TS魔剣少女と剣聖   作:きし川

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一 初日敗北

 死にました。

 簡潔に言うとそんな感じ。

 

 後ろから爆音が響いたかと思えば、体が衝撃と共に宙を舞っていた。視界の端にとんでもないスピードで爆走する赤いスポーツカーが見えたので撥ねられたようだった。

 アスファルトをバウンドし、転がり、意識が遠のいてそのまま死んだ。

 あまりにも突然で轢き殺した犯人に怒る気にもなれず、呆気ない人生の幕引きだなと思う。

 

 そして、気がつくと見知らぬ森の中にいる。

 木の下で寝っ転がっていた。

 どういうこっちゃと首を傾げていると、頭の中に情報がどこからかインストール。

 

 どうやら俺は生きた魔剣という――少女の姿になれるインテリジェントデバイスな魔剣になったようだ。

 銘は|炎帝獣王竜皇聖魔剣《えんていじゅうおうりゅうのみめらぎのせいまけん》。

 おお、カッコよくて強そうな名前だ。

 

 生きた魔剣というのは世界の外にいるという謎の鍛冶師が気まぐれに作っては世界のどこかにポイしたもの。

 持ち主のいない生きた魔剣は世界をブラついて自分を扱うに相応しい使い手を見つけ、そいつに使ってもらわなければならないらしい。

 

 死んで生き返って使い手探しか。

 二度目の人生は開始早々、忙しい。

 

 森の中を歩く。

 どっちに行けば良いのか分からないから、勘に従って。

 草木を掻き分けていくと、川を見つけた。

 流れを緩やかで水面をのぞくと自分が映る。

 

 紅蓮のような赤い髪、それをローツインテールにした赤い瞳の気の強そうな少女。おまけに頭に獣の耳が、腰の後ろにドラゴンっぽい尻尾が生えている。まるでキメラのような組み合わせ。

 着ている服は赤と黒のフリルの付いたドレス、胸元はシースルーの布で覆われているが背中は丸出しのセクシーなデザイン。

 

 ここでこのあらたな人生――魔剣なのだから剣生だろうか? ――の方針が決まった。この姿を見た時に感じた第一印象はツンデレだ。よって、この剣生を高飛車ツンデレ魔剣として生きようと思う。

 

 さっそく記憶の奥底にあるツンデレ語録を呼び起こしてチューニングしながら、川に沿って歩く。

 街というのは川のそばに作られることが多いものだから。

 

「あっ」

 

 しばらく歩いていると、向こうから歩いてくる人がいた。

 腰に剣をぶら下げている。

 間違いなく剣士だ。

 さっそく使い手候補発見か?

 

「おや、こんなところに生きた魔剣がいるとはね」

 

 お互いの声がはっきり聞こえる間合いまで近づくと、向こうから声をかけてきた。

 中年の男性、糸目で顎下にひげがある。

 

 うーん、なんだか弱そうだ。

 この人は使い手にならないかも。

 

「あら、分かるのおじさん。びっくりね、あんまりパッとしないのに」

「ははは、手厳しいねぇ。ま、確かに僕はそんなに強くないよ」

「ふーん、そう。私、おじさんみたいな弱い人には興味ないの。いま使い手探し中でさ――早く強い人に会いたいから、じゃバイバイ」

「あっ、待って待って。少しだけ君の調伏に挑戦させてくれないかな?」

 

 おじさんの言葉に「えっ?」と、なる。

 調伏。

 それは生きた魔剣を自分の物にするための実力証明の儀式。

 内容は生きた魔剣によって変わり、力比べであったり知恵比べであったり。

 この炎帝獣王竜皇聖魔剣の試練は力比べ。

 それをおじさんは挑戦しようとしている。

 

「おじさんが? 止めときなさい、ケガするどころか死んじゃうわよ」

「確かにそうかも知れないね。でもやってみなきゃ分からないだろう?」

 

 おじさんは腰に下げた剣に手を添えた。

 完全にやる気だ。

 

「仕方ないわね。死んでも化けて出ないでよ」

 

 自分の背中が裂ける。

 背骨に沿うようにバリっと。

 裂け目から飛び出した物を掴み、引き抜く。

 それは一瞬で炎に包まれ、一本の赤い剣になった。

 片刃の直剣。高温を発する刀身から陽炎が登る。

 

 これこそが俺の本体――|炎帝獣王竜皇聖魔剣《えんていじゅうおうりゅうのすめらぎのせいまけん》。

 おお、カッコいい。無駄な装飾がないのが特に良い。

 よし、気分がアガってきた。このままあらかじめ設定された自己紹介もやってしまおう。

 

「我が銘は炎帝獣王竜皇聖魔剣。“帝”と“王”と“(すめらぎ)”を冠する絶対王者にして、交わることのない“聖”と“魔”が合わさった最強の魔剣――どう? おじさんに勝てるかしら?」

「うーん、どうだろう。まぁ、やってみるさ」

 

 なんとも緊張感のないおじさんの返答。

 事の重要さが分かっているのだろうか、このおじさん。

 

 まぁでも、調伏の試練は自己責任。

 死んでも挑戦者が悪い。

 ここではそういうものだ、と頭に入った情報にはある。

 

「それじゃ、行くわ!」

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「ウソでしょ……」

 

 気がつけば、俺はむき出しの背中に土をつけていた。

 負けた。

 ほぼ瞬殺だった。

 あの弱そうなおじさんに。

 

「ふぅ……さすがに歳かな、疲れたよ」

 

 セリフの割には汗すらかいてないおじさん。

 その手には半分に折れた剣。

 そう、剣は折れていた。

 最初から(・・・・)

 

 試練開始と同時に森を灰にするんじゃないかと思えるような炎を出しておじさんに踊りかかった。

 当然おじさんも剣を抜いた。

 でもその剣が折れていたものだから、びっくりした。その間におじさんの剣が閃いて、次の瞬間には俺の手から本体たる赤い剣が弾き飛ばされていた。

 で、それで終わるはずもなく、容赦なくメッタ切りにされた。

 自分が魔剣じゃなかったら、今頃は猟奇的な死体になっていたことだろう。

 

「さて、僕の勝ちでいいね?」

 

 涼しい顔をして俺を見下ろしながらおじさんは言う。

 これは言い訳しようもない完全敗北。

 認めよう、このおじさんが使い手だ。

 

「っ……ええ、そうね。おじさんの勝ち。試練の約定通り、私を使わせてあげるわ」

 

 でも、高飛車なツンデレとして生きると決めたから素直に認めてない感じで答える。

 

使わせてあげる(・・・・・・・)?」

 

 おじさんの雰囲気が変わった。

 

「出会った時から思ってたけど、君はあまりにも傲慢だね。口の利き方がなっていない」

 

 見下ろすおじさんの糸目がわずかに開く。その青い瞳を見た瞬間、俺は蛇に睨まれた蛙になった。

 

「君、この世界に来てそれほど時間が経っていないだろう。その世間知らずさやナメた態度から分かるよ。僕の剣となった以上、そういう事は分かってもらわなくちゃ困る」

 

 なんで分かるの? 怖いよおじさん。

 背筋が寒い。

 早くこのおじさんから離れたほうがいいと本能が叫んでいる。

 

「――だから、わからせ(・・・・)ないとね」

「ひ……っ!」

 

 このおじさん、やばい!

 体の痛みを我慢して、四つん這いになって逃げようとした。

 しかしおじさんに尻尾を掴まれ、血の気が引く。

 

「逃げるのはいいけど、最寄りの街は山を越えた向こう側だ。諦めたほうがいいよ」

「あ、あ……」

 

 体の震えが止まらない。

 ただただおじさんが恐ろしい。

 

「じゃ、始めようか」

 

 おじさんは糸目に戻り、柔和な笑みを浮かべた。

 

 

 ……

 …………

 …………

 

 

 おじさん……本名をアルバート=クシャルさん(分からせ中に教えてもらった)のわからせ(・・・・)が終わったのは、太陽が少し傾いた頃。

 実は剣士として最高位にあたる“剣聖”だったアルバートおじさんの神テクによって、俺はすっかりひっくり返った蛙にされ、全身に陽光を浴びていた。

 対してアルバートおじさんは相変わらず汗一つかかずに俺を見下ろしている。

 

「自分で最強だとか絶対王者だとか言っていた割には屈服するのが早かったね。おかげで僕は不完全燃焼だ。要鍛錬だね」

「ごめ……なしゃい……♡」

「うん、謝れて偉いね、最初に比べれば、だいぶ素直になった。この調子で直すべきところは直していこうね」

 

 アルバートおじさんに頭を撫でられる。獣耳の根元に手が当たって痙攣が止まらない。

 

「は、い……♡」

 

 火力だけならチート級なのに転生初日で無様敗北。

 こんな転生者、他にいるだろうか。こういうのってさ、なんか適当な敵に過剰な力をぶつけて、このさき安泰だなってなるんじゃないの。

 

「さて、これで君は僕の剣になった。そこで僕のある目標を君と共有しておこう。座って聞きなさい」

「……はい」

 

 ガクガクする体をなんとか動かして正座する。

 

「僕はとある王国の王様から王命を受けている。それは世界に災いを齎そうとする魔王を倒すこと。魔王は強い。その配下の四天王も同様に。戦いのなかで傷つくこともあるだろうけど、ついてこれるね、エンティ?」

 

 エンティとは、我が銘である炎帝獣王竜皇聖魔剣の略である。

 名前が長いからそう呼ぶとわからせ中に決められた。

 

「は、はい……エンティはアルバートさんについていきます……♡」

 

 こうして俺は魔王討伐の旅に同行することになったのだった。 

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