TS魔剣少女と剣聖   作:きし川

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二 魔の森のアルラウネ

 アルバート=クシャルおじさんの魔王討伐の旅に彼の魔剣として同行する事になった俺は魔剣の姿になって彼の背中で揺れていた。

 

 なぜかって?

 まだ体の疲労(・・)が抜けきらんので少女の姿で歩くことができないのだ。 それと、俺の少女としての姿は異様すぎて場合によっては魔族と間違えられるかもしれないというおじさんのご意見もあったので彼に背負われることを甘んじている。

 

 さて、いま俺たちが向かっているのは魔王の配下である四天王の一人、アルラウネがいるとされる魔の森だ。

 危険な魔物が多く棲み、さらに植物型の魔物が出す魔の瘴気で視界は悪いし、身体にも悪いときた。

 

 どうやって行くだろう?

 アルバートおじさんは剣聖だから剣に関しちゃ強すぎなんだけど、体はただの人間だ。瘴気なんか吸ったら意識を失って魔物の養分になってしまう。

 

「アルバートさん……魔の森はどうやって進むんですか? 魔の瘴気で一杯なんですよね?」

「ああ、それならもう対抗策を考えているよ――エンティ、君の力が必要だ」

「エンティの力が……?」

 

 何をするんだろう。炎で森を燃やすとか? いやいやそんなゴリ押しみたいなことをしないだろう。

 だって剣聖なんだから。

 アルバートおじさんはきっと俺みたいな凡人には考えつかない策をお考えに違いない。

 

「うん、君の炎で森を燃やし尽くす。今まで色んな魔剣を見てきたけど、君ほどの火力を出せるものは見たことがない――頼りにしているよ」

「は、はあ……頼ってくださるなら、エンティ頑張ります……」

 

 本当に燃やすつもりだった。アルバートおじさんって意外と脳筋なんだ。

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「着いた。ここが魔の森の入り口だ」

「……ぅん、やっと着いたんですか?」

 

 アルバートおじさんの背に揺られてえっちらおっちら。

 ちょっと眠りかけていたところで起こされた。

 魔剣から少女の姿にチェンジして、大地に立つ。

 よし身体から疲労はバッチリ抜けている。

 

「これが魔の森ですか……思ったより暗いですね」

 

 鬱蒼と草木が生い茂っているのもあるが、それにしたって日の光がまったく差し込んでいないというのはなんとも不気味だ。

 こんなとこ入りたくない。

 

「うん、そうだね。早速やろうか」

「はい」

 

 魔剣の姿に戻り、アルバートおじさんの右手に装備。

 剣をおじさん最上段に構え、魔力を流し込んでくる。

 

「あっ、ちょっ……ん、多っ♡溺れるっ♡」

 

 わからせ中にさんざん俺に流し込んだのに、全身マーキングする気かって勢いで注ぎ込んできたのに――まだ出るのアルバートおじさん。

 

 赤い刀身から爆炎が噴き上がり、おじさんが剣を振り下ろす。

 剣先の延長線上を炎の津波が突き進み、魔の森の怪しげな木々を真っ赤な炎で包み込んだ。

 葉は燃え尽き、枝と幹を炭に変え、土は焼ける。

 炎の過ぎ去った後には黒く焦げた一本道。

 

「思った通りだ。エンティ、君は火力だけ(・・)は最強だ」

「あっはい、ありがとうございます……♡」

 

 まだ体に残ってる魔力が行き場を失って暴れてる……ちょっと刀身から炎出るの止まんない……♡

 

 赤い刀身から点きの悪いコンロのような発火を連発。今が少女の姿だったなら活きの良い魚ぐらい跳ねていたことだろうビクンビクン。

 

「おや? 誰か来たね」

 

 おじさんが切り開いた一本道の向こう側に目を向けて言った。

 誰かがいる。

 人ではない、まだはっきりと見える距離ではないがシルエットが人間の形をしていない。

 それになんだか全身の色が緑だ。

 まるで植物みたい(・・・・・・・・)

 

「コラーッ!! お前か、森を焼いてくれやがったのは!!」

 

 根っこのような足をくねくねと動かして、人間の女性に似た造形をした人間大の植物が怒鳴りながら俺たちの方へやってきた。

 

「アルバートさん、もしやアレは……」

「うん、そうだよ。アレこそが魔王の配下、四天王の一人であるアルラウネだ」

 

 アレが四天王……。

 噂に聞くこの世で魔王の次くらい強い化け物。見た目はグラマラスなお姉さんっぽいスケベな植物だが油断しちゃいけない。

 与えられた情報によると四天王は前の魔王を倒した勇者一行が何度も殺されかけたらしい。

 油断は禁物だ。

 

「……あなたの持っているソレ、魔剣ね」

「そうだアルラウネ、これは魔剣だ。しかも君の弱点である炎の力を宿している――どうだろう、道を譲ってくれないかな?」

 

 炎を纏った魔剣をアルラウネに見せつけて、アルバートおじさんは言った。

 

「ハッ! 通すわけないでしょ! 炎属性の魔剣を持ってきたからって私が怖気づくとでも思ったか、人間!」

 

 アルバートおじさんの提案を鼻で笑うやいなや、アルラウネが両腕を開いて魔力を周囲にばらまく。

 黒くなった大地から瑞々しい植物がニョキニョキと芽生え、殺伐とした焦げた地面に生い茂る。

 植物の先端にある蕾のようなものが開くと、見るからに身体に悪そうな黄緑色の胞子(花粉?)が散布された。

 

「おっと、これはまずいね」

 

 アルバートおじさんが後ろに下がる。

 やっぱり身体に悪いものであるらしい。

 

「フフフ……見たところお前は少々できる(・・・)奴のようだけど、所詮は人間。この瘴気の結界の中には入れない――でも私は、結界の中から攻撃することができる!」

 

 アルバートおじさんが飛び退く。次の瞬間、おじさんがいた場所の地面から槍のように尖った植物が飛び出してきた。

 もしあんなの刺さったら、アルバートおじさんそっくりの案山子ができてしまう。

 

「エンティ、さっきのをもう一度やるよ――できるね?」

「はい……エンティ、もう一度やります……んっ♡」

 

 まだ魔力が残っているのにアルバートおじさんの多量で濃厚な魔力がおかわりされる。お腹パンパン、ゲップ出そう。

 ――まぁ実際に出るのは炎だけだけど。

 刀身が赤熱し爆炎が噴き出し、赤い舌が焦げた大地を舐めてさらに黒く焦がす。

 アルバートおじさんはさっきと同じように炎の波をアルラウネに浴びせた。

 巨大な炎に包まれ、アルラウネの姿が見えない。

 

「アルバートさん、これは……」

「ふむ、さすがは四天王。どうやら一筋縄ではいかないらしい」

「え……?」

 

 やったんじゃないかと、思ってアルバートおじさんに声をかけたら、不穏な返答が来た。

 アルラウネは炎弱点なんだから、これで終わりじゃないの?

 

「フフフ、そのとおり」

 

 炎が消え、黒焦げになった植物が崩れ、後ろから無傷のアルラウネが現れた。

 バカな。あれだけの火力を無傷で耐えたのかよ。

 

「先代のアルラウネは勇者一行の魔法使いの炎によって倒された。だからこそお前は炎の力を宿した魔剣を持ってきたのだろうが――残念だったな。アルラウネに炎が弱点なのは今は昔。お前に勝機はない!」

 

 アッハハハッ!! と高笑いをするアルラウネ。

 なんてこった。

 あいつは炎に対する手段を持ってやがった。

 今のところ俺の唯一の褒められポイントであるチート火力の炎が対策されてしまったら、俺こと|炎帝獣王竜皇聖魔剣《えんていじゅうおうりゅうのすめらぎのせいまけん》は自称最強のよわよわポンコツ魔剣になってしまう。

 せめて、炎を耐えたカラクリさえ分かれば……!

 

「なるほど、水分の多く含む植物で壁を作ったわけか」

 

 顎髭を撫でながらアルバートおじさんがさらりと言った。

 

 え……そうなんですか? そんなことで防げるの?

 

「っ……! なぜ、分かった」

 

 アルラウネの顔が歪む。

 当たっているらしい。アルバートおじさんスゲー。名探偵じゃん。

 

「そして、炎に耐えられるのはせいぜい十数秒。それ以上は耐えられない――どうかなアルラウネ?」

「……さて、どうかな」

 

 余裕があるように振る舞うアルラウネ。しかしその口元は引きつっている。図星のようだ。

 そこまで分かるとかアルバートおじさんマジスゲー。森を焼くとか言ってた時は脳筋かと思ったけど、知力もあるわこの人。

 

「タネが分かったとはいえ、エンティは食いしん坊だ。僕の魔力も残り少ない。ここは剣聖らしく斬り刻むことにしよう」

 

 アルラウネが目を見開く。

 

「剣聖だと!? なにゆえ剣聖がここに……いや、そもそも何の用だ!?」

「魔王に用があってね」

 

 炎帝獣王竜皇聖魔剣(おれ)を片手にアルラウネに悠然と歩み寄るアルバートおじさん。その姿はまさしく強者のそれだった。強者特有の謎オーラがゆらゆらしているのが見える気がする。

 

「魔王に、だと……? まさか、あの子を……っ、おのれ人間!」

 

 何かに気づいたらしいアルラウネが怒りを露わにして魔力を放つ。周囲に植物が生い茂り、意志を持ったようにアルバートおじさんに襲いかかる。

 おじさんは巧みに炎帝獣王竜皇聖魔剣(おれ)を振るい、周囲の空間に赤い剣閃を奔らせて、植物を斬り払う。

 断面の焦げた植物片を量産しながらアルバートおじさんが駆ける。アルラウネが険しい表情でさらに植物を生やしておじさんを襲わせるがまるで止まらない。

 

 そして、アルラウネの眼前まで迫り、赤い刀身でその首を捉えた。

 頭に花を咲かせたアルラウネの首が飛ぶ。ゴロリと地に落ちた刹那――アルラウネの首のない体が地中に潜った。

 

「むっ!」

 

 アルバートおじさんがその場から飛び退く。

 次の瞬間、土の中から植物の蔓が飛び出してきた。それはおじさんを捕まえようと動いて、すぐに地面に引っ込む。

 アイツ、首を落とされても動けるのか。

 

「地中からなら手の出しようがないという算段か、アルラウネ……――エンティ」

「はい……?」

 

 アルバートおじさんが唐突に炎帝獣王竜皇聖魔剣(おれ)を地面に突き刺した。なにするんですか?

 

「思いっきり炎を出すんだ、いいね?」

 

 その言葉に返事を返す前におじさんの特濃魔力が一気に注入された。

 

「あひ、いきなりぃぃぃっ!?」 

 

 これまでで一番勢いのある魔力譲渡に気を失いそうになる。

 地中に爆炎をぶち込むと、突き上げるような衝撃と揺れが大地から響き、周りの地面が割れ――割れ目から火柱が噴き上がった。

 

「ギャアアアアアアッ!!」

 

 地中から火達磨になったアルラウネが悲鳴を上げて飛び出す。いつの間に再生したのやらその身体には頭があった。しかしその表情は苦痛に歪みきって醜悪。炎を消そうとのたうち回り、でも炎は消えずアルラウネの全身は黒く焦げていく。

 

「ユ、ミル……ごめ……」

 

 ボソボソと呟いた後、動かなくなり――炎の中でその形を崩していった。

 

 終わった。

 四天王の一人、アルラウネを倒したのだ。

 

「ふぅ……まずは一人目だね」

 

 アルバートおじさんが息をつく。

 直後、おじさんの腕からポロっと何かが落ちる。

 なんだろうと、見てみると――目玉が飛び出そうになった。

 

「アルバートさん、腕がっ!?」

 

 それはおじさんの真っ黒に炭化した両腕だったのだ。

 




エンティ

正式名称、炎帝獣王竜皇聖魔剣(えんていじゅうおうりゅうのすめらぎのせいまけん)。炎熱系最強の生きた魔剣。流刃若火(BLEACH)並に強いはずなのにポンコツ。

アルバート=クシャル

糸目で顎髭のおっさん。剣聖。チョー強い。世界で五本の指に入る。剣の扱いが上手い(意味深)
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