こえてきた。
「ひゃあああ!あんこぉぉぉ!来ないでぇぇぇ!!」
可愛らしい金髪の少女が、全力で逃げている。
後ろから、黒いふわふわの小さな王冠を被ったうさぎが、猛スピードで追いかけていた。
甘兎庵で飼っているペット、うさぎの【あんこ】が脱走し、少女──
シャロは路地の袋小路に追い詰められ、壁に背中を押し付けて怯える。
「あんこ……!もう……やめてぇ……!」
あんこはシャロの足元に飛びつき、前足でシャロのスカートを掴んでクッキーを要求する。
そこへ、マイキーとドラケンがちょうど通りかかった。
マイキーがぽつり。
「うさぎに追いかけられてる女の子……?」
ドラケンは無言で近づき、あんこをそっと抱き上げる。
あんこはドラケンの腕の中で大人しくなり、鼻をくんくん動かす。
シャロは息を切らして見上げ、驚きの表情。
マイキーはシャロに優しく声をかける。
「大丈夫か?怪我してない?」
「あ……ありがとうございます……!あんこが……」
シャロはホッとした顔で頭を下げる。
「ほ、本当にありがとうございました……!私、桐間紗路っていいます。お礼に、フルール・ド・ラパンっていうお店…に……………」
しかし、シャロの視線が二人の服装に止まる。
黒い特服、金の辮髪、こめかみに龍の刺青──ドラケンの長身でいかつい見た目。
マイキーの無表情で鋭い目つき。
シャロの顔が、あんこに追い詰められた時の比じゃないくらい、青ざめて、一瞬で硬直する。
(……ほ、本物の不良!?いや、暴走族!!?助けてくれた人たちなのに……!怖い……怖いよぉぉぉ!!)
シャロは後ずさり、壁に背中を押し付けて震え出す。
「あ、あの……本当にありがとうございました……!でも……その……!」
「あ、コレいつものパターンか」
マイキーは以前にもあったパターンだと、瞬時に察し、ドラケンも苦笑いしながら穏やかに接する。
「待て待て、誤解だぞ。俺らそんな悪い奴じゃねェよ」
「俺たち、ただの……ツーリング中の奴らだ。でも、怖がらせて悪かったな」
シャロはますますパニック。
「ひぃっ……!声が……低い……!タトゥーが……!特攻服が……!」
「あ。ダメだこりゃ」
「こっちの話、聞いちゃいねェ」
その時、路地の奥からもう一人の声が響いた。
「ダメー!!シャロちゃんに手を出さないでー!」
「千夜!?」
「「誰?」」
あんこの飼い主、そしてシャロの幼馴染である、少女──
しかし、勢い余って足を滑らせ、派手に転ぶ。
「きゃあっ!」
千夜はそのまま地面に倒れ込む。…若干芝居がかった声で。
「千夜!ちょっと、大丈夫なの!?」
「シャロちゃん……!私……もうダメかも……最後に……一つだけ……」
「いや何しに来たの!?状況が余計ややこしくなったんですけど!?」
千夜は大袈裟に手を伸ばし、シャロの頰に優しく触れ、涙を流す。(ギトギトの演技)
「シャロちゃん……あんこを………あなたに…託したいの……あと…甘兎庵の…未来も……私は……もう……」
「ガッツリ生きてるでしょ!しかも二つ言ってるし!!……え!?本当に何しに来たの!?いやマジでこの状況で私を置き去りにするのやめてくれない!!?たたでさえ脳のキャパ超えてるのに…!」
「シャロちゃんと……幼馴染に….なれて……本当に……幸せだったわ………ガクッ」
「何が"ガクッ"よ!!…この和菓子バカぁぁぁぁぁ!!場を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、即退場するなぁぁぁぁぁ!!!」
「なんだこの茶番」
「もう放置してラビットハウス行くか?」
◆
シャロの悲鳴と千夜の茶番が一段落したところで、ようやく空気が落ち着いた。
マイキーは面白がって笑い、ドラケンは冷めた目で「いつまで続くんだこの茶番……」と呟きながら、あんこを抱えたまま立っている。
シャロは千夜にツッコミを入れつつ、マイキーたちに改めてお辞儀をする。
「色々取り乱してすみませんでした…!あと本当にありがとうございました……!あんこも……助かりました……」
「あぁいや…別に。…そうだ、このうさぎアンタのか?」
「そうよ。ふふ、ありがとうドラケンくん♪」
「あれ?俺名前言ってない…」
千夜はあんこをドラケンから受け取りながら、優雅に微笑む。
「マイキーくんとドラケンくんよね?私は宇治松千夜、高二よ。あと私の事は千夜って呼んで。それとタメ口でいいわよ」
「そうか…よろしく千夜ちゃん。それで、なんで俺の名前を?」
「ココアちゃんから聞いてたの。学校でココアちゃんが『マイキーくんとドラケンくんが超カッコいい!』って話してて、一緒に自撮りした写真も見せてもらったのよ~」
遡ること、数日前。
学校の昼休み。
ココアの通う高校の中庭のベンチで、風が気持ちいい日差しの中で、ココアと千夜は二人きりで弁当を広げていた。
他の生徒たちも、教室や校庭に散らばり、静かな時間が流れている。
ココアは携帯をいじりながら、突然目を輝かせて千夜に顔を近づける。
『ねえ千夜ちゃん!聞いて聞いて!この前また、マイキーくんとドラケンくんがラビットハウスに来てくれたの!その時の写真、見て見て~!』
千夜はお箸を置いて、ココアの携帯を覗き込む。
画面には、ラビットハウスのカウンターで撮られた自撮りが映っていた。
中央にマイキーがピースサイン、無邪気な笑顔でココアの作ったパンを頰張っている。
その隣にドラケンが少し照れくさそうに小さく微笑み、ココアはマイキーに抱きついて満面の笑み。
背景にはチノが恥ずかしそうにコーヒーカップを持って立っている。
千夜は一瞬、目を丸くする。
『あら……この子たちが…この前言ってた、マイキーくんとドラケンくん?』
ココアが得意げに胸を張る。
『そうそう!前に帰り道で不良に絡まれてピンチだったんだけど、マイキーくんとドラケンくんがカッコよく助けてくれて!それからお礼にラビットハウスに来てくれたの!見て見て、マイキーくんのパン頰張ってる顔可愛いでしょ~!ドラケンくんも笑ってるし!』
千夜は写真を拡大してじっくり見る。
マイキーの金髪と無邪気な表情、ドラケンの長身と辮髪、こめかみの刺青──
見た目のいかつさに、千夜の心が少しざわつく。
〘ココアちゃんからは、中三って聞いてたけど……このドラケンくん、どう見てもヤクザの組員さんみたい……刺青まで入ってるし……マイキーくんも、笑顔は可愛いけど……特攻服着てると迫力あるわね……〙
千夜は内心で若干驚愕するが、決して顔には出さない。
優雅な微笑みを崩さず、ココアの興奮した様子を見て、心の中で思う。
〘でも……ココアちゃん、こんなに楽しそう……写真の中のマイキーくんもドラケンくんも、ちゃんと笑ってる……ココアちゃんを怖がらせてる感じは全くないわね……むしろ、温かい目でココアちゃんを見てくれてる……悪い人たちじゃない……むしろ、いい子たちなのかも〙
千夜はスマホをココアに返しながら、優しく微笑む。
『ふふ、いい写真ね~。ココアちゃん、マイキーくんたちとすっかり仲良くなったのね。微笑ましいわ~。弟たちみたい』
ココアは大喜びで。
『でしょでしょ!マイキーくんは私の可愛い弟!ドラケンくんもしっかり者の弟みたいなもんだよ!千夜ちゃんも今度会ったら絶対好きになるよ!二人とも優しいんだから!』
千夜はくすくす笑いながら。
『そうね~。今度甘兎庵にも連れてきてね。歓迎するわ』
ココアは目をキラキラさせて。
『うん!絶対連れてく!マイキーくん、甘いもの大好きだから、千夜ちゃんの和菓子でメロメロにしちゃうんだから!』
千夜は写真をもう一度見て、心の中で呟く。
〘……見た目は怖いけど……ココアちゃんがこんなに笑顔で話すんだもの……きっと、本当にいい子たちなんだわ〙
昼休みのチャイムが鳴り、二人は弁当を片付ける。
ココアは携帯を大事そうにポケットにしまいながら。
『千夜ちゃん、マイキーくんたちの写真、千夜ちゃんにも送っとくね!』
千夜は優しく頷く。
『ありがとう、ココアちゃん。楽しみにしてるわ~』
こうして、ココアと千夜の昼休みは、マイキーとドラケンの写真で少しだけ特別なものになった。
千夜は内心、二人の見た目に若干の驚きを隠しつつも、ココアの幸せそうな笑顔を見て、微笑ましく思っていた。
「だから二人のこと、とっくに知ってるわ」
「マジか。ココアちゃん、そんなに俺らの話してたのか」
「ええ、毎日毎日ね。『マイキーくん可愛い~!ドラケンくんカッコいい~!』って。…中三って聞いた時は……流石に驚いたわ」
「またそれか」
「もはや定番だな」
二人の反応に、千夜はくすくす笑う。
だが千夜は、改めてマイキーとドラケンを目の当たりにし、内心で少し心配していた。
(見た目……かなりいかついわね……派手な髪型に刺青、特攻服……ココアちゃんの周りにこんな人たちが……?)
でも、二人があんこを抱き上げて助けてくれた瞬間から、敵意は一切感じなかった。
むしろ、シャロを心配する温かい目と、茶番に呆れながらも付き合ってくれる素直さが伝わってきた。
シャロも、千夜の茶番が一段落したところで、ようやく深呼吸をしてマイキーたちに向き直った。
彼女の心の中では、すでに情報が整理されつつあった。
(……学校でリゼ先輩から聞いた話……マイキーくんとドラケンくん……中三で、私より年下……ってことは、わかってたけど……)
シャロの視線が、二人の姿を改めて捉える。
マイキーは金髪の癖毛が少し乱れ、無邪気な笑顔を浮かべているが、特攻服の存在感は否めない。
そしてドラケン──長身で金色の辮髪、こめかみの龍の刺青、落ち着き払った目つきと低い声。
どう見ても大人の輩。
(……え、えええ!?中三!?ドラケンくん……どう見ても二十代後半の……反社にしか見えない……!?チノちゃんと同級生って……!?脳が……バグる……!)
シャロの頭の中で、情報が激しく衝突する。
でも、彼女は誰よりも空気を読むのが上手い。
決して口には出さないし、顔にも出さない。
ただ、心の中で静かにパニックを処理するだけ。
(……でも……敵意は感じない……あんこを助けてくれた時も、優しかった……ドラケンくんも見た目は怖いけど……リゼ先輩からチノちゃんが懐いてるって言ってたから……きっと、いい人……)
シャロは深呼吸をして、丁寧にお辞儀をする。
「……改めて……桐間紗路です。高校二年生です。フルール・ド・ラパンってカフェで働いてます。本当に……ありがとうございました……」
「俺は佐野万次郎、マイキーって呼んで。あと中三」
「龍宮寺堅です。ドラケンって呼んでください。同じく中三です」
シャロは改めて、本人たちから言質を取り、心の中で(やっぱり中三……!?)と叫ぶが、顔には一切出さない。
ただ、静かに頷くだけ。
そこで千夜がまた、ボケを入れる。
「ふふ、ねぇシャロちゃん。マイキーくんって……シャロちゃんの生き別れの弟みたいじゃない?同じ癖毛の金髪で身長も近いし~」
「千夜、何言ってるの!?全然似てないし、弟とかないし!」
「つーか、なんで生き別れなんだ…?」
シャロとドラケンが即座にツッコミを入れるが、マイキーは面白がって、千夜のボケに便乗。
「そうだな~、シャロお姉ちゃん。俺のこと可愛がってくれよ~」
「えっ!?」
そう言って、マイキーはシャロに甘えるように近づき、頭を差し出す。
シャロは一瞬固まるが、すぐに察する。
(あ、この子……千夜やココアみたいに……振り回すタイプね……)
シャロは少し照れながらも、マイキーの頭をそっと撫でる。
「……もう……マイキーくんったら……」
(でも、なんだか可愛い…なんか放っておけない感があるのよね。ココアが気にいるのも、わかるかも…)
「マイキー、また悪ふざけかよ……」
ドラケンはため息をつきながら、シャロに頭を下げて。
「シャロさんすみません。マイキーが調子に乗って……」
「……大丈夫よ。ドラケンくんも……大変ね」
シャロは優しく微笑む。
ドラケンはシャロの落ち着いた対応に、少し安心する。
(シャロさん……気遣いや空気読むの上手いな……年上っぽい落ち着いた雰囲気もある……)
ドラケンは自然に敬語になり、そのままシャロと話す。
「シャロさんありがとうございます。俺もよく、マイキーに振り回されるので……助かります」
「こちらこそ……ドラケンくん、さっきはあんこから助けてくれてありがとう」
(ドラケンくんも、私と同じく振り回される側なんだ……なんか親近感……)
シャロは内心、ドラケンも自分と同じく振り回される側なんだと思いながら、親近感が湧き微笑む。
◆
そのあと千夜とシャロと連絡先を交換し、後日──甘兎庵とフルール・ド・ラパンに寄る約束を交わした。
色々と道草を食ったが、ようやくラビットハウスに到着する。
ココア、リゼ、チノが迎え、ココアがマイキーとドラケンに飛びつく。
「マイキーくん、ドラケンくん!おかえり~!」
「そこは、"いらっしゃいませ"じゃねェの?ココアちゃん」
「すっかり家族認定してンな」
「おっ。マイキー、ドラケン来たか。二人ともいつものやつでいいのか?」
「うん。いつものパンとカフェラテお願い」
「俺もオリジナルブレンドで」
「かしこまりました…」
マイキーはココアのもふもふを受け流しつつ、カウンターに座りいつものようにリラックス。
ドラケンも隣に座り、チノが淹れたコーヒーを受け取る。
しばらく談笑していると、マイキーが千夜とシャロの話を切り出す。
「そういやさっき、ココアちゃんたちの知り合いに会ったよ。確か千夜ちゃんとシャロちゃんっていう…」
「あっちも俺らンこと認知してたし、お互い共通の知り合いがいたンだな…」
「え〜!マイキーくんたち、千夜ちゃんとシャロちゃんに会ったの!?ねぇねぇ!どんな印象だった!?」
「千夜ちゃんはおもしれー女だったな。ボケ面白いし、あとなんか上品な感じだった」
「シャロさんは……落ち着いてて、苦労人気質な感じだったな。振り回されるタイプに慣れてるみたいだな」
ココアが目を輝かせる。
「千夜ちゃんもシャロちゃんも、いい子だよね!マイキーくんたちも気に入ってくれたみたいで嬉しい~!」
チノは少し照れながら。
「…千夜さん…シャロさん……どちらも優しくて素敵な人たちです……あと、シャロさんとマイキーさん……どことなく姉弟っぽい……」
リゼが笑いながら。
「あはは…!シャロが不良になったら、マイキーみたいになるんじゃないか?お互い金髪で身長近いし」
ココアは一瞬固まり、突然叫ぶ。
「えええ!?シャロちゃんがマイキーくんのお姉ちゃんに!?ダメダメダメェェェ!!!お姉ちゃんポジションは私だけだよ!マイキーくんは私の弟なんだからァァァ!!!」
ココアはマイキーに飛びつき、ぎゅーっと抱きしめる。
「マイキーくんは私の可愛い弟!お姉ちゃんは私だけでいいよね!?ねぇ!?」
「ココアちゃん、食べ辛ェって…」
マイキーはされるがままに抱きしめられながら、苦笑い。
チノはみんなの様子を見て微笑み。リゼがからかうように。
「みんな…仲良しでいいですね……」
「ココア、千夜とシャロに姉っぽさが負けてるんじゃないか?」
ココアはマイキーを離さず。
「マイキーくんは私の弟だから!千夜ちゃんもシャロちゃんもいいけど、お姉ちゃんは私だけ!」
「はいはい。俺の姉は、ココアお姉ちゃんだけだよ」
マイキーはパンを食べながら、ココアの頭を軽く撫でる。
ココアは感極まって涙目。
「うわぁぁん!マイキーくんがお姉ちゃんって言ってくれた~~~!!!」
店内は、笑い声と温かい空気に包まれた。
マイキーとドラケンは、千夜とシャロの人となりを知り、木兎の街がますます好きになっていた。
──ラビットハウスに、甘い香りと新しい絆が、また一つ増えた。
メインキャラ五人揃いました。
シャロちゃんは全体的にツッコミ入れてくれるから書きやすかったし、ココアちゃんはオチ担当として便利すぎる。千夜ちゃんはおもしれー女