京都、朱雀大路――碁盤の目のように規則正しく縦横に通った路の、中央通り。
その南端に位置する羅生門の前に、僕は立つ。
この京都では、
僕は京の街を往く。一条通りに入ると、その城は直ぐに見つかった。
寄棟造の、巨大な城だ。築地塀の向こう側に、城屋根だけが見えている。檜皮葺の、品格ある薄茶色だ。
僕は正門から入る。――乱闘が起こっていた。数多の剣士たちが戦っている。しかも、木刀ではなく真剣。訓練というには雑然と入り乱れていて、聞こえる声も野卑なものばかり。
「??????????」
僕は寸秒、呆然と佇む。
すると、乱闘していた剣士の何人かが僕に気付き、手を止め、近付いてくる。
「どうされたかな、麗しき少年」
「城長に会いに来たんだ」
「む、城長にか。誠にすまぬが、それは叶わぬ。先代城長が勇退され、今は城長の座が空位なのだ」
「え、そうなの?」
「うむ。しかも『次の城長は戦いで決めよ。全員で戦って、最後まで立っていた一人が次代の城長である』との命を残していった」
「なるほど、それで戦ってるんだね」
庭では依然として剣士たちが入り乱れ、戦っている。
「じゃあ、僕も混ぜてよ」
「えっ」
「なんなら、全員でまとめて掛かってきてもいいよ」
「な、なにを云って……」
僕は剣士に手を差し出す。彼女は躊躇しながらも、手を握り返してくる。
「僕は佐々木小次郎。大和一のオスガキになる男だよ」
「お、オスガキ……?」
「ほら、もう――」
僕は、たった今女剣士から奪った刀の背で、彼女の首を撫でた。
「な、いつの間に――!?」
「あははっ!」
僕は、異能・
女剣士たちが、ぎょっとしてこっちを見る。
「全員、僕が負かしてあげる。ほら行くよ、構えて」
――全員峰打ちで倒してあげた。城中の女剣士が庭に倒れている。立っているのは、僕一人だ。
*
三年後。十八歳となった僕は、天近城の城長として執務を執り行っていた。
「小次郎殿、土御門大路の見回りが終わりました」
「うん、おつかれさま、よくがんばったね」
僕は配下の女たちの頭を撫でてやる。みな、にやにやと嬉しそうな笑みを浮かべている。
「ありがとうございます、小次郎殿」
「下がっていいよ、ゆっくり休んでね」
配下たちは引き上げようとする。しかし、その内のひとり――女剣士Aが、立ったまま動こうとしない。女剣士B、C、Dは、その様子を不思議そうに見ている。
女剣士Aは、僕を真っ直ぐ見詰めながら――。
「小次郎殿、お忙しいところ恐れ入りますが、私と決闘してもらえないでしょうか」
「うん、いいよ」
僕と女剣士Aは、場内の訓練場へと移動した。壁に掛けてある木刀をそれぞれ手に取り、向かい合う。
配下のみんなには「僕に勝てたら、一晩抱かせてあげるよ」と云ってあるので、彼女たちは僕との一夜を夢見て、日々決闘を挑んでくるのだ。
――女剣士Aとの決闘はすぐに終わった。僕の圧勝である。
僕は仰向けになった女剣士Aへと近づき、片足を上げて、彼女の前に近付ける。
「あっ、待って、やだっ……!」
「えいっ」
女剣士Aの顔面を踏む。ぐりぐり、ぐりぐりと、格差を理解させるように、踏み躙る。土踏まずを顔の凹凸に沿わせ、足裏全体で彼女の顔面を圧迫してあげる。
「あっ、あっ、あっ……!」
女剣士Aは、情けない声を上げている。
「残念だったね、僕のこと抱けなくて♡」
「くぅッ……!」
「年下の男に負けるって、どんな気持ち?♡ つらい?♡ 恥ずかしい?♡」
「うぅううううううううううッ!!!」
女剣士Aは、悔しそうに呻きながらも、その瞳の奥にどこか悦びのような気色を滲ませている。顔は赤く、呼吸も荒い。下半身をもぞもぞと悶えさせ、何かに耐えている。
僕はこうして配下の女たちをぼこぼこに負かした上で、たくさん煽り、揶揄い、弄んでいる。
幸せな日々だ。こんなにも愉しい人生が、他にあるだろうか。やはり、故郷を離れて京都へ来たのは正解だった。
――女剣士Aをわからせた後、僕は汗を流すことにした。脱衣所で服を脱ぎ、風呂場へと移動する。
小さな枡形の風呂から、湯気が立ち上っている。
この城は女所帯である。女湯は当然大風呂であるが、男湯は限りなく狭小だ。
元々男の存在は来客しか想定されていないので、仕方のないことである。配下たちは「城長に粗末な風呂を使わせて申し訳ない」と云っているが、僕は気にしたことがない。
僕は体を洗い、枡形の風呂へと浸かる。すると――隣の女湯から、配下たちの声が聞こえてきた。
「マジでエロすぎるよね、小次郎殿」
「あ~、いつか抱きてえな~」
「訓練中とか、腋とか胸見えるのエロすぎるよな。マジでずっと小次郎殿の方見てるわ」
「たまに着替えとか男風呂とか覗いても『えっち~♡』っていうだけで全然怒んないもんね」
「男の裸見れるの嬉しすぎるよな~」
「抱けないのが残念だけどね」
「てか最高だよね、小次郎殿の城で働けるの。もう他の城とか行きたくないわ。えっちな男城長以外の命令聞きたくないし」
「分かる~」
「マジで抱きて~~~~~~~! もう我慢できないよ私!」
「私、これ以上負け続けていじめられたら、変な扉開いちゃいそうなんだけど」
「わからせたいよな~」
「小次郎殿の乳首いじめたいなあ」
「小次郎殿を組み敷いてあんあん喘がせて~」
「私はちんぐり返しにして辱めたい」
「小次郎殿の勃起チンポを私のマンコでズボズボして、ひいひい云わせたい」
女湯の方で猥談が盛り上がっている。とても直接僕には云えないようなことをしたくてたまらない様子だった。
配下たちはみな、性欲を募らせている。そして、僕を抱くために決闘を挑んでくる。
それを、ぼこぼこに負かし、いじめる。これに勝る快感はない。
僕は心地よい湯に浸かりながら、幸せな溜息を洩らす。
ああ、こんな日々が、ずっと続いたらいいのにな。
*
ある日のこと――配下が僕に来客の報せを持ってきた。
「小次郎殿に決闘を挑みたいという客人が来ています」
「客人? だれ?」
「宮本武蔵、と名乗っています」
「!?!?!?!?!?」
僕はすぐに正門へと走った。そこにいたのは――。
「ようやく会えたわね、小次郎」
「武蔵……!」
赤髪の女剣士。筋骨隆々の肉体。自分の知る彼女よりも、覇気に満ちた姿。二十三歳となった武蔵だ。
「久しぶり! 会いに来てくれたの? 嬉しい!」
といって、僕は武蔵に近付くが、彼女は険のある面持ちで僕を見下ろしている。巨大な感情が凝縮したような、何か不穏な気色を帯びていた。
「ずっとこの日のために、剣を磨いてきた。全ては、私の人生を狂わせたアンタに、復讐するため」
「えっ」
「わからせの時間よ、小次郎。私と決闘しなさい」
「えぇ~?」
武蔵の表情は大真面目だった。
「もう一度云うわ、私と決闘しなさい。あの日の約束は、今ここで果たしてもらうわ」
「約束ってあれ? 一回でも僕に勝てたら一晩抱かせてあげるってやつ?」
「そうよ」
「僕はいいけど……でも、武蔵に夫がいるなら、あるいは将来を誓った相手がいるなら、そういうのはよくないと思うよ」
「いないわよ、そんな相手」
「え、そうなんだ」
意外だった。良家の生まれである武蔵には、お見合いの話も来ていたはずだ。もうとっくに結婚しているものと思っていた。
「三年間、私はアンタをぶち犯してわからせるために血の滲むような鍛錬をしてきたのよ」
武蔵の瞳は怒りに燃えていた。どす黒い復讐心が、闇色の覇気となって溢れ出している。
「あの五年間を、私は忘れてない。アンタに負け続けて、煽られ、屈辱を味わわされたあの五年間を」
……。
まさか、僕をわからせるためだけに三年間も努力して、僕を追い掛けて京都にまで来るなんて。
僕が結婚してたらどうするつもりだったんだろう。
ああ、すごいな……。
こんな人、絶対他にいないじゃん。
「いいよ、その決闘、受けるよ」
積もる話もある。聞きたいこと、語りたいこともたくさんある。旧交を温めたいところだったが、それは決闘の後だ。
配下が「訓練場があるので、そちらへご移動を」と云ったが、武蔵は「建物を壊してしまうから」と辞した。結局、開けた庭の中央へ移動し、僕と武蔵は相対する。
武蔵は、決然とした面持ちで――。
「もし私が勝ったら、故郷へ帰って、私と結婚してもらうわよ」
「!?」
「まあ、拒否しても、無理やり連れて帰って婿にするわ。覚悟しなさい」
「え、武蔵って僕のこと好きなの?」
「――」
武蔵が顔を歪め、黙した。その頬はかすかに紅潮している。
「私がアンタに抱えている気持ちは、とても一言で表せないくらいに好悪が入り混じってるわ。私は、アンタをわからせたい。私の人生を貶めたアンタを、今度は私が辱めてやりたい。そして――」
武蔵は一拍置いて、僕の目を真っ直ぐ見詰める。
「アンタの人生すべてを、私が貰うわ。私は、アンタのことが好きよ、小次郎」
「――」
僕は、胸が高鳴るのを感じた。
これほどまでに僕のことを想い、復讐心を募らせ、三年間努力してきた武蔵。そんな彼女をこてんぱんに負かし、再び屈辱を味わわせてやったら、どれ程悔しがるだろうか。
想像するだけで、涎が出そうになる。心が昂揚して、笑みがこぼれそうだった。
ああ、ヤバい。武蔵のこと、いじめたい。
「じゃあ、早速やるわよ」
「待って、今配下が陰陽師呼びに行ってるから」
「陰陽師……?」
ちょうど、配下の女剣士と陰陽師がやってきた。武蔵は訝しげな顔をする。
「なんで陰陽師なんてここにいるのよ」
「京にある各城には陰陽師が常駐してるんだよ。怪我人が出た場合は治療してくれるの」
僕がこの城に来た日、剣士たちが真剣を使って戦っていたのには、こういう訳があった。
ちなみに、陰陽道は体系的にまとまった学問であり、然るべき機関で誰でも学び修めることができる。陰陽師の役割は、占いや治療が主なものであり、戦闘的な能力はほぼない。都の治安維持は、我々
「だから、本気でやっても大丈夫だよ」
「そう、まあ、どっちにしても本気でやるけどね」
「じゃあ、始めようか」
僕と武蔵は刀を抜き、構える。