対決! 綾香 VS 筋肉女! 【ToHeart】 作:NapalmCrusher
…睨み合いが続く。
鈍重なボマ子としては、スピードに勝る綾香に対して迂闊には仕掛けられない。
体格に劣る綾香としては、今、隙のない状態のボマ子に対して仕掛けづらい。
そんな思惑が交錯しての睨み合いだった。
「はっ!」
…先に動いたのは綾香だった。
立っている位置から、すっと横に動き、そこから前にステップしての正拳突き。
「やぁぁぁ!」
ボマ子は、それを避けながら、得意のプロレス技に持っていこうと掴みかかった。
しかし、綾香の正拳突きはフェイントだった。
「甘いわよ!」
綾香はすぐさま後ろへ下がり、掴みかかろうとするボマ子へ蹴りを放つ。
びしっ!
蹴りは、ボマ子のわき腹にクリーンヒット。
…しかし、ボマ子はニヤリ、と笑うのみだった。
「効かない!?」
驚きの声をあげる綾香。
「ふっふっふ、この程度の攻撃、レスラーには効かないわよ!」
そう、プロレスは「耐える」格闘技である。
他の格闘技と違い、プロレスはいかに相手の技を耐えぬくか、そこが問題になってくる。
そのため必然的に、プロレスラーは打たれ強くなるのである。
ましてや人間重戦車じみた体格のボマ子のこと、一筋縄の攻撃では倒れることはないだろう。
びしっ!びしっ!びしっ!
ボマ子の脇腹と太ももに、綾香の鋭い蹴りが立て続けに叩き込まれるが、鉄壁のようなボマ子の体躯はびくともしない
「捕まえたわっ!」
一瞬の隙を突いて、ボマ子は綾香を捕まえ、両腕で彼女の身体を締め上げ始めた。
両手も一緒に捕まえてはいるが、いわゆる『ベア・ハッグ』の態勢である。
「あああぁーっ!」
ギリギリと両腕ごと締められて、綾香は悲痛な叫びをあげる。
「ふふふふっ! 私の勝ちねっ!」
綾香の叫びを聞き、喜びの声をあげるボマ子。
苦しみながらも、締められている腕を広げて、そこからの脱出を試みようとする綾香。
「こんなもの、腕を広げて抜けられ…くうっ! ダメ、抜けられない!」
しかし、ボマ子の両腕の締め付けはすさまじい力で、脱出することはできなかった。
普通、ベアハッグはお世辞にも決して実戦向きの技とは言えない。
見せ技としての性格が強いベアハッグは、単独で使われることはめったにない。もし実戦で使われるなら、次の投げ技へつなげるための予備動作として仕掛けられる場合が多い。
仕掛ける方が多少体格に勝っていても、締めを長く維持することは難しい。逆に仕掛けられる方はいくらでも抜け出せる方法がある。常識的に考えるなら。しかし…
「ふふふ、私には常識は通用しないわ!」
現にボマ子は綾香の身体を長時間、しかも極めて安定的に締め付け続けている。
あんなに難しいと言われるベアハッグをこんなに平気で長くキープできる… それがボマ子の非常識な巨体と筋肉量の威力を物語っている。
「確かに通用はしないな…。外見からして常識外だ…」
ボマ子の言葉に、妙に感心するミノムシ浩之。
「うあああっ!」
「ギブアップなさい! 肋骨が折れるわよ!」
…ボマ子は容赦なく、いっそう綾香を締め上げる力を強めた。
(も…もう…ダメ…)
綾香がすぐ気を失う…その寸前。
「こら! 何やってんだ綾香! お前の力はそんなモンなのかっ!」
浩之が、身体を思いっ切り揺らしながら、叫んだ。
「ひ…ひろゆき…」
失いかけた気を、綾香は何とか保った。
「そんなにあっさり負けるようなお前なんて、葵ちゃんの目標にはさせられないぞっ!」
「む…無茶を…言わないでよ…。こ、こんな状況から…どうやって…反撃しろっての…」
その綾香の問いに、浩之は…。
「お前なら出来る! 何とかしろっ!」
と、ミノムシ状態のままブンブンと前後左右に身体を揺らして、叫び励ます。
…みしっ…。
その時、浩之のぶら下がっている枝から亀裂音が聞こえた。
「えっ?」
次の瞬間、浩之の身体は支えを失い、地面に落下する。
どすっ!
「ぐっ…!」
強い衝撃を受けた浩之は、気を失ってしまった。
「早くギブアップしなさい! あなたの力では抜け出すことは不可能よ!」
生きた重機のボマ子は、かまわずにどんどん綾香を締め上げる。
「力では…そうね…抜け出すことは不可能ね…」
ボソボソと、ささやくように言葉を口にする綾香。
しかし次の瞬間、目を見開き、叫んだ。
「でも、こうすればっ!」
綾香は多少自由の効く足を、前後左右に揺さぶり始めた。
「くっ…バランスがっ!?」
さすがにボマ子も、バランスを保つのに必死になる。
そして、一瞬だけ腕の力が抜けた瞬間を、綾香は見逃さなかった。
「はっ!」
「…しまった!」
わずかにボマ子の締める力が緩んだ。この隙に、ボマ子の太ももと胴体に連続ニーキックを浴びせ、太ましいボマ子の肘の裏にエルボーを打つ綾香。
ボマ子の縛めを振り解いた綾香は、飛び上がってボマ子の額にエルボーを素早く食らわせ、いったん後ろにステップ。
不意打ちを食らい一瞬視野がぼやけてしかめっ面になりながら、綾香を追おうとするボマ子。
しかし綾香は、すぐさま、また前にステップした。
…この後ろへのステップは、ボマ子を誘うためのフェイントだったのだ。
「…はっ! どうせ一撃じゃ私は倒せないわよ!」
しかし、ボマ子は構わずに綾香に掴みかかろうとする。
「やぁぁぁっ!」
気合の一声をあげると、綾香は身体をクルリと反転させ、必殺の後ろ回し蹴りを放った!
びしぃぃぃぃっ!
…時が止まったかのような錯覚。
すたっ…と着地する綾香。
そして綾香を中途半端なところで掴みきれず止まったボマ子の太い両腕。
信じられない、といった表情のボマ子。そう…綾香の横からの蹴りが、もの凄い勢いでボマ子の側頭部を捉えたのだった。
常人なら間違いなく一発で失神KOされるレベルの大打撃。一瞬、ボマ子は片膝を地面についた。